ep.05 君は勉強が出来ない、そして、優しい、かもしれない
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部活帰り、コンビニの前まで来ると、月島はジャージのポケットからスマホを取り出した。
SMSに新着の通知が届いている。
ミラクルヘッドショットこと名前からだ。
———————
今、バイト終わりました!
———————
律儀に約束を守ったらしい。
一緒に帰るというルールを決めてから、今日は初めての放課後だ。
ここ数日、偶然とトラブルによって一緒に帰っていたけれど、わざわざこうして待ち合わせるというのは、なんだか変な感じがする。
到着したことを知らせるメッセージを送ると、すぐに名前から〈今から行きます!〉と返事がくる。
コンビニの端の方に立って、彼女が出てくるのを待ちながら周囲を適当に見渡す。
今日は、不審な男はいないようだ。
彼女が言うように、毎日のように不審者に絡まれているわけではないらしい。
少し待っていると、裏口の方から名前が出てきた。
月島を見つけると、嬉しそうに微笑んで小さく手をあげ駆け寄ってくる。
「ごめんね、ありがとう!」
「…いえ。」
月島は短くそれだけ答えると、さっさと歩き始める。
名前はすぐに隣に並んだ。
今日も、話題の提供者は彼女だった。
学校であったことや、バイトであったおかしなことを思いついたタイミングでポンポンと喋る。
それに合わせて、月島は適当に相槌を打った。
友人の山口とだって、こんなに会話は続かない。
月島が欲しいと思うスキルではないが、これはこれで名前の凄いところなのだろう。
「ねぇ、聞いてよ、今日も数学のテストが5点だったの!」
「…………ビックリですね。」
今日も———という言葉が引っかかった月島だったが、敢えて心に留めておいた。
「明日も点数が5点だったら、再テストするとか言い出してさ!
もう最悪だよ~…。絶対ムリじゃん…。」
「5点取り続ける方が無理デショ。」
月島は呆れたように言う。
学校でも、コンビニのバイトでさえも、周囲の視線を集めてしまうほどの綺麗な容姿をしている名前は、一見すると、非の打ち所がないような完璧な美人に見えなくもない。
でも実際は、すごく鈍くさいし、どこか抜けているし、さらには、勉強もできないタイプらしい。
天は二物を与えず———という言葉を、体現しているような人だ。
「もう~どうしよ~。明日、小テストの用紙だけ爆発してくれないかな。」
名前は、頭を抱えてブツブツと物騒なことを口走る。でも、すごく規模の小さな爆発で済まそうとしているところがまた彼女らしい。
「勉強しようとは思わないんですね。」
「ん?なに?」
「ひとりごとです。」
「そういえば、バレー部はもうすぐIH予選の時期?」
また新しい話題を思いついたらしい。
要するに、彼女は本気で小テストのことを悩んではいないのだ。
「まぁ、そうですね。」
「いつあるの?」
「今度の週末から。決勝まで行けば月曜まで続いて3日間です。」
「え!?3日間で終わっちゃうの!?」
「はい。」
IH予選のスケジュールに驚愕したらしい名前から「うへぇ~。」と変な声が漏れる。
今日までの練習が、3日間のすべてを決める。1日目の1戦目、2セットだけで終わるチームもあるのだ。
その中には、IH予選が終われば引退する高校3年生もいるだろう。
「じゃあ、練習大変だろうねー。」
「まぁ…、そうですね。」
「もうトーナメント表は出たの?」
「はい。」
「そっかー、後は行くだけだね。」
「そうですね。」
「応援しに行ってもいい?」
「絶対にやめてください。」
「そこだけハッキリ言うね!」
名前は自分でツッコんで、自分で楽しそうに笑う。
気のない返事の多い月島に、全力で拒否されたのに、あまりダメージは受けていないらしい。
彼女ももともと、本気で応援に行こうと考えていたわけではないのだろう。
「じゃあ、決勝に行ったら、応援に行くね。」
「名前さん、その日は月曜なんで学校ですよ。」
「だからじゃん。」
「…。」
学校をサボる口実にバレー部を利用しようという魂胆らしい。
月島は、ジトッとした目で名前を見下ろす。
「まぁ、月曜は僕達も普通に学校に来てると思うので、
期待しても無駄ですよ。」
「えー、そんなのわかんないじゃん。」
「分かりますよ。どんなに順調に勝ち進んだところで
シードに強い高校が控えてるんですよ。
勝てるわけないじゃないですか。」
このときだけは、月島は饒舌だった。
名前は何か言おうとして、やめる。
その代わり、ニコッと笑って見せた。
「じゃあ、負けたら月曜は一緒にお疲れパーティーしよう!」
「…お疲れパーティー?」
また何を突拍子もないことを言いだすのか———月島の表情がひどく面倒くさそうに歪む。
「帰りに、この前の公園に寄って、
ショートケーキ食べよう!」
「…それ、名前さんがケーキ食べたいだけなんじゃないですか。」
結局は、学校をサボろうとしたのと同じように、何かしら理由をつけて楽しいことがしたいということなのだろう。
月島に指摘された名前は「バレたか。」と舌を出す。
「いいじゃん。負けたら美味しいものが食べられると思ったら
負けるのも怖くないでしょ?」
「…負けて怖かったことなんてないんで。」
「えーーー!?」
飄々と答える月島に、名前はすごく驚いたようだった。
負けて怖いのは、負けないと信じて頑張って来た人達だ。きっと、どんくさくて少し馬鹿っぽいけど、素直で真っすぐな名前は、そちら側の人間なのだろう。何に対しても全力でぶつかって来たのだと思う。
でも、月島は違う。
いつだって"負けないように"、それだけを目指してきた。一番良い方法は、勝ち目のない勝負はしないことだ。地道だと言われても、出来ることだけをコツコツとやる。それだけで、ある程度のことは合格点以上がとれる。それで十分だ。
無理をしてまで頑張らないし、自分に期待もしないから、負けて悔しいこともない。負けるのが怖いこともない。
そんな気持ち、名前や、日向、影山のような人間には、きっと一生分からないに決まっている。
「じゃあ、負けたらショートケーキ食べられると思ったら、
負けるのも楽しみになる!?」
「負けるのが楽しみになったらダメでしょ。」
「ハッ!」
名前が驚愕の表情を浮かべた。
彼女の場合は、何事にも全力というよりも、ただ何も考えていないだけかもしれない。
「本当、バカですね。」
月島は呆れたように言うと、意地悪くククッと笑った。
SMSに新着の通知が届いている。
ミラクルヘッドショットこと名前からだ。
———————
今、バイト終わりました!
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律儀に約束を守ったらしい。
一緒に帰るというルールを決めてから、今日は初めての放課後だ。
ここ数日、偶然とトラブルによって一緒に帰っていたけれど、わざわざこうして待ち合わせるというのは、なんだか変な感じがする。
到着したことを知らせるメッセージを送ると、すぐに名前から〈今から行きます!〉と返事がくる。
コンビニの端の方に立って、彼女が出てくるのを待ちながら周囲を適当に見渡す。
今日は、不審な男はいないようだ。
彼女が言うように、毎日のように不審者に絡まれているわけではないらしい。
少し待っていると、裏口の方から名前が出てきた。
月島を見つけると、嬉しそうに微笑んで小さく手をあげ駆け寄ってくる。
「ごめんね、ありがとう!」
「…いえ。」
月島は短くそれだけ答えると、さっさと歩き始める。
名前はすぐに隣に並んだ。
今日も、話題の提供者は彼女だった。
学校であったことや、バイトであったおかしなことを思いついたタイミングでポンポンと喋る。
それに合わせて、月島は適当に相槌を打った。
友人の山口とだって、こんなに会話は続かない。
月島が欲しいと思うスキルではないが、これはこれで名前の凄いところなのだろう。
「ねぇ、聞いてよ、今日も数学のテストが5点だったの!」
「…………ビックリですね。」
今日も———という言葉が引っかかった月島だったが、敢えて心に留めておいた。
「明日も点数が5点だったら、再テストするとか言い出してさ!
もう最悪だよ~…。絶対ムリじゃん…。」
「5点取り続ける方が無理デショ。」
月島は呆れたように言う。
学校でも、コンビニのバイトでさえも、周囲の視線を集めてしまうほどの綺麗な容姿をしている名前は、一見すると、非の打ち所がないような完璧な美人に見えなくもない。
でも実際は、すごく鈍くさいし、どこか抜けているし、さらには、勉強もできないタイプらしい。
天は二物を与えず———という言葉を、体現しているような人だ。
「もう~どうしよ~。明日、小テストの用紙だけ爆発してくれないかな。」
名前は、頭を抱えてブツブツと物騒なことを口走る。でも、すごく規模の小さな爆発で済まそうとしているところがまた彼女らしい。
「勉強しようとは思わないんですね。」
「ん?なに?」
「ひとりごとです。」
「そういえば、バレー部はもうすぐIH予選の時期?」
また新しい話題を思いついたらしい。
要するに、彼女は本気で小テストのことを悩んではいないのだ。
「まぁ、そうですね。」
「いつあるの?」
「今度の週末から。決勝まで行けば月曜まで続いて3日間です。」
「え!?3日間で終わっちゃうの!?」
「はい。」
IH予選のスケジュールに驚愕したらしい名前から「うへぇ~。」と変な声が漏れる。
今日までの練習が、3日間のすべてを決める。1日目の1戦目、2セットだけで終わるチームもあるのだ。
その中には、IH予選が終われば引退する高校3年生もいるだろう。
「じゃあ、練習大変だろうねー。」
「まぁ…、そうですね。」
「もうトーナメント表は出たの?」
「はい。」
「そっかー、後は行くだけだね。」
「そうですね。」
「応援しに行ってもいい?」
「絶対にやめてください。」
「そこだけハッキリ言うね!」
名前は自分でツッコんで、自分で楽しそうに笑う。
気のない返事の多い月島に、全力で拒否されたのに、あまりダメージは受けていないらしい。
彼女ももともと、本気で応援に行こうと考えていたわけではないのだろう。
「じゃあ、決勝に行ったら、応援に行くね。」
「名前さん、その日は月曜なんで学校ですよ。」
「だからじゃん。」
「…。」
学校をサボる口実にバレー部を利用しようという魂胆らしい。
月島は、ジトッとした目で名前を見下ろす。
「まぁ、月曜は僕達も普通に学校に来てると思うので、
期待しても無駄ですよ。」
「えー、そんなのわかんないじゃん。」
「分かりますよ。どんなに順調に勝ち進んだところで
シードに強い高校が控えてるんですよ。
勝てるわけないじゃないですか。」
このときだけは、月島は饒舌だった。
名前は何か言おうとして、やめる。
その代わり、ニコッと笑って見せた。
「じゃあ、負けたら月曜は一緒にお疲れパーティーしよう!」
「…お疲れパーティー?」
また何を突拍子もないことを言いだすのか———月島の表情がひどく面倒くさそうに歪む。
「帰りに、この前の公園に寄って、
ショートケーキ食べよう!」
「…それ、名前さんがケーキ食べたいだけなんじゃないですか。」
結局は、学校をサボろうとしたのと同じように、何かしら理由をつけて楽しいことがしたいということなのだろう。
月島に指摘された名前は「バレたか。」と舌を出す。
「いいじゃん。負けたら美味しいものが食べられると思ったら
負けるのも怖くないでしょ?」
「…負けて怖かったことなんてないんで。」
「えーーー!?」
飄々と答える月島に、名前はすごく驚いたようだった。
負けて怖いのは、負けないと信じて頑張って来た人達だ。きっと、どんくさくて少し馬鹿っぽいけど、素直で真っすぐな名前は、そちら側の人間なのだろう。何に対しても全力でぶつかって来たのだと思う。
でも、月島は違う。
いつだって"負けないように"、それだけを目指してきた。一番良い方法は、勝ち目のない勝負はしないことだ。地道だと言われても、出来ることだけをコツコツとやる。それだけで、ある程度のことは合格点以上がとれる。それで十分だ。
無理をしてまで頑張らないし、自分に期待もしないから、負けて悔しいこともない。負けるのが怖いこともない。
そんな気持ち、名前や、日向、影山のような人間には、きっと一生分からないに決まっている。
「じゃあ、負けたらショートケーキ食べられると思ったら、
負けるのも楽しみになる!?」
「負けるのが楽しみになったらダメでしょ。」
「ハッ!」
名前が驚愕の表情を浮かべた。
彼女の場合は、何事にも全力というよりも、ただ何も考えていないだけかもしれない。
「本当、バカですね。」
月島は呆れたように言うと、意地悪くククッと笑った。