ep.03 再会と奇想天外な女子生徒
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部活の帰り、月島は、帰り道にあるコンビニに寄っていた。
黄色の蛍光ペンが切れていたことを思い出したのだ。
今までは山口と一緒に帰ることが多かったが、今日からは1人になりそうだ。山口は、しまだマートの嶋田誠の元でサーブの特訓するらしい。
目当ての蛍光ペンを手に取った月島は、今日の昼休みに山口から聞いた話を思い出していた。
『帰り道にあるコンビニの店員さんが、めちゃくちゃ美人になってて緊張する…。』
本当に困った———という様子の山口の顔を思い出す。
そして今、月島も困っていた。山口とは違う理由で、本当に困っていた。
月島は、商品棚の陰に隠れて、チラリとレジに視線を向ける。
今、レジにいるのが、山口が言っていた"美人店員"なのだろう。そして、数日前に、月島の目の前で盛大に転んだ烏野高校の女子生徒だ。
別に、月島が気にするようなことではない。けれど、何か嫌だ。気まずい。
まさか、こんなところで再会してしまうとは思ってもいなかった。同じ高校に通っているのだし、行動範囲が重なっているのだろう。
だが、困った。
しかし、幸いなことに、コンビニには月島以外にも数名の客がいる。彼女が他の客に捕まれば、今、品出しをしている店員がヘルプでレジに入る可能性がある。そしたら、そのレジに行こう。
そう決めて、月島は、出来るだけ目立たないように奥のドリンクコーナーへ向かった。
時間を潰すために、適当にお茶を選ぶ。ふ、とドリンクのすぐ横にあるデザートコーナーに、ショートケーキを見つけた。
どうしようか考えていると、レジの奥から中年の男性が出てきた。そして、彼女に声をかけて、レジを交代する。そして、そのまま彼女はバックヤードへ入って行ってしまった。もしかすると、彼女の勤務時間は終わったのかもしれない。
月島にとって、ナイスタイミングだ。
案外すぐに中年の男性とレジを交代してくれたおかげで、あまり時間もとられなかった。
月島は、急いでレジへ向かう。
蛍光ペンとお茶、急いでレジに行かなければと思ったついでに思わず持ってきてしまったショートケーキをカウンターに置いて、会計を終わらせる。
コンビニを出ると、入口のところに三人組の若い男達がいた。大学生くらいだろうか。ダボっしたシャツとズボン、髪は金やピンクに染めているけれど根元の方が黒くなり始めている。全体的に、だらしない印象を受ける。
彼らは、ニヤけた顔をしてコンビニの中を覗いていた。なんとなく不快に感じる三人組だ。
邪魔な彼らを適当に避けて、月島は今度こそ家路を急ぐ。
IH予選が近づいているということで、最近の部活はさらに力が入っていて疲れるのだ。汗も掻いたし、早く帰って風呂に入りたい。
「名前ちゃん、おつかれー!」
「おわったー?」
「待ってたよ~!」
急に後ろが騒がしくなって、月島は立ち止まると、コンビニの方へチラリと視線を向けた。
どうやら、騒がしい声の原因は、コンビニの入口でたむろしていた三人組の若い男達のようだ。
仕事を終えて烏野高校の制服に着替えた美人店員が裏口から出てきたところを、男達三人で取り囲んで声をかけている。
コンビニの入口で、友人のバイトが終わるのを待っていたということか。
どちらにしろ、自分には関係のないことだ。
月島はすぐにまた歩き始めた。
「え!あ、あの…っ。私、もう帰るんで…っ。」
「だーかーらー、一緒に帰ろうって待ってたんじゃん。」
「いえっ、大丈夫です…っ。」
「家どこー?送るよ!」
「大丈夫です、ほんと…っ。」
馴れ馴れしく話しかけていた様子から友人のように見えた彼らは、ただのナンパだったようだ。
しかも、バイトが終わった彼女が出てくるのを待ち構えて、必ず捕まえようとしているのだから質が悪い。
家路を急ぐ月島がコンビニから離れれば離れる程、彼らの声は少しずつ遠くなっていくものの、耳には常に届いていた。
迷惑そうな彼女の声も、執拗に彼女に絡む彼らの声も、段々とボリュームを大きくしていたからだ。
(———僕には関係ない。)
彼女が、しつこい彼らに迷惑しているのは理解できる。やっとバイトが終わって帰ろうとしたところを、意味の分からない奴らに取り囲まれて捕まるなんて最悪だ。自分だったらと思うと最低な気分になる。
でも、実際は、自分ではない。あれは彼女の問題で、彼女のことは1、2度見たことがある程度で、知り合いでもない。自分には関係のないことだ。
「ねぇ、ねぇ、俺達、車で来てるからさ、送ってくよ!」
「ほら、乗って!」
「いえ、あの…、本当に大丈夫ですっ。」
「いいから!遠慮しないでよ!」
「やめてくださいっ。困ります…っ。」
「はぁ!?俺達が迷惑って言いてぇのか!?」
「いいじゃねぇか、ケチくせぇな!!ちょっと遊ぼうって言ってるだけだろ!」
「こんなに優しくしてやってんのに、調子のんじゃねぇよ!」
いきなり、男のそれが怒声に変わって、驚いたらしい彼女の小さな悲鳴も聞こえてきた。
思わず月島は立ち止まる。
振り返ってコンビニの方を見れば、若い男達が三人がかりで彼女を引っ張り、無理やり車に押し込もうとしている。異常だ。ほとんど誘拐の現場と変わらない。
駐車場の離れた場所には、野次馬が数名いた。
明らかに彼女は怯えている。でも、誰も彼女を助けようとはしない。声もかけない。ただ遠くから、指をさして見ているだけだ。
それも仕方がない。あんな意味の分からない野蛮で頭の悪そうな連中、関わっても損をするだけ。面倒ごとに巻き込まれるのは、誰だって御免だ。
「はぁ~~~~~~~~。」
月島は、長いため息を吐くと、家に近づくために進んでいた道を逆戻りし始めた。
本当に嫌だ。最悪だ。面倒ごとに巻き込まれるのは大嫌いだし、他人と関わるのも好きじゃない。それに、今日は部活で疲れているからさっさと帰って風呂に入って寝たいと思っている。
「お前、いい加減にしろよ!!?」
男の1人が、罵声を上げながら腕を振り上げた。
殴られる———小さな悲鳴を上げた彼女が、腕で頭を守るようにして小さくなる。
「行きますよ。」
月島は、若い男達の間に自分の身体をねじ込むようにして、強引に分け入った。
そして、頭を守る為に上がっていた彼女の手首を捕まえる。
ビクッとして、彼女が顔を上げる。
驚いた顔が4つ、月島の方を向いた。
一体、自分は何をやっているのか。らしくない。
本当に、最悪だ————。
「はぁ!?お前、なんだよ、邪魔すんなよ!」
彼女に殴りかかろうとしていた男が、今度は月島に拳を向けて来た。
その両隣で、他の男達もぎゃーぎゃーと喚いている。
本当にうるさい。
「何か。」
彼女の手首を掴んだまま、月島は男達をギロリと睨みつける。
188㎝の長身で見下ろされる男達は、一瞬、その圧にたじろいだ。その隙に、月島は彼女を3人組の壁の外へと引っ張り出した。
「あ、おい!ちょっと待てよ!!」
「まだ話は終わってねぇ!」
「勝手に逃げんな!」
若い男達が、さらに騒ぎ出す。
あれだけ拒否られていて、それでも必死に自分達に振り向かせようとしている彼らが、むしろ滑稽ですらある。きっと、彼らは月島よりも年上だ。女子高生に絡んで迷惑をかけるなんて、自分達が情けなくなったりしないのだろうか。
「まだ何か。」
月島は、掴んだ細い手首を引っ張って自分の背中に隠すと、しつこい男達をもう一度睨み返した。
それでも、彼らはまた何かを言おうと口を開く。
どうしてそこまでして、自分に興味を持っていないどころか迷惑とさえ思っているだろう彼女と繋がりを持ちたがるのか。月島には、全く理解できなかった。
「ねぇ、あの人達、ナンパ?」
「だっさ~。女の子、嫌がってるじゃん。」
少し離れたところから野次馬していた人達の声が少しだけ大きくなった。
ダサイとまで言われて、さすがの彼らも羞恥心が湧いて来たのか、開きかけた口を閉じる。助けようとせずに静観していたくせに、それだけでもいいから最初から声に出してくれていれば自分がこんな面倒事に巻き込まれることなんてなかったのに———そう思わないわけでもないけれど、彼らなりの援護射撃なのかもしれない。
とにかく、今がチャンスだ。
———これ以上、余計な真似するなよ。
月島は、最後にもう一度睨みを利かせると、掴んだ彼女の手首を引っ張って、彼らに背を向けた。
黄色の蛍光ペンが切れていたことを思い出したのだ。
今までは山口と一緒に帰ることが多かったが、今日からは1人になりそうだ。山口は、しまだマートの嶋田誠の元でサーブの特訓するらしい。
目当ての蛍光ペンを手に取った月島は、今日の昼休みに山口から聞いた話を思い出していた。
『帰り道にあるコンビニの店員さんが、めちゃくちゃ美人になってて緊張する…。』
本当に困った———という様子の山口の顔を思い出す。
そして今、月島も困っていた。山口とは違う理由で、本当に困っていた。
月島は、商品棚の陰に隠れて、チラリとレジに視線を向ける。
今、レジにいるのが、山口が言っていた"美人店員"なのだろう。そして、数日前に、月島の目の前で盛大に転んだ烏野高校の女子生徒だ。
別に、月島が気にするようなことではない。けれど、何か嫌だ。気まずい。
まさか、こんなところで再会してしまうとは思ってもいなかった。同じ高校に通っているのだし、行動範囲が重なっているのだろう。
だが、困った。
しかし、幸いなことに、コンビニには月島以外にも数名の客がいる。彼女が他の客に捕まれば、今、品出しをしている店員がヘルプでレジに入る可能性がある。そしたら、そのレジに行こう。
そう決めて、月島は、出来るだけ目立たないように奥のドリンクコーナーへ向かった。
時間を潰すために、適当にお茶を選ぶ。ふ、とドリンクのすぐ横にあるデザートコーナーに、ショートケーキを見つけた。
どうしようか考えていると、レジの奥から中年の男性が出てきた。そして、彼女に声をかけて、レジを交代する。そして、そのまま彼女はバックヤードへ入って行ってしまった。もしかすると、彼女の勤務時間は終わったのかもしれない。
月島にとって、ナイスタイミングだ。
案外すぐに中年の男性とレジを交代してくれたおかげで、あまり時間もとられなかった。
月島は、急いでレジへ向かう。
蛍光ペンとお茶、急いでレジに行かなければと思ったついでに思わず持ってきてしまったショートケーキをカウンターに置いて、会計を終わらせる。
コンビニを出ると、入口のところに三人組の若い男達がいた。大学生くらいだろうか。ダボっしたシャツとズボン、髪は金やピンクに染めているけれど根元の方が黒くなり始めている。全体的に、だらしない印象を受ける。
彼らは、ニヤけた顔をしてコンビニの中を覗いていた。なんとなく不快に感じる三人組だ。
邪魔な彼らを適当に避けて、月島は今度こそ家路を急ぐ。
IH予選が近づいているということで、最近の部活はさらに力が入っていて疲れるのだ。汗も掻いたし、早く帰って風呂に入りたい。
「名前ちゃん、おつかれー!」
「おわったー?」
「待ってたよ~!」
急に後ろが騒がしくなって、月島は立ち止まると、コンビニの方へチラリと視線を向けた。
どうやら、騒がしい声の原因は、コンビニの入口でたむろしていた三人組の若い男達のようだ。
仕事を終えて烏野高校の制服に着替えた美人店員が裏口から出てきたところを、男達三人で取り囲んで声をかけている。
コンビニの入口で、友人のバイトが終わるのを待っていたということか。
どちらにしろ、自分には関係のないことだ。
月島はすぐにまた歩き始めた。
「え!あ、あの…っ。私、もう帰るんで…っ。」
「だーかーらー、一緒に帰ろうって待ってたんじゃん。」
「いえっ、大丈夫です…っ。」
「家どこー?送るよ!」
「大丈夫です、ほんと…っ。」
馴れ馴れしく話しかけていた様子から友人のように見えた彼らは、ただのナンパだったようだ。
しかも、バイトが終わった彼女が出てくるのを待ち構えて、必ず捕まえようとしているのだから質が悪い。
家路を急ぐ月島がコンビニから離れれば離れる程、彼らの声は少しずつ遠くなっていくものの、耳には常に届いていた。
迷惑そうな彼女の声も、執拗に彼女に絡む彼らの声も、段々とボリュームを大きくしていたからだ。
(———僕には関係ない。)
彼女が、しつこい彼らに迷惑しているのは理解できる。やっとバイトが終わって帰ろうとしたところを、意味の分からない奴らに取り囲まれて捕まるなんて最悪だ。自分だったらと思うと最低な気分になる。
でも、実際は、自分ではない。あれは彼女の問題で、彼女のことは1、2度見たことがある程度で、知り合いでもない。自分には関係のないことだ。
「ねぇ、ねぇ、俺達、車で来てるからさ、送ってくよ!」
「ほら、乗って!」
「いえ、あの…、本当に大丈夫ですっ。」
「いいから!遠慮しないでよ!」
「やめてくださいっ。困ります…っ。」
「はぁ!?俺達が迷惑って言いてぇのか!?」
「いいじゃねぇか、ケチくせぇな!!ちょっと遊ぼうって言ってるだけだろ!」
「こんなに優しくしてやってんのに、調子のんじゃねぇよ!」
いきなり、男のそれが怒声に変わって、驚いたらしい彼女の小さな悲鳴も聞こえてきた。
思わず月島は立ち止まる。
振り返ってコンビニの方を見れば、若い男達が三人がかりで彼女を引っ張り、無理やり車に押し込もうとしている。異常だ。ほとんど誘拐の現場と変わらない。
駐車場の離れた場所には、野次馬が数名いた。
明らかに彼女は怯えている。でも、誰も彼女を助けようとはしない。声もかけない。ただ遠くから、指をさして見ているだけだ。
それも仕方がない。あんな意味の分からない野蛮で頭の悪そうな連中、関わっても損をするだけ。面倒ごとに巻き込まれるのは、誰だって御免だ。
「はぁ~~~~~~~~。」
月島は、長いため息を吐くと、家に近づくために進んでいた道を逆戻りし始めた。
本当に嫌だ。最悪だ。面倒ごとに巻き込まれるのは大嫌いだし、他人と関わるのも好きじゃない。それに、今日は部活で疲れているからさっさと帰って風呂に入って寝たいと思っている。
「お前、いい加減にしろよ!!?」
男の1人が、罵声を上げながら腕を振り上げた。
殴られる———小さな悲鳴を上げた彼女が、腕で頭を守るようにして小さくなる。
「行きますよ。」
月島は、若い男達の間に自分の身体をねじ込むようにして、強引に分け入った。
そして、頭を守る為に上がっていた彼女の手首を捕まえる。
ビクッとして、彼女が顔を上げる。
驚いた顔が4つ、月島の方を向いた。
一体、自分は何をやっているのか。らしくない。
本当に、最悪だ————。
「はぁ!?お前、なんだよ、邪魔すんなよ!」
彼女に殴りかかろうとしていた男が、今度は月島に拳を向けて来た。
その両隣で、他の男達もぎゃーぎゃーと喚いている。
本当にうるさい。
「何か。」
彼女の手首を掴んだまま、月島は男達をギロリと睨みつける。
188㎝の長身で見下ろされる男達は、一瞬、その圧にたじろいだ。その隙に、月島は彼女を3人組の壁の外へと引っ張り出した。
「あ、おい!ちょっと待てよ!!」
「まだ話は終わってねぇ!」
「勝手に逃げんな!」
若い男達が、さらに騒ぎ出す。
あれだけ拒否られていて、それでも必死に自分達に振り向かせようとしている彼らが、むしろ滑稽ですらある。きっと、彼らは月島よりも年上だ。女子高生に絡んで迷惑をかけるなんて、自分達が情けなくなったりしないのだろうか。
「まだ何か。」
月島は、掴んだ細い手首を引っ張って自分の背中に隠すと、しつこい男達をもう一度睨み返した。
それでも、彼らはまた何かを言おうと口を開く。
どうしてそこまでして、自分に興味を持っていないどころか迷惑とさえ思っているだろう彼女と繋がりを持ちたがるのか。月島には、全く理解できなかった。
「ねぇ、あの人達、ナンパ?」
「だっさ~。女の子、嫌がってるじゃん。」
少し離れたところから野次馬していた人達の声が少しだけ大きくなった。
ダサイとまで言われて、さすがの彼らも羞恥心が湧いて来たのか、開きかけた口を閉じる。助けようとせずに静観していたくせに、それだけでもいいから最初から声に出してくれていれば自分がこんな面倒事に巻き込まれることなんてなかったのに———そう思わないわけでもないけれど、彼らなりの援護射撃なのかもしれない。
とにかく、今がチャンスだ。
———これ以上、余計な真似するなよ。
月島は、最後にもう一度睨みを利かせると、掴んだ彼女の手首を引っ張って、彼らに背を向けた。