『非公式Twitter』
番外編「幸福のジングルベル」より~忘年会世話係~
2015/12/16 13:1012月23日は、警視庁の忘年会。
今年、私たち捜査室に割り振られたのは『世話係』で、ざっくり言えば『酔っ払いの介抱係』という事になるらしい。
絡まれたりして面倒臭いので、毎年、担当になった部署から苦情が噴出する仕事なのだという。
『世話係』の仕事の評判の悪さを知っている捜査室でも当然、やる前から嫌々な雰囲気が漂っていたのだけれど、なぜか、室長だけは張り切っていた。
##IMGU61##
「ワタシたちの仕事は、忘年会中にハメを外しすぎた職員たちを確保すること。
確保した相手は介抱したり、場合によっては話相手になりなさい。
それでもダメな場合は、道場が仮眠室になってるから、そこの布団に転がすように」
##IMGU64##
「えー!? あそこまで運ぶんですか?」
##IMGU65##
「遠いなあ。担架で運べないの?ていうか何で俺まで」
##IMGU61##
「アンタ暇でしょ」
##IMGU65##
「暇なわけないだろ!」
##IMGU63##
「俺たちの人数に対して、相手が多すぎる」
##IMGU60##
「どう効率的にこなしていくか考えないとな」
##IMGU62##
「確保って、なんかゲームみたいやな」
##IMGU61##
「すぐ遊びに結び付けるんじゃないの。でもまあ、そう考えるのもいいんじゃない?一人10pt、とか」
##IMGU65##
「今日も大漁になりそうだなあ…」
説明と配置を終えると、室長はポン、と私の背中を叩いた。
穂積
「さあ、行くわよ!」
室長は、見るからに楽しそう。
スキップでもしそうなほど上機嫌の室長の後に続き、私たちは全員で、会場へ向かった。
穂積
「つーかまーえた」
忘年会の会場で、室長はとてもイキイキとした顔で、酔っ払いを捕まえていた。
穂積
「はい、もっと飲んで。そうして、洗いざらいワタシに打ち明けてね。隠してる過去や、言いたくない趣味…たくさんあるでしょ?」
翼
「し、室長?酔っ払いをさらに酔わせてどうするんですか!」
穂積
「こうして弱味を握るのよ。酔っ払ってるから、ちょっと突付けば簡単に喋るしね。弱味は上の人間であればあるほどいいわ」
弱みを握った後どうするのか、ちょっと怖くて知りたくない。
穂積
「部長。ご機嫌ですね。ところで、その素敵なカツラ、お幾らなんですか?…さすがお高い。あっ、課長。はい、お酌いたします、どうぞどうぞ。ところで…」
ああ、室長のせいで、どんどん酔っ払いが増えていく。
私はそっと、室長から離れた……
*****
「明智ぃー!今日という今日こそぉ、決着をつけるぞぅ!」
そこでは明智さんが、知り合いらしい職員に絡まれていた。
話を聞けば、訓練の剣道で、いつも明智さんが勝ってたのが気に入らないらしい。
そのうち他の課の男性職員たちもやってきて、「今度こそお前に勝つ!」「そして、女性職員たちの視線もゲットだ!」などと言いながら、明智さんの周りに集まってしまった。
どんどん増えるので心配になるけど、明智さんは涼しい顔。
翼
「あ、明智さん…」
明智
「任せておけ。
さあ、受けて立つぞ。
全員、道場に移動だ」
翼
「でも、今日、道場には布団が…(あ、なるほど)」
明智さんの罠とも知らず、全員明智さんの後ろをゾロゾロとついていく。
(さすが明智さん……)
*****
如月
「翼ちゃーん、頑張って、見張りよろしくね!」
如月さんは、辺りの様子を見ながら、ちゃっかり近くのテーブルからお酒を飲んだり、料理を頬張ったりしていた。
どうやら、嫌な役目の事は後回しにして、忘年会を楽しんじゃう作戦。
如月
「マリネもフィレ肉も美味しいよ。大丈夫、バレなきゃいいんだから、翼ちゃんも…あ!」
如月さんの顔が、どんどん青くなっていく。
振り返ってみると、室長の視線が遠くから確認出来た。
如月さん、手にビール……
如月
「逃げろ!」
穂積
「待て、コラ!如月!櫻井ー!」
如月
「待ちませーん!」
翼
「ごめんなさい、室長!っていうか何で私までー?!」
*****
「藤守! 久しぶりだなあ」
「元気そうだな。まあ、1杯」
「ほら、ちょっとならいいだろ」
藤守さんは人気者。
同年代の男性職員たちに囲まれて、お酒を勧められ、世話係だからと断りながらも、ちょっとだけ、ちょっとだけ……
翼
「ふ、藤守さん、だめですよ」
藤守
「おう櫻井。ちょっとだけ、ちょっとだけや」
翼
(確かにちょっとだけど……いいのかな?)
不安になっていると、他の課の職員も次々と藤守さんの傍へ。
「藤守、この前はありがとな」
「藤守さん、先日は楽しかったですよ。また飲みましょうね」
「藤守~」
「藤守さん!」
次々と集まってくる職員に囲まれ、その度に軽く1杯が続いて……。
藤守
「櫻井~。なんや俺、めっちゃ気持ちええねん~」
翼
「(ダメだ……)」
そうして忘年会の夜は更けていき、いつしか、藤守さんは他の職員たちと共に道場に転がっていた……。
*****
小野瀬
「いいかい?櫻井さん。酔っ払い相手には、優しく接すること」
室長によって如月さんは本来のお役目に戻らされ、私は、忘年会を何度も経験している小野瀬さんに預けられていた。
小野瀬さんは、絡み酒にも泣き上戸にもあくまで冷静に、優しく対応していく。
女性職員が酔っ払いに追われて来たのを背中に庇うと、普段出さないような大きい声で気合い一発、相手の酔いを覚まし首根っこを掴んで、別室へ追い払ってしまった。
翼
「さすが小野瀬さん」
小野瀬
「でしょ?見直してくれた?」
笑いながらそんな冗談を言う小野瀬さんに、先ほど追われて来た女性が頭を下げた。
「小野瀬さん、本当に、ありがとうございました」
顔を上げたその女性は、…よく見ると、女装した男性。
小野瀬
「……え?」
「小野瀬さんに、こんなに優しくしてもらったら、僕……!」
どうやらこちらもかなり酔っているらしく、小野瀬さんにキスしようとすり寄ってくる。
翼
「さすが小野瀬さん…」
小野瀬
「いやいやいやいや!俺、男は専門外だから!モテたいのは女性だけだよ!」
小野瀬さんの叫びを背に、私は揉み合う二人のそばから離れた…
*****
小笠原
「櫻井さんは、今から俺の言う通りに動いて」
宴もたけなわを過ぎて、いよいよ本格的に酔っ払いの数が増えてきた。
というか、参加者のほとんどが酔っ払いと化していた。
こうなると、シラフの小笠原さんが頼もしく思えてくる。
何の指示を出されるのかと思ったら、小笠原さんの目が細くなった。
小笠原
「……右斜め45度の、グレーのスーツを着た酔っ払いを、A取調室へ」
翼
「は、はい」
小笠原
「次、前方左側のテーブルにいる、赤いネクタイの男を、小会議室へ」
翼
「はい!」
小笠原
「左後方20度の位置で絡んでる男を、C取調室へ」
翼
「あ、あの。そんなに部屋使って、大丈夫なんですか?」
小笠原
「すべて押さえてあるから、平気だ。グズグズしないで次」
翼
「は、はい!」
すべて私が捕まえては、各部屋へ連れていく。もう、何往復したか分からない。
翼
「お、小笠原さん。終わりました……」
小笠原
「ご苦労」
会場を見渡すと、酔っ払いのみなさんはすっかり出来上がって、その場に寝てしまっている。
翼
「これを、道場へ寝かせるのは、気の遠くなるような作業ですね…」
小笠原
「……ごめん。俺ちょっと……もう吐きそう」
翼
「ええ!?」
小笠原
「人酔いした……」
確かに小笠原さんの顔は、青を通り越して白くなっている。
翼
「仮眠室に行ってきて下さい。後は、私がやりますから」
小笠原
「ありがとう……」
力なく去っていく小笠原さんの背中を見送って、私は会場に視線を戻した。
翼
「……ひとりで、対処出来るかなあ」
かなり不安になるけど、やるしかない。
翼
「みなさん、起きて下さい。もう終わりましたよー」
ひとりずつに声をかけては、叩き起こしていく。
そんな地道な作業は、夜遅くまで続いた。
神様、明日はいい日になりますように……
追記
名前:ジュン
本文:
翼ちゃん、お疲れさまでした。
室長はイキイキして皆の弱味を握りまくったんでしょうね。
明智さんは流石に冷静ですね。やっつけてそのまま布団に寝かせてしまうと……。
こーちゃんはやっぱりちゃっかりしてるなぁ。
小野瀬さんは流石ですね。男性からも人気があるなんて。
賢史くんは人気者過ぎるのかなぁ。優しいからお酌されると断れないのかな?
小笠原さん、人酔いは大丈夫ですか?
それぞれの対処法があって楽しかったです。
名前:冬子
本文:
みんなそれぞれ個性がでてますね~
室長はこうやって弱みを握ってたんだ…
小笠原さーん、大丈夫ですか?
冬子が来ましたよ。
大丈夫、小笠原さんのためなら冬子、お口にチャックして静かにできます。
はい、冷えピタと求心。
お水も冷たいのを持ってきました。
あとは、冬子のむちむちの膝まくらがありますよ!
名前:澪
本文:こんばんは。
それぞれカラーが出てて面白いですね(^ν^)
室長恐るべしですね…さすが桜田門の悪魔…
小野瀬さんは唇を守れたんでしょうか…さすが桜田門の光源氏…
さすが捜査室のお母さん、明智さんは世話係にも余裕を感じますね。
如月さんは室長から逃げ切れたのかなあ(^_^;)