『非公式Twitter』

~番外編「ホワイトバレンタイン」より明智編~

2016/02/08 10:12

声を掛けてくれたのは、明智さんだった。

「このまま寮に帰るのか?」

「はい」

「それなら、今日はうちで久しぶりに一緒に夕飯食わないか。丁度、家に姉さんたちがいないんだ」

「はい、喜んで!」

明智さんは笑って、車のキーを渡してくれた。


明智さんの家へと向かって走る車から、窓の外を眺める。

走り去っていく景色は、灯りが混ざってとても幻想的だ。

「こう寒いと、お鍋が食べたくなりますね」

「トマト鍋なんてどうだ?」

「トマト鍋!?」

「これが案外美味いんだよ」

お鍋の話で盛り上がっていると、車は赤信号で止まった。

「もうすぐバレンタインなんですね」

窓の外の広告を眺めながら何気なく呟くと、明智さんも頷く。

「翼、俺にチョコレートをくれるのか?」

もちろん、と言いたかったけど、正直、料理上手な明智さんに何をあげればいいのか、私は迷っていた。

そのまま打ち明けると、明智さんは、ばかだなあ、と笑う。

「いっそ一緒に手作りしようか」

「はい、よろしくお願いします、先生!」

お互い顔を見合わせて、笑いあう。

見つめあううちに顔が近付いて、明智さんは赤信号の間だけ、私に情熱的なキスをくれた。


*****


数日後、夜8時過ぎ。

穂積
「これで全員揃ったわね」

室長はみんなの顔を見回した後、深いため息をついた。

明智
「まさか、大雪で交通マヒが起きるなんて思いませんでしたよ」

小笠原
「データはウソをつかない」

小笠原さんの一言に、室長は肩をすくめた。

みんなは外で交通整理のお手伝い。

私と小笠原さんは、捜査室で、帰宅困難者の為に宿泊先の手配。

「まず、俺が交通マヒが起きてる場所を探して、近辺のホテルを手配する。それが終わったら、近くにいる刑事へ市民を誘導するよう促す。きみはその連絡係」

「分かりました」

小笠原さんはてきぱきと指示を出してくれる。

すごいスピードだった。

順調に片付いていく、と思いきや……

ふいに捜査室の電話が鳴った。

刑事(電話)
『すみません……実は、先ほど宿泊先を手配していただいて、市民の方々を誘導していたのですが……一人、どうしてもこのホテルじゃ嫌だと言う方がいて』

「ホテルが嫌!?」

私が聞き返した声に、小笠原さんは肩を大きく揺らした。

しまった、今のは聞かせない方が良かったかも……。

「わ、分かりました。では、別のホテルを早急に手配します」

すぐに電話を切って、別のホテルを手配する。だけど、時すでに遅く……。

「もうやりたくない。俺の仕事に文句があるなら、やっても仕方ない」

小笠原さんはすっかり拗ねてしまった。

(どうすればいいんだろう)

困っていると、また、電話が鳴った。

「はい、捜査室…」

『穂積よ。ちょっと、小笠原に代わりなさい』

なんと、電話をかけてきたのは室長。

受話器を渡すと、渋々、という感じで電話に出た小笠原さんの顔がすぐに不機嫌そうに歪んだ。

「……はい」

電話はすぐに切れた。

「室長、何ですって?」

小笠原
「『バックドロップかけられたくなかったら仕事しろ』って」

全部お見通しの室長からの脅迫に、小笠原さんは溜め息をついて、仕事を再開した……。

 大雪絡みの特別勤務を終えて外に出ると、すでに雪は溶け、2月14日のキレイな青空が広がっていた。



帰りがけに明智さんとスーパーに寄って、チョコレート作りの材料を買い揃える。

「簡単なレシピのを教えてね。私、覚えられないかもしれないから」

「大丈夫。覚えられないなら、また一緒に作れば良いだろ」

ビックリして顔を上げると、明智さんは人差し指で私のおでこを突いた。

「俺はずっと、お前の傍にいるんだから」

「まーくん……」

「お前も、傍にいてくれるだろ?」

もちろん、とばかりに頷くと、明智さんは頭を撫でてくれた。



明智さんのお家に到着した後、キッチンに買った材料を並べ、さっそく料理を始める。

「今日は、チョコケーキを作ろう」

「ケーキ、か。難しそうだなあ」

「そんなことはない。結構簡単だぞ」

明智さんは、ゆっくりと分かりやすく作り方を教えてくれる。

丁寧に教わりながら、こうして並んで料理をしてると、やっぱり楽しい。

明智さんが溶かしたチョコに砂糖を入れ、甘さを調節する間に、私はスポンジの生地を型に流し込んだ。

「それをオーブンに入れたら、チョコの甘さを確認してくれ」

言われるままにオーブンへ入れ、グルリと振り返る。

「少し甘さが足りないかもしれないな」

言いながら、明智さんは自分の小指にチョコをつけて私に差し出した。

「はい、味見して」

「え?」

「味見」

明智さんは真顔だ。……私がおかしいのかしら。

「どうした」

「だ、だって。なんか恥ずかしいなって……」

「何が?」

「な、何がって……ゆ、指を舐めるの……」

頑張って、ちょん、と舐めてみたけど、恥ずかしくて、もうチョコの味なんて分からない。

(なんだか変に意識してしまい、すごくいけないことしてるみたい)

そんな私の言葉にやっと気づいたのか、明智さんは自分の指と私を交互に見た。

「そんなに恥ずかしいか?俺たちもっとすごいことしてるぞ? こんなこととか……」

明智さんの唇が、深く口付けてくる。

息も出来ないほど激しくて、心臓はキュッと締めつけられた。

それに、チョコの甘さで……身体中が、とろけちゃいそう。

「お前の顔、すっごくエロい」

「っ!」

「ケーキが焼けるまで……我慢出来ない」

私の答えを待たずに、明智さんは私の身体を強い力で抱きしめた。



ゆっくりと目を開くと、辺りは真っ暗。

(そっか、ケーキ作ってる途中にまーくんと……あのまま寝ちゃったんだ)

辺りを見回すと、明智さんが隣にいた。その腕はギュッと私を抱き、その目はずっと私を見ている。

「可愛い寝顔を見てるのも楽しかったが……ケーキ作りの続き、しようか」

ベッドから降りて手を差し伸べる明智さん。その姿は、まるで絵本の中から出てきた王子様みたい。

「最後の飾りつけは、残してあるんだ」

「じゃあ、一緒に飾りつけしようね」

「ああ、もちろん」

「どんな風に出来てるか、すごく楽しみ」

「ふたりで作ったんだ、最高の出来に決まってるだろ」

どんな時でも、ふたり一緒。

ふたりでいるから、どんなことも乗り越えられる。

私は笑みを浮かべ、明智さんの手をそっと握り返した。



~終わり~
追記
名前:ジュン
本文:
こんばんは。

明智さんはヒロインちゃんと一緒にチョコを作っちゃうんですね。

しかもチョコケーキ。

明智さんのチョコケーキ、食べてみたい。

でも、作ってる最中にヒロインちゃんを食べちゃうなんてやりますね、明智さん。

名前:冬子
本文:
まあ、明智さんったら、ふふふ。

冬子なら教わりながら、レシピを細かくメモしだしちゃって

ムードぶち壊しだろうけど、翼ちゃんはそんなことなさそう。

「また一緒に作れば良い」

と、言われましてもメモしておきたいの!


それにしても、室長、どこから小笠原さんのこと見てたのかしら…

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