『非公式Twitter』

番外編から零れたふたり~アニ編~

2016/03/14 22:06

##IMGU75##

「年度末は、書類整理はもちろんのこと、決算、引き継ぎ、予算編成で忙しいのは官公庁ならどこも同じだ。当然、検察官であるこの俺も、連日多忙を極めている」

「はい、そうですよね」

久し振りに実現した、慶史さんとのレストランディナー。

二人でホワイトデーのデートの計画を練るどころか、何故か、この時期の仕事がいかに過酷か、お互いに披露しあうような話になってしまった。

まあ、元はといえば、私が、最近の捜査室の忙しさを嘆いたのが始まりだったのだけど…。

「新しい部署は、どれだけ成果を上げるかが全てだからな。上がるのが穂積の血圧だけではどうしようもない」

「室長、ピリピリしてますよ。…お兄さんに言うのはちょっとあれなんですけど、藤守さんと如月さんの書類が溜まりに溜まってて」

「期限を守れないなど社会人失格だ。万が一お前を困らせるようなら、鉄ヲタコレクションをマニアに売るぞとか、実家にある学生時代の出しそびれたラブレターを公表してやるぞと脅してやれ」

「そんな事、出来るんですか?」

「出来るぞ。やらないだけだ」

「ふふ」

慶史さんが本気で弟の大事な物を脅しに使うような人じゃない事は、知っている。

「久し振りに会ったのだ、愚弟などどうでもいい。話を戻すが、その、バレンタインデーのお返しをするという日の事だ」

私にサラダのおかわりを取り分けてくれながら、慶史さんの声は急に小さくなった。

「情けない話だが、今まで、義理でしかプレゼントをもらった事がなくてな。ほ、ほ、本命へのお返しというのは、どうすればいいのだ?」

「特別な事は必要ないですよ。私はその日、慶史さんと過ごせたらいいなあって思うだけで」

「そういういじらしい事を言うから余計に…」

ごほん、と慶史さんは咳払いをした。

「…まあいい。何か考えてみる」

「楽しみにしてます」

私がそう笑顔を浮かべてテーブルの上に手を置くと、向かいの席にいる慶史さんは顔を赤らめたまま、その手を握ってくれた。

「難しいものだな。ありきたりのプレゼントではつまらんし、面白いものは思い付かん」

「面白さ重視ですか?私は、真面目な慶史さんが好きですよ」

「…これは関西人の本能的なものなのだ」

慶史さんは真面目な顔でそう言った。



…数日後…


「すみません、お待たせしました」

私が慶史さんと待ち合わせたのは、霞ヶ関の駅だった。

いつも通勤で利用している見慣れた駅だけど、休日に、改札を出たところで好きな人が待っててくれるというだけで、まるで違った場所になる。

「いや、俺も今着いたところだ」

慶史さんは時計を見た。

「あまり時間がない。行くぞ」

「?」

繋ぐ、よりは掴まれる、という感じで手を引かれて、私は慶史さんと歩き出した。

彼は歩くのが速い。

服装はスーツで、仕事の時とほとんど変わらないけれど、でも、今日はネクタイを締めていないのが特別な感じ。

着いたのは…

「東京地裁?!」

「早く来い。民事裁判法廷ガイドツアーが始まる」

「えっ?えっ?!」


***
事情が飲み込めないうちに、慶史さんに引っ張られて行くと、東玄関のロビーに、黄色い腕章の係員さんと、他の参加者さんらしき人たちが数十人、集まっていた。

(よ、よかった、無難な服を着てきて…)

ドキドキしながら内心冷や汗をかいていると、間もなく案内が始まった。

ガイド役の裁判官が、法廷での民事裁判の流れ、傍聴についてのポイント、注意点などを説明してくれる。

社会科見学みたい、だけど、自分が刑事になってみると、全く見る目が違うのが分かる。

実際の法廷で弁論と証拠調べを傍聴した後、私たちは引き続き、民事裁判説明会にも参加した。

ツアーの後、毎年秋に開催されるのだけど、今回は特別開催なのだそう。

架空の事件を題材に、裁判所の職員さんたちが、法廷で模擬裁判を演じてくれる。

それと並行して、ガイド裁判官が解説してくれるので、参加者は検察、被告、弁護人のやり取りや全体の流れを見ながら、一緒に裁判の結論を考えるのだ。

当たり前だけど参加者は私と同じで裁判には素人なので、慶史さんが時々、ガイド裁判官に適切な質問をして、解決に向かわせてくれる。

(贅沢だなあ…)

それが終わると、裁判官の席に座ってみたり、当事者席に立たされてみたり。

裁判官の法服を着せてもらったり。

数時間だけど、とても有意義な時間を過ごせた。

「慶史さん、今日はどうもありがとう!」

廊下で顔見知りの職員さんと話をしてから戻ってきた慶史さんにお礼を言うと、彼はちょっとくすぐったいような顔をした。

「すまん。結局、面白い事も、サプライズも思い付かなかった。退屈だったか?」

「全然!すごく勉強になったし、慶史さんの仕事場が覗けたみたいで、嬉しかった」

「そ、そうか」

「慶史さん、格好よかった」

人々が去ったロビーの片隅は静かで、私たちの顔はいつしか近付いて…

「ウォッホン!!」

突然の大きな咳払いに驚いて振り向くと、そこには、なんと、お父さん。

「さ、櫻井判事!」

そうだ、ここは、慶史さんの仕事場だけど、私の父親の仕事場でもあった……

「慶史くん、ちょっと。……(小声)ここは、神聖な場所だ、分かっているだろうね?」

「は、はい!……(小声)重々承知しております、はい!」

少し離れた場所で二人でひそひそ話をしてから、慶史さんだけが私の元に戻ってきた。

「参ったな」

私は噴き出してしまう。

「早く逃げましょう」

「そ、そうだな」

まだどこかで見てるのではないか?と何度も振り返る慶史さん。

私は笑いながらそんな彼の腕を引いて、裁判所から夕暮れの街へと駆け出した。



「ん」

慶史さんのお家に着くとすぐ、私たちはキスを交わした。

さっきお預けにされたから、したくてたまらなかったから。

慶史さんは遠慮がちに、でも、男らしく私を抱き上げて、ベッドに運んだ。

二人して見つめあい、その合間にキスを重ねていると、想いが深まっていくのを感じる。

「今日、判事にお会いして思ったのだが」

そんな気持ちに反して堅い慶史さんの声が、ちょっぴり焦れったいのは、きっと、私の身体が、もう火照り始めているから。

「ホワイトデーにはまだ早いのだが」

「何でしょう」


「もう、俺と一緒に住まへんか?」


その言葉は間違いなく、今年度最高のサプライズだった。


~終わり~
追記
名前:ジュン
本文:
こんにちは。

裁判のツアーなんてあるんですね。

傍聴、行ったことがありますがツアーではなかったです。

慶史さんの的確な質問、格好良かったでしょうね。

それにすごく慶史さんらしいデート内容。

それにしても一緒に住まへんか?なんて慶史さんもやるときはやるんですね。

名前:エミ
本文:
アニらしいデート。
(^-^)
期待通り、翼ちゃんパパの登場にちょっとテンション上がった!

面白さを追求してしまうのは関西人の本能なのか。

ま、アニはフツーにしてても面白いけどね。いろいろと(笑)

名前:冬子
本文:
ガイドツアーも裁判体験も本当にあるみたいですね。

勉強になるTwitter部屋。

最近アニさんが気になってたまらないのは、小春さんの手腕によるところが大きいのでしょうか。

仕事ぶりもわかっているアニさんとだったら、お父さんも一緒に住むことを許してくれやすいかも。

アニさん、頑張ってね☆

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