『非公式Twitter』
番外編から零れたふたり~JS編~
2016/03/14 22:04##IMGU170##
「ねんどまつ?」
向かい合って座った喫茶店のテーブルを挟んで、ジョン・スミスは首を傾げた。
「そう。だから今年度の書類を整理しなくちゃならなくて、決算が終わるまでは忙しいの」
「しょるいせいりして、けっさん」
「もう!」
私の恋人は、詐欺師で怪盗。
証拠が無くて捕まらないのをいいことに世界中を気ままに飛び回っている彼に、島国日本に住む新米公務員の世知辛さを説明するのは難しい。
「…はあ」
「つまりきみは疲れているんだね、マルガレーテ」
マルガレーテじゃない、って言ってるのに。もう、訂正するのも面倒くさい。
JSは私の不機嫌を察したのか、両手で私の手をとって、指先にキスをした。
「それなら、近々きみを、そんなものとは無縁な世界に連れていってあげる」
「え?」
私を上目遣いに見つめた彼が見せた魔術師のような微笑みに、私の身体はぞくりと震えた。
数日前に届いたJSからの招待状には、日時と「きみの部屋へ迎えに行くよ」と書かれていただけだった。
まさか、いくら日が暮れて外はもう暗いからといって、寮の前に運転手付きのロールスロイスが横付けされるだなんて、思ってもみなかった。
「どうぞ」
だから、中から彼が降りてきてエスコートしてくれた時には、驚いたけど、むしろホッとした。
「私をどこに連れて行くの?」
車内とは思えないほど豪奢な内装に囲まれて、クーラーからワインを抜いてスマートに給仕してくれる彼に、私は恐る恐る訊いてみた。
「言ったはずだけどなあ。きみを、忙しさとか、しょるいせいりなんて物とは無縁な世界に連れて行ってあげるって」
まずは乾杯、と微笑んでJSは私とグラスを合わせてくれたけれども、口に入れたワインは緊張のせいか、正直言って全く味が分からなかった。
そうして到着したのは…
「どこ?!」
もしかしてここ、迎賓館じゃないの?!
「ま、そんなところ」
「だからどこ?!」
「いいからおいで、支度がある」
「支度?」
豪華絢爛な造りの玄関ロビーにも出迎えの人たちにも、JSは全く気後れする事がない。
それどころか、礼儀正しい黒服の人が先に立って、私と彼を廊下の奥の部屋へと導いてくれるではないか。
「この先は、中の女性たちに従えばいいから。また、後で会おうね」
彼は部屋の前でそれだけ言うと、黒服の人とともに、どこかへ行ってしまった。
待って、という間もなく私は部屋の中に引っ張りこまれ、まるでメイドさんのような服装の女性たちに、数人がかりで着替えさせられてしまう。
「あ、あの、いったいこれは」
化粧を施され、金髪縦ロールのかつらまで被せられ、白い羽根で出来た扇子を持たされて姿見の前に立たされた私は、まるで、フランスはベルサイユ時代の貴族の女性のような、超豪華なドレスに身を包んでいる。
「これから行われるのは、仮面舞踏会ですわ」
どんどん非現実的になってゆく世界に、年度末の疲れも吹き飛ぶどころか、展開に追い付けなくて目眩がしそう。
最後のリボンを結んでくれていたメイドさんが、ふー、と息を吐いてにっこり笑った。
「とってもお似合いですよ」
***
「こちらが仮面です」
手渡されたのは、つけると顔が完全に隠れる、白いお面。
「皆さまご高名な方ばかりで、映画俳優や音楽家もいれば、中東の大富豪もおられます。でも、全員が仮面をつけていますから、お互いに素性は分かりません」
「言語については、ご心配には及びません。声を出さない、話をしないのがルールですから」
「踊ってみて気が合えば、そのまま別室へ移動して、お二人だけの時間を過ごしていただけます」
「では、どうぞお楽しみくださいませ」
メイドさんたちに送り出され、会場まで来た私は、けれど、途方に暮れていた。
高い天井と巨大な金のシャンデリアに彩られた華やかなダンスホールには圧倒されるばかり。
広い広い会場に流れているのは、行き交うたくさんの人たちの衣擦れの音、お酒の香り、そして、楽団の生演奏だけ。
まるで、外国映画のワンシーンに入り込んでしまったみたい。
ホールの中へ数歩踏み出すと、それを待ちかねていたように、次々と現れる男性にダンスを申し込まれた。
声を出せないので、手を取られてしまうと断る事も出来ない。
隙をみてJSの姿を探すけれど、全員が仮装して着飾って仮面をつけているので、遠目には見分けがつかない。
誘われるままに踊りながら周りに気を取られていると、不意に、今踊っていた相手に引き寄せられた。
筋肉質で厚い胸板にいきなり顔を押し付けられ、むっとするような強い香水の香りに、咳き込みそうになる。
思わず、相手を押し返そうとした時。
すぐそばで、パチン、と音がした。
同時に私の目の前に蘭の花束が現れて、男性が弾かれたようによろめいた。
倒れかけた男性を支えたのは、青いタキシードを着た細身の男性。
先の男性は私から離れ、ソファーにどさりと座った途端、ハッとしたように周りを見回した。
まるで、催眠術から覚めた人のように。
代わりに私の手を取ったのは、現れた青いタキシードの男性。
蘭の花を抱え、手を引かれるままホールから出ると、エレベーターの中で抱き締められた。
「…どうして私が分かったの?」
「僕がきみを見分けられないと思う?」
JSの手が私の仮面を外し、私がJSの仮面を外す。
自然と、唇が重なった。
互いに相手を確かめるように抱き寄せて触れ合えば、想いが高まってゆく。
エレベーターが静かに止まる頃には、私の身体はもう熱くなりかけていた。
到着した階に降りると、扉の前にいた黒服の人たちが、私たちのために両側から扉を開けてくれる。
開かれたのは、真っ白な調度品で統一された広い部屋。
「わあ…」
「少し早いけれど、ホワイトデーのプレゼント」
JSが、私に向かって、恭しく右手を差し出した。
「受け取っていただけますか?」
「喜んで」
私は頷いて、差し出された手に、自分の手を乗せた。
背後で静かに扉が閉まり、JSは私を白いベッドに誘う。
ベッドを軽く軋ませて、彼は、横たわった私を見下ろした。
「しょるいせいりの事は、忘れられた?」
「もう。今はそんな事、思い出させないで」
胸元に降りてくる唇を受けながら苦笑し、私を抱く彼の身体を抱き締める。
そう、今だけは、現実を忘れさせて。
身も心も、あなたでいっぱいにして。
明日の朝夢から覚めれば、あなたはいないと知っているから。
~終わり~
「ねんどまつ?」
向かい合って座った喫茶店のテーブルを挟んで、ジョン・スミスは首を傾げた。
「そう。だから今年度の書類を整理しなくちゃならなくて、決算が終わるまでは忙しいの」
「しょるいせいりして、けっさん」
「もう!」
私の恋人は、詐欺師で怪盗。
証拠が無くて捕まらないのをいいことに世界中を気ままに飛び回っている彼に、島国日本に住む新米公務員の世知辛さを説明するのは難しい。
「…はあ」
「つまりきみは疲れているんだね、マルガレーテ」
マルガレーテじゃない、って言ってるのに。もう、訂正するのも面倒くさい。
JSは私の不機嫌を察したのか、両手で私の手をとって、指先にキスをした。
「それなら、近々きみを、そんなものとは無縁な世界に連れていってあげる」
「え?」
私を上目遣いに見つめた彼が見せた魔術師のような微笑みに、私の身体はぞくりと震えた。
数日前に届いたJSからの招待状には、日時と「きみの部屋へ迎えに行くよ」と書かれていただけだった。
まさか、いくら日が暮れて外はもう暗いからといって、寮の前に運転手付きのロールスロイスが横付けされるだなんて、思ってもみなかった。
「どうぞ」
だから、中から彼が降りてきてエスコートしてくれた時には、驚いたけど、むしろホッとした。
「私をどこに連れて行くの?」
車内とは思えないほど豪奢な内装に囲まれて、クーラーからワインを抜いてスマートに給仕してくれる彼に、私は恐る恐る訊いてみた。
「言ったはずだけどなあ。きみを、忙しさとか、しょるいせいりなんて物とは無縁な世界に連れて行ってあげるって」
まずは乾杯、と微笑んでJSは私とグラスを合わせてくれたけれども、口に入れたワインは緊張のせいか、正直言って全く味が分からなかった。
そうして到着したのは…
「どこ?!」
もしかしてここ、迎賓館じゃないの?!
「ま、そんなところ」
「だからどこ?!」
「いいからおいで、支度がある」
「支度?」
豪華絢爛な造りの玄関ロビーにも出迎えの人たちにも、JSは全く気後れする事がない。
それどころか、礼儀正しい黒服の人が先に立って、私と彼を廊下の奥の部屋へと導いてくれるではないか。
「この先は、中の女性たちに従えばいいから。また、後で会おうね」
彼は部屋の前でそれだけ言うと、黒服の人とともに、どこかへ行ってしまった。
待って、という間もなく私は部屋の中に引っ張りこまれ、まるでメイドさんのような服装の女性たちに、数人がかりで着替えさせられてしまう。
「あ、あの、いったいこれは」
化粧を施され、金髪縦ロールのかつらまで被せられ、白い羽根で出来た扇子を持たされて姿見の前に立たされた私は、まるで、フランスはベルサイユ時代の貴族の女性のような、超豪華なドレスに身を包んでいる。
「これから行われるのは、仮面舞踏会ですわ」
どんどん非現実的になってゆく世界に、年度末の疲れも吹き飛ぶどころか、展開に追い付けなくて目眩がしそう。
最後のリボンを結んでくれていたメイドさんが、ふー、と息を吐いてにっこり笑った。
「とってもお似合いですよ」
***
「こちらが仮面です」
手渡されたのは、つけると顔が完全に隠れる、白いお面。
「皆さまご高名な方ばかりで、映画俳優や音楽家もいれば、中東の大富豪もおられます。でも、全員が仮面をつけていますから、お互いに素性は分かりません」
「言語については、ご心配には及びません。声を出さない、話をしないのがルールですから」
「踊ってみて気が合えば、そのまま別室へ移動して、お二人だけの時間を過ごしていただけます」
「では、どうぞお楽しみくださいませ」
メイドさんたちに送り出され、会場まで来た私は、けれど、途方に暮れていた。
高い天井と巨大な金のシャンデリアに彩られた華やかなダンスホールには圧倒されるばかり。
広い広い会場に流れているのは、行き交うたくさんの人たちの衣擦れの音、お酒の香り、そして、楽団の生演奏だけ。
まるで、外国映画のワンシーンに入り込んでしまったみたい。
ホールの中へ数歩踏み出すと、それを待ちかねていたように、次々と現れる男性にダンスを申し込まれた。
声を出せないので、手を取られてしまうと断る事も出来ない。
隙をみてJSの姿を探すけれど、全員が仮装して着飾って仮面をつけているので、遠目には見分けがつかない。
誘われるままに踊りながら周りに気を取られていると、不意に、今踊っていた相手に引き寄せられた。
筋肉質で厚い胸板にいきなり顔を押し付けられ、むっとするような強い香水の香りに、咳き込みそうになる。
思わず、相手を押し返そうとした時。
すぐそばで、パチン、と音がした。
同時に私の目の前に蘭の花束が現れて、男性が弾かれたようによろめいた。
倒れかけた男性を支えたのは、青いタキシードを着た細身の男性。
先の男性は私から離れ、ソファーにどさりと座った途端、ハッとしたように周りを見回した。
まるで、催眠術から覚めた人のように。
代わりに私の手を取ったのは、現れた青いタキシードの男性。
蘭の花を抱え、手を引かれるままホールから出ると、エレベーターの中で抱き締められた。
「…どうして私が分かったの?」
「僕がきみを見分けられないと思う?」
JSの手が私の仮面を外し、私がJSの仮面を外す。
自然と、唇が重なった。
互いに相手を確かめるように抱き寄せて触れ合えば、想いが高まってゆく。
エレベーターが静かに止まる頃には、私の身体はもう熱くなりかけていた。
到着した階に降りると、扉の前にいた黒服の人たちが、私たちのために両側から扉を開けてくれる。
開かれたのは、真っ白な調度品で統一された広い部屋。
「わあ…」
「少し早いけれど、ホワイトデーのプレゼント」
JSが、私に向かって、恭しく右手を差し出した。
「受け取っていただけますか?」
「喜んで」
私は頷いて、差し出された手に、自分の手を乗せた。
背後で静かに扉が閉まり、JSは私を白いベッドに誘う。
ベッドを軽く軋ませて、彼は、横たわった私を見下ろした。
「しょるいせいりの事は、忘れられた?」
「もう。今はそんな事、思い出させないで」
胸元に降りてくる唇を受けながら苦笑し、私を抱く彼の身体を抱き締める。
そう、今だけは、現実を忘れさせて。
身も心も、あなたでいっぱいにして。
明日の朝夢から覚めれば、あなたはいないと知っているから。
~終わり~
追記
名前:エミ
本文:
こんな芸当はJSにしか出来ないよね~。
貴族コスプレ楽しそう♪←何か違う(笑)
名前:冬子
本文:
なんかJSらしい!
もう、小春さん公式チームに入っちゃえ。
そんで、脚本書いてください。
「しょるいせいり」
かわいいですね。
「けっさん」
なんのことかわかってるのでしょうか。
「僕の辞書にはのってないです」
とか言ってほしいですね。
本文:
こんな芸当はJSにしか出来ないよね~。
貴族コスプレ楽しそう♪←何か違う(笑)
名前:冬子
本文:
なんかJSらしい!
もう、小春さん公式チームに入っちゃえ。
そんで、脚本書いてください。
「しょるいせいり」
かわいいですね。
「けっさん」
なんのことかわかってるのでしょうか。
「僕の辞書にはのってないです」
とか言ってほしいですね。