『非公式Twitter』

番外編『秘密のお花見大作戦』より~穂積編~

2016/05/02 14:49

##IMGLU83##
「お待たせしました」

私が車に乗り込むと、室長はすぐにエンジンをふかした。

##IMGU61##
「藤守と如月は?」

「真面目に残業してます」

「…あいつらの事務処理が遅いのは、俺が甘やかしてきたせいもあるんだよな。これからは厳しくするか」

「これ以上厳しくしたら逃げ出かしちゃうかも」

室長は笑いながら信号待ちで車を停めると、大きな欠伸をした。

「泪さん、眠そう」

「春だからな」

言いながら、また欠伸。

私は心配になってきた。

「少し、どこかで休憩する?」

「何だ、誘ってるのか?」

意地悪な笑みを浮かべて、室長は左手を私の太ももに乗せた。

「違います!」

「触って欲しいくせに」

「…」

恥ずかしいけど、確かに否定できない。

お互いへの気持ちだけの爽やかな交際もいいけれど、こんなふうに、当たり前のように相手に触れることが出来る関係も好き。

私がスーツのスカート丈を伸ばしていると、室長はまた欠伸をした。

「泪さん……」

「そんな心配そうな顔をするな。時間が出来たらゆっくり寝るから、その時は膝を貸せ」

「うん」

私が頷くと室長は優しい笑みを浮かべながら、現場の方向へハンドルを切った。

***

署の花見大会当日。

署長から始まり、次々に偉い人たちの話が続く。

「…帰りたい。もう限界」

私の隣に座っている小笠原さんの端整な顔は歪み、耐えようと奥歯を噛みしめている。

「もう帰る」

ついに、小笠原さんは立ち上がってしまった。

「そ、そうだ!もうすぐ、ビンゴ大会がありますよ!」

「興味ない」

「でも景品の中に…ほら!」

会場に設置されていたパンフレットを開くと、そこにはビンゴの景品として、私にはよくわからないノートPCの写真が。

「こ、これって、実験用に作られた対サイバーテロ用の高スペックタブレット型のデバイス!」

私には小笠原さんの言葉の意味がさっぱりわからなかったけれど、彼は明らかに興味を示した顔をしている。

「…本当に、これ貰えるの?」

「はい、ビンゴで当たればですが」

「これを逃したら、もう二度と手に入らないかも…」

小笠原さんは帰りかけていた身体を反転させ、先ほどと同じ位置に腰を下ろした。

やがて、長い長い挨拶がようやく終わると、全員にビンゴカードが配られた。

「あ、ここだ」

「…これか」

「ここと…ここも…」

するとなんと、小笠原さんよりも早く、私のカードがビンゴになった。

私は急いで、ビンゴカードを彼へ押し付ける。

「どうぞ」

「えっ、でも」

「ほら、小笠原さん。早くビンゴって言わないと、限定版モデルが!」

「…ンゴ…」

進行係の女性事務員が、やっと、手を挙げた小笠原さんを見つけてくれた。

「はい、何でしょう?」

「ビンゴ……ビンゴ!!」

こうしてようやく、小笠原さんはお目当てのPCをその胸に抱いた。

そこへ、挨拶回りを終えた室長が戻ってきた。

「あら、小笠原。逃げなかったのね」

「もう帰る」

「敬、語」

「……お先に失礼します」

景品ゲットでよほど機嫌が良いみたいで、小笠原さんは頭を下げて去っていった。

***
花見大会を抜け出し、車に乗り込んで大通りに入ると、室長はアクセルを踏む足に力を込めた。

彼は今日大酒を飲むとばかり思っていたから、まさか、車に乗ってデートとは思わなかった。

けれど、私とのデートの為に、大好きなお酒を飲まなかったなんて、ちょっと意外だけど、嬉しい驚き。

助手席から横顔を見つめれば、ハンドルを操作しながら、室長は欠伸を噛み殺す。

(今日も眠いのかな)

やっぱり帰って休む方がいいんじゃないかと心配になったけど、言ってもきっとまた先日の繰り返しになる。

車は高速道路を経て、少し田舎にある、小さな展望台に到着した。

「誰もいないね」

「あまり知られてないんだな。そのお陰で、ここに来れば静かに過ごせる」

室長に手を引かれるまま、私はその中へ入っていった。

「お前に、いいものを見せてやる」

ガラス張りの窓際から外を見れば、眼下に広がっていたのは、見渡す限りの桜の花。

「すごい…!!これ、全部桜の花?」

「見つけたのは数年前なんだ」

顔を上げると、室長の優しい笑み。

「いつか大事な相手が出来た時に、見せてやろうと思ってな」

「大事な相手って…」

「お前に決まってるだろ」

「泪さん…」

室長が私を抱き締めた。

そのまま、唇を重ね合わせる。

「何だか、今日のキスは優しいね」

「いつも通りだろ?」

「そう?いつもはもっと強引というか…」

「強引な方が好きか?」

「それは…どっちも好き」

すると今度は、息も出来ないような深いキスをしてくれる。

「ん…」

優しく、激しく。室長がキスしてくれる度に胸がキュッと締めつけられて、くすぐったい気分になる。

「…今日のお前は、随分と積極的だな」

「…ダメ?」

「いや、ダメじゃない。俺好みだ」

そう言ってから、室長は私を抱き締めた。

「…この間も、今日も…心配させてすまなかった」

もしかして、少し無理してるんじゃないかと私が思ってた事、気付いていたのかな。

「ううん。大好きな人の心配をするのは、当然だよ」

「これからも心配かけるぞ」

室長が、愛しそうに私を見つめてくれる。

「俺は管理職だ。忙しいのはこれからも変わらない。だが、だからといって、お前をおろそかにはしたくない。俺は、仕事もこなして、お前と二人の時間も大切にしたいんだ」

「泪さん……」

「俺は欲張りだな」

私は首を横に振って、笑顔で室長に抱きついた。

「そんな泪さんだから、好きになったんだよ」

「ああ、ありがとう」

室長は腰に手を回し、もう一度キスをくれた。

「なら今日は、たっぷりとお前を味わわせてもらおう」

「泪さんの気の済むまでどうぞ」

「何だ、言うようになったな」

「泪さんの彼女ですから」

「そうか、後悔しても遅いからな」

室長は覆い被さるようにして、私を柱の隅へと押しつけた。

「…だが、困った顔を見せてくれないのも、いじり甲斐がないな」

「る、泪さん!?」

「そういう顔が見たい」

「…もう、すぐイジワルするんだから」

苦笑する私に、またキスの嵐。

「来年もここに来るか」

「うん」

「じゃあ、約束だ」

室長は、ずっと一緒だと告げるように、私と指を絡めた…。


~終わり~
追記
名前:ジュン
本文:
こんばんは。

小笠原さん、欲しかったPCが貰えて良かったですね。

室長はいつも強引なようで優しいから困っちゃいます、←何が?

いまでも室長と桜を見れたらいいですね。

名前:冬子
本文:
室長が眠がるなんて珍しい。

そんな人間みたいなこと…いえいえ、眠がるといえば小笠原さんか小野瀬さんか。

きっと部下の士気にかかわるから、普段は眠くとも我慢してるんでしょうね。

私の前でだけ、普段の様子をだしてくれるって嬉しいです。

そして、桜。

特別な場所に連れてきてくれるって素敵。



それにしても、PCでご機嫌な小笠原さんって可愛い!

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