『非公式Twitter』

番外編から零れたふたり~JS編~

2016/05/04 14:44

##IMGU170##
「きみは本当に仕事熱心だね」

久し振りに私の前に現れた恋人は、咲き始めた桜の枝の張り出した、カフェのオープンテラスで溜め息をついてみせた。

「花見大会、だなんて。美しい花は自由に愛でるものだろう?命令で集められて座らされて、そのうえ、お仕着せの酒や食事を与えられるなんて。僕なら御免だな」

私はちょっとムッとする。

##IMGLU83##
「…JSは怪盗で、組織に属してないから分からないかもしれないけど。職場の行事に参加するのは、親睦や結束を深める為に大切な事なの。それに、室長だって、『タダ酒タダ飯だ』って言ってたよ」

「出たくもない花見大会なら、せめて腹を満たそうって意味でしょ?ルイルイは即物的だからねえ」

「…JSも桜は好きでしょう」

「好きだよ。でも強制されて見たくはない」

「…」

言い返せない。

なぜなら彼の言う事には一理あるし、何より私自身が、本当は、出来る事なら参加したくないと思っているのだから。

私は、ログテーブルに突っ伏した。

「はぁあ、JSはいいよね。延々続くっていうお偉いさんたちの堅苦しいお話とも、長時間の正座とも、お酌ともセクハラとも無縁だもんね」

「ちょっと待って」

JSの声が、険のあるものに変わった。

「きみ、花見でセクハラ受けるの?」

「あっ」

私はハッとして顔を上げた。

「違う、まだ、そうと決まったわけじゃないの。ただ、捜査室以外の人達の中には、お酒の席で触ってくる人も多い、っていうだけで」

私の説明を聞いて、すうっと目を細めたJSを見て、私は、自分が口を滑らせた事に気付いた。

「聞き捨てならないな」

「ちょ、ちょっと」

「その、偉い方々の体調が急に悪くなったりして、話が短くなれば、それだけ早く花見大会は散会するの?」

「え?!」

「それとも、何か大きな事件が起きれば、花見自体が中止になるのかな。全員警察官だからね」

「まま、待って!お願いだから、変な気を起こさないで!」

私は、早くも席から腰を浮かせかけたJSの腕を掴んで、慌てて引き留めた。

「権威を笠に着た連中が、きみに対して変な気を起こすのはいいの?」

「そ、それは嫌だけど、でも」

「ちょっと我慢すればいい?僕は我慢出来ない。きみが教えてくれたじゃないか。自己満足の為に、他人の人格を無視するのは罪だ」

「大袈裟だってば!」

私が高い声を出したので、カフェの店員さんが、窓越しにこちらをそっと覗いた。

それに気付いて、JSも座り直す。

「…分かった、花見大会の妨害はしない」

「ありがとう!」

私はひとまずホッとして、胸を撫で下ろした。

けれど、JSはしばらく真顔で私をじっと見つめた後、私の手を、自分の方に引き寄せた。

「僕が、きみを、牢獄から出してあげる」

恭しく私の手の甲にキスをしたJSが口にしたのは、悪魔メフィストフェレスではなく、恋人ファウストの台詞だった。


***

署の花見大会当日、桜並木の下に集まった一般の花見客の明るさをよそに、私たちの花見大会の周りだけ、重苦しく暗い雰囲気が漂っていた。

(副署長代理の話、いつになったら終わるんだろう)

署長から始まり、次々に偉い人たちが現れては延々と話が続く。

しかも真面目な訓話ならまだしも、お花見という場だから彼らなりに配慮してくれているつもりなのか、私たちには全く興味の無い、プライベートな話ばかり。

早い話が、つまらないのだ。

(なるほど、みんなが言いたかったのはこういう事か…)

私は周りに気付かれないようにしながらも、溜め息をついた。

(…あの時、JSの提案を却下しないで受け入れておけば良かったかなあ…)

果ては、私まで物騒な事を考えてしまう始末。

(この後、刑事部長、警備部長、生活安全部長…)

うんざりしながら式次第の書かれたパンフレットを眺めていると、ふと、遠目の通路に見慣れた顔が見えた気がして、私は振り返った。

「お父さん?!」

私は立ち上がった。

私の声が聞こえたらしく、スーツ姿の父は腰を低くして辺りに軽く会釈をしながら、ゆっくりと近付いて来た。

私の隣で、何故か室長も立ち上がって最敬礼している。

「すまん、翼。邪魔をするつもりはなかったんだが」

「それはいいけど、どうしたの?」

「いや、地裁の部下たちが花見をしていると聞いて、差し入れに来ただけだ。終わったから用を足して帰るつもりが、人混みで場所が分からなくてな」

ああそういえばさっき、「兄貴もどこかにいるはずやで」って、藤守さんも言ってたっけ。

「櫻井、臨時のお手洗いが設置されているはずよ。ここはいいから、判事を案内して差し上げて」

「はい。お父さん、こっちだよ」

私は父の手を引いて、その場から離れた。

花見大会から遠ざかるにつれて、自然と、笑いが込み上げてくる。

いつしか、私より前を歩き出した父と二人で声を殺して笑いながら、私たちは、駅に向かって駆け出していた。


***


駅の洗面所から出てきた時にはもう、JSは、父の姿から、いつもの青年に戻っていた。

二人で向かったのは、小さな神社。

「実はここに、珍しい桜があるんだ」

JSが教えてくれた桜はまだ若木だったけれど、それは真っ白な一重の桜で、花と葉が同時に開いているのが特徴的だった。

いわゆる桜色ではないけれど、すっきりとした白と緑の対比がとても爽やか。

「寝覚桜、というんだよ」

京都にある神社の桜として有名な品種だけど、関東には少ない。

JSは桜好きが高じてあちこち歩くうち、偶然、ここに、ひっそりと数本が植えられている事に気付いたそうだ。

「目が覚めるほど美しいから、寝覚桜、と名付けられたらしい」

「…本当に、綺麗…」

JSは桜に見惚れていた私を静かに抱き寄せ、上向かせた。

「…神様の前だけど、いいかな」

私は私を抱き締める彼に身を任せて、熱い口付けに応えた。


神様、ごめんなさい。

許されない恋だけど、私、この人と一緒にいたい。

罰当たりな人だけど、彼の事が頭から離れないの。

ずっと、ずっと一緒にいたい。

この桜の花と葉のように、一緒に。


寝ても覚めても。


~終わり~
追記
名前:ジュン
本文:
こんばんは。

ふふっ、JSは結構妬きもちや妬きなのね(笑)

でも、お父さんの姿で来られたら室長もビックリしちゃうよね。

一重桜をいつかは見てみたいなぁ。

名前:冬子
本文:
今日のJSは変装と桜好きと個性をいかしてますねー

個性っていうか特技?

室長が最敬礼っておかしい。

私だったらふきだしちゃってるかも

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