『非公式Twitter』

番外編『GW秘密のデート』より~穂積編~

2016/05/09 14:33

彼の携帯にメールを送ってから3時間ほど経って…寮の自室に突然、『ダー●ベイダーのテーマ』が響き渡った。

##IMGLU83##
「泪さんだ!」

私は急いで携帯電話に飛びついた。

3コールまでに取らないと叱られる。

これは職場での悲しい習性だ。

「泪さん?どうしたの?まだ仕事中?」

##IMGU61##(電話)
『どうしたの、じゃない。今、会議が終わって、メールが来ていたから電話したんだ。何だ、話って』

「その…大した話じゃないの。…ちょっとだけ、会いたいなと思って」

『じゃあ、寮監に緊急ガサ入れです、とか何とか言って、泊まる用意して待ってろ。迎えに行く』



迎えに来てくれた室長の車に乗って、1週間ぶりくらいに彼の部屋に入った。

「掃除してなくて悪いな」

「でも、思ったより散らかってないです」

私は、いつものように室内に散乱したシャツを拾い始めた。

「お前、風呂は?」

「寮で入ってきました」

「もう一度入らないか?」

「入りません」

などというやり取りの後、室長が一人でシャワーを浴びている間に掃除をしていると、やがて、タオルを腰に巻いただけの格好で彼が出てきた。

「ああ、片付けなんかしなくてもいい。それより、話って?」

室長に促されて、私はソファに座った。

「その…本当に、大した話じゃないの。ただ、会いたくて」

「なんだ」

室長は服を身に着けて、私の隣に座る。

「忙しくて会えない間に、何かあったのかと思った」

「心配させちゃいました?」

「別に。お膝に来る?ベイビーちゃん」

室長はニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべながら、腕を広げた。

「さみしかったんでちゅねー。はーい、抱っこしてあげまちゅよー」

「うう、また子供扱い…」

「早く来い。腕が疲れる」

「子供扱いするなら、行きません」

私が拗ねて離れると、室長は笑顔を消し、腕を下ろして、ソファから立ち上がった。

「あっそ。じゃあ、俺はもう寝る」

「えっ?」

「だってお前は来たくないんだろ?」

そして、そのまま寝室の方へ行ってしまおうとする。

「い、意地悪すぎる……」

私は立ち上がって、彼の背中に抱きついた。

「最初から来ればいいのに。おいで」



「満足しましたか?ベイビーちゃん。俺はまだ足りないんだけど」

耳元で囁かれ、私は枕で赤い顔を隠した。

「すみません、もう、おなかいっぱいです」

「子供だなあ」

「どうせ子供ですから」

「そんなに気にしてるのか?子供相手にこんな事してたら犯罪だぞ」

彼は笑って、私を抱きしめた。

「それより、さっきの、話って何だったんだ?正直に言ってみろ。笑わないから」

「…ううう、GWに、ちょっとだけでもデートがしたかったんです」

「あはははは!」

「やっぱり、笑った…」

「GWなんてどこも混んでるだろう。それより、6月に休みをとれ。俺がアジアの超エロいホテルに連れてってやる」

「そうじゃなくて、気分的に」

「どこに行きたいんだ?」

「浦安の…」

「そこはGWには最も不向きな場所だろう。そうだな、夜しか時間が無いんだから、都内の、いいホテルで食事をして、バーにでも行くのはどうだ?」

「はい!」

そしてGW。私と小野瀬さんは、品川区の某老人施設に交通指導に来ていた。

「小野瀬さんまで交通指導に駆り出されているとは知りませんでした」

「まあ、一応、俺も警察官だからね。忙しい時期はお互い様」

指導が終わり、小野瀬さんは、近付いて来た80歳ぐらいの御婦人に微笑みかけた。

「はい、どうぞ、お帰りはあちらですよ」

でも、おばあさんたちが誰も帰らない。

「あんた、いい男だねえ」

「最近は警察官もこんなにイケメンなんだね」

「お、お嬢さんたち、そろそろお帰りにならないと、日が暮れてしまいますよ?」

ジリジリとおばあさんたちの数が増え、小野瀬さん包囲網が確実に狭まっていくのを見ながら、私はさっさと後片付けをした。

「小野瀬さん、お疲れ様でしたー!」

私は段ボールを抱えて、車に向かった。

(早くしないと泪さんとの待ち合わせに遅れちゃう……)

「えっ?櫻井さん、待って…わっ!お嬢さん方!ちょっ、ちょっと!押さないで!」

(小野瀬さんは全ての女性に優しい人だわ…)

***

交通指導のあと、私は大急ぎでロッカールームでベビーピンクのワンピースに着替えた。

メイクもちょっと大人っぽいものに変え、髪も巻いてみる。

地下鉄で待ち合わせ場所に着いた時刻は5分遅れだったけど、室長はまだ来ていなかった。

けれど、ほっとしたのも束の間、10分待っても、さらに15分経っても室長は来ない。

(電話も繋がらないし…ひょっとしたら、急な仕事で来られなくなったのかも)

彼は遅刻をする人じゃないから、その可能性は高い。

とにかく連絡を試みていると、後ろから肩を叩かれた。

「泪さ…」

けれど、振り向いたそこにいたのは室長ではなく、サラリーマン風の、背の高い若い男の人。

「こんばんは」

その人はにっこりと微笑んで、私に声を掛けてきた。

「もし、誰かに待ちぼうけさせられているのなら、僕と食事をしませんか?」

「すみませんけど、私は…」

そのとき、別の腕が現れて、私の手を強引に掴んだ。

「あ…泪さん…!」

「誰だ?知り合いか?」

室長が睨むと、目の前の男性は「残念」と肩をすくめてから、その場を去っていった。

「悪かったな。小笠原が指導中にヒキコモリやがって、すっかり時間を食われた」

「…室長、もしかして走ってきたんですか?すごい汗ですよ」

私はハンカチを渡した。

「ああ、ありがとう。電波が悪くて電話は通じないし、走る方が速いと思って…それより、予約に遅れる。早く行こう」


***

「あはははは!」

ホテルに着いてディナーの席でさっきの交通指導の話をすると、室長は笑い転げた。

「平均年齢80歳にまで大モテ?さすが小野瀬だ。大人の女としか付き合わないだけのことはある」

一頻り笑うと、室長は私を見つめて、目を細めた。

「それより、今日のお前の格好、いいな」

「本当?頑張ってお洒落してきて、良かった」

室長が、私のグラスにシャンパンを注いでくれる。

なんだかいつもより、大人扱いしてくれてる気がする。

「さっき、やけに綺麗な女が立ってるなと思ったら、お前だったから、ちょっと驚いた」

「私の変身に?」

「いいや。自分の目の高さに」

彼はシャンパンのグラスを軽く上にあげて、自信たっぷりに微笑んだ。


~終わり~
追記
名前:エミ
本文:
人生の大先輩女子に囲まれる小野瀬さん。さすがです。

この番外編は、公式番外編の一番最初だったから何度も読んだなぁ~。室長編ばっかりだけど(笑)

名前:ジュン
本文:
おはようございます。

小野瀬さんはさすがですね。

どんな女性も虜にしてしまう(笑)

室長にだったら子供扱いされても全然オッケーです。

名前:冬子
本文:
本物の光源氏にも、おばば殿を相手にする恋愛があったような。

そしておばば殿の方が数段上手だったような。


サラリーマン風の背の高い若い男の人が出てきたときは、JSかと思っちゃった。

でも大汗かいて室長が走ってきてくれたら、嬉しいかも~~

名前:小春
本文:
室長の話なのに、コメントがみんな小野瀬さん(笑)

そして冬子さん、正解。このサラリーマンはJSです。


「もし、誰かに待ちぼうけをさせられているのなら、僕と食事をしませんか?」

「はい?」

「祖父の遺言で綺麗なお嬢さんがひとりで居たら、必ず誘うように言われていまして」

「申し訳ありませんが、私は……」

ここで室長到着。

「誰だ、知り合いか?」

室長の登場に男性は肩をすくめ、

「残念。でも、よかったら連絡して」

と、名刺を差し出して消えます。

それを室長がひったくり、

「ジョン・スミス?こんなの偽名だ」

と言ってビリビリに破いておしまい。


番外編としては別にJSである必然性が無いと判断し、分かる人には分かるだろうと思って端折りました。

ご明察ありがとうございますm(__)m

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