『非公式Twitter』
番外編『GW秘密のデート』より~小笠原編~
2016/05/11 14:27私が彼に携帯にメールを送ってから、3分ほど経って返事が来た。
##IMGU63##(メール)
『話って何?』
##IMGLU83##(メール)
『たいした用事ではありません。明日のお昼、一緒にどうですか?』
送信、っと…、
すぐに返事が来る。
『たいした用事じゃないのなら、また今度にして』
「う、うーん……」
打てば響くような塩対応に、私は悩んだ。
この素っ気なさは、仕事が忙しいのかな、それとも会いたくないのかな。
『分かりました。お仕事の邪魔をしてごめんなさい』
送信すると、またすぐメールの着信音。
「えっ?」
『明日昼いつものカフェ』
「うーん…」
私は溜め息をついた。
***
翌日の昼休み。
小笠原さんは、明らかに寝不足の、物憂げな顔で私を待っていた。
「お待たせしてごめんなさい」
「別にいい。座れば?」
(あっ。やっぱり不機嫌そう…)
「えっと、昨日はごめんなさい。…何時までお仕事だったの?」
「朝の4時」
だから元気がないのかな。
でも、その後の会話も続かないし、気まずい事この上無い。
(「デートしませんか?」なんて、能天気に言い出せる雰囲気じゃないな…)
「…」
とうとう沈黙が訪れると、突然、小笠原さんが言った。
「別れないよ」
「え?」
「僕、君と別れるつもりないから」
「…私もないですけど…?」
「…」
私たちは再び沈黙する。
「だって、君…」
小笠原さんが、確かめるように呟いた。
「別れ話をしに来たんだろう?」
「えっ?!」
「改まって話がしたい、なんて、別れ話以外に何がある?!」
「ち、違います!私、ただ、ゴールデンウィークの予定を聞こうと思っただけなの!」
「…まぎらわしいことを…」
小笠原さんはぶるぶると拳を震わせた。
「僕の睡眠時間を返せ!おかげで一睡もできなかった!」
「ご、ごめんなさい」
「…」
彼は大きくため息をついて、野菜ジュースを飲む。
「いや、僕が冷静じゃなかった。…ごめん。論理的に考えて、君という女性の行動分析をすれば、別れ話を安易にお昼にしましょう、などと言うはずはない。感情が判断を誤らせる典型的なサンプルだな」
「は、はあ」
「それで、GWの話に戻るけど」
小笠原さんは俄然雄弁になった。
「君も僕も連日、交通指導が入っていて休みは無い。しかし、きみが要求するなら、自主的休日を捻出することは可能だ」
「それって、当日の朝『お腹が痛いです』って電話するアレですよね。室長が激怒しますよ」
「僕は時々実行している」
「すみません、私に勇気が足りなくて。夜だけならどうですか?」
「確かに、交通指導の終了は16時だから、それ以降なら」
小笠原さんは愛用PCナナコを取り出した。
「でも混雑する場所は避けたい。僕が行列に並んでいられる制限時間は10分間だ」
(じゃあ千葉のディズ(ピー)のイベントは無理ね…)
「短時間なら、身体を動かすのもいいかも」
「それなら、僕が会員になっているスポーツジムへ行く?横浜の方だけど、家族で入っているんだ。じゃあ、みなとみらいで待ち合わせ」
小笠原さんは何やら検索をし、最後にクリックした。
「よし」
そして、GW。私と明智さんは、中央区で小学3年生を対象に交通指導をする事になった。
(そ、それにしても、小学生のパワーってすごい…)
グラウンドに整列してもらうだけでも大騒ぎ、先生たちは四苦八苦。
一部の男の子たちは、プロレスごっこのような遊びをやめない。
すると、明智さんが恐い顔でつかつかと彼らに歩み寄り、二人の男の子の首根っこを掴んだ。
「…静かにしろ」
低い恫喝の声に、二人は涙目になり、その仲間たちもぴたりと動きを止めた。
「これから30分、一言も喋るな。動いてもいけない。分かったな?」
(明智さん…相手は凶悪犯じゃなくて小学生ですよ…)
けれど、仁王立ちで見張っている明智さんのおかげで、私が交通ルールの説明をしている間、子供たちがふざける事は二度となかった。
「明智さん、お疲れ様でした。お先に失礼しまーす…」
「さ、櫻井、俺を置いていくな!」
明智さんの手腕に感動した先生方が、感謝と尊敬の意を込めて彼を無理やり応接室に引っ張っていくのを尻目に、私は、小笠原さんの元へと急いだ…
**
「…今日のデートコース、気に入らなかった?」
心配そうな小笠原さんに問われて、私は笑顔を作った。
「え?どうして?」
「君、あんまり楽しそうに見えない」
「そんなことない。すごく楽しいです」
正直言うと、最初からずっと緊張の連続で、小笠原さんとのデート気分を楽しむ余裕なんて無かった。
でも、彼は少しも悪くない。
横浜で待ち合わせ、一流ホテルの高層階にある贅沢なプールとスパ、ファッション雑誌に紹介されるような話題のフレンチレストラン、よく冷えたシャンパンに可愛いマカロン。
女の子なら、誰だって嬉しいはず。
ただ、私が、そんな彼の生活と自分の生活との間に格差というか距離を感じて、不安になってしまっただけ。
「…出ようか」
「え?」
「君が本当に行きたいところに行こう」
***
「…でも、ここは何をするところなの?」
移動した場所で、小笠原さんは周囲を見回した。
「バッティングセンター、知らないですか?」
「カード使えるかな」
「使えません」
「僕、今日は現金を5万円しか持ってないんだけど足りる?」
「私が出します。30球で300円、二人だから、1000円で120球買えばお得です」
「…300円?」
「そこに立って、バットを構えて。ボール来ますよ」
「は?うわっ!!危ない!」
棒立ちだった小笠原さんは、勢いよく発射されたボールに驚いて飛びのいた。
最初こそ空振りをしていたけれど、だんだんタイミングが合って、そのうち、球速130キロでも芯で打てるようになってくる。
「面白いですか?」
「別に」
そう言いながら、小笠原さんは真剣にバットを構え直し…ついに、ホームランを出した。
「よし!」
「すごい!」
私も思わず笑顔になって、拍手をする。
「…よかった、君が、やっと心から笑ってくれて」
小笠原さんはそう言って、微笑んでくれた。
「こんな事が楽しい女の子、嫌いですか?」
「いや…好き…」
「はい?」
「大好きだ!」
その声はたまたまモーター音の止まったバッティングセンターに響き渡り、注目を集めた小笠原さんは、赤面してしゃがみこんだ…。
~終わり~
##IMGU63##(メール)
『話って何?』
##IMGLU83##(メール)
『たいした用事ではありません。明日のお昼、一緒にどうですか?』
送信、っと…、
すぐに返事が来る。
『たいした用事じゃないのなら、また今度にして』
「う、うーん……」
打てば響くような塩対応に、私は悩んだ。
この素っ気なさは、仕事が忙しいのかな、それとも会いたくないのかな。
『分かりました。お仕事の邪魔をしてごめんなさい』
送信すると、またすぐメールの着信音。
「えっ?」
『明日昼いつものカフェ』
「うーん…」
私は溜め息をついた。
***
翌日の昼休み。
小笠原さんは、明らかに寝不足の、物憂げな顔で私を待っていた。
「お待たせしてごめんなさい」
「別にいい。座れば?」
(あっ。やっぱり不機嫌そう…)
「えっと、昨日はごめんなさい。…何時までお仕事だったの?」
「朝の4時」
だから元気がないのかな。
でも、その後の会話も続かないし、気まずい事この上無い。
(「デートしませんか?」なんて、能天気に言い出せる雰囲気じゃないな…)
「…」
とうとう沈黙が訪れると、突然、小笠原さんが言った。
「別れないよ」
「え?」
「僕、君と別れるつもりないから」
「…私もないですけど…?」
「…」
私たちは再び沈黙する。
「だって、君…」
小笠原さんが、確かめるように呟いた。
「別れ話をしに来たんだろう?」
「えっ?!」
「改まって話がしたい、なんて、別れ話以外に何がある?!」
「ち、違います!私、ただ、ゴールデンウィークの予定を聞こうと思っただけなの!」
「…まぎらわしいことを…」
小笠原さんはぶるぶると拳を震わせた。
「僕の睡眠時間を返せ!おかげで一睡もできなかった!」
「ご、ごめんなさい」
「…」
彼は大きくため息をついて、野菜ジュースを飲む。
「いや、僕が冷静じゃなかった。…ごめん。論理的に考えて、君という女性の行動分析をすれば、別れ話を安易にお昼にしましょう、などと言うはずはない。感情が判断を誤らせる典型的なサンプルだな」
「は、はあ」
「それで、GWの話に戻るけど」
小笠原さんは俄然雄弁になった。
「君も僕も連日、交通指導が入っていて休みは無い。しかし、きみが要求するなら、自主的休日を捻出することは可能だ」
「それって、当日の朝『お腹が痛いです』って電話するアレですよね。室長が激怒しますよ」
「僕は時々実行している」
「すみません、私に勇気が足りなくて。夜だけならどうですか?」
「確かに、交通指導の終了は16時だから、それ以降なら」
小笠原さんは愛用PCナナコを取り出した。
「でも混雑する場所は避けたい。僕が行列に並んでいられる制限時間は10分間だ」
(じゃあ千葉のディズ(ピー)のイベントは無理ね…)
「短時間なら、身体を動かすのもいいかも」
「それなら、僕が会員になっているスポーツジムへ行く?横浜の方だけど、家族で入っているんだ。じゃあ、みなとみらいで待ち合わせ」
小笠原さんは何やら検索をし、最後にクリックした。
「よし」
そして、GW。私と明智さんは、中央区で小学3年生を対象に交通指導をする事になった。
(そ、それにしても、小学生のパワーってすごい…)
グラウンドに整列してもらうだけでも大騒ぎ、先生たちは四苦八苦。
一部の男の子たちは、プロレスごっこのような遊びをやめない。
すると、明智さんが恐い顔でつかつかと彼らに歩み寄り、二人の男の子の首根っこを掴んだ。
「…静かにしろ」
低い恫喝の声に、二人は涙目になり、その仲間たちもぴたりと動きを止めた。
「これから30分、一言も喋るな。動いてもいけない。分かったな?」
(明智さん…相手は凶悪犯じゃなくて小学生ですよ…)
けれど、仁王立ちで見張っている明智さんのおかげで、私が交通ルールの説明をしている間、子供たちがふざける事は二度となかった。
「明智さん、お疲れ様でした。お先に失礼しまーす…」
「さ、櫻井、俺を置いていくな!」
明智さんの手腕に感動した先生方が、感謝と尊敬の意を込めて彼を無理やり応接室に引っ張っていくのを尻目に、私は、小笠原さんの元へと急いだ…
**
「…今日のデートコース、気に入らなかった?」
心配そうな小笠原さんに問われて、私は笑顔を作った。
「え?どうして?」
「君、あんまり楽しそうに見えない」
「そんなことない。すごく楽しいです」
正直言うと、最初からずっと緊張の連続で、小笠原さんとのデート気分を楽しむ余裕なんて無かった。
でも、彼は少しも悪くない。
横浜で待ち合わせ、一流ホテルの高層階にある贅沢なプールとスパ、ファッション雑誌に紹介されるような話題のフレンチレストラン、よく冷えたシャンパンに可愛いマカロン。
女の子なら、誰だって嬉しいはず。
ただ、私が、そんな彼の生活と自分の生活との間に格差というか距離を感じて、不安になってしまっただけ。
「…出ようか」
「え?」
「君が本当に行きたいところに行こう」
***
「…でも、ここは何をするところなの?」
移動した場所で、小笠原さんは周囲を見回した。
「バッティングセンター、知らないですか?」
「カード使えるかな」
「使えません」
「僕、今日は現金を5万円しか持ってないんだけど足りる?」
「私が出します。30球で300円、二人だから、1000円で120球買えばお得です」
「…300円?」
「そこに立って、バットを構えて。ボール来ますよ」
「は?うわっ!!危ない!」
棒立ちだった小笠原さんは、勢いよく発射されたボールに驚いて飛びのいた。
最初こそ空振りをしていたけれど、だんだんタイミングが合って、そのうち、球速130キロでも芯で打てるようになってくる。
「面白いですか?」
「別に」
そう言いながら、小笠原さんは真剣にバットを構え直し…ついに、ホームランを出した。
「よし!」
「すごい!」
私も思わず笑顔になって、拍手をする。
「…よかった、君が、やっと心から笑ってくれて」
小笠原さんはそう言って、微笑んでくれた。
「こんな事が楽しい女の子、嫌いですか?」
「いや…好き…」
「はい?」
「大好きだ!」
その声はたまたまモーター音の止まったバッティングセンターに響き渡り、注目を集めた小笠原さんは、赤面してしゃがみこんだ…。
~終わり~
追記
名前:ジュン
本文:
こんばんは。
塩対応の小笠原さん、ちょっと怖い……
でも、別れないって言ってくれるのは嬉しいですよね。
バッティングセンターでホームラン出しちゃうなんて、やっぱり小笠原さんはスポーツマンですね。
名前:冬子
本文:
そうそう、話があるってメールしたら何事か?って思われないのかなーと思ってました。
おがさーらさんと思考がおそろいで嬉しい。
翼ちゃんの『お金や裕福な暮らし目当てじゃない感じ』が好きな部分の一つなんでしょうね。
あと、もちろん可愛いのも。
おがさーらさん、300円とか見たことあるのかしら。
100円玉は自動販売機でお水買う以外にも使えるんですよ。知ってた?
本文:
こんばんは。
塩対応の小笠原さん、ちょっと怖い……
でも、別れないって言ってくれるのは嬉しいですよね。
バッティングセンターでホームラン出しちゃうなんて、やっぱり小笠原さんはスポーツマンですね。
名前:冬子
本文:
そうそう、話があるってメールしたら何事か?って思われないのかなーと思ってました。
おがさーらさんと思考がおそろいで嬉しい。
翼ちゃんの『お金や裕福な暮らし目当てじゃない感じ』が好きな部分の一つなんでしょうね。
あと、もちろん可愛いのも。
おがさーらさん、300円とか見たことあるのかしら。
100円玉は自動販売機でお水買う以外にも使えるんですよ。知ってた?