『非公式Twitter』

番外編から零れたふたり~JS編~

2016/05/18 14:21

友達からの電話に刺激され、私が彼の携帯にメールを送った、その直後。

すぐ真後ろで、誰かの着信音が鳴った。

##IMGLU83##
「きゃっ!」

(すごいタイミング)

びっくりして反射的にそちらを振り向いた私の目の前に居たのは、なんと当の彼本人、ジョン・スミス。

「きゃあっ!」

私は二度びっくり。

##IMGU170##
「こんにちは。君からのお誘いなんて嬉しいな、マルガレーテ」

画面から顔を上げたJSは、軽くスマホを振ると、にっこりと笑った。



「あっはっはっはっ!」

私が彼にメールを送った理由を話すと、JSは声を立てて笑った。

「実に分かりやすい虚栄心」

「ううう、言われると思った」

警視庁から目と鼻の先にあるレストラン。

広い店内で彼に笑われた私は、赤面して俯いた。

「まあ、適当な嘘で誤魔化さなかった辺りが君らしい」

JSはそう言って笑いながら、熱々の鉄板の上のステーキを、綺麗な手捌きで切り分ける。

「…それで、その…どう?」

「どう、とは?」

「だから…デート」

彼は答えず、食べやすい大きさに切ったステーキをひとつフォークの先に刺して、私の口元に差し出してくれた。

「はい、あーん」

「…」

質問をはぐらかされてむっとしたものの、美味しそうな匂いの誘惑には勝てず、私は口を開けてぱくんと肉を頬張る。

口の中いっぱいに広がる肉汁と美味しさにうっとりしていると、JSが微笑んだ。

「君は本当に美味しそうに食べるね」

「うん、すごく美味しい」

「食べ歩きするのも好き?」

「うん」

JSは目を細めた。

「じゃあ、GWは香港」

「ええっ?!」

「と、言いたいところだけど、それはまた今度ね」

「び、びっくりした」

この人ならやりかねないと思ったから。

「GWに0泊弾丸ツアーじゃ、友達に自慢出来ないでしょ?」

言われてみれば、確かにそうかも。

飛行機だけで往復9時間とか、香港滞在3時間とか、帰国後そのまま出勤とか。

面白がってもらえるとは思うけど、人が羨むデートとは程遠い。

「しかも相手が僕ではね」

JSはぽつりと呟いてから、自分もステーキを口に入れた。

「そんな事ない!」

私が思わず声を出したので、今度は彼がびっくりしたみたい。

「あ、ごめんなさい。その…JSは、職業にこそ問題があるけど、それ以外は自慢出来る恋人だよ、って、言いたかったの」

段々と声が小さくなる私を、JSの深緑の目が見つめた。

私の我儘から始まった話なのに、彼を傷つけてしまったかと思うと、ちょっと泣きそう。

「僕は君が望むなら、どんな職業の人間にもなれるよ」

JSはおどけたように言った。

「でも、君は、詐欺師で泥棒の僕を好きになってくれた。でしょう?」

「…うん」

そうなのだ。

頭では、常識では、いけないと分かってる。

でも、好きになってしまったの。

「だから君が望むなら、ジョエル・ロブションでも、コヴァトーキョーでも、連れていってあげる」

彼は、新米公務員の私にとっては、憧れを通り越してもはや畏れ多いような、そして今からではとてもGWの予約なんて取れなそうな、超人気一流レストランの名前をさらりと口にした。

「どこに、行きたい?」

そして、GW。

無事に交通指導を終え、定時で退庁した私は寮の部屋で着替えを済ませて、JSとの待ち合わせの場所に急いだ。

仕事でのスーツからカジュアルなワンピースに着替えただけで、とてもリラックスして楽しい気分になってくる。

久し振りに履いたスニーカーも気持ちいい。

夕方なのにまだ明るくて、なんだか、たった今一日が始まったみたい。

彼と過ごせる、一日。

私は浮き立つような気持ちに後押しされ、軽やかな早足で歩き出していた。


待ち合わせをした交差点で立っていると、不意に、後ろから肩を叩かれた。

「J…」

「やっぱり、櫻井」

振り向いたそこにいたのは、なんと、室長。

「今日は、交通指導ご苦労だったわね。…誰かと待ち合わせ?」

どうしよう。

もうすぐここに国際手配犯が来るんです、なんて言えない。

返答に困っていると、携帯が鳴って、私は飛び上がった。

「ああ、ごめんなさいね。電話に出て頂戴。ワタシは署に戻るわ」

「お、お疲れさまでした」

室長の背中を見送っている間に着信音は切れ、間もなく、電話を鳴らした本人が現れた。

「こんばんは」

室長とのニアミスにドキドキしながらも、無事に彼と会えた事にホッとする。

今日のJSは長い黒髪を首の後ろでひとつにまとめ、サマーニットとジャケットにデニムという夏らしい服装。

紺色が私のワンピースとお揃いなのが、ちょっと嬉しい。

彼はにっこりと微笑んで、こう言った。

「もし、誰かに待ちぼうけをさせられているのなら、僕と食事をしませんか?」

いつか、前にもどこかで聞いた事があるセリフ。

可笑しくて、私は噴き出しそうになってしまった。

「祖父の遺言で、綺麗なお嬢さんがひとりで居たら、必ず誘うように言われていまして」

「すみません、連れと食事の約束があるんです」

「おや、あなたと夕べを一緒に過ごせるなんて、幸せな相手ですね」

JSは悪戯っぽく微笑むと、私に腕を差し出した。

私もくすくす笑いながら、彼の腕に自分の腕を絡める。

「お待たせ。では、参りましょうか」

「はい」

腕を組んで歩き出しながら、私たちは、朗らかに笑いあった。



「たくさん付箋を付けてきたんだね」

私の持って来たメモ帳を見て、JSが目を瞠った。

「トルコ料理、ブラジル料理、エジプト料理、アラビアン料理…こういう店に行ってみたいの?」

メモ帳には、都内にあって、気になる多国籍料理のお店がリストアップされている。

「うん。例えば、このウズベキスタン料理のお店なんて、地下にあるんだよ。興味があっても、なかなか入りにくいの」

「そうかなあ」

「JSは外国語が堪能だし、どんな国のどんな人が相手でも平気でしょ?」

「まあね」

「だから、お願い!」

私はぎゅっ、と彼の腕にしがみついた。

ちゅっ、と額にキスされる。

「もちろん、いいとも。君が望むなら、どんな夢でも叶えてあげる」

「ありがとう!」

「そのかわり…」

ちゅっ、と、唇にキス。

「食事の後は、僕の望みも叶えてくれるかな」

「それって…」

耳元で囁かれた言葉の意味を考えたら、身体が火照ってしまう。

「さあ、行こう」

私はJSに導かれて、夕暮れ色の繁華街の雑踏の中に溶け込んでいった…


~終わり~
追記
名前:ジュン
本文:
こんにちは。

香港弾丸ツアーもJSとなら楽しそう(笑)

室長とのニアミスにはドキドキしちゃいましたね。

JSならさらりと室長の前に出てきちゃいそうなイメージでした。

多国籍料理のお店って確かに女の子一人だと敷居が高いかも。

JSと一緒なら安心だね。

名前:冬子
本文:
いやーん、そんなに沢山食べさせてもらったら、お腹がぽんぽこりんになってしまう。

その後にJSの望みを叶えるとしたら、かなりまずい状態ですよ。

素晴らしいウエストラインを見られたら、百年の恋も冷めてしまう。

それだけ食べたらさすがのJSもお腹ぽんぽこですか?

それとも魔法のようにぺったんこですか?

早く冬子のお腹のお肉を盗んでくださいね。



それにしても、翼ちゃんが偶然会った室長を

『早くどっか行け~~っ』

って思ってただろうな……と思うと笑っちゃいますー

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