『非公式Twitter』

番外編から零れたふたり~JS編~

2016/09/16 08:52

強化合宿初日、到着して割り振られた部屋に入ると、そこには、まさかの先客がいた。

##IMGU170##
「はぁーい、来ちゃったよ」

座椅子に正座し、急須から二つの湯飲みに緑茶を注いでいたのは…

##IMGLU83##
「…JS…」

自分の手からボストンバッグが畳の上に落ちた音にハッとして、私は急いで回れ右すると、たったいま自分が入ってきたドアを、内からしっかりロックした。

それから改めて彼を振り返り、怒鳴ってやりたいのを我慢して小声で詰め寄る。

「来ちゃったよ、じゃないでしょう?誰かに見られたら、どうするの!」

「見られないよ。今、きみが鍵をかけたからね」

「荷物を置いて着替えたら、すぐに最初の研修が始まるの。悪いけど、あなたと過ごせる時間は無いの」

「分かってる」

JSはいつもと変わらない笑顔を浮かべて、会話しながらも手際よく、私の身支度を手伝ってくれる。

「きみはきみの予定通り行動すればいいよ。僕は僕で勝手に楽しむから、気にしないで」

「勝手に楽しむって…周りは全員警察官だよ?」

「大丈夫。あ、でも、夜だけはここに泊めてね。さすがに僕の部屋は無いから」

「だ」

「駄目だよ」という私の抗議は、「出来たよ」という言葉と、綺麗に結い上がったポニーテールを揺らした指先と、ちゅっ、と音を立てた唇への軽いキスとに誤魔化されてしまった。

***

結論から言えば、JSの言葉通りだった。

この合宿は「地獄の強化合宿」と呼ばれているほど苛烈なもので、そのため、開始時刻になっても現れない職員や、体調不良を訴えて医務室で寝込んでしまう職員、果ては、いつの間にかこっそり脱走して部屋に隠れてしまう職員など、行方不明者のオンパレードだったのだ。

そんな中で、講師が点呼を行うと、「さっきまでいなかったはずの職員」が、どこからか「すみません」と謝りながら現れる。

すると講師は「遅刻だぞ」「もう具合はいいのか?」「てっきり逃げ帰ったかと思ったのにな」などと、口では叱りながらも、おおむね好意的に迎え入れてくれる。

私は最初のうちこそ、この「さっきまでいなかったはずの職員」が現れるたびにヒヤヒヤしたけれど、やがて慣れてしまって、何食わぬ顔で一緒に研修を受けられるようになった。

考えてみたら、「彼」が現れる事は、誰の迷惑にもならない。

参加者は全員、厳しい訓練についていくのが精一杯で、他人の心配どころではないし、欠席した当人は、講師や教官に叱られると思いきや、次に会った時には「頑張っていたな」と褒めてもらえるのだから。

おそらく狐につままれたような気持ちのはずだったけれど、「いえ、実は講義に出ていたのは自分ではありません」と訴える正直者はいなかった。

まあ、たとえ正直に白状したとしても、「じゃあ、さっきのは誰だ?」と聞かれて、答えられるはずもない。

「あー楽しい!」

初日の訓練を終えた後、JSは、本当に楽しそうに笑いながら、部屋に帰って来た。

「ムッツリさんに射撃のコツを教わったり、検察官どのの弟さんと森で鬼ごっこをしたり。貴重な経験だったよ」

「もう…」

呆れながら布団を敷きかけて、私はハッとする。

布団が一組しかない…

目が合ったJSは、私の内心の動揺を見透かしたように、ニコニコと笑っていた。

***
合宿二日目の朝。

「今日の髪型は、二つに分けて耳の下で結んでみようか」

「うん」

私は座卓の上にコンパクトミラーと化粧ポーチを開いて、同じ部屋で一夜を過ごしたJSに、髪を結ってもらっていた。

彼は手先が器用だ。

髪を櫛で梳いてくれる感触が気持ち良いけど、あっという間に仕上げてしまうから、楽しい時間はすぐに終わる。

「はい、出来たよ」

「ありがとう…」

彼は私の後ろから、肩越しに、鏡の中を覗き込んだ。

「元気無いね。疲れてる?」

「あ、ううん。大丈夫」

彼はじっと私を見つめながら、不意に、耳元に口を寄せた。

「もしかして、マッサージと添い寝だけじゃ物足りなかった?」

鏡に映るJSの表情は色気を含んでいて、その彼に囁かれている自分の姿を見るのは新鮮で、私の頬はぽっと熱くなる。

「おや、どうやら図星だね」

「意地悪…」

照れ隠しに拗ねてみせると、熱い頬に柔らかい唇が触れた。

「明日、解散したら、そのまま二人で過ごさない?」

「そんな事出来るの?」

「僕を誰だと思ってるの」

彼に引き寄せられ、鏡越しにではない眼差しに見つめられると、緑の瞳の魔力に魅入られてしまう。

(私が合宿の部屋でこの人とこんな事してるなんて、皆が知ったら驚くだろうな…)

高鳴る胸を押さえてそんな事を考えながら、私は、彼からの優しいくちづけを受け入れていた…。

***

そして最終日。

呆れた事に、男性職員に化けたJSは藤守検察官の法規の講義や、小野瀬さんの鑑識の講義まで受けてきた。

最後の最後には、室長の交渉術の講義で、私の隣の席にちゃっかり座る。

室長の視線がこちらに向くたびに、私はもう生きた心地がしなかった。

(つ…疲れた…)

どうにか全てが終わった時には、私は緊張感から解放されて、ぐったり机に突っ伏してしまった。

「櫻井、大丈夫?」

ああ、室長が神様に見える。

「はい。ありがとうございます」

「よく頑張ったわね。…この後は片付けが終われば解散になるけど、アンタどうする?予定が無ければ、ワタシと…」

「おっと、穂積。抜け駆けは禁止だよ」

室長の声に、小野瀬さんの声が被った。

「公私混同はいかんぞ穂積。その点俺は部外者だから…」

「部外者だと思われるならお引き取り下さい」

「明智さんの言う通りやで兄貴。櫻井、俺らと下田で遊んで帰ろうや」

「翼ちゃんは俺とお土産買いに行くんですうー」

「櫻井さん疲れた…家まで送って」

「分かったわ。櫻井、小笠原とワタシの車に乗りなさい」

「振り出しに戻ったよ」

「あの、あの、私、部屋に戻って支度しますね!」

誰が私を送って行くかで揉め始めたメンバーを後に、私は小走りで部屋へ戻った。

「ふう…」

ドアを背にして息を吐くと、本来の姿に戻ったJSがくすくす笑っていた。

「人気者だね」

「…妬いてくれた?」

「きみがモテるのは大歓迎だよ」

その言葉は、少しショックだった。

JSは、私が他の男性に誘われても気にならないのかな…

「誰もが欲しがる稀有な宝物が、僕の手の中にある喜びはひとしおだからね」

温かい手が私の頬を撫でる。

「さあ、きみの一番美しい姿を、僕だけに見せて」

彼はそう呟くと、私の髪をそっと解いた。


~終わり~
追記
名前:ジュン
本文:
こんにちは。

いや~JSは流石ですね。

堂々と合宿に参加しちゃうんですから。

室長なら見破っちゃいそうでドキドキですね。

JSは焼きもち妬くイメージないですね。

でもすごく大切にしてくれてるんですよね。

ところで賢史くんとの鬼ごっこはどちらの勝ちだったのかしら?


小春さん、今回もお疲れさまでした。

合宿編とても楽しかったです。

番外編の番外編もいつもながらに素晴らしかったです。

ありがとうございましたo(^o^)o

名前:JS&小春
本文:
JS
「ジュンさんこんにちは。藤守弟さんとの鬼ごっこは、男性職員として適当な時点で捕まえて頂き、そして、僕が飽きた時点でドロンさせて頂きました」

藤守
「お前主導やんか!くっそー、あの男性職員の中身がお前やと知ってたら、がっつり手錠かけといたのに!」

小春
「ジュンさんありがとうございます。その励ましのお言葉のおかげで次の番外編も頑張れます」

JS
「僕、前回は警察の女子寮、今回は警察の合宿所に『来ちゃった』してますからね。次回はどうなるのかな♪」


「心臓に悪いから『来ちゃった』のシリーズ化はやめて!」

小野瀬
「次は『ムーンライトセレナーデ』だったかな?遊園地の話だね」

穂積
「アンタ遊園地好きよねー」


「ううう…」

名前:冬子
本文:
わーい 『来ちゃった』シリーズ化!

翼ちゃん、心臓に悪いですか?

求心、差し入れしましょうかー


なんか、この力の抜けた感じがJSっぽいですね。

冬子も髪を結ってほしいですが、ちょっと少なめな髪なんで、大切に扱ってほしいです。


そして、どうやって、捜査室メンバーをまいて、二人で帰ったのか?

妄想が広がりますねー

名前:JS&翼
本文:
JS
「冬子さんこんばんは。

三日目に解散してからは帰っても泊まってもいい事になってましたので(※小野瀬ルート参照)、僕と彼女は、男性職員たちが帰宅して空いた部屋のひとつに移動して、そこにお泊まりしました。

さすがに、地獄の強化合宿の後で疲れきって寝ているだろう男性職員の部屋を全部ノックしてまわるほど、捜査室の皆さんは鬼ではないですからね。

ちなみに、御大ルートのお二人も合宿所に泊まって、翌朝帰京したようですよ」

小野瀬
「他はみんな帰ってから(ピー)だったみたいだね」


「JSは度胸があり過ぎて怖い…」

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