『非公式Twitter』
番外編紹介・お見合い大作戦 明智編
2017/10/15 16:12明智(メール)
『明日の朝、10時から13時まで小会議室を押さえた。相談ならそこで聞こう。昼飯も俺が持って行く』
昨夜遅く、明智さんからそう返信があったので、私は翌朝いつもより早く出勤し、資料室で非行防止教室に役立ちそうな資料を集めると、小会議室へ運んで明智さんを待った。
お見合いの事は気が重いけど、仕事中にこっそり二人きりになれて、しかも明智さんがお弁当を持ってきてくれるとか、嬉しくて、ちょっと心が浮き立つよう。
##IMGU60##
「待たせたな」
##IMGLU83##
「ううん」
明智さんは、私が、捜査室に掛けてある行き先ボードの私の欄に正直に『小会議室』と書いてきたのを、『資料室』に書き直してから来てくれたと言う。
「俺と二人で小会議室にいる、と公言するようなものだったからな」
「そっか、ごめんなさい。でも、明智さんの字で私の行き先を書き込んであれば、やっぱり深読みされちゃうんじゃないかな?」
「…そこまでは考えなかったな」
明智さんは頭を掻いた後、「まあ、別にイカガワシイ事をしようとしてるわけじゃないし…」なんて、ぼそぼそと独り言を呟きながら席についた。
「それより、話って何だ?」
「実は昨日、前の部署の課長が来て…今度の金曜日、非行防止教室の後で…」
私は昨日課長から言われた話を、明智さんに打ち明けた。
「見合い…?」
固い声に顔を上げると、眉をひそめた明智さんの顔があった。
「あの、行くだけだから。もちろん、断るから。…ごめんなさい、怒ってる?」
「別に」
明智さんは、無表情に戻って答えた。
「課長への義理で受けただけ、会うだけの話だろう?俺は翼を信用しているし、形式だけの見合いなど、気にしない」
「…そう…なんだ…」
何だか、思っていたよりあっさりした明智さんの反応に拍子抜けしてしまった。
「昼飯にしようか」
明智さんが差し出してくれたヒヨコ形のランチボックスに入った、可愛いヒヨコ形のオムライスに感心しながらも、私は溜め息をついた。
明智さんに信用されてるのは嬉しいけど、何だか寂しいような……。
私はよく判らなくなっていた。
非行防止教室の日。
私は藤守さんの車に乗って、文京区にある進学校に向かっていた。
教室の後には問題のお見合いが控えている。
「はあ…」
「櫻井、今朝から溜め息ばかりやないか。どないしたんや」
ハンドルを握った藤守さんが心配そうに尋ねてくれる。
「あのぅ…もし藤守さんの彼女がお見合いするって言ったらどうします?」
「へ?何やねん、突然」
「もしも、の話でいいんです。想像で答えてください」
「俺なら、無いな」
即答だった。
「何で彼氏おるのにお見合いなんかすんねん。ありえへんやろ」
「ですよね」
藤守さんの剣幕に、何だか責められているような気がして言葉が続かなくなってしまった。
「…ですよね…」
でも、そのおかげで、私の溜め息の原因は、お見合いそのものじゃなく、怒るでもなく気にする様子も無かった、明智さんの態度に対してのものだったのかも知れないと気付いた。
(気にしてくれないってことは……やっぱりあんまり思われてないのかな……)
「櫻井、お前、見合いするんか?」
「いえ、あの、友達が!」
咄嗟に嘘をついてしまった。
「そうか、友達思いやなあ」
だって藤守さんなら、これが私自身のお見合いの話だと知ったら、本気で心配して大変な騒ぎになってしまいそうだと思ったから。
「ま、元気出せや。今日の教室終わったら、モツ鍋でもおごったろか?」
「あれ?藤守さんは、おしゃれなカフェ派じゃなかったですか?」
「こないだボロクソに言われたから、路線変更してみた」
「あはは、私はおしゃれなオープンカフェ、好きですよ。でもごめんなさい、今夜はちょっと予定があって」
まさかお見合いだとも言えず、職場で付き合っている人がいると言うわけにもいかず。
私はあいまいに首を振って、「あ、学校に着きましたよ」と、フロントガラスの向こうを指さした。
~非行防止教室~
壇上で講義を行っていたうちは大人しかったPTAが、質疑応答に入った途端に、藤守さんの元に押し寄せた。
「イジメやネット犯罪への関与は…」
「ネットでは嫌がらせも…」
ステージに立った藤守さんはしどろもどろ。慣れない標準語が裏返っている。
「警察の犯罪対策は?」
「専門部署の立ち上げなどは?」
「あの……それは……」
それでなくとも慣れない標準語に四苦八苦していた藤守さんは、すでに汗まみれになっていた。
(おい!櫻井!助けてくれ!)
(無理ですよ!)
藤守さんからのアイコンタクトに、舞台袖にいた私は、青くなって首を振った。
(ごめんなさい!)
見ると時刻はすでにここを出なければならない時間。
(時間なので……もう行きます!)
「あ、おいっ!ちょお待てって!、櫻井ー!」
藤守さんの悲鳴がマイクに拾われて、講堂中に響き渡った…。
その後、私が向かったのは品川にあるホテルのラウンジだった。
お見合いの相手は省庁に勤めている将来の高級官僚候補だという人で、見るからに真面目そうな印象だ。
「女性と話して、こんなに盛り上がったのは初めてです」
課長の顔を潰さないよう、頑張って会話を繋いだつもりだけど、正直、特に盛り上がった気はしない。
それでも6時半になると、彼はおもむろにウェイターを呼び、几帳面に会計を済ませ、礼儀正しく頭を下げて帰って行った。
(これで良かったのかな…)
何はともあれ肩の荷を下ろして背中を見送っていると、携帯が震えて、明智さんからの着信を告げた。
受話器の向こうから、いつもの低くて甘い声が聞こえてくる。
『翼、教室は終わったか?』
「はい。例のお見合いも、もう終わりました」
『…そうか。夕飯がまだなら、家に食べに来ないか?迎えに行くから』
そう告げた明智さんは電話を切ると、本当に、ホテルの玄関まで車で来てくれた。
「料理を作りすぎてしまったんだ。家族は皆出掛けているから、来てくれると助かる」
(お見合いの事聞かないけど…やっぱり気にならないのかな…)
明智さんの態度は、「絶対にありえない」と言った藤守さんの言葉とは対照的で、私はまた溜め息をつきながら、助手席に乗り込んだ。
家に着き、明智さんの出してくれた料理を見て、私は息を飲んだ。
とにかく野菜の細工が細かくて凄い。
菊花大根、ニンジンは梅の花、サトイモの手毬、レンコンは花の形。
素晴らしい出来映えに見とれていると、不意に背後に気配がして、家にいないはずの三人のお姉さんたちが現れた。
「良かったわねえ誠臣、彼女が来てくれて。ずっとイライラそわそわして、取り憑かれたように野菜を切り始めた時にはどうなるかと思ったけど」
「イライラそわそわ?」
「翼!外に行くぞ!」
叫んだ明智さんは私の手をつかんで家を飛び出した。
そして、私たちを乗せた車は、再び夜の街へ。
「ああ、もう!気が散って、事故でも起こしそうだ」
しばらく闇雲に車を走らせた明智さんは、そう言うと、車を路肩に寄せて停めた。
「翼、来い」
答える間もなく、腕を引かれていきなり抱きすくめられた。
「心配だった。翼が男と一緒にいると思うだけで落ち着かなかった」
言いながら、明智さんが私の髪に顔をうずめる。
「じっとしていられなくて、手当たり次第に野菜を切った。野菜室が空になっても落ち着かなくて、だから迎えに行った」
驚いた。
いつもクールで冷静な明智さんの、意外な一面を見た気がした。
「だからもう二度とこんな事はさせない。見合いなんかもっての外だ。たとえ誰の頼みであろうと俺が阻止する。だからその時はすぐに俺に話せ。いいな?」
「うん」
うなずくと、明智さんは私のあごに指先をかけてそっと上を向かせた。
私を見つめる真剣なまなざしにぶつかって、私はまぶたを閉じた。
ふたりの唇がゆっくりと近づいて…重なる。
(口に出さなくても、明智さんは誰よりも心配してくれてたんだ……)
そう思いながら身をまかせると、胸の中がじんわりと温かくなる。
私は明智さんの体温に包まれて、フロントガラスを叩く雨の音を聞きながら、熱くて優しい口づけを受け入れていた…。
~終わり~
『明日の朝、10時から13時まで小会議室を押さえた。相談ならそこで聞こう。昼飯も俺が持って行く』
昨夜遅く、明智さんからそう返信があったので、私は翌朝いつもより早く出勤し、資料室で非行防止教室に役立ちそうな資料を集めると、小会議室へ運んで明智さんを待った。
お見合いの事は気が重いけど、仕事中にこっそり二人きりになれて、しかも明智さんがお弁当を持ってきてくれるとか、嬉しくて、ちょっと心が浮き立つよう。
##IMGU60##
「待たせたな」
##IMGLU83##
「ううん」
明智さんは、私が、捜査室に掛けてある行き先ボードの私の欄に正直に『小会議室』と書いてきたのを、『資料室』に書き直してから来てくれたと言う。
「俺と二人で小会議室にいる、と公言するようなものだったからな」
「そっか、ごめんなさい。でも、明智さんの字で私の行き先を書き込んであれば、やっぱり深読みされちゃうんじゃないかな?」
「…そこまでは考えなかったな」
明智さんは頭を掻いた後、「まあ、別にイカガワシイ事をしようとしてるわけじゃないし…」なんて、ぼそぼそと独り言を呟きながら席についた。
「それより、話って何だ?」
「実は昨日、前の部署の課長が来て…今度の金曜日、非行防止教室の後で…」
私は昨日課長から言われた話を、明智さんに打ち明けた。
「見合い…?」
固い声に顔を上げると、眉をひそめた明智さんの顔があった。
「あの、行くだけだから。もちろん、断るから。…ごめんなさい、怒ってる?」
「別に」
明智さんは、無表情に戻って答えた。
「課長への義理で受けただけ、会うだけの話だろう?俺は翼を信用しているし、形式だけの見合いなど、気にしない」
「…そう…なんだ…」
何だか、思っていたよりあっさりした明智さんの反応に拍子抜けしてしまった。
「昼飯にしようか」
明智さんが差し出してくれたヒヨコ形のランチボックスに入った、可愛いヒヨコ形のオムライスに感心しながらも、私は溜め息をついた。
明智さんに信用されてるのは嬉しいけど、何だか寂しいような……。
私はよく判らなくなっていた。
非行防止教室の日。
私は藤守さんの車に乗って、文京区にある進学校に向かっていた。
教室の後には問題のお見合いが控えている。
「はあ…」
「櫻井、今朝から溜め息ばかりやないか。どないしたんや」
ハンドルを握った藤守さんが心配そうに尋ねてくれる。
「あのぅ…もし藤守さんの彼女がお見合いするって言ったらどうします?」
「へ?何やねん、突然」
「もしも、の話でいいんです。想像で答えてください」
「俺なら、無いな」
即答だった。
「何で彼氏おるのにお見合いなんかすんねん。ありえへんやろ」
「ですよね」
藤守さんの剣幕に、何だか責められているような気がして言葉が続かなくなってしまった。
「…ですよね…」
でも、そのおかげで、私の溜め息の原因は、お見合いそのものじゃなく、怒るでもなく気にする様子も無かった、明智さんの態度に対してのものだったのかも知れないと気付いた。
(気にしてくれないってことは……やっぱりあんまり思われてないのかな……)
「櫻井、お前、見合いするんか?」
「いえ、あの、友達が!」
咄嗟に嘘をついてしまった。
「そうか、友達思いやなあ」
だって藤守さんなら、これが私自身のお見合いの話だと知ったら、本気で心配して大変な騒ぎになってしまいそうだと思ったから。
「ま、元気出せや。今日の教室終わったら、モツ鍋でもおごったろか?」
「あれ?藤守さんは、おしゃれなカフェ派じゃなかったですか?」
「こないだボロクソに言われたから、路線変更してみた」
「あはは、私はおしゃれなオープンカフェ、好きですよ。でもごめんなさい、今夜はちょっと予定があって」
まさかお見合いだとも言えず、職場で付き合っている人がいると言うわけにもいかず。
私はあいまいに首を振って、「あ、学校に着きましたよ」と、フロントガラスの向こうを指さした。
~非行防止教室~
壇上で講義を行っていたうちは大人しかったPTAが、質疑応答に入った途端に、藤守さんの元に押し寄せた。
「イジメやネット犯罪への関与は…」
「ネットでは嫌がらせも…」
ステージに立った藤守さんはしどろもどろ。慣れない標準語が裏返っている。
「警察の犯罪対策は?」
「専門部署の立ち上げなどは?」
「あの……それは……」
それでなくとも慣れない標準語に四苦八苦していた藤守さんは、すでに汗まみれになっていた。
(おい!櫻井!助けてくれ!)
(無理ですよ!)
藤守さんからのアイコンタクトに、舞台袖にいた私は、青くなって首を振った。
(ごめんなさい!)
見ると時刻はすでにここを出なければならない時間。
(時間なので……もう行きます!)
「あ、おいっ!ちょお待てって!、櫻井ー!」
藤守さんの悲鳴がマイクに拾われて、講堂中に響き渡った…。
その後、私が向かったのは品川にあるホテルのラウンジだった。
お見合いの相手は省庁に勤めている将来の高級官僚候補だという人で、見るからに真面目そうな印象だ。
「女性と話して、こんなに盛り上がったのは初めてです」
課長の顔を潰さないよう、頑張って会話を繋いだつもりだけど、正直、特に盛り上がった気はしない。
それでも6時半になると、彼はおもむろにウェイターを呼び、几帳面に会計を済ませ、礼儀正しく頭を下げて帰って行った。
(これで良かったのかな…)
何はともあれ肩の荷を下ろして背中を見送っていると、携帯が震えて、明智さんからの着信を告げた。
受話器の向こうから、いつもの低くて甘い声が聞こえてくる。
『翼、教室は終わったか?』
「はい。例のお見合いも、もう終わりました」
『…そうか。夕飯がまだなら、家に食べに来ないか?迎えに行くから』
そう告げた明智さんは電話を切ると、本当に、ホテルの玄関まで車で来てくれた。
「料理を作りすぎてしまったんだ。家族は皆出掛けているから、来てくれると助かる」
(お見合いの事聞かないけど…やっぱり気にならないのかな…)
明智さんの態度は、「絶対にありえない」と言った藤守さんの言葉とは対照的で、私はまた溜め息をつきながら、助手席に乗り込んだ。
家に着き、明智さんの出してくれた料理を見て、私は息を飲んだ。
とにかく野菜の細工が細かくて凄い。
菊花大根、ニンジンは梅の花、サトイモの手毬、レンコンは花の形。
素晴らしい出来映えに見とれていると、不意に背後に気配がして、家にいないはずの三人のお姉さんたちが現れた。
「良かったわねえ誠臣、彼女が来てくれて。ずっとイライラそわそわして、取り憑かれたように野菜を切り始めた時にはどうなるかと思ったけど」
「イライラそわそわ?」
「翼!外に行くぞ!」
叫んだ明智さんは私の手をつかんで家を飛び出した。
そして、私たちを乗せた車は、再び夜の街へ。
「ああ、もう!気が散って、事故でも起こしそうだ」
しばらく闇雲に車を走らせた明智さんは、そう言うと、車を路肩に寄せて停めた。
「翼、来い」
答える間もなく、腕を引かれていきなり抱きすくめられた。
「心配だった。翼が男と一緒にいると思うだけで落ち着かなかった」
言いながら、明智さんが私の髪に顔をうずめる。
「じっとしていられなくて、手当たり次第に野菜を切った。野菜室が空になっても落ち着かなくて、だから迎えに行った」
驚いた。
いつもクールで冷静な明智さんの、意外な一面を見た気がした。
「だからもう二度とこんな事はさせない。見合いなんかもっての外だ。たとえ誰の頼みであろうと俺が阻止する。だからその時はすぐに俺に話せ。いいな?」
「うん」
うなずくと、明智さんは私のあごに指先をかけてそっと上を向かせた。
私を見つめる真剣なまなざしにぶつかって、私はまぶたを閉じた。
ふたりの唇がゆっくりと近づいて…重なる。
(口に出さなくても、明智さんは誰よりも心配してくれてたんだ……)
そう思いながら身をまかせると、胸の中がじんわりと温かくなる。
私は明智さんの体温に包まれて、フロントガラスを叩く雨の音を聞きながら、熱くて優しい口づけを受け入れていた…。
~終わり~
追記
名前:ジュン
本文:
明智さんはクールなふりをしてたんですねぇ。
野菜室の野菜がなくなるってすごいですね(笑)
でもそんなところが明智さんの可愛いところですよね。
それにしても翼ちゃん、困ってる賢史くんを見捨てるなんてひどいぞぉ(^_^;)
名前:翼&小春
本文:小春
「今回の翼ちゃんは、非行教室にパートナーを置き去りにしちゃうパターンですね」
翼
「ごめんなさい…」
小春
「それにしても、テンパると包丁を握って大根をかつら剥きし始める明智さんを想像すると可愛いというよりちょっと怖いというか可笑しいというか」
翼
「本当にごめんなさい…」
名前:冬子
本文:
番外編だ~
長編お疲れ様ですっ
(゜゜ゝゝ敬礼
しょっぱなの小会議室おさえるあたりでもう笑っちゃったんですけど、
この部分は皆さん一緒なのかしら?
楽しみにしてまーす
本文:
明智さんはクールなふりをしてたんですねぇ。
野菜室の野菜がなくなるってすごいですね(笑)
でもそんなところが明智さんの可愛いところですよね。
それにしても翼ちゃん、困ってる賢史くんを見捨てるなんてひどいぞぉ(^_^;)
名前:翼&小春
本文:小春
「今回の翼ちゃんは、非行教室にパートナーを置き去りにしちゃうパターンですね」
翼
「ごめんなさい…」
小春
「それにしても、テンパると包丁を握って大根をかつら剥きし始める明智さんを想像すると可愛いというよりちょっと怖いというか可笑しいというか」
翼
「本当にごめんなさい…」
名前:冬子
本文:
番外編だ~
長編お疲れ様ですっ
(゜゜ゝゝ敬礼
しょっぱなの小会議室おさえるあたりでもう笑っちゃったんですけど、
この部分は皆さん一緒なのかしら?
楽しみにしてまーす