ピンクゴールド・バースデー
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~翼vision~
12月18日。
今日は、泪さんの誕生日。
いつも大切にしてくれる、大好きな人の特別な日をお祝いしたくて、私は、朝から張り切っていた。
実は、昨日、私は、勇気を出して泪さんをデートに誘った。
穂積
「デート?」
自販機の前で振り向いた泪さんは目を丸くしたけれど、気合いの入った私の顔と、カレンダーの日付を見比べて、自分の誕生日を思い出してくれたみたい。
泪さんはにっこり笑って、いいわよ、と頷いた。
穂積
「誘うからには満足させてくれるんでしょうねえ」
頬を寄せて悪戯っぽく囁かれ、覚悟は出来ていたものの耳まで真っ赤にした私に、泪さんは、うふふ、と微笑んだ。
穂積
「じゃあ、明日の、終業後ね。楽しみにしてるわよ」
18日に二人揃ってお休みするのは『室長として』泪さんが許してくれなかったので、私だけが有給休暇を頂く事になった。
誕生日を迎える泪さんの為に、私に思い付く限り、精一杯のおもてなしを準備してあげたいと思ったのだ。
そして、今朝。
私は、泪さんが出勤した頃合いを見計らって、お部屋を訪ねた。
まずは、お掃除。それから、お洗濯もしなくちゃ。
いつも、泪さんのお部屋は、留守の間に空き巣に室内を物色されたか、警察の家宅捜索で家じゅうを引っくり返されたのかと思うほど、散らかっているのだから……。
けれど、扉の前で拳をぎゅっと握って気合いを入れ、合鍵を使って入った彼の部屋で、私は、自分の目を疑った。
翼
「お邪魔しま……あ、あれ……?」
すっきりと片付いた、綺麗な広い部屋。
そこには、いつもなら部屋の隅で雪崩を起こしているバスタオルの山も、足の踏み場も無いほど積み重ねられたワイシャツの海もない。靴下の片方さえも落ちていない。
リビングだけではない。
廊下も、キッチンも、バスルームも、寝室までも、天井も床も塵ひとつ無くぴっかぴか。
翼
「……なにこれ……もしかして、泪さん、業者さんを入れたのかな……」
考えてみれば、これがこの部屋の本来の姿のはずなんだけど。
今日の泪さんの部屋は、あるべきものが無いというだけで、ほとんど別の人の部屋のようだった。
翼
「……」
お掃除も洗濯もしなくていい。
今日の夕食は、友達から教わった素敵なお店を、私自身が予約してあるから、料理を作る必要もない。
翼
「……」
時計を見ればまだ午前9時だ。
翼
「……どうしよう……」
午後6時。
泪さんは時間通りに、待ち合わせの交差点に来てくれていた。
人混みの中に立っていても、泪さんはやっぱり、際立って綺麗。
その存在感は近付くのを躊躇ってしまうほどだけど、気付けば泪さんは向こうから手を挙げてくれる。
私は周囲の女性たちからの羨望の眼差しを気にしないようにしながら駆け寄ると、頭を下げた。
翼
「お待たせしてごめんなさい。今日は休暇をありがとうございました」
穂積
「休めたか?」
その一言で、私だけの有給休暇も、ハウスクリーニングも、泪さんが私の為に考えてしてくれた事なのだと分かる。
翼
「はい。おかげさまで」
穂積
「そうか」
泪さんはやわらかく微笑むと、私と肩を並べた。
穂積
「お前とこんな風に歩くの、久し振りだな」
翼
「一昨日、一緒にパトロールしましたよ」
穂積
「それは室長のワタシとでしょ?」
泪さんは職場でのオカマ口調で軽く戯けてから、声を戻して、私の手を自分の腕に巻いた。
穂積
「こんな風に、だよ」
翼
「あ…」
腕を組むと、今度は反対側の手が伸びてきて、私の頭を撫でてくれる。
穂積
「で、どこに連れて行ってくれるんだ?」
翼
「え、えっと……」
見つめられて高鳴る胸を押さえながら、私は、予約した店の住所を告げた。
穂積
「なるほど、だいたい道なりだな」
泪さんは街路樹にイルミネーションの続く道筋を眺めて、店の方向を確かめてから、私の手を握り締めた。
穂積
「行くか」
翼
「はい」
私は泪さんが繋いでくれた手が嬉しくて、歩き出しながら肩を寄せる。
泪さんは甘える私に片腕を預けたまま、前を向いて、白い息を吐いた。
予約したお店での食事は和風創作料理で、泪さんの口にも合ったみたい。
私たちは捜査室のみんなや、身近な出来事を話題にしながら、楽しく美味しい夕食を済ませた。
泪さんと共通の話題が増えた事が、嬉しい。
こうして毎年、少しずつ、同じ思い出を増やしていけたら、それを誕生日のたびに確かめあえたら、どんなに幸せだろう。
向かい合う席で、泪さんが私を見て目を細めてから、お猪口の燗酒を干した。