娘の選んだ男
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どういうわけか今日は穂積を見かける日だ。
これから飲み会でもあるのか、夕方、バスの停留所のベンチに座っている穂積は、ゆっくりと舟を漕いでいた。
隣で翼が、居眠りする穂積を見つめて、微笑んでいる。
歩道を通りかかったわたしに気付いて、慌てて動こうとしたのを、わたしは手で制した。
肩を並べている翼が動けば、穂積を起こしてしまうだろう。
人差し指を口に当てると、翼は赤い顔をして、大人しく動きを止めた。
穂積の頭がゆっくりと倒れて、翼の肩におさまる。
すやすや眠る穂積の髪が顔にかかるのを、翼が遠慮がちに、しかし、優しく、指先で撫でた。
娘の幸せそうな顔を見るのは、嬉しい。
たとえ、それが、別の男に向けられたものであろうと。
娘の愛した男が、正しい男である事が、嬉しい。
たとえ、その男が、時には悪魔のような男であろうと。
娘が選んだのが、弱い女性を守る側の男で、良かった。
他人の痛みが分かる男で、良かった。
小学生が相手でも、間違った事をすれば本気で叱る男で、良かった。
被告席に立たされ、わたしに裁かれる側の男にならなくて、本当に、良かった。
穂積は、今、わたしと娘に、幸せそうな寝顔を見せている。
忌々しいが、それが、嬉しい。
天使の顔をしているくせに、目を覚ませば悪態をつく、大事な盆栽を返した代わりに娘を奪っていく、憎たらしいあの悪魔は、やがてわたしの義理の息子になる。
今日、それも満更悪くない、と思ってしまった自分が、悔しい。
~END~