Tokyo☆アブナイ☆week
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喝采を浴びて花道を反転した茉莉花さんと小野瀬さんを、先にステージの奥に戻っていたブランさんとノワールさん、そして、明智さんと藤守さんが笑顔で出迎える。
……良かった。
どうやら、無事に終わる事が出来そう……。
私がそう思ったのも束の間。
不意に、茉莉花さんが、花道の途中で足を止めた。
……?
それに合わせるように、会場もざわめく。
どうしたんだろう、と思いかけた時、答えが分かった。
茉莉花さんが、手にしていた白い薔薇のブーケを、藤守さんの差し出した小振りなブーケに交換するのが見えたのだ。
私は、緊張しかけた頬を緩めた。
それは、挙式の最後に行われる、ブーケトス。
花嫁の投げるブーケを受け取る事が出来ると、幸せになれるという。
茉莉花さんからのブーケを求めて、大勢の女性たちが客席で立ち上がる。
みんな、はにかみながらも楽しそう。
その人たちに笑顔で合図を送ってから、茉莉花さんが、客席に背を向けた。
音楽のボリュームが下がり、逆に、緊張感が高まる。
後ろ向きになった茉莉花さんは、小野瀬さんに支えてもらうと、大きく反動をつけて、白いトスブーケを勢いよく投げた。
それは観客席を越えて宙を舞い、緩やかな放物線を描いて……一瞬、照明の光の中に消えた後……狙いすましたように、私の、腕の中に落ちてきた。
翼
「うそっ」
思わず声が出る。
けれど私のその声は、周りにいた大勢のお客さんたちからの拍手と歓声に、たちまち掻き消された。
慌てて顔を上げて花道を見れば、茉莉花さんと小野瀬さんが、共に、笑顔で拍手してくれている。
どうしようかと思いながらも小さく手を振り返すと、突然、私にスポットライトが当たった。
『one,two,1,2,3,4!』
ナレーションが入って不意に音楽が変わり、周りから手拍子が始まる。
翼
「……!……」
小野瀬さんや茉莉花さん、ブランさんが、リズムに合わせて拍手をしながら、私を手招きする。
状況が理解できなくて立ち尽くしていると、ぽん、と、肩を叩かれた。
飛び上がるほどびっくりして振り返れば、そこにいたのは、警護の小松原係長だった。
小松原
「ステージに上がれ、櫻井」
翼
「えっ?!」
小松原
「会場を白けさせるな。……大丈夫、ここは俺が代わる」
厳しい表情だった小松原係長が頬を緩めた時、わあっ、と新たな拍手と歓声が沸き起こった。
驚いて視線を戻せば、藤守さんと明智さんに伴われて花道を歩いて来るのは……室長!
小松原
「あいつの所へ行くなら、何も怖くないだろう?」
翼
「係長……」
小松原係長は、もしかして、私と室長の関係を知っているの?
小松原
「さあ、行ってこい」
それ以上の会話は不要と言うように、係長が、笑顔で私を後押しした。
光に包まれた花道の上で、室長が足を止めてこちらを向く。
金色の髪、舞台に映える長身に、白いタキシード。
インカムから、素のままの室長の声が聞こえた。
穂積の声
『……やられた。藤守とノワールの策略だ』
舞台の上で花婿の姿をした室長が、今、頬を染めて見つめているのは、茉莉花さんではない。
穂積の声
『早く来てくれ。……照れ臭くてかなわん』
室長が待ってる。
私を……!
拳を作ってぎゅっと力を込めると、私の手は、自然とブーケを握り締めた。
よろめくように歩き出し、やがて小走りになって舞台に駆け寄ると、スタッフさんが架けてくれた階段を昇る。
途中から、待ちきれないように室長が手を添えてくれた。
二千人の観客が足元にいる、初めて見る景色。
煌びやかな照明と明るい音楽、目の前に大好きな人。
翼
「室長……」
ホッとした顔の室長に引き寄せられる直前、私と室長の間に、突然、横からノワールさんが割り込んだ。
ノワール
『ノン、ノン!』
翼
「え、ええっ?」
ノワールさんは私をぐいぐい押し返して、とうとう、室長と繋いでいた手は引き離されてしまった。
ノワール
「全っ然、ダメ!」
日本語でそう言うが早いか、ノワールさんが、私の鼻先で指を鳴らした。
ノワール
「ワタシが、魔法を、かけてあげる!」
その言葉が合図だったのか、手に手にパーテーションを抱えたスタッフが飛び出して来て、あっという間に、私とノワールさんを観客の視界から隠すように囲い込んでゆく。
翼
『ノワールさん!まさか?!』
周囲に立てられたパーテーションで目隠しを施されたとはいえ、舞台の上で、女性スタッフにどんどん脱がされてゆく私、ニコニコ笑っているノワールさん。
ノワール
『任せて、翼!何度も触ったから、サイズはバッチリよ!』
いえ、ツッコミたいのはそこじゃありません!
そう思ったのに声に出せなかったのは、メイクさんに顎を掴まれて、手際よくルージュを引かれていたから。
訳がわからないまま、されるがままに手足を差し出しているうちに、背中でファスナーが上げられた。
目の前にキャスター付きの大きな全身鏡が登場して、今の、私の姿を映し出す。
翼
「……!……」
ほんの1、2分間の出来事だと思っていたのに。
そこに映っていたのは、純白の、可愛らしいウェディングドレスを着た私。
肩の出るベアトップの上半身はシンプルだけれど、生地には小花の柄が織り込まれ、腰から下のスカート部分には、ふわりと柔らかなシフォンで形作られたたくさんの花が飾り付けられている。
思わず息を飲むと、鏡の向こうの私の後ろにノワールさんが現れて、魔法の仕上げをするように、髪にティアラを乗せてくれた。
ノワール
『さあ、これで、ルイの元に届けられるわ』
翼
『……ノワールさん……。このドレス、初めて見るデザインです。……もしかして、私の為に?』
ノワールさんがウインクした。
ノワール
『頑張ったらご褒美があるものよ』
そうこうしている間にパーテーションが次々と取り払われ、私はノワールさんと共に、再び、輝く舞台に戻って来た。
同時に拍手と歓声が沸き上がる。
茉莉花さんが近付いて来て、私の頬にキスしてくれた。
茉莉花
『ルイを返すわ、翼』
マイクを通さず、そっと囁く。
翼
「茉莉花さん……」
微笑んだ茉莉花さんが、自分のインカムから、会場に声を届けるマイクのスイッチを入れた。
茉莉花
『ファッションショーは、夢を叶える魔法の舞台』
大きなメインスクリーンに、英語から同時通訳された茉莉花さんのメッセージが、日本語で打ち出されていく。
茉莉花
『今度はあなたの番よ』
耳と目でメッセージを読んでいた私の前に、白い手袋を着けた手が差し出された。
翼
「泪さん……」
本当は、室長、と呼ばなければいけなかったはずだけど。
私の手をとって微笑んだ室長は、身を屈めて、額に優しくキスをしてくれた。
穂積
「すげえ綺麗だぞ」
真っ直ぐに私の目を見て囁いた直後、室長は、私を勢いよく横抱きに抱き上げた。
翼
「!」
バランスを崩しかけて室長の肩にしがみつくと、会場の拍手はスタンディングオベーションに変わった。
次々に立ち上がる観客からの最大級の賛辞を浴びながら、室長は私を抱いたまま足早に花道を突っ切って、降りかけてきた幕を潜り抜けた。
舞台裏にみんながいたのに、室長はそこも駆け抜けて、通路を挟んだ控え室のひとつに飛び込んだ。