Tokyo☆アブナイ☆week
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茉莉花
『モニターで見ていたわよ、翼!ルイも、アケチも、フジモリも。あなたたちの活躍、素晴らしかったわ!』
茉莉花さんが興奮ぎみに話すのは、さっきまで階下のハイブランド・フロアで行われていた昼休みの特別イベント、つまり、室長の黒いウェディングドレスでラファエルを誘き寄せた、あの作戦についての事だ。
ここは、本会場の階にある、控え室のひとつ。
茉莉花さんは、私と如月さんが遅めの昼食を摂り終えたら、間もなく始まる最終ステージに備えて、楽屋に移動する事になっている。
翼
『ありがとうございます』
作り笑いで応えた私に、茉莉花さんは、怪訝な顔をした。
茉莉花
『……翼、もしかして元気無い?』
顔を覗き込んできた茉莉花さんに、隠し事は出来ない。
私はこくりと頷いた。
翼
『室長に叱られました』
はあ、と溜め息を漏らすと、茉莉花さんは、私の隣に座っている如月さんに『どういうこと?』と首を傾げた。
如月
『翼ちゃん、単独でラファエルに近付き過ぎたのを、室長に注意されたんだよ』
コンビニの鮭おにぎりをペットボトルのお茶で流し込みながら、如月さんが苦笑いする。
私は溜め息をついた。
穂積
「この、アホの子!」
イベントが終了した後、私は、ブラン・ノワールの店内に引き上げてきた室長に呼び出され、強烈なデコピンを頂戴した。
翼
「痛ーい!!」
穂積
「あの状況で機転をきかせたのは立派よ。でも、勝手な行動をするなと、何回、言えば、分かるの、アンタは?!」
言葉を切るたびに、室長のデコピンが私の額に炸裂する。
まだ、花の精のように優しげな女装をしたままなのに、凄い破壊力だ。当たり前だけど。
翼
「ううう、すみませんでした……」
とうとう私は、頭を抱えてうずくまった。
明智
「し、室長、もう、そのぐらいで」
見かねた明智さんと藤守さんが、止めに入ってくれた。
藤守
「そうですよ!怪我してはるんですから!はよ病院に行きましょう!」
穂積
「大した怪我じゃないわよ」
翼
「え?!室長、怪我してるんですか?!」
私ががばっと立ち上がった途端、室長は、急に弱腰になった。
穂積
「だから、大した怪我じゃないわよ」
翼
「さっき、ナイフを持ったラファエルと揉み合いになった時ですね?どこですか?!」
私が迫ると、室長は身体を捻って、私から左腕を遠ざけた。
レースのロンググローブを着けているから傷口は見えないけれど、きっと、そちらの腕を傷つけられたのだろう。
穂積
「ちょっと擦っただけ!それより、アンタは如月と一緒に、茉莉花の警護に戻りなさい!」
翼
「でも」
穂積
「明智は引き続きブラン、藤守はノワール、小笠原は会場の客の最終チェック!」
翼
「でも、室長」
藤守
「安心せえ、櫻井。俺が責任を持って、室長を病院に連れていくさかい」
藤守さんが、ぽん、と肩に手を乗せてくれ、それでようやく、私は安心する。
翼
「お願いします」
藤守
「任せとき!」
藤守さんが、にかっと笑った。
それでもなお未練がましく見つめる私の視線から目を逸らすようにしながら、室長が、ぱん、と手を叩いた。
穂積
「分かったら、それぞれの持ち場に解散!」
翼
『……と、いうわけなのです』
はあ、と溜め息をついた私につられたように、茉莉花さんも、はあ、と溜め息を漏らす。
茉莉花
『なるほど。だから翼は落ち込んでて、最後のショーにはアオイが出る事になったわけね』
如月
『えっ、そうなの?』
如月さんが驚く。
もちろん、私も初耳だ。
茉莉花
『さっき、ノワールにそう言われたのよ』
茉莉花さんは、ちらりと時計を確かめた。
茉莉花
『アオイはもう楽屋に入ったはずだわ』
小野瀬さんなら舞台慣れしているから、急遽、大役を務める事になっても、大丈夫だろうけれど。
室長の怪我、思ったより重傷なのかな。
そう思うと、私はまた心配でたまらなくなった。
茉莉花
『元気出して、翼。ルイは強いもの、きっと大丈夫。それより、ラファエルが捕まったから、これでもう、襲撃の心配は無いんでしょう?』
茉莉花さんは、私を励ますように言いながら、如月さんに確認した。
《Tokyo☆Week》を妨害する、と脅迫メールを送った犯人は、結局、ラファエルだった、という事になった。
もちろん、実際に送ったのはフローラさんだけれど、彼女は精神を病んでいたし、ラファエルが、ブランさんを脅迫するよう、フローラさんに執拗に迫った事を自供したからだ。
フランスのネットカフェでフローラさんからお金を受け取った複数の人物の身元は、すでに、小笠原さんの調査によって、全て判明している。
さらに、実際に行動を起こした人物は全員逮捕され、残りの人物についても、現在の所在地は明らか。
そして、これまでの行動から見て、最後のショーを妨害する恐れのない事ははっきりしている。
茉莉花さんの言う通り、もう、『ブラン・ノワール』が襲撃される心配は無いはずだ。
でも、と私は思う。
「最初から相手が誰で何をしてくるか、それが分かっている警護なんてあり得ない」
最初に、そう、明智さんから教わった。
「絶対に油断するな」
室長から言われた言葉は、催涙スプレーを浴びた痛みとともに、身体に刻み込まれている。
最後の最後まで、絶対に油断してはいけない。
私は両手に力を込めて、ぎゅっ、と拳を握り締めた。