Tokyo☆アブナイ☆week
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最終日、朝。
昨夜はゆっくり茉莉花さんと話をする時間があって、お互いの心の中にあったわだかまりを、すっかり払拭する事が出来た気がする。
けれど、自分たちの悩みが消えてみると、気になってくるのは、やっぱり、これから先の事。
それは等しく、今日の昼に予定されている、室長によるデモンストレーションの事だ。
茉莉花
『整理券、つまりID管理のおかげで、ラファエルが本会場に入る事は不可能なわけね』
『ブラン・ノワール』のショーは最終日最終組、予定では、今日の夕方5時頃になる。
そのため、今朝のミーティングには、茉莉花さんとブランさん、ノワールさんも加わっていた。
小笠原
『最終日は観覧希望者が多くて、実際に抽選が行われたんだよ。で、我らがラファエルは、それに外れた。当然だけどね』
ブラン
『だが、彼に妨害の意思がある以上、たとえ会場には入れなくても、何らかの悪意ある行動をとる可能性はある』
小笠原さんの言葉に、ブランさんが唸る。
ブラン
『もちろん、不正な手段で入り込もうとする可能性も』
小松原
『その通りです。そこで、本会場での『ブラン・ノワール』のショーの前に、ラファエルをハイブランド・フロアに誘き寄せる作戦ですが』
警護の陣頭指揮を執る小松原係長が、全員の中央にあるテーブルに、フロアの見取り図を広げた。
小松原
『午前中いっぱいを使って、「正午から1時間だけ、ハイブランド・フロアにてブラン・ノワールの新作を特別披露する」と大々的に宣伝します。場所は、ここ』
係長が、『ブラン・ノワール』の店舗の前にある、広い催事スペースを指差す。
小松原
『ここに特設ステージを設け、さらに、ブランさん、ノワールさんも同席の上で、新作のドレスを披露してもらいます。もちろん、モデルは穂積』
ブランさんとノワールさんが頷いている。
小松原
『展示方法は通過式。客席は設けず、観客は、通路からドレスを観覧する方法です』
小笠原
『別名《動物園方式》』
「ドレスを着るのは猛獣だけどね」と如月さんが囁いてきたので、私は噴き出しそうになってしまった。
室長が、じろりとこちらを睨む。
小松原
『本会場に入れないラファエルにとって、これは『ブラン・ノワール』に不幸な事件を起こす、最後の機会だと言っていいでしょう。必ず来ます。来るしかない』
茉莉花
『……ルイは安全なんでしょうね?』
尋ねる茉莉花さんの顔は、少し青ざめている。
小松原係長は、微笑みを浮かべたまま、けれど、首を横に振った。
小松原
『100%の安全はありません。ですが、穂積がその役につく事で、99.9%まで安全だと申し上げていい、と、私は信じています』
小松原係長が、室長に顔を向ける。
室長は係長の視線を受け止めて、ありがとうございます、と軽く頭を下げた。
小松原係長と室長も、この一週間で、随分と息が合ってきたような気がする。
明智さんが手を挙げた。
明智
『本会場の観客への対応はどうするのですか?……昼休みに階下で新作披露、と聞けば、行きたがる客もいるのでは?』
係長はこれにも頷く。
小松原
『本会場には、高画質の特大スクリーンで、特設ステージの様子をライブで流す予定だ。飲食は今まで通り催事場の飲食ブースを利用してもらい、階下に降りた場合は、再入場出来ないと伝える』
少し厳しい気もするけど、最終日の入場券はプラチナチケットだ。
事前に伝えておけば、無用な人の出入りは避けられるだろう。
小松原
『それに、昼休みが終わっても、ドレスのみの展示は閉店まで行う。それなら、本会場にいた客にも、ショーの終了後に見てもらえるだろう』
明智
『なるほど』
明智さんが納得すると、小松原係長は、他に質問は無いか、という風に、全員の顔を見渡した。
小松原
『さて、ここからが本題だ』
係長が、表情を引き締めた。
小松原
『これ以降、ラファエルの身柄を拘束するまで、きみたちには、警護ではなく、捜査員として働いてもらう』
それはつまり。
穂積
『ワタシたちがラファエルを逮捕する、という事よ』
室長の声に、私たちは背筋を伸ばした。
穂積
「明智」
明智
「はい!」
穂積
「ワタシは柵の中にいるお人形よ。現場の指揮はアンタに任せるわ」
複雑なニュアンスの指示をするためか、室長が言語を日本語に変えた。
穂積
「特設会場は本会場とは違って通過式だから、混雑が見込まれるわ。そのため、武器の使用許可が出ているのは低電圧のスタンガンのみよ。ほとんど素手で制圧しなければならないと考えてちょうだい」
明智
「分かりました」
穂積
「ラファエルの位置を捕捉したら、アンタは、ラファエルと距離を保って尾行してくれるかしら」
明智
「了解です」
穂積
「藤守」
藤守
「はいっ」
穂積
「アンタは、順路の入口側で待機して、ラファエルの会場侵入に備えてちょうだい。ただし、発見したからといって、即、捕まえてはダメ」
藤守さんが頷く。
藤守
「実際に危険な行動を起こしたら、そこで現行犯逮捕ですね」
穂積
「その通りよ。次、小笠原」
小笠原
「……はい」
小笠原さんが、肘から上だけ手を挙げた。
穂積
「アンタは同階の『ブラン・ノワール』店内から、モニターでラファエルを監視してくれる?」
小笠原
「分かった。……デス。通路の人混みより、そっちの方がいい。……デス」
室長に叱られないようにか、小笠原さんは、語尾だけ丁寧な、あやしい敬語で答えた。
それに苦笑いしてみせてから、室長がこちらを向いた。
穂積
「如月」
如月
「ハイっ」
如月さんが敬礼する。
穂積
「アンタは藤守と反対の場所、つまり順路の出口側で待機よ。ラファエルが逃走をはかったら、アンタに取り押さえてもらうわ」
如月
「足の速さと組み手なら負けませんよ!」
穂積
「頼もしいわね。ただし、本会場と違い、階下の入場者には手荷物検査を実施していない。ラファエルは武器を携帯している事も予想されるわ。油断は禁物よ」
如月さんが顔を引き締めた。
如月
「了解!」
穂積
「櫻井」
私の名前が呼ばれた。
翼
「はい!」
穂積
「アンタには小松原係長の部下に混ざって、通路の通行整理をしてもらうわ」
翼
「はい!」
穂積
「自分の役割は分かるわね?」
私は頷いた。
翼
「いざという時に、明智さんや藤守さん、如月さんたちが動きやすいように、かつ、不自然にならないように、人の流れを作る。ですね?」
穂積
「そうよ」
室長が唇の端を上げる。
翼
「そして、小笠原さんと連動して、ラファエル以外の不審人物や、周囲の状況変化にも目を配ります」
穂積
「よろしい。非常時には、避難誘導など、他の客の安全確保を行う事も忘れずにね」
室長だけでなく、みんなが頷いてくれて、ホッとする。
穂積
「全員、自分のするべき事は分かったわね?」
全員
「はい!」
穂積
「ラファエルが姿を見せたら、決して見失わない事」
全員
「はい!」
穂積
「如月の位置まで来て行動を起こさなければ、そのまま任意同行を求める事」
全員
「はい!」
穂積
「各自、装着したインカムで緊密に連絡を取り合う事。決して無茶はしない事」
全員
「はい!」
そこまで言うと室長は一歩引き、一礼して、小松原係長と場所を代わった。
小松原
「君たちの背後は、我々五係が守る。心置きなく、被疑者の確保に専念してくれ」
私たちは改めて、小松原係長に向かって威儀を正した。
全員
「はい!」
小松原
「以上だ。総員、準備開始!」
全員
「了解!」
室長以下全員が、敬礼する。
最終日。
今まで攻撃を防ぐだけだった私たちが、初めて、迎撃に転じる。