Tokyo☆アブナイ☆week
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~翼vision~
朝のミーティングで、捜査室全員が『渋谷☆KAGURA』に集合すると、室長からの説明が始まった。
明日はいよいよ最終日。
《Tokyo☆Week》最後のエキジビション、全ブランドが参加してのファッションショーが行われる日だ。
エキジビションは30社のハイブランドが勢揃いするため、全日程の中でも最も人気の高い日で、観客はなんと2,000人。
10時からのショーは、1時間の休憩を挟んで、6時間にも及ぶ大規模なものだ。
各社10分程度のパフォーマンスだという事で、一社あたりの時間は僅かだけれど、長丁場の警護に、今から緊張感が高まってくる。
主催者側の意向で、『ブラン・ノワール』の順番はまたしても最後だそうで。
それはつまり、一週間続いた《Tokyo☆Week》のフィナーレを、『ブラン・ノワール』が飾るという事。
今までの演出や衣装、特にあのウェディングドレスの評判が良かったからだと聞いて、私の胸は、また、チクチクと痛み始めた。
明日も白いタキシードを着る事になった室長と茉莉花さんに嫉妬して、ではない。
何が起きようと室長を信じているし、仕事だと理解出来てもいる。
私が気になっているのは、茉莉花さんの方だった。
夜の警護を外されて以来、私は、茉莉花さんと、仲直りどころか、まともに顔を合わせる事も出来ずにいたからだ。
日中の茉莉花さんは、ショーが無くても毎日のトレーニングを欠かさず、さらに取材に撮影にと引っ張りだこで、警護の室長と共に、連日忙しく動いている。
私の代わりに、夜になると茉莉花さんの警護に付いてくれるのは小野瀬さんだけど、彼も、朝になれば早々に警視庁に帰ってしまって、私には、夜の間に交わされた会話を知る術も無い。
どんな理由があったとしても、一時的な、しかも、個人的な感情で、任務に支障を来してしまったのは事実だ。
大切なショーの最中に、モデルである茉莉花さんを不愉快にさせてしまったのは、完全に私の落ち度だ。
けれど、一日延ばしにしているうちに、余計、謝りにくくなってしまっている気がする。
たとえ、今、茉莉花さんと会う機会が出来たとしても、どんな話をすればいいのか分からない。
でも、謝らないと……
考えがまとまらないまま、私は小さく溜め息をついた。
穂積
「……というわけだから、今日はワタシと藤守がノワール、明智がブラン、如月と櫻井が茉莉花の担当よ」
そこに聞こえてきた室長の声に、私は一瞬、耳を疑った。
私が茉莉花さんの担当?
如月
「やっと、翼ちゃんと組めるね!」
耳に手を添えて囁かれた如月さんの声に、私はハッとした。
翼
「よ、よろしくお願いします。……如月さんは、もう、ベッキーにならないんですか?」
小声で返した私に、如月さんは、うん、と頷いた。
いつもの爽やかな笑顔に、なんだかホッとする。
如月
「翼ちゃん、期待してくれてた?嬉しいな。でも、最終日の『ブラン・ノワール』の出品は、茉莉花さんのウェディングドレス一点だけらしいからね。ベッキー出番無いの」
最後だけちょっとベッキーに戻ったのが可笑しい。
如月
「それよりさ、今の話、気にならない?」
翼
「今の話?」
如月
「室長がまた女装するって話」
えっ!
思わず室長を振り返った私と目が合うと、室長は苦い顔をした。
穂積
「櫻井、聞いてなかったの?」
翼
「す、すみません」
しまった。
自分の考え事に没頭して、完全にミーティングの内容を聞き逃している。
穂積
「集中力が切れてるなら、任務から外すわよ」
真顔で言われて、私は血の気が引いた。
翼
「本当に、すみません!」
ひたすら謝ると、室長は軽く溜め息をついて、書類に視線を戻した。
穂積
「ワタシの女装の話は、後で如月から聞きなさい。……小笠原、例の話、ここで全員に報告して」
小笠原
「分かった」
穂積
「敬・語!」
ぴん、と額を弾かれる小笠原さんと、苦笑いのメンバー。
相変わらずの光景だけど、私にそれを笑う余裕はもう無い。
額を擦りながら、小笠原さんが報告を始めた。
小笠原
「フランスのネットカフェで金を受け取って『ブラン・ノワール』への妨害をフローラから依頼された、つまり、実行容疑者全員の身元が判明したよ」
おお、と、室長を除く全員から感嘆の声が漏れた。
確か当初、それは不可能だと言われていたはず。
小笠原さん、凄い!
小笠原
「その結果、全員の、現在の状況が確認出来た。……対象者は、全部で12人」
そんなに。
小笠原
「そこから、既に逮捕された者、日本に入国していない者、何らかの行動を起こしていない者……つまり、所在が明らかで妨害を実行する恐れの無い者を除くと」
明智
「……除くと?」
明智さんが答えを促す。
小笠原
「残りは、たったひとり。ラファエル・バルベ、男性。《Tokyo☆Week》三日目と同じ日に来日していて、以来、渋谷のホテルに滞在している」
まさかそんな近くに。
私はぞくりとした。
小笠原
「写真あるよ」
5年前、ファッション誌にインタビュー記事が掲載された時のものだという写真が、全員に配られる。
差し出された小さな写真には、三十代半ばくらいの、整った顔立ちのフランス人男性が写っていた。
明智
「外出は?」
ラファエルの顔を確かめた後、明智さんがさらに尋ねる。
小笠原
「していない。管理局によると、入国目的は『観光』になっているんだけどね」
藤守
「何や気色悪い奴やな」
藤守さんが眉をひそめた。
藤守
「……そのせいで、結局、室長が狙われる羽目になるんか……」
藤守さんの呟きに、私は動悸が治まらなかった。
ああ、ちゃんとミーティングに集中していれば良かった。
小笠原
「ラファエルは、以前、フローラと交際していた可能性もある。もしかすると、今回の黒幕は、このラファエルかもね」
如月
「……え、つまり、フローラがブランに脅迫メールを送ったのが、そもそも、ラファエルの指示だったって事ですか?」
穂積
「まだ、確たる証拠は何も無いけどね」
室長も否定しない。
明智
「ラファエルはブランに彼女を取られ、その彼女がストレスからノイローゼになったのを知って腹を立てた……」
藤守
「……そして、心神耗弱のフローラにブランを脅迫させた、いう事ですか」
如月
「その上で自分も来日したって事は、確実にブランに危害を加えるつもりですね」
小笠原
「執念を感じる」
翼
「……」
みんなの話を聞いているうち、徐々に分かってきた。
最後の実行者がラファエルだとしたら、標的は、ブランさん個人である確率が高いという事。
事件の全貌を解明するためには、確実にラファエルを現行犯逮捕する必要があるという事。
その為に、警護の小松原係長は、一番最初に計画した、室長を囮にする作戦を実行するつもりらしいという事……。
明智
「必ず守ります。室長も、『ブラン・ノワール』も」
明智さんの力強い声に、全員が頷いた。
もちろん私も。
室長は穏やかな表情で、全員を見渡した。
穂積
「《Tokyo☆Week》が始まった時から、ワタシの命はアンタたちに預けてあるわ」
明智
「……室長……」
室長の言葉に、目頭が熱くなった。
明智さんをはじめ全員が、込み上げそうになるものを、ぐっ、と飲み込む。
穂積
「無傷で返してもらうわよ」
藤守
「もちろんです!」
如月
「任せて下さい!」
間髪を入れず応える声に、室長はニコリと笑った。
パン、と手を叩く。
穂積
「では、最終日に向けて、準備開始!」
全員
「イエッサー、ボス!」