Tokyo☆アブナイ☆week
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《Tokyo☆Week》二日目。
『渋谷☆KAGURA』の最上階にある『ブラン・ノワール』スタッフ用の控え室のひとつで、私たちは朝のミーティングを行っていた。
穂積
「初日の警護では、それぞれがよく働いてくれたわ」
部屋の中央に立った室長が、向かい合わせに整列した私たちを、改めて労ってくれた。
壁際のソファーセットにはブランさん、ノワールさん、茉莉花さんが座っている。
ショーは午後からなので、三人とも、まだ寛いだ表情だ。
穂積
「現在までの取り調べによると、逮捕された容疑者は、いずれも、フランスのネットカフェで、直接、脅迫メールの差出人から依頼を受けての犯行だと供述しているそうよ」
室長は、供述調書のコピーを明智さんに渡した。
穂積
「容疑者同士は互いに面識が無く、共謀してもいない。これは、報酬が比較的低額で、しかも先払いされた影響だと思うけれど」
室長は小笠原さんを見た。
穂積
「だからと言って、妨害行為が拡散しないとはまだ言い切れない。小笠原は引き続き入場者の身元確認をお願い。それに、防犯カメラの人物特定への協力要請が来ているわ」
小笠原さんが頷いた。
小笠原
「分かった」
穂積
「け、い、ご」
ぺちん、と軽いデコピンを当てられた小笠原さんは、額を押さえて「分かりました」と返事をした。
穂積
「如月は今日もベッキーね」
室長は、今度は如月さんに顔を向けた。
如月
「ハイ」
穂積
「実行犯がもしも昨日の逮捕劇を見ていれば、今日は作戦を変えてくる可能性もあるわ。ノワールさんの警護をしながら、楽屋スタッフの入れ替わりや、化粧品にも注意してね」
如月
「……犯人が裏方として潜入してたり、化粧品が劇薬にすり替えられるかも、って事ですか?」
穂積
「そうよ。化粧品は事前に全て検査したけど、今日からは、使用済みという事で再検査はされない。そのぶん、警戒が緩んでいるはずだから」
如月
「了解」
穂積
「藤守」
室長は藤守さんに声を掛けた。
藤守
「はい」
穂積
「今日は一日、ブランさんは控え室で商談をする事になっているわ。アンタは同室して、警護に当たってちょうだい。廊下は五係が見張ってくれるわ」
藤守
「了解」
室長が私を見た。
穂積
「櫻井は、午前中は藤守と一緒に行動してちょうだい。午後の開場時刻になったら、小笠原のリストを元に、入場者と、会場内の様子をチェックして、その後は明智と行動する事」
翼
「はい」
穂積
「昨日の来場者の顔は覚えているわね?」
覚えている。
室長に「覚えろ」と言われていたから。
明智さんと中二階から見下ろしていた時の景色も、催涙スプレーの女の元に向かう前に見た景色も。
千五百人の観客がいようと、名前を偽って入場していようと、たとえ変装していようと。
昨日までに見た顔が含まれていれば、必ず見分ける自信がある。
それが、私の取り柄なんだから。
翼
「はい」
穂積
「少しでも何かがおかしいと感じたら、すぐにワタシか明智に報告しなさい」
翼
「はい!」
室長は次に、小野瀬さんに顔を向けた。
穂積
「小野瀬には午後のモデルの外に、小笠原と協力して、『ブラン・ノワール』に関する、ネットへの書き込みなどを監視するシステムをセッティングしてもらうわ」
小野瀬
「それは……」
穂積
「フランスの公式HP、日本の特設HP、両方への不正アクセスや違法な書き込みの削除はもちろんだけど」
室長は平然と答えた。
穂積
「ネットワーク上から、《Tokyo☆Week》に対する何らかの犯罪を臭わせる記述を、全てピックアップしてもらうシステムよ」
小野瀬さんの顔付きが変わった。
穂積
「プログラム自体は、準備期間中に小笠原が構築してくれてある。小野瀬にはそれを実際に運用してみて、改良を加えてもらいたいの」
小野瀬
「……分かった」
小野瀬さんが頷いたのを確かめて、室長は明智さんを振り返った。
全員が二十四時間体制で働いているので、交代で休憩を取る。
今日の午前中は明智さんが休む番なのは、事前に決まっていた。
穂積
「午後からはまた銃を構えてもらう事になるわね」
明智
「はい」
穂積
「アンタの行動の全ての責任は私が負うわ」
明智さんは小さく息を呑み、緊張していた顔をさらに引き締めた。
穂積
「ワタシたちの任務は、ブランさん以下三人の警護。ただし、この三人を守ることは、同時に、『ブラン・ノワール』を守ることよ」
全員
「はい」
《日本での『ブラン・ノワール』の成功を望まない。イベント期間中に、必ず、不幸な事件が起きるだろう》
穂積
「『不幸な事件』なんて起こさせないわ」
全員
「はい」
穂積
「ショーは、必ず成功させる」
全員
「はい!」
穂積
「以上。行動開始!」
全員
「イエッサー、ボス!」
幸いにもこの日、特筆すべき大きな事件は起きなかった。
けれど、それは、三日目に起こる事件の、静か過ぎる予兆だったのかもしれない。