Tokyo☆アブナイ☆week
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警護の説明を終えた私たちは、ブランさん、ノワールさん、茉莉花さんとともに、宿泊先のホテルに移動した。
期間中『ブラン・ノワール』で貸し切りにした、例のホテルだ。
建物警護と三人以外のスタッフの警護は、第五係が担当してくれている。
『渋谷☆KAGURA』からホテルまではごく近いので、移動は徒歩。
途中、数ヶ所にさりげなく警護がいるけれど、これは、お互いに素知らぬ顔で通り過ぎる事になっていた。
ホテルに着くと、ブランさんの部屋は室内に小笠原さん、扉の外に明智さんが待機して警護する形になった。
ノワールさんの部屋には、今夜、衣装の為の採寸やステージの打ち合せをするからという理由で、小野瀬さんと如月さんが泊まり込む事になっている。
この部屋を守るのは藤守さんだ。
唯一の女性である私は、茉莉花さんと一週間、ツインの部屋を共有する事になった。
扉の外にいてくれるのは、室長。
同じフロアなので、廊下には常に三人が警護している事になる。
室長、明智さん、藤守さんという頼もしい三人の笑顔に見送られて、私と茉莉花さんは部屋に入った。
茉莉花
『ふー、お先に。櫻井もシャワー使って?』
真っ白なバスローブを纏い、タオルで長い黒髪を拭きながら、茉莉花さんがバスルームから出てきた。
やっぱり、すっぴんでも綺麗だな。
翼
『ありがとうございます。でも、私は、ここに来る前に、職場でシャワーを済ませて来ました。警護中に裸になるわけにはいきませんから』
私が言うと、茉莉花さんは、何故か、少し困ったような表情になった。
茉莉花
『もしかして、初対面の時に、私が「頼りない」って言った事を気にしている?』
翼
『えっ?』
思いがけない言葉に、私は驚いてしまった。
茉莉花
『あの時、ノワールには、八つ当たりじゃないって食ってかかったけど……実際は、そう言われても仕方ないくらい、感情的になってたの。だから……ごめんなさい』
そんな事。
翼
『気にしてません。他の捜査員に比べて、私が頼りないのは本当ですから。あの時の茉莉花さんの気持ちや立場も、分かるつもりですし』
茉莉花さんは、ホッとした顔をした。
茉莉花
『ありがとう。……櫻井は私より年下なのに、ずっと大人なのね』
私がミネラルウォーターのコップを差し出すと、茉莉花さんは、ありがとう、と受け取って、喉を鳴らした。
……良かった。
最初はどうなるかと思ったけど、茉莉花さんとも、どうにかやっていけそう。
茉莉花さんが髪をドライヤーで乾かし始めた時、私のジャケットのポケットの受信機が震え、インカムから、耳に室長の声が聴こえた。
穂積
『櫻井、出て来られる?』
翼
『はい。……茉莉花さん、すみません。室長に呼ばれたので、扉を開けますね』
インカムの小型マイクに返事をし、茉莉花さんに声を掛けてから、私は廊下に続く扉を出た。
振り向けば、茉莉花さんを確認出来る場所だ。
そこには室長だけでなく、藤守さんと明智さんも来ていた。
穂積
「今、『渋谷☆KAGURA』警備中の小松原係長から連絡が入ったわ。不法侵入した外国人二人組を確保したそうよ」
私は身の引き締まる思いがした。
……本当に、現れた。
穂積
「侵入した直後に取り押さえて目的を問い質したところ、『ブラン・ノワール』の衣装に、針や劇薬を仕込むつもりだったと白状したらしいわ」
藤守
「卑劣やな」
明智
「やはり、初日は危険ですね。前夜から張り込みで正解です」
明智さんの言葉に、室長が頷いた。
穂積
「そうね。でも厳密には、脅迫メールが届いて以来、ずっと警戒を続けてきた、第五係の警護が功を奏した形だわ」
感慨深げに室長が呟く。
その室長に、明智さんはふと、思い出したように尋ねた。
明智
「そう言えば、室長は小松原係長よりも階級が上なのに、指揮を執らないのは何故ですか」
藤守
「ああ、俺もそれ気になってたんや」
藤守さんも頷く。
警察というのは、厳密な縦社会だ。
現場では、年齢や勤続年数に関わらず、階級が上の者が指揮を執る事に決まっている。
まして、室長はキャリアだ。
最初から幹部候補として採用されるため、どんな条件でも采配を振る事が出来るよう、訓練を受けてきている。
明智さんや藤守さんの疑問は当然だった。
二人から見つめられて、室長は、ふふ、と微笑んだ。
穂積
「それは、ワタシよりも小松原係長の方が優れていると思うからよ、もちろん」
私はちょっと驚いた。
普段、室長はあまり他人と自分を比較した発言をしない。
しかも、失礼だけど、私は、小松原係長がそんなに凄い人だとは思っていなかったから、なおさら。
穂積
「人海戦術ではない地道な警護、特に建物警護の指揮を執らせたら、警備部No.1じゃないかしら。ワタシはその手腕を見て学びたいのよ」
小松原係長の才覚について目を輝かせて話す室長に、明智さんと藤守さんも意外そう。
すると、室内から、茉莉花さんがこちらに歩いてきた。
茉莉花
『ルイ、何かあったの?』
声は聞こえていたはずだけど、私たちは日本語で話していたので、茉莉花さんには内容が分からなかったらしい。
茉莉花さんは不安そうな様子で歩み寄りながら、室長を見上げた。
茉莉花
『もしかして、脅迫メールの送り主が現れたの?』
茉莉花さんは、それがブランさんの奥さん、元メインモデルのフローラさんだとは知らない。
穂積
『ご安心下さい。メールの送り主は、フランスで身柄を確保されました。しかし、まだ、その人物が雇った何者かが襲撃してくる可能性があるんです』
室長も、あえて、フローラさんの名前は伏せて応える。
襲撃、という言葉に、茉莉花さんが顔を強張らせた。
穂積
『先ほど、そのうち二人が不法侵入で確保されました。この先、何が起きるのかはまだ全く分かりませんが、あなた方の事は、必ず我々が守ります』
力強く言う室長の後ろで、明智さんと藤守さんも頷く。
緊張していた茉莉花さんの表情も、それで少し和らいだ。
茉莉花
『……分かったわ。あなたたちを信じて任せる。どうせ、私には何も出来ないんだし』
唇を噛む茉莉花さんの顔を覗き込むように、室長が身を屈めた。
穂積
『茉莉花さんは、裏で起きている事件など気付かせないように、ステージで華やかな笑顔を見せてくれればいいんです。貴女の代わりは、他の誰にも出来ません』
茉莉花
『……ありがとう、ルイ』
室長に励まされて、茉莉花さんは嬉しそうに頬を染めた。
翼
『室長の言う通りです。茉莉花さんの笑顔には、見る人を幸せにする力があります』
明智
『確かにそうだな。この俺でさえ、茉莉花さんが笑ってくれると嬉しくなるんだから』
藤守
『俺もや。その為になら、毎日徹夜で警護したってもええでえ』
私たちが次々に言うと、茉莉花さんは綺麗な目にうっすらと涙を浮かべて、微笑んだ。
茉莉花
『ありがとう、櫻井、アケチ、フジモリも。私は私に出来る事を、頑張ってやり遂げるわ』
茉莉花さんはもう一度、同意を求めるように室長を見上げてから、きっぱりと言った。
茉莉花
『ファッションショーは、夢を見させる魔法の舞台ですもの』
その舞台が明日、いよいよ始まる。