Tokyo☆アブナイ☆week
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その日の夜、つまり、《Tokyo☆Week》前夜。
私たちは数日分の泊まり込みに備えた身仕度も整えて、全員で『ブラン・ノワール』の楽屋を訪れた。
会場となる『渋谷☆KAGURA』最上階の広大な催事フロアには、すでに、本格的なステージが設置されている。
そのあちこちで、業者さんたちが、照明や音響効果などの最終調整をしていた。
高い天井で豪華なシャンデリアやミラーボールが輝き、壁や柱には豪華な花や優雅な布がふんだんにあしらわれ、フロア全体が、眩いほどに華やかな演出で彩られている。
中でもひときわ目を引くのは、客席を二分する、長いキャットウォーク。
明日は、目の前のここを、趣向を凝らした衣服を身に付けた大勢のモデルさんたちが、それぞれの美を競い合うように往き来するのだ。
その様子を思い浮かべて、私は今からワクワクした。
そうして自分の想像に浸りながら、うっとりと会場を眺めていると。
ノワール
『櫻井!』
声と同時に、突然、背後から抱きつかれた。
翼
「きゃー!」
ノワール
『待ってたわよ!会いたかったわあ!』
どのブランドも最終チェックを終え、大半のスタッフやモデルさんたちがホテルに戻って明日に備える中、『ブラン・ノワール』では、ブランさん、ノワールさん、そして、茉莉花さんが残っていて、私たちを迎えてくれた。
ノワール
『ホーント可愛いわあ!』
相変わらず、私に対するノワールさんの大歓迎ぶりは半端じゃないけど。
翼
「きゃー!きゃー!きゃー!」
激しいボディータッチをすり抜けて室長の陰に逃げ込むと、室長は苦笑いしながら、さりげなく背中に匿ってくれた。
穂積
『……警護計画の説明は以上です。非常に変則的なシフトになりますし、ノワールさんには、演出の面でも見直しをお願いする事になってしまいますが……』
口頭での説明を終え、すまなそうに警護計画書を差し出した室長に、ノワールさんは、ニコニコしながら両手を振った。
ノワール
『ノン、ノン、ルイ!パ ドゥ プロブレーム!問題ないわ!』
ノワールさんは、新しい計画に大いに乗り気。
ノワール
『ここにいるメンバーを、誰でもステージに立たせていいんでしょ?très bien!腕が鳴るわあ!』
そう。
室長の提案は、茉莉花さんの身代わりとしてステージに立つのではなく、捜査室のメンバーを茉莉花さんとともに歩かせ、舞台上で警護するというものだった。
もちろん、私たちの警護対象は茉莉花さんだけではないし、ステージ以外の場所でも警戒しなくてはならないから、全員が舞台に立つわけにはいかないけれど。
この計画に対しては、室長から初めて聞いた瞬間こそ戸惑いはしたものの、全員が賛同するのに時間はかからなかった。
明智さんや藤守さんは、元々、室長がモデルの身代わりを務める事に反対していたし。
如月さんなんて、『ファッションショーのステージ』という言葉を耳にした途端に目を輝かせ、「やったあ」と叫んでガッツポーズをしたくらいだった。
小笠原さんからの「如月、身長足りないじゃん」というツッコミが入るまでは。
ノワールさんは私たちを見渡して、誰にしようかしら、と順々に指差してから、腕組みをした。
そのノワールさんに向かって、笑顔で手を挙げたのは茉莉花さん。
茉莉花
『一人はルイがいいわ』
初顔合わせの時とは違って、茉莉花さんは楽しそうで、とてもリラックスした雰囲気。
ノワールさんも、すぐに頷く。
ノワール
『そうね。ルイは長身で見映えがするし、綺麗に歩くし。茉莉花のパートナーとして使えるわね』
穂積
『歩き方は、ノワールさんにみっちりしごかれましたからね』
室長は苦笑し、それから真顔に戻った。
穂積
『しかし、衣装はどうしますか?「ブラン・ノワール」はレディース専門ですよね』
ふむ、とブランさん。
ブラン
『ノワールはメンズも作れるが、さすがに、明日からのショーには間に合わないな』
任せて、とノワールさん。
ノワール
『取材のスチール写真用に用意してきたメンズスーツが数着あるわ。あとは「渋谷☆KAGURA」の中にあるメンズブランドからレンタルすれば、そちらの宣伝にもなって一石二鳥でしょ』
穂積
『ありがとうございます。柔軟で助かります』
ノワールさんやブランさんと段取りを進めていた室長が、ふと、如月さんに視線を向けた。
穂積
『……ところで、如月はどうです?』
如月
「えっ?!」
話題から外れ、下を向きかけていた如月さんが、反射的に素っ頓狂な声を出した。
穂積
『如月は小柄ですが、柔道有段者です。出来ればステージ警護にまわしたいのですが』
如月さんは大きな目をぱちぱちさせていたけど、室長の微笑みに気付くと、慌てて、ぐっと身を乗り出した。
如月
『お、お願いします。俺、ぜひやってみたいと言うか、やらせてください!』
私は、如月さんが、以前、キャバクラ『バニラ』に潜入捜査した時の事を思い出していた。
「ベッキー」と名乗って女装し、ホステスに扮した如月さんは、とっても可愛かったし、イキイキと働いていた。
そういえば、如月さんは《Tokyo☆Week》の開催も誰よりも早くから知っていたし、女の子のお化粧やファッションに関心があるみたい。
今回も、ステージと聞いて張り切っていたのに、「背が低いじゃん」と小笠原さんにツッコまれて、落ち込んでしまっていたっけ。
それを、室長は覚えていたんだな。
ノワール
『まあ!キサラギはジュードーが強いの?……でも、ちょっと小さいわねえ』
ブラン
『女装してもらったらいいんじゃないのか。カジュアルなら、ルイよりも似合いそうだ』
如月さんを品定めするように見てから、ブランさんが言った。
ノワール
『そうね。キサラギ、あなた、レディースでもい……』
如月
『いいです!』
語尾を食いぎみに返事をした如月さんに、ノワールさんは一瞬圧されたものの、すぐにニッコリ笑った。
ノワール
『了解、リョーカイ。任せて、キサラギ。可愛く仕上げてあげるわよ!』
如月
『はい!よろしくお願いします!』
日本語も交えて大きく頷いたノワールさんに、如月さんは勢いよく頭を下げた。
すると、今度はブランさんが、部屋の隅を指差す。
ブラン
『ところで、ルイ。ずっと気になっていたんだが、あそこにいるエレガントな男性は誰かな』
ブランさんの白い指先が指した先で、息を潜めていた小野瀬さんが飛び上がった。
穂積
『ああ、あれは小野瀬という男でして』
室長はわざとらしく小野瀬さんの存在を目視で確かめてから、笑顔でブランさんに答える。
穂積
『私の友人の鑑識官です。もしかしてお役に立つかと思いまして、連れてきてみました』
ブラン
『ほう』
ブランさんとノワールさんの目が輝く。
ノワール
『という事は、オノセも協力してくれるのね?』
穂積
『もちろん』
返事をしたのは室長。すかさず小野瀬さんが反論しようとする。
小野瀬
『おい、穂積!俺がいつ……』
茉莉花
『あら、オノセは私を守ってくれないの?』
首を傾げた茉莉花さんに見つめられて、小野瀬さんはぐっと言葉に詰まった。
狙われていると分かっていてステージに立つ茉莉花さんにそう言われてしまっては、さすがの小野瀬さんにも返す言葉が無いのだろう。
ノワール
『オノセなら、男装も女装もいけるわね』
ブラン
『可憐なヤマトナデシコがいい。きっと綺麗だ』
ノワール
『ユニセックスなスーツもいいんじゃないかしら。イメージ湧いてきたわよ!』
ブランさんとノワールさんは、すっかり小野瀬さんを気に入ったみたい。
小野瀬
「……」
小野瀬さんはひきつった愛想笑いを浮かべながら、目だけは室長を睨みつける。
小野瀬さんからの恨みのこもった眼差しなど、どこ吹く風。
してやったり、という表情の室長は、にんまりと満足そうに笑っていた。