Tokyo☆アブナイ☆week
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『ブラン・ノワール』スタッフと私たち捜査室メンバーとの初めての顔合わせは、オープニングイベントの二日前に行われた。
実際に警護に当たるのは前日の夜からだけど、直前ではショーの準備に差し障りがある為、少し早目の顔合わせになったのだ。
場所は、警備上の理由から、イベント期間終了まで『ブラン・ノワール』の貸し切りにしてもらった、『渋谷☆KAGURA』に近いホテル。
その一室で会うことになったのは、オーナーとデザイナー、そして専属モデルの一人、中国系アメリカ人の茉莉花(モーリーホワ)さん。
今回、この三人を警護する事が、捜査室の任務になったからだ。
もっとも、現在、捜査室の室長はこの部屋にはいない。
彼は警備部の指示に従って、既に何日も前から、新規採用のモデルとして潜入している。
そして、トレーニングを受けながら、密かに捜査を行っているのだ。
そんな最初の顔合わせで、いきなり私たちを驚かせたのが……
ノワール
『いやーん!このコ、かっわゆーい!』
互いに初対面の自己紹介を終えた途端、英語で黄色い叫び声を上げながら、私に頬擦りしてきたのは、『ブラン・ノワール』のデザイナー、ノワールさん。
……何と言うか中性的な雰囲気の人だけど、ほっそりとした黒人の中年男性だ。
翼
「きゃあ!」
彼は抱きついた勢いそのままに、黒くて細くて長い手で、私の身体中をペタペタ触りまくる。
ノワール
『顔!胸!お尻!みーんな小っさい!可愛いーい!』
翼
「きゃー!きゃー!きゃー!」
私は何とか彼の手から逃れて、明智さんの背中にしがみついた。
明智
「お、おい、櫻井」
明智さんは背中にくっついた私を振り返って、困った顔をひきつらせている。
それでもさらに迫って来るノワールさんと、私は、明智さんを軸にしてくるくる追い掛けっこをする羽目になってしまった。
明智
『二人とも、いい加減に……』
業を煮やした明智さんが声を上げかけた、その時。
ブラン
『失礼だぞ、ノワール。止めなさい』
間一髪、ノワールさんを押さえたのは、オフホワイトのダブルのスーツをダンディーに着こなした、『ブラン・ノワール』のオーナー、ブランさん。
ノワールさんと同年代だと思うけど、こちらは落ち着いたおじ様、っていう感じ。
ノワール
『あら、つい。ごめんなさーい』
ブランさんに諌められたノワールさんは足を止め、ニコニコしながら明智さんと私から離れた。
明智さんが、ようやく、ホッとした顔で、ブランさんに向かって頭を下げる。
ブランさんは優しく微笑むと、いま下げたばかりの明智さんの顎に指を当て、くいと持ち上げた。
ブラン
『わたしはアケチの方が好みだ』
ハンサムな白人のブランさんに頬をさらりと撫でられて、明智さんの顔に鳥肌が立つのが見えた。
明智
「うわぁっ!」
物凄い勢いで後退りする明智さんに、ブランさんは額にはらりと落ちた髪を白い指先で上げながら、ふ、と笑った。
ブラン
『冗談だよ。私も昔は色々やったが、今は妻帯者だしね』
ブランさんの意味深な眼差しを振り切って、明智さんは壁に張りついた。
明智
『……笑えません』
藤守
「何や、この展開は……」
如月
「相手は全部英語ですけど、言葉が分からなくても、何が起きているのか、だいたい分かりますね」
藤守
「フランスにも、アブナイ人たちがおるんやな」
如月
「むしろ、向こうが本場じゃないですか?この業界、多いらしいし」
藤守さんと如月さんが、ぼそぼそと会話を交わしている。
小笠原
「下らない」
小笠原さんが、深々と溜め息をついた。
そして、溜め息をついた人物が、もう一人。
茉莉花
『……ホント、下らない』
それは、最初からずっと不機嫌そうな表情で黙っていた、茉莉花さんだった。
茉莉花さんは25歳だと言う紹介だったけれど、童顔で、私よりも年下に見えるぐらい。
それでもさすがにハイブランドのモデルさんだけあって、驚くほど洗練された美人だし、身長だって、172cmの如月さんよりも高い。
茉莉花
『オーナー、どういう事?日本は治安が良いと聞いて来たのに。こんなに護衛がつくなんて普通じゃないわ』
ブラン
『今から説明するよ、茉莉花』
ブランさんはそう言うと、私たち全員をソファーセットに誘い、座らせた。
茉莉花さんも一度はソファーに腰掛けたものの、すぐにまた立ち上がった。
茉莉花
『イベント用の警備員かと思ったら、全員警察官だって言うし』
茉莉花さんは、早口の英語で捲し立てるように言ってから、彼女のはす向かいに座った、私と小笠原さんを見た。
茉莉花
『その上、私の護衛はこっちの二人だって言うし。弱そうで頼りないわ。悪いけど、いてもいなくても同じじゃない?』
うっ。
茉莉花さんは私たちから視線を転じると、今度は明智さんを見た。
茉莉花
『あなたがリーダーでしょ?ちゃんと説明して!』
振り向いた茉莉花さんにキッとした顔で睨まれて、明智さんが思わず怯む。
明智さんはとても強い人だけど、何故か、こういう押しの強い女性にはめっぽう弱い。
見かねたノワールさんが、助け船を出してくれた。
ノワール
『茉莉花、失礼でしょ。彼らは私たちを守ってくれるのよ』
さっき自分も叱られたばかりだけど、そんな事は棚に上げて、ノワールさんが茉莉花さんを諭そうとする。
ノワール
『気が立っているのは分かるけど、そんな態度は良くないわ』
茉莉花
『八つ当たりみたいに言わないでよ』
茉莉花さんは柳眉を吊り上げた。
茉莉花
『でも、そうね、ついでだから言わせてもらうわ。私だけじゃない、みんな思ってる事だもの』
翼
「……?」
何だろう。
茉莉花
『ルイは確かに綺麗よ。舞台映えするいいモデルだし、舞台裏では謙虚で礼儀正しいわ』
ルイ。
……きっと室長の事だ。
茉莉花
『でも、私たちにだって意地がある。Tokyoで雇ったばかりのルイをメインにしたら、長年専属で頑張ってきた、他のモデルたちが反発するわよ』
私はハッとした。
確かにその通りだ。
室長を身代わりにすれば、彼女たちの安全は守られる。
けれど、それと引き換えに、彼女たちはプライドを傷つけられる事になる。
茉莉花
『フローラさんが引退して、メインになるチャンスが廻ってきて、みんな張り切っていたのよ。それなのに』
ブラン
『分かってるよ、茉莉花』
ブランさんはゆったりと立ち上がって、茉莉花さんを抱くようにした。
そうすると、二人には、ちょうど父娘ほどの年齢差がある事が分かる。
ブラン
『よく聞きなさい。ルイは、メインにはしない。これは昨日、ノワールとも、ルイとも話し合った結果だ』
茉莉花
『えっ?!』
ブランさんの言葉に、茉莉花さんは、とても驚いたようだった。
さっきまでの剣幕とは裏腹に、困惑したような表情を浮かべる。
そして、顔色こそ変えないけれど、私たち捜査室のメンバーも、全員、仰天していた。
……どういう事?
ブランさんは茉莉花さんの髪にキスした後、彼女から離れた。
その後、デスクの上の電話の受話器を上げたブランさんは、スイッチを押し、二言三言呟いて、受話器を置く。
私たちはただ、互いに顔を見合わせるだけ。
それから間もなく、部屋のインターホンが鳴った。