Tokyo☆アブナイ☆week
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穂積
「あら、櫻井一人?」
朝の妖艶な姿とは違う、いつもの紺の三つ揃い。
彼の言うところの普通のオカマに戻った室長が、窓からの夕日を浴びながら立ち上がった。
随分と日が延びたんだな、なんて、私は、全く関係の無い事をぼんやりと思う。
穂積
「櫻井?」
室長が近付いて来て、私に当たっていた夕日の光が遮られた。
それで、私は我に返った。
穂積
「如月はどうしたの?」
翼
「は、はい。直帰です。あの、報告書は、捜査継続中のため、明日以降に提出する、とか、言ってました……」
本当はそこまで言ってなかったけど……。
穂積
「あいつめ」
室長は小さくため息をついた。
穂積
「それで、アンタは?」
翼
「え?」
室長の指先が、私の頬に触れた。
穂積
「アンタは何故、泣いてるの?」
指先から伝わってくる温もりに、自分の頬が冷たくなっている事に気付く。
いつの間に……
翼
「……う」
声を抑えようとした途端、涙がこみ上げてきた。
室長がゆっくりと私から離れ、入口の扉に鍵をかけた。
戻って来るのを待ちきれず、駆け寄って腕の中に飛び込む。
大きな手が、髪ごと頭を抱き寄せてくれる。
穂積
「……そうか、気付いたか」
その手に力が込められる。
翼
「ぅ、泪さん……っ……」
穂積
「翼」
室長が私を、名前で呼んだ。
もう、我慢できない。
堰を切ったように涙と不安とが溢れてきて、止まらない。
室長が、しがみつく私を抱き返してくれる。
もっと抱いて。もっと、もっと強く抱き締めて。
室長の胸に顔を押し当てたまま、私は号泣していた。
泣き疲れた私の瞼に、柔らかい唇が触れた。
離れてゆく温かさを追おうとして目を開くと、辺りはもううっすらと暗くなっていた。
日が落ちた捜査室のソファーで、私は、座っている室長の膝の上に、横抱きに抱えられていた。
見上げるともう一度、室長は私の瞼に優しいキスをくれた。
規則正しい鼓動が、繰り返し髪を撫でてくれる手が、私の気持ちを落ち着かせてゆく。
怖くないはずがない。
得体の知れない脅迫者、狙いの分からない犯行予告、特殊な状況での身代わり。
この人だって、怖くないはずがない。
それなのに落ち着いている室長を頼もしく思うと同時に、羨ましいと思う。
こんな時、慰められてしまうのはいつも私の方。
それを申し訳ないと思うのと同時に、情けなく思う。
強くなりたい。
翼
「教えて下さい」
穂積
「え?」
突然の言葉は、室長には聞き取り辛かったかもしれない。
けれど構わず、私は続けた。
翼
「私に出来る事を、教えて下さい」
私は身体を起こし、涙を拭った。
翼
「職場なのに、取り乱してすみませんでした。もう、大丈夫です」
室長に向き直り、姿勢を正す。
翼
「私、強運と記憶力しか取り柄が無いですけど。でも、でも頑張りますから」
私は立ち上がって、拳をぎゅっと握り締めた。
翼
「室長を守りたいんです」
私のすぐ膝元にいる室長の表情も見えないほど暗い部屋の中で、彼が、微かに息を呑んだのが分かった。
穂積
「……櫻井」
室長の呼び方が、「櫻井」に戻った。
翼
「私だけじゃありません。明智さんも、藤守さんも、小笠原さんも如月さんも小野瀬さんも、みんな同じ気持ちです」
そう。
たとえ口には出さなくても、みんな、同じ気持ちのはず。
翼
「私たちに、室長を守らせて下さい」
暗がりに慣れてきた目に、室長が微笑むのが見えた。
温かい手が、私の髪をくしゃりと撫でてくれる。
穂積
「……分かった」
立ち上がった室長が歩いて行って、捜査室の明かりを点ける。
急な明るさに目が眩んでいるうちに、室長は私の元に戻って来て、肩に手を置いた。
長身を屈めて、私と目の高さを合わせる。
穂積
「いいか、櫻井。これから俺が話す事をよく聞け」
男言葉で、仕事モード。
真剣な話の予感に、私は背筋を伸ばした。
翼
「はい、室長」
穂積
「俺の命を、お前たちに預ける」
驚いて見つめ返した時、彼は、その顔にいつもの力強い目の輝きと、笑顔とを湛えていた。