Tokyo☆アブナイ☆week
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~翼vision~
夏。
私が捜査室に配属されて、二度目の夏。
密かに心配していた人事異動も無くこの季節を迎えられて、今の私の心は、今日のお天気のように晴れやか。
私は、白い雲が浮かぶ真っ青な空を見上げると、両腕を挙げて、思いきり伸びをした。
緑の木々の間を抜けてくる風が涼しくて、心地好い。
さあ、今日も一日頑張るぞ!
翼
「おはようございます!」
張り切って捜査室の扉を開けたものの、いつもなら席にいて新聞を広げ、笑顔で「おはよう」と挨拶を返してくれる室長の姿が、今朝は無い。
翼
「あれ?」
どうしたんだろう。
まだ、早朝会議が終わらないのかな。
実は、この緊急特命捜査室の室長、穂積泪さんは私の恋人。
結婚を前提にお付き合いしていて、捜査室のメンバーと鑑識の小野瀬さんだけは、私たちの関係を知っている。
交際を始めて、二人で過ごす時間は増えたけど、職場で二人きりになれる時間は意外と少ない。
だから私は、他の皆が出勤して来るまでのほんの束の間だけど、室長が「泪さん」として接してくれる、朝のこの時間が好きだった。
それなのに。
どうしたんだろう。
いつもと違う朝の始まりにちょっとがっかりし、何となく胸騒ぎを覚えながらも、私は朝のコーヒーを淹れる準備を始めた。
それから間もなく明智さんが出勤し、藤守さん、如月さん、小笠原さんも順順に出勤してきたけれど、室長は現れない。
さらに鑑識の小野瀬さんまで登場し、全員がコーヒーを飲み終えても、まだ、室長は姿を見せない。
翼
「……どうしたんでしょうか、室長……」
始業時間が過ぎ、私はとうとう、口に出してしまった。
明智
「会議、にしては長引いているな」
室長不在なら職務を代行する役割になっている明智さんも、何も知らされていない様子だ。
如月
「鞄があるから出勤してるのは間違いないし」
藤守
「捜査本部が立ち上がるような緊急事態も起きてへんし」
如月さんと藤守さんは、顔を見合わせて首を傾げている。
小笠原
「小野瀬さん、何か心当たりないの?」
普段、他の人の事には無関心な小笠原さんも、何だかそわそわして落ち着かない様子。
小野瀬
「昨夜は残業の後、穂積と飲みに行ったけど、特にいつもと変わりなく別れたよ」
小野瀬さんは首を横に振った後、私の方を見た。
小野瀬
「その後は?きみと一緒じゃなかった?」
翼
「はい」
全員が、互いに、互いの顔をぐるりと見回す。
つまり、誰も何も知らないという事だ。
如月
「……俺、会議室を見てきます!」
如月さんが痺れを切らした。
翼
「あ、それなら私も」
藤守
「そしたら、手分けして……!」
私たちがいよいよ本格的に焦り始めた、その時。
遠くから、カツカツと廊下を歩いて来る靴の音が聴こえて来た。
広い歩幅、真っ直ぐにこちらへと向かって近付いて来る、その足音。
如月
「室長だ!」
如月さんが真っ先に歓声を上げ、私たちは、安堵の表情でそれに応えた。
明智
「良かった」
藤守
「やっぱり会議やったんかな」
室長を迎えようと足が自然に扉に向かいかけ、けれど、何故か、途中で全員の動きが停まった。
廊下の足音は速度を緩めず、むしろ加速して迫って来る。
小野瀬
「……みんな、下がって!」
ただならぬ気配を感じ取って小野瀬さんが叫んだのと。
同じ気配に反応した私たちが咄嗟に後退したのと。
捜査室の扉が凄まじい音を立てて開いたのとは、ほとんど同時だった。
全員
「……!……」
轟音の後、しん、と静まりかえった捜査室。
誰も声を出さない。いや、出せない。
私たちは、ひとり残らず、たった今現れた人物に、度肝を抜かれていた。
「待たせてごめんなさい」
全員の視線を集めて、入口でサングラスを外したのは、身長2mはあろうかという長身の、ものすごい美女だった。
赤いハイヒール、そして真紅のドレス。大胆なスリットから伸びた脚は真っ白で、すらりと長い。
8頭身で均整のとれたプロポーションに、蜂蜜色の長い髪。
形の良い唇には艶やかな紅が引かれ、肌はきめ細かく滑らかで、長くカールした睫毛に縁取られた目は、綺麗な碧色だ。
……碧…色?
……まさか。
いや、でも……。
さっきの声も確かに……。
私が見つめると、その美貌の女性は、私を見つめ返して、にっこりと微笑んだ。
……やっぱり間違いない。
翼
「室長!」
私の声から一拍置いて、全員が叫んだ。
全員
「室長ぉぉおぉーー?!」
如月
「何で?何で?!」
明智
「……本当に室長ですか…?」
藤守
「めちゃめちゃ色っぽいやん!」
小笠原
「意味が分からない」
小野瀬
「でも凄く綺麗だよ」
翼
「……」
みんなが口々に何か言うけど、私は驚きで声も出ない。
だって、本当に、圧倒されるほど綺麗だったから。
穂積
「ハイそこまで。……とりあえず、集まってちょうだい」
ざわめく全員を一旦制して、紅い唇から再び発せられたのは、やっぱり、紛れもない室長の声。
穂積
「ミーティング始めるわよ」
全員
「はいぃっ!」
弾かれたように、全員が、慌ててミーティングテーブルに集まる。
室長が私を振り返った。
穂積
「櫻井、番茶をお願い」
翼
「はっはい!」
室長は私の返事に頷くと背中を向け、ヒールの靴音を響かせて、ミーティングテーブルに向かった。
途中、にこにこしながら近付いて来た小野瀬さんを、手にしたファイルで一発叩く。
穂積
「アンタは鑑識に帰りなさい!」
小野瀬
「えーやだよ、もったいない」
小野瀬さんがもう一度叩かれた。
穂積
「全くもう」
テーブルに就き、振り向いた室長は、まだぼんやり立ち尽くしている私と目が合うと、苦笑した。
穂積
「櫻井、番・茶」
翼
「あっ、はい!」
い、いけない、見惚れてる場合じゃなかった。
何が何だか分からないけど、私は慌てて、室長のお茶を入れるために、給湯室に向かうのだった。