7人の室長
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~翼vision~
12月18日。
今日は室長のお誕生日。
私は胸に抱くように小さなプレゼントを携えて、捜査室への廊下を歩いていた。
自然と速くなってしまう足取り、緩んでしまう頬。
誰かに贈り物をする時は、いつもドキドキする。
その相手が初めての恋人なら、なおさら。
笑顔で受け取ってくれるかな、開けたら何て言ってくれるかな。
どうか、気に入ってくれますように。
心の奥で祈ってから、扉の前で足を止め、深呼吸をする。
それから捜査室の扉を開けると、私は、元気よく声を出した。
翼
「おはようございます!」
すると。
穂積
「おはよう」
穂積?
「おはよう」
穂積?
「おはようさん」
穂積?
「……おはよう」
穂積?
「おっはよー!」
……全員が金髪碧眼、紺の三つ揃い。
翼
「……ひゃあっ?!」
目の前の光景に思わず後ずさった私の背後で扉が開いて、背中が当たった。
反射的に振り返ったそこに現れたのは、やっぱり室長。
穂積?
「おはよう、櫻井さん」
翼
「ひゃああああっ!!」
悲鳴を上げてその場にへたりこんだ私を見て、6人の室長が、一斉に笑った。
翼
「……コスプレ……」
ソファーに横に寝かされた私の額に、室長が冷たいタオルを乗せてくれる。
穂積?
「櫻井、大丈夫か?驚かせてすまん」
翼
「……明智さん……」
穂積
「全員、金髪のカツラと碧色のカラーコンタクト、紺の三つ揃いまで仕込んで来たんですってよ」
呆れるでしょ、とは言うものの、本物の室長は楽しそうに笑った。
穂積?
「今日は室長の誕生日だろう?夜はいつもの居酒屋でお祝いだが、もうひとつサプライズを、と思ってな」
穂積
「櫻井へのサプライズになるとはねえ」
真面目な顔の明智さんの室長の肩越しに、室長はまだ笑っている。
穂積
「でも、明智の出来映えはなかなかいいわね。今度、代わりに会議に出てもらおうかしら」
穂積?
「勘弁してください」
さらに、本物の室長の肩に手をおいて、新たな室長がひょっこり笑顔を覗かせた。
穂積?
「明智さんの室長は、本物よりちょっと男っぽくて、エエ感じですよ」
穂積?
「……まあ、お前の、関西弁の室長よりは違和感が無いかもしれないな」
私の視界の中に、室長が三人いる……。
穂積?
「いやー、俺、ロッカーの鏡で、金髪碧眼の自分を見て笑ってもうた」
穂積?
「そのわりに、スマホで写真撮りまくってたじゃないですか」
穂積?
「だっておもろいやん。笑える写真を何枚持ってるかで、人間の価値は決まるんやで?」
穂積?
「関西ではね」
さらに、ひとまわり小柄な室長が二人、藤守さんの室長にツッコミを入れながら、ソファーの横に立った。
穂積?
「翼ちゃん、このサプライズ、俺のアイディアなんだよ!」
翼
「……そうじゃないかと思ってました」
如月さんの室長は、元々、髪が明るい栗色なので、見た目では一番素顔に近い。
穂積?
「こいつかて、ニコニコしながら自分の写真撮りまくってんで」
穂積?
「だって、室長の少年時代、って感じしません?」
さらさらの金髪を指でつまんで、如月さんはご満悦。
でも、目の色が碧眼になっても、室長とはちょっと違うかな?
何て言うか……
穂積?
「少年と言うより、少女みたいだけどね」
それだ!
そう思ったのは私だけではなかったらしく、みんながどっと笑った。
穂積?
「ちぇー。でも、小笠原さんは見違えましたよ。金髪もカラーコンタクトも似合ってます」
穂積?
「小笠原くんは顔立ちが端整だからね」
穂積?
「でも目が痛いよ」
如月さんと小野瀬さんに口々に褒められて、小笠原さんは顔を赤らめる。
一方で、柑橘系の香りのする室長が、妖艶に微笑んだ。
穂積?
「俺なんて、今朝、この姿で出勤したら、職員玄関からここまで来る間に、12人の女子から『お誕生日おめでとうございます』って言われた」
穂積
「俺の姿でフェロモンを撒き散らすな!」
穂積?
「そのうち3人からプレゼントをもらった」
穂積
「受け取るな!」
穂積?
「だって、声を出して俺だとバレたら騒ぎになるじゃない?だから、黙ってにっこり笑って受け取るしかなかったんだよ」
穂積
「好きでもなんでもない相手からのプレゼントなんかいらん!」
室長に怒鳴られて、小野瀬さんの室長が肩をすくめる。
プレゼント、という単語に、私は、手にしたままだった自分のプレゼントを、急いで背中に隠そうとした。
けれどもちろん時はすでに遅く、私の手元の小さな包みは、6人の室長に凝視される事になってしまった。
穂積?
「あのさ、ずっと気になってたんだけど」
穂積?
「それ、もしかしてプレゼント?」
穂積
「……」
穂積?
「うわ、俺らが余計な事したから渡しそこねたんちゃう?櫻井、堪忍やで」
藤守さんの室長が、拝むように手を合わせた。
穂積?
「そうだったのか?すまん、櫻井。遠慮なく渡してくれ」
謝りながら明智さんの室長が下がるのを合図に、本物の室長だけを残して、全員がソファーから離れてゆく。
……いえあの、お気持ちはありがたいですが、かえって渡しづらいんですけど!
そうは思っても言えるはずもなく、私は、仕方なく身体を起こすと、立ち上がった。
翼
「……」
遠巻きに見守るコスプレの室長たちに囲まれて、本物の室長と向かい合う。
なんか、変な汗出てきちゃった。
室長、何も言ってくれないし。
それに、さっき、『好きでもなんでもない相手からのプレゼントなんかいらん』って言ってたし……。
もしも、もしも、『お前からのプレゼントなんかいらない』なんて言われちゃったら……。
緊張と迷いで、じわりと目の奥が熱くなった瞬間、俯いていた私の目の前に、大きな掌が差し出された。
思わず顔を上げると、掌の持ち主は怒ったような赤い顔をして、私を見ていた。
穂積
「ワタシにじゃないの?」
私はその顔と掌とを見比べた。
翼
「え、でもあの……」
穂積
「何よ。もしかして、さっき言った事気にしてるの?」
翼
「だって、もし、ご迷惑だったら……」
室長は、はあ、と大きく息を吐いた。
穂積
「欲しいわよ」
翼
「えっ」
穂積
「好きでもなんでもない相手からのプレゼントなんかいらない。でも、アンタからもらえるなら欲しい!これでいい?!」
見上げた私の視線の先で、室長は耳まで真っ赤になった。
唇を尖らせる室長の後ろで、5人の室長がニヤニヤしている。
穂積
「くれるの?くれないの?」
これ以上焦らしたら、本気で怒らせてしまいそう。
私は、慌てて、握りしめていたプレゼントを差し出した。
翼
「あげます!室長、お誕生日おめでとうございます!」
プレゼントの包みが私の手から室長の手に移ると、室長は、ようやく、ホッとしたように表情を緩めてくれた。
穂積
「ありがとう」
室長が笑顔になった途端、期せずして、拍手が起こった。
穂積?
「うっわー、いいなぁ!室長、何もらったんですか?!」
穂積
「知りたい?」
室長が振り返ると、5人の室長が頷いた。
穂積?
「知りたい」
穂積?
「俺も」
穂積?
「知りたい!めっちゃ知りたい!」
穂積?
「櫻井さん、見せてもらってもいい?」
翼
「いいですけど」
穂積
「ワタシは教えたくないけど」
穂積?
「まあまあ、そう言わずに。櫻井さんが言ったでしょ、『室長へのプレゼント』だって」
小野瀬さんの室長が戻ってきて、室長の手からプレゼントの包みを抜き取ってテーブルの上に置いた。
穂積?
「あ、そうか。今日は俺ら、全員『室長』やもんな」
穂積?
「見る権利がある」
穂積?
「いやー、プレゼントって、この、リボンをほどく瞬間が一番ワクワクしますね!」
あっという間に全員がソファーセットに座り込み、その真ん中で包みが開かれる。
出てきたのは、灰皿。
繊細なカッティングの施された、クリスタルの灰皿だ。
穂積?
「いい灰皿だな」
翼
「アンティークショップで見つけたので、新品じゃないんですけど。すごく、素敵だなと思って」
穂積?
「あれ、底に何か書いてあるよ」
翼
「あ、それは……」
ちょっと恥ずかしい。
隠そうとしたのを、横から手が伸びて、本物の室長が灰皿を手にした。
穂積
「『健康のため、吸いすぎに注意しましょう』……?」
穂積?
「あはははは!」
それは私が、灰皿の底に油性サインペンで書いたメッセージ。
穂積
「アンタは私に煙草を吸わせたいの?吸わせたくないの?」
室長は灰皿を両手で持ったまま、がっくりと肩を落とした。
穂積
「せっかくもらったのに、これじゃ使えないじゃない……」
穂積?
「愛情表現ですよ。ねっ、翼ちゃん?」
穂積?
「可愛いメッセージだよ。羨ましいな」
穂積?
「室長、めっちゃ愛されてますやん」
口々に冷やかされて、また、室長の顔が赤くなる。
穂積
「うるさい!もう、サプライズはこれで終わり!コスプレも終わり!仕事、仕事!」
照れ隠しのように怒鳴る室長に、明智さんの室長が笑った。
穂積?
「了解です。……続きは今夜、居酒屋でだな」
穂積?
「女将を驚かせたろ」
穂積?
「怒られるかも」
穂積?
「櫻井さん、金髪のウィッグ用意しておくから。宴会までに、女性用の紺の三つ揃いをレンタルしておいでよ」
翼
「えっ?」
穂積?
「賛成!みんなで室長のコスプレして、写真撮ろう!」
翼
「やりたいです!すごく楽しそう!」
盛り上がる私たちを眺めながら、室長も苦笑い。
穂積
「全くもう、アンタたちは……」
穂積?
「『さすが、ワタシの部下ね』でしょ、室長?」
すかさずツッコむ藤守さん。
室長席に戻った室長が、パンパン、と手を叩いた。
穂積
「さあ、ミーティング始めるわよ!」
全員
「イエッサー、ボス!お誕生日、おめでとうございます!」
室長が、笑いながら敬礼してくれる。
私たちは全員揃って、本物の室長に、敬礼を返した。
~END~