恋心
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~翼vision~
一日の仕事が終わり、みんなが帰り支度を始める。
私も帰り支度を進めていると、室長が声をかけてきた。
穂積
「櫻井」
翼
「はい、何でしょうか?」
穂積
「悪いけど、この後、少し残ってもらえるかしら」
結婚を前提にお付き合いしている室長と私だけど、彼がオカマ口調の時は、まだ仕事モードだという証。
翼
「あ、はい、大丈夫です。けど……何か……?」
私の問いかけに、室長は手元の資料をトントンと叩く。
穂積
「今日中に資料のまとめ直しをしたいから、ちょっと手伝って欲しいの」
翼
「はい、分かりました」
穂積
「ワタシが読み上げるから、それを打ち込んでちょうだい」
翼
「はい」
私は頷いて座り直し、パソコンを起動した。
藤守
「ほな、お先に」
如月
「お先でーす!」
みんなが帰宅し、窓の外が暗くなる頃……。
穂積
「……と、これで全部だから」
翼
「はい。じゃあ、改めて整えてからまたご報告しますね」
穂積
「お願いするわ。出来たらプリントアウトしてくれる?」
翼
「分かりました」
私は手早くデータをまとめ、それをプリントアウトする。
最近はいちいち説明されなくても、求められる書類を作れるようになってきた。
少しでも、室長の役に立てるようになってきたのかな、と思うと、嬉しくなる。
プリンタから出てきた資料を手にした私は、室長の席へ向かった。
翼
「室長、さっきのまとめ終わりました」
穂積
「ああ、ありがとう」
室長はそう言って、私が差し出した書類を受け取る。
そのとき、私と、室長の指先が触れ合った。
翼
(あ……)
ドキリとして動きを止めると、室長が私を見る。
穂積
「どうかした?」
翼
「あ、いえ、何でも」
とっさに笑顔を浮かべると、室長は書類に視線を戻した。
穂積
「ワタシはこれを仕上げて提出しないとならないから、先に帰っていいわよ。ありがとう、助かったわ」
翼
「はい……」
翼
(今、ドキッとしちゃった)
捜査室に異動したばかりの頃にも、同じように指が触れて、今のようにドキドキした事があった。
翼
(……きっと、あの頃からもう、私はこの人が好きだったんだな)
それからお付き合いするようになって、手を繋いだり、キスしたり、抱き合うのさえ当たり前になったけど。
だけど、やっぱり、この人に触れられると胸が高鳴る。
そんな事を思いながら、つい、室長をまじまじと見つめていると、彼が横目で私を見た。
穂積
「何?」
翼
「いえっ、何でもないです!」
慌てて首を横に振ったものの、室長は怪訝そうな表情を崩さない。
穂積
「アンタ、さっきから変よ」
翼
「えっ?」
変な声が出てしまった。
穂積
「ホント、分かりやすいコ。アンタ、隠し事が出来ないタイプなんだから、今のうちに正直に言いなさい」
翼
「い、いえあの、隠し事というほどの事では」
私が後ずさると、室長が、ゆっくりと立ち上がった。
穂積
「ホラ。今、何かある、って白状したわよ」
室長は私の目の前で立ち止まると、私の顎をつかんだ。
そのままグイッと上を向かされ、至近距離で彼と見つめ合うことになる。
翼
「え」
穂積
「さ、言いなさい。どうして、今、ワタシを見てたのか」
威圧的な瞳で私を見下ろす室長。
鋭い眼差しと整った顔立ちが間近に迫り、いろいろな意味で鼓動が速くなる。
翼
「あ、の……」
穂積
「はーやーくー言ーいーなーさーいー」
吐息が触れるほど近づいた室長の唇が、どこか不気味な笑みを刻んだ。
穂積
「言わないと、アンタがまだ知らないような方法で、無理矢理吐かせるわよ?」
翼
「ま、まだ知らない方法って……」
穂積
「いいのね?」
妖艶な笑みに追い詰められて、私はもう半ば自棄になって叫んだ。
翼
「いっ、言います!さっき、室長の指が触れてドキッとしたんです!それだけです!」
私がひと息にそう言うと、室長は一瞬呆れ、それから、ぷ、と噴き出した。
穂積
「あっはっはっはっはっ!」
室長の笑う声を聞きながら、私は真っ赤になって俯いた。
ううっ、恥ずかしい。
穂積
「……そう言えば前にも、こんな事があったな」
室長の大きな手が、もう一度、私の顎を持ち上げた。
けれど、その動きは、さっきとは比べ物にならないほど優しい。
穂積
「お前は本当に、いつまでも……」
そろりと見上げると、笑みを浮かべた室長と目が合う。
室長の顔が近付いて、こつん、と額がぶつかった。
穂積
「……お子様だな」
翼
「ううう、ごめんなさい」
ふ、と室長が笑った。
穂積
「……さすがに、指が触れただけでときめくような子どもじゃないけど……」
室長の指先が、私の頬を撫でた。
穂積
「二人きりでいて、俺が我慢している事に気付かなかったか?」
翼
「……室長……」
穂積
「お前に触れるとドキドキする」
碧の瞳で見つめられ、親指で唇の縁をなぞられて、私はそっと目を閉じた。
穂積
「俺が、翼を好きだからだな」
翼
「……私も、大好き……」
触れ合うたびに好きになる。
優しい声も、きれいな髪も、温かい身体も。
唇が重なって、私は彼に包まれる。
心地好いキスも、間近でしか分からない甘い香りも、伝わってくる鼓動も。
全てが愛しくて、恋しくて。
私は、いまだに、指が触れあっただけでときめいてしまうようなお子様かもしれないけど。
初めて彼を意識した時のようなこの気持ちも、いつまでも忘れずに持っていたい。
彼の背中にまわした手に力を込めると、私を抱く彼の腕が力を増した。
私の気持ちに応えるように。
同じ気持ちだ、と教えてくれるかのように。
穂積
「違うぞ、翼」
翼
「えっ?!」
穂積
「いつだって俺の方が、何倍もお前の事を好きなんだからな」
室長はそう言うと微笑んで、もう一度、私にキスをしてくれた。
~END~
→おまけ