ワルプルギスの夜
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~穂積vision~
妙な連中だった。
連れ込まれたのは人気の無い倉庫などではなく、なんと繁華街のラブホテル。
……って、俺の車を、こんな下品で安っすい場所に停めるんじゃねえよ!
ナンバーが道端から丸見えだろうが!おまけに、男五人でチェックインってどんなプレイだ!
けばけばしいピンク色の内装の部屋に入ると、自分の手錠を後ろ手に嵌められ、床に座らされた上、これまた備え付けのタオルで両足首を縛られた。
俺の動きを徐々に封じながら、どいつもこいつも相変わらずニヤニヤしてやがる。
何考えてんだこいつら。
やがて、リーダーっぽい男が化粧台から椅子を引いて来て、俺の前に座った。
男A
『さて相談だ、Hozumi』
俺は返事の代わりに、そいつを睨み付けた。
男A
『我々は、ある人物の為に《第一の指輪》を探している』
俺の脳裏を、藤守のアニの高飛車な姿がよぎった。
いや、厳密には、アニの名を騙り、アニの顔を借りて櫻井に近付いた、ジョン・スミスの姿が。
男A
『その人物は、一瞬だが《第一の指輪》を手にしたと、我々に言った。ほんのひとときだが、彼は全ての指輪を揃えた。それで満足だと言った』
……いやなセリフを思い出させやがって。
あいつが櫻井の左薬指にキスした光景を目に浮かべると、今でも胸糞が悪くなる。
だが、今こいつが言った通りだった。
ジョン・スミスは満足して去ったはずだ。
それが、今さら何故?
男A
『我々は、彼の目的に賛同し、協力を惜しまなかった。それなのに、最後の最後で、彼は指輪を諦めたのだ。それが、納得出来ない』
穂積
「……」
なるほど。
穂積
『本音を言ったらどうだ?《第一の指輪》には、三百億の価値があるそうじゃないか』
男たちに、突然、殺気がみなぎった。
正直な奴らだ。
穂積
『お前らの「彼」は、指輪への執着を失っている。お前らは指輪の持ち主を知っている。手に入れたくなって当然だよな』
俺が言うと、リーダーの男は、凄惨な笑いを浮かべた。
男A
『話が早くて助かるよ、Hozumi。それで?指輪はどこだ?』
穂積
『……』
俺が答えなかったのは、勿体ぶったわけじゃない。
ここが正念場だと思ったからだ。
男A
『慎重だな、Rui Hozumi』
男は笑いを浮かべたままだ。
男A
『だが、分かっているんだよ。指輪は、君か、彼女のどちらかが持っている。そうだろう?』
男の目配せで、それまで俺の横に立っていた男が、両脇から俺を持ち上げて立たせた。
男A
『君が白状しなければ、我々は彼女を責める事になる。こんなふうに』
力ずくで、引き摺られるようにしてバスルームに連れて行かれ、頭から湯の中に押し込まれた。
最初は息を止めていたが、馬鹿力で押さえつけられて身動きが取れない。
やがて息が続かなくなり、しこたま湯を飲んだ。髪を掴まれて引き上げられ、息を継いだ瞬間にまた顔を湯に突っ込まれる。
水ではなく湯に上半身を逆さまに突っ込まれるせいで、体力がどんどん削られていくのがわかる。
それを何度か繰り返され、タイルの上で噎せ返っていると、脇腹を蹴られて仰向けにされた。
男A
『どうだ?Hozumi。愛する女を、同じ目に遭わせたいか?』
そのまま踏まれる。
俺を足蹴にしたのは、あの、リーダー格の男だった。
男A
『……少し痛めつけてやれ。ただし殺すな』
再び両方から引き起こされた俺の身体に、無言でいくつもの拳が叩き込まれた。
~翼vision~
捜査室の張り詰めた空気を、突然鳴り響いた卓上電話の音が破った。
翼
「!」
跳ね上がってドキドキする心臓を押さえていると、明智さんが、出ろ、という仕草をした。
私は頷き、スピーカーでみんなに会話が聴こえるようにしてから、受話器を取った。
翼
「はい。緊急特命捜査室櫻井……」
居酒屋の女将
『あんたたち!予約しといて、いったい、いつになったら来るんだい!』
女将さんの怒声に、私は思わず、受話器を耳から遠ざけた。
翼
「あ」
全員が、顔を見合わせた。
壁の時計はもう、八時を大きくまわっている。
翼
「す、すすすみません」
完全に忘れていた。
居酒屋の女将
『悪魔が人並みに誕生日祝うってからさ!こっちも準備してやってんだよ!早く来な!』
翼
「あの、それがですね。実は、室長がまだでして……」
居酒屋の女将
『あぁ?何言ってるんだい?!穂積なら、さっき、上板橋の●●ってラブホにいただろ!』
翼
「ええぇっ?!」
全員が色めき立った。
明智
「上板橋だ!小笠原!急いで調べろ!」
小笠原
「やってる!」
藤守
「如月!車で出るで!」
如月
「アイアイサー!」
小野瀬
「……」
藤守さんと如月さんが飛び出して行った後の捜査室の中で、私はある違和感を口にしていた。
翼
「あの……あなたは、誰ですか?」
すると、たちまち、女将さんの声が、聞き覚えのある若い男性の声に変わった。
JS
『あれ、もうバレちゃった』
翼
「あの女将さんは、警察の不規則な勤務事情をよくご存知です。たとえすっぽかしても、文句なんか言いません」
JS
『さすがだね、マルガレーテ』
翼
「ふざけないで下さい!あなた、室長に何をしたんですか?!」
JS
『……それについては、僕の本意じゃない。本当にすまないと思っているんだ。今、僕は遠くにいて、すぐにはそちらに行けない。だから、早く行って。彼を助けて。じゃあ、再見』
翼
「あっ!待ちなさい!」
受話器に叫んでいた私の手を、小野瀬さんが引いた。
小野瀬
「櫻井さん、今は、とにかく穂積だ」
翼
「小野瀬さん……」
明智
「行くぞ、櫻井!」
翼
「はい!」
明智さんに呼ばれて、私は走り出した。
そうだ。JSなんかどうでもいい。
今は、一刻も早く、室長に会いたい。
お願い、無事でいて、室長!
~穂積vision~
穂積
「……」
拘束されて無抵抗で三人から殴る蹴るの暴行を受け続けると、さすがの俺もちょっと苦しい。
くっそう。
肋骨が何本かイッたか。
ぜいぜいしながら仰向けに床に転がっていると、誰かが、俺の頭を踏んだ。
またあいつだな。
男A
『しぶといな、Hozumi』
穂積
『警察官だからな』
俺は血の混じった唾を、男の靴に向かってぺっと吐いた。
穂積
『……俺が、山田太郎から教わった事を、ひとつ教えてやろうか』
俺は、男の目を見据えて、笑ってやった。
穂積
『《指輪は持ち主を選ぶ》』
男の目に、凶悪な光が宿る。
俺は襟首を掴まれ、平手打ちを浴びた。
口の中に、血の味が広がる。
男A
『貴様っ……我々が指輪に相応しくないとでも……』
男B
『落ち着けよ。殺したら喋れなくなる』
リーダー格の男をなだめ、俺の傍らに膝をついたのは、あのニヤニヤ野郎だった。
男B
『こういう気の強い奴には、他にも方法がある。……おい』
後ろに向かって目配せをすると、また一人、俺に近付いて来た。
男C
『可哀想に、Rui。痛かっただろう?』
そいつは言いながら、濡れて顔に張り付いた俺の髪を、指先で丁寧に直し始めた。
それだけなのに、背筋が寒くなった。
こいつは今まで、俺に危害を加えなかった唯一の男だった。
それが、まさか。
男C
『Ruiは綺麗だなあ。こんな美しい男、初めて見たよ。ねえ、優しくするから、いいだろう?』
頬を撫でられて、ざあっ、と全身に鳥肌が立った。
思わず身を捩って、男の手から逃れようとする。
男A
『ほう』
男B
『ふふ』
男の指が俺の服を脱がしにかかるのを、他の連中が笑って見ている。
男B
『では、交渉相手をマルガレーテに変えましょうか』
マルガレーテ?
……櫻井。
男A
『やむを得ない。Hozumiを責めても情報は得られんようだ。……後はマルガレーテを落とす為に、役に立ってもらおう』
そう言うと、リーダーは俺から奪った携帯を取り出し、電源を入れた。
~翼vision~
翼
「あっ!」
携帯が鳴っている。
私は、隣の座席に座り、私の肩を抱いてくれている小野瀬さんに、着信画面を見せた。
画面は、メールの着信を示している。
翼
「室長の携帯からメールです!」
小野瀬
「櫻井さん、開いて。……小笠原」
小野瀬さんが手を伸ばすと、助手席でナナコを抱いて座っている小笠原さんから、ケーブルが差し出された。
運転席の明智さんはアクセルを緩めない。
小野瀬さんと小笠原さんが頷くのを確かめて、私はボタンを押した。
現れたのは、動画だった。
翼
「……?」
一面、ピンクの部屋。
画面の中央、床に、誰かが縛られて倒れているように見える。そして、傍らでもう一人の人物が、その人に手を伸ばし……
翼
「ーーーーッ!」
小野瀬さんの手が私から携帯を奪い、私の視野を自分の身体で覆った。
小野瀬
「小笠原!」
小野瀬さんは私の携帯を小笠原さんに渡し、私の身体を強く抱き寄せた。
小野瀬
「大丈夫、大丈夫だ。穂積は生きてる。ただ、少し服がはだけてるだけ。何も起きていない。何も起きていない」
小野瀬さんに言われても、震えが止まらなかった。
一緒にいた人、室長の胸や腰を触ってた。
室長は、猿轡を噛まされていた。痣だらけだった。
また、携帯が鳴った。
今度は、通話の着信だ。
小笠原さんが心配そうに、私に携帯を返してよこした。ケーブルは繋がったままだ。
翼
「……櫻井です」
男A
『Where is your ring? Margarete.(指輪はどこだ?)』
英語?!
男A
『I will exchange Hozumi for a ring.(指輪と穂積を交換しよう)』
小野瀬さんが、反対側の耳に口を寄せた。
小野瀬
「A ring raises to you. Please teach me the method of delivery.(指輪はあなたに差し上げます。受け渡しの方法を教えて下さい)」
翼
『あ、A ring raises to you……. Please teach me the method of delivery.』
電話の相手は、満足そうに笑った。
男A
『You are a wise woman. It is wonderful.(賢明だ)』
その時。
藤守の声
『おらあぁあっ!!』
如月の声
『動くな!警察だ!』
受話器の向こうで大音声が起こり、電話が切れた。