女心は秋の空
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翼
「……小春ちゃん」
穂積
「は?」
この場面で小春ちゃんの名前は唐突過ぎたのか、泪さんが、聞き返してきた。
穂積
「小日向が、どうかしたか?」
翼
「泪さんが、小春ちゃんを好きにならないか、不安なの」
穂積
「……はあ?」
泪さんには、まだ、ピンと来ないようだ。
翼
「だって、昨日、☆☆ホテルで、一緒にいたでしょう?」
穂積
「ああ、いたよ。なんだ、お前、来てたのか。声かけてくれれば良かったのに」
翼
「……」
泪さんは、あっさり認めた。
だけど、どうにも、噛み合わない。
私は、ベッドの上で身を揉んだ。
翼
「声なんて、かけられなかった。だって、怖かったんだもの!」
穂積
「怖い?何が?」
翼
「だって、小春ちゃんは、若くて、小さくて、可愛い。頑張り屋で、みんなから好かれる。だから、泪さんが好きになっても、おかしくないでしょう?」
穂積
「……」
身体が震えて、また、感情が込み上げてくる。
翼
「私、犯罪と遭遇しやすくて、検挙率が高いのを、泪さんに見込まれて、スカウトしてもらえた。誰の顔でも、どんな場面でも、一度見たら忘れない記憶力の事も、泪さんは褒めて、伸ばしてくれた。誰にでも出来る事じゃない、才能だ、って、言ってくれた。だから、私、それだけが自慢だった」
泪さんが、何か言いたそうな顔で私を見ている。
でも、止められなかった。
翼
「私、一昨日、小春ちゃんが、一瞬でスリを見抜いたのを、目の前で見た。小春ちゃんは、地道に経験を積んできたからこその自信を武器に、一度に3人を逮捕したの。持って生まれただけの私の才能とは、全く違う力を持ってる人だったの。凄いと思った」
私は、勇気を振り絞って顔を上げた。
でも、泪さんの目を見たらまた怖くなって、自分から、目を逸らした。
翼
「私、とても、敵わない」
顔は徐々に俯いて、声は小さくなって、言葉は尻窄みになっていってしまう。
翼
「……その人が、いるはずのない場所で、泪さんと一緒にいたんだもの。……私、怖かった。……怖くなって、どうすればいいか分からなくなって、走って逃げたの。家に帰って、布団に飛び込んで、一晩中震えてた……」
最後は、もう、自分でも聞き取れないほどの声になっていた。
泪さんも黙っていたから、私が話し終えると、医務室は、しん、と静かになってしまった。
穂積
「……それで、遅刻したのか」
やがて、泪さんが、沈黙を破った。
穂積
「アホの子」
え?
今言う?!
翼
「今、それ言うの?」
穂積
「だって、そうだろう」
泪さんは溜め息をつくと、さっき閉めたスライドドアを、無造作にガラッと開けた。
そこには、小野瀬さんと小春ちゃんが立っている。
でも、どういうわけか、小野瀬さんは顔が赤らむほど笑いを堪えていて、小春ちゃんは、目元を赤くして、ハンカチを握り締めていた。
何?
どういう事?
それに、泪さんは、何故、ドアを開けて、小野瀬さんと小春ちゃんを入れたんだろう?
2人が、私と泪さんを心配して、ドアを閉められた後も、外で話を聞いていたとしても、不思議はない。
でも、私にしたら、小春ちゃん絡みの、深刻な話をしていたつもりなんだけど?
穂積
「結論から言う」
泪さんは、ベッドの傍らまで来て、私を見下ろした。
小野瀬さんと小春ちゃんも、そろそろと後ろから付いてくる。
穂積
「小日向は、俺と同期で、警察庁に入庁した。キャリア採用なのも同じで、年齢も、階級も、同じだ。ただ、彼女は結婚している」
翼
「け」
変な声が出てしまった。
翼
「結婚してる?!小春ちゃんが、えっ?30歳?!キャリアで、警視なの?!いや、なんですか?!」
穂積
「アホを上塗りするんじゃない」
泪さんが、醒めた眼差しを私に向けた。