女心は秋の空
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次の日、私は、遅刻してしまった。
一睡も出来なくて、シャワーを浴びただけで、夕食も朝食も摂らずに出勤した。
よほど、酷い顔をしていたんだろう。
ミーティングで私の顔を見た泪さんは、遅刻を注意するどころか、仕事はいいから、しばらく医務室で休みなさいとまで言ってくれた。
小春ちゃんは、もっと心配してくれた。
ほとんど泣きそうな顔で医務室まで付き添ってくれた後は、熱を計ったり、毛布を掛けてくれたり、葛根湯が効くかもしれないとか、点滴してもらったらどうかとか、ゼリー飲料やプリンなら食べられるかとか、こまごまと気を遣ってくれて、ただの寝不足なのが申し訳なくなるぐらいだった。
だけど正直、小春ちゃんの顔を見ると、色々と考えてしまう。
悪いとは思ったけど、小春ちゃんには仕事に戻ってもらって、ブドウ糖を点滴する間、寝かせてもらう事にした。
我ながらおかしいけど、泪さんと小春ちゃんは捜査室にいて、みんなに囲まれて仕事をしている、そう思ったら、眠る事が出来たのだ。
目が覚めた時、私のベッドの傍らに置かれたパイプ椅子に腰掛けていたのは、何故か、小野瀬さんだった。
小野瀬
「やあ、オーロラ姫。お目覚めかな?」
翼
「……小野瀬さん……」
小野瀬
「偶然通りかかったものだからね。おっと、それは白雪姫だっけ?」
通常運転の小野瀬さんにほっとしながらも、私は時計が気になった。
医務室の先生から、2時間、と言われた点滴は既に外されていて、カーテン越しの光は、かなり明るい。
小野瀬
「もうじきお昼だよ。なにか、持ってこようか?」
翼
「小野瀬さん……」
小野瀬
「うん?」
翼
「……」
思い切って、相談してしまおうか。
小野瀬さんは、泪さんと同期で、親友で、私と泪さんの交際も知っている人。
しかも、所属は鑑識で、捜査室のメンバーではない。
小野瀬さんなら……
小野瀬
「なぁに?」
翼
「……昨日、同期の集まりが、あったでしょう?実は、その時……」
小野瀬
「同期の?」
その表情を見た瞬間、私は、聞いた事を後悔した。
小野瀬さんの答えは、私が望んでいたものと、違っていた。
それはむしろ、そうであってほしくない、と、小野瀬さんに、笑って打ち消してほしい、と、願っていた方の答えだったのだ。
小野瀬
「どこで?俺は、知らなかっ……」
目の前が、暗くなった。
小野瀬さんも、私の顔色の変化に、気付いたのだろう。
ぎょっとしたように目を開いて、それから、急いで付け足した。
小野瀬
「……た、けど!ほら!俺と穂積は、同期と言っても、採用された組織が違うだろう?!俺は、科学警察研究所、穂積は警察庁。だから、きみが言うのは、警察庁の方の同期の集まりだったんじゃないかな?!」
翼
「そうかもしれません。それなら、泪さんは嘘をついてない。でも、知りたかったのは、そこじゃないの」
……泪さんが、私に、嘘を。
自分が言ったくせに、私は、その言葉に傷付いていた。
違う、信じてる。
同期の集まりは、きっと本当。
でも、それならどうして、小春ちゃんがそこにいたの?
理屈が合わない。
視界が滲んだ。
ぼろぼろぼろ、涙が溢れる。
小野瀬
「わあっ、泣かないで!……分かった、とにかく、昨日の穂積が原因なんだね?待っててね、あいつ呼んで来るからね!」
ぼろぼろぼろ、涙が止まらない。
憧れていただけの頃は、幸せだった。
想いが届いて、求めたものを与えてもらえて、もっと、幸せになれた。
それなのに、今、こんなに苦しいのは何故?
好きなのに、こんなに好きなのに。
穂積
「櫻井」
空耳かと思った。
でも、顔を上げたら、医務室の入口に、泪さんが立っていた。
穂積
「櫻井」
翼
「る……」
泪さんの背後に、心配そうな小野瀬さんと、小春ちゃんの顔が覗いている。
泪さんは小野瀬さんの鼻先で、医務室と廊下を遮るスライドドアを、ピシャリと閉めた。
翼
「泪さん……」
穂積
「何を疑っている?」
翼
「え」
泪さんの言葉は、単刀直入だった。
穂積
「言ってくれ、分からない」
私はようやく、泪さんの口調が、いつもと違う事に気付いた。
本気で怒っている時、泪さんは、氷のように冷たく、無表情になる。
でも、今は、そうじゃない。
これは、まるで……
穂積
「俺は、どうして、お前を不安にさせているんだ?」
……まるで、泪さんの方が、怯えているみたい。
不安なのは、私のはずだったのに。