女心は秋の空
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小日向
「櫻井さんは愛されてるんですね」
警視庁を出て、駅に向かって歩きながら、ふと、小春ちゃんがそんな事を口にした。
翼
「捜査室の事?」
小日向
「そう、ですね。捜査室の、皆さんに、です」
翼
「ふふっ、ありがとう。捜査室のみんなは、優しいから、私も大好きだよ」
小日向
「みんな、ですか?」
この時、私は、小春ちゃんの楽しそうな声に、微かな含みを感じた。
それが何なのか探ろうとして、小春ちゃんの顔を見ると、小春ちゃんも私を見つめて、意味ありげに微笑んでいた。
不意に、小春ちゃんが足を止めたので、私もつられて歩くのを止めると、彼女は、口の横に手を当てて背伸びをし、私に顔を寄せてきた。
小日向
「特に、穂積室長が一番、でしょ?」
翼
「!」
耳元で囁かれて、飛び上がりそうになってしまった。
私と泪さんが交際している事は、警視庁では、泪さんの親友の、鑑識の小野瀬さんしか知らないはず。
毎日一緒にいる捜査室のメンバーにさえ、気付かれていないはずなのに。
まさか、入ったばかりの小春ちゃんに見抜かれていたなんて。
私が呆気にとられていると、小春ちゃんは、人差し指を立てて、ピンク色の唇に当てた。
小日向
「分かりますよ、こう見えて女の子だもん」
いや、見ての通りなんですけどね。
小日向
「大丈夫、誰にも言いません。ただ、確かめておきたかっただけ」
それだけ言って、小春ちゃんは歩き出した。
歩幅が小さいから、私はすぐに追い付いて、隣を歩く。
翼
「……他の人たちには、内緒にしてくれる?」
小日向
「はい、もちろん。私、こう見えて、口は堅いのです」
小春ちゃんは即答した。
付き合いはまだ短いけれど、私は、この時、彼女の言葉は信じられると思っていた。
翼
「ありがとう」
小日向
「どういたしまして」
変な気分だったけど、小春ちゃんは、それ以上、この話題に触れてはこなかった。
翼
(そういえば、私、小春ちゃんの事、まだ何も知らないな)
それを知る機会が訪れるのは、もっと、後になってからの事。
何故なら、この後間もなく、私たちは、事件に巻き込まれる事になってしまったからだった。
電車に乗って、数分経った頃。
吊革に掴まって立つ私の横で、手すりを掴んで立ちながら私と世間話をしていた小春ちゃんが、あっそうだ、という感じで、ポケットからケータイを取り出した。
そのケータイが、今どき、二つ折りの機種だった事もちょっと驚いたけど、それより、私には、小春ちゃんが、私と話をしながら、ケータイを手にした事が気になった。
私は、小春ちゃんのケータイを、この時初めて見た。
という事は、今日まで、小春ちゃんが、職場で、プライベートのケータイを使ったことがないという事だった。
そこそこ混んでいる電車の車内では、マナーモードではあっても、乗客の大半はスマホを手にしている。
だけど、私は、ガラケーの珍しさよりも、礼儀正しい小春ちゃんが、私と話しながら、それも電車の中で、ケータイのメールを打っている事が、引っ掛かったのだ。
翼
(でも、急用かもしれないし、帰るコールするだけの短時間かも知れないしね)
そう考えて、窓の外に視線を向けようとした時。
私のスマホが震えた。
と、同時に、小春ちゃんの肘が、私の腕に、軽く当たった。
首筋に、チリッ、とした感覚が走る。
ガラケーをポケットにしまう小春ちゃんの隣で、私は、なるべくのんびりとした動きで、スマホを取り出した。
何となく予感したとおり、着信していたメールの差出人の名前は、小春ちゃんだった。
すぐ隣、肩が触れ合うような場所にいる小春ちゃんが、メールを送って来たのだ。
只事ではない、と、私は直感した。