女心は秋の空
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~翼vision~
あんなに暑かった今年の夏なのに、9月に入った途端、朝や夕方になると涼しさを感じるようになった。
この頃では、今までアスファルトの上にじりじりと蓄えられていた熱が、ひと雨降るごとに、少しずつ、少しずつ、地面から吸い上げられてどこかに消えていくように思えるから、季節って不思議。
そういえば、いつの間にか、蝉の声が聞こえなくなった?
私は、今日の青い空を見上げて、刷毛で薄く掃かれたような白い雲を眺めながら、耳を澄ませた。
でも、それも、ほんの一時だけ。
背後にあるイタリアンレストランの出口から、会計を済ませたり、お手洗いに行ったりしていた友達が、4人揃って、賑やかに出てきたからだ。
「ごめんね、みんな、お待たせ!」
「あー、美味しかった!」
「楽しかったね、また来よう!」
「あっ、ねえ翼、見て見て。隣のカフェ、来月オープンだって!次のランチ会は、ここにしない?テラス席、予約してさ」
翼
「そうだね」
私は、早くもその光景を思い描いて、顔を綻ばせた。
「よーし、じゃあ、次回の為に、また、頑張って働きますかぁ!」
幹事だった女の子の声に、みんなが笑う。
今日は、交通課時代の同期の警察官たちとの、女性ばかりの昼食会。
毎月の定例会なのだけど、私が参加するのは2カ月ぶり。
会、と言ってもほんの小一時間、8人程度で、ランチ限定のセットメニューを食べるだけ。
だけど、それぞれ種類の違うパスタを注文して、小皿にシェアして一口ずつ味見をしてみたり。
追加でピザを頼んだり。
甘くて可愛いデザートを写真に撮って、SNSにアップする子たちがいたり。
体重の話をしながら、「これは別腹だよね」と笑い合ったり……。
楽しい会にしたいから、「上司や同僚に対する愚痴は、ここでだけは言わない!」と決めてある。
だから、仲の良い女の子どうし、明るい話題ばかりの昼食は、懐かしいと言うより、まるで別世界のようで。
高い声できゃっきゃと交わされる最新の噂話や、思わずこちらが恥ずかしくなってしまうような甘酸っぱい恋バナを聞かされるのも、なんだかとってもしばらくぶりで。
捜査室に異動して以来、お昼といえば、食欲旺盛な大勢の男性に囲まれて、油断するとおかずを奪われてしまうという、サバイバルな世界だったから。
いつの間にか、その勢いにすっかり慣れてしまっていた最近の私にとっては、譲り合い分け合う、のんびりとしたお昼ご飯はすごく平和で、とても新鮮に感じられて、本当に楽しかった。
「たまにはいいよねー!」
食事と共に気分転換も済ませ、お腹も心も満ち足りた気分で、警視庁までの帰り道を歩く。
「ところでさ、翼、最近一段と可愛くなったけど、もしかして彼氏出来た?」
翼
「え?えーっと、うふふ、秘密」
「この前、小野瀬さんがさ」
「警視庁ってさ、秋も異動あるじゃん」
「そのルージュの色、いいよね」
「ねえ、ちょっとだけコンビニ寄っていい?歯みがき粉切れそうなの」
「あー、キャンプ行きたーい」
色とりどりの薄いカーディガンを羽織って、めいめいに隣の子と勝手なお喋りをし、にこにこと笑いながら歩く彼女たちに、女子力や元気を分けてもらった私は、すっかりリフレッシュした思いで、警視庁の通用口まで戻って来ていた。
「じゃあね、翼!」
翼
「うん!ありがとう、また誘ってね!」
「もちろん!」
手を振ってそれぞれの部署へと戻ってゆくみんなと別れた後、私は、知らず知らず小さくハミングしながら、午後からの仕事が待つ捜査室を目指した。
さあ、頑張って働こう!