バラの花を買って帰ろう
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~翼vision~
お弁当を持ってくるのを忘れた事に気付いたのは、通勤電車の中だった。
翼
(うわあ、やっちゃったなあ……)
思わず声が出てしまいそうになったのを、周りの人たちに気付かれないように、慌てて飲み込んだ。
翼
(せっかく、お母さんが作ってくれたのに……)
私は小さく溜め息をついて、吊り革に掴まって揺られながら、実家の玄関先に置かれてあるだろう、お弁当の包みを思い描く。
昨日は、久し振りに実家に泊まって。
普段は寮で一人暮らしをしている私の食生活を心配して、お母さんが、食べきれない程たくさんの手料理を振る舞ってくれて。
残った料理を、今朝のお弁当のおかずに直して、炊き込みご飯と一緒に詰めてくれたのに。
靴を履こうと玄関の框に座った時に、お弁当の入った包みをバッグの傍らに置いた所までは、ちゃんと覚えているのに。
靴を履いた後、バッグだけを持って立ち上がって、そのまま家を出てしまった。
……たぶん、そんな感じで間違いない。
翼
(……はあ、ごめんね、お母さん……)
靴を履く前に、バッグの中に入れてしまえば良かった。
今頃、忘れられたお弁当を見つけたお母さんは、きっと、がっかりしているだろう。
私も手伝いながらお弁当を詰めたのだから、わざと置き去りにしたわけじゃない、という事は、分かってくれていると思うけど。
翼
(電話して謝りたいけど、電車の中だし……)
電話をかければ、専業主婦で辛抱強いお母さんは、きっと、「翼は慌てん坊ね。お母さんがお昼に食べるから、気にしないでいいわよ」なんて、笑って許してくれるだろうと思うけど。
翼
(……とにかく、駅に着いたら、電話して謝っておこう……)
それからしばらくして、桜田門駅に到着した私は、すぐに、お母さんに電話をかけた。
お母さんの返事は想像通りで、いいのよ、と笑ってくれた。
「うっかりは誰にでもあるわ。でも、大丈夫なの?翼、疲れてるんじゃない?お仕事で、皆さんにご迷惑をかけないように、気を付けてね?」という言葉に「うん、大丈夫。気を付ける」と返事をして、電話を切った。
帰ったら、また謝らなきゃ。
けれど、とりあえず、お弁当の事はこれで一件落着。
私は、そう考えて気持ちを切り替え、職場に向かった。
だから、この後、まさか、そのお弁当が原因で、もう一つ騒ぎが起こるなんて、思いもしていなかったのだ。