梅雨入りもまだなのに
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~翼vision~
窓の外は静かな雨。
翼
「今日も雨……」
嫌いではないけれど、雨の日は、何となく憂鬱。
小さく溜め息をついていたら、背中をつつっ、と指先で撫でられて、思わず、びくっと身体が跳ねてしまった。
振り向くより早く、低い声が聞こえてくる。
穂積
「俺の前で溜め息か?」
翼
「ご、ごめんなさい」
穂積
「こっち向け」
その声は笑いと、ほんのちょっぴりの呆れとを含んでいる。
年上の男性らしい、優しい声だ。
私はベッドの上で、もぞもぞと身体を反転させた。
子供っぽい事を呟いてしまったから、また、からかわれるのかもしれない。
そう思ったけど、泪さんは、向き直った私を、ゆっくりと抱き寄せた。
穂積
「……鹿児島では、雨は吉兆なんだ」
意外な事を話し出した泪さんに、私は驚いた。
翼
「そうなの?」
穂積
「ああ」
泪さんの温かい掌が、私の髪を撫でてくれる。
穂積
「島津雨、という。たとえば、誰か、他の地方から訪ねて来た人が、『あいにくの雨ですね』と言ったら、『島津雨です、良い事ありますよ』と返すんだ。薩摩雨、ともいう」
私は、頭の中で、その情景を思い描いた。
翼
「ちょっと、ほっこりするかも」
穂積
「こっちでも、結婚式に雨が降ると、『雨降って地固まる』なんて言うだろ?」
翼
「あ、確かに」
穂積
「まあ本音を言うと、誰でも雨が続くと滅入るから、雨降りを前向きに受け止めるための方便かも知れないけどな」
翼
「泪さんったら、台無し」
二人でくすくす笑い合っていると、風が出てきたのか、微かな音で窓が鳴り始めた。
翼
「せっかくのお休みだけど、これじゃ、どこへも行けないね」
ぽつりと呟いた私の言葉に、そうだな、と頷いてから、泪さんは、私を抱いていた腕に力を込めた。
穂積
「どこへも行けないなら、どこへも行かなければいい」
翼
「え?」
思わず顔を上げると、視線が、泪さんの眼差しとぶつかった。
穂積
「……ずっと、ここにいろ」
翼
「泪さん……」
穂積
「外は雨だ」
俺が雨から守ってやる、と、言われている気がした。
同棲しよう、と、改めて誘われたようにも受け取れる。
どちらにしても幸せで、泪さんを見つめていたら、そっと唇が重ねられた。
深くなるキスと、心地よい愛撫に包まれていると、本当に、このまま、永遠にここにいられたら、と思う。
私の耳に聞こえるのは、泪さんの声と、雨と、風の音だけ……
穂積
「そんなわけだから、とりあえず、ゆうべの続きをしようか?」
ぬるり、と泪さんの指先が動いて、いきなり現実に引き戻された。
翼
「え?!ちょ、ちょっと待って、泪さん!」
穂積
「何故だ?休みだぞ」
翼
「確かに休みだけど、外出する予定もないけど!」
穂積
「だろう?お前だって、外に出て雨に濡れるより、ここで俺に濡らされる方が」
翼
「わー!」
穂積
「何だよ。あそうか、どうせ濡れるなら風呂で」
翼
「わー!わー!」
何の役にも立たない抵抗を繰り返していると、笑う泪さんに、ぎゅっ、と抱き締められた。
穂積
「俺の傍にいろ。愛してるぞ、翼」
笑顔で囁かれたら、もう、逆らえない。
外は雨。
梅雨入りもまだなのに、泪さんに翻弄されている私。
こんな感じで毎日雨の日が続いたら、幸せの兆しが毎日続いたら。
愛され過ぎて溺れてしまいそう。
~END~