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泪さんが、あ、と口を開いた。
穂積
「……お前、それは……やっちまったなあ」
翼
「信じられない!予約しておいて、連絡もせずにすっぽかしちゃうなんて!」
我ながらありえない。
社会人として非常識で、致命的なエラーだ。
さすがの泪さんも、開いた口が塞がらないみたい。
翼
「ああああ、もう、どうしよう!」
私は両手で顔を覆って、ベッドの上をごろごろした。
翼
「泪さんの出張が決まった時点で、取り消しておかなきゃいけなかったのに!……でも、ああ、とりあえず、レストランの開店時間になったらすぐ謝りに行って、キャンセル料を支払って……あ、お金とは別に、お菓子とか買って持って行く方がいいかな……」
泣きそうになりながら段取りを考えていたら、ぽん、と、頭に大きな手が乗った。
穂積
「俺も一緒に謝ってやるよ」
翼
「え、本当?」
当然、一人でも謝りに行くつもりだったけど、泪さんが一緒に行ってくれたら、心強い。
私が泪さんに顔を向けると、泪さんは微笑んだ。
穂積
「ああ。サプライズ失敗は間抜けだが、俺の為にしてくれた事だし、今回のお前には、情状酌量の余地が無いでもないし」
泪さんが、頭を撫でてくれている。
穂積
「レストランには事情を説明して謝罪して、改めて、一番近い日で予約を取り直そう」
ところが、言った後で、泪さんは、何か閃いたようだ。
急に、目を輝かせて付け足した。
穂積
「そうだ!どうせなら、二人だけじゃなくて、捜査室全員で行こう!」
翼
「全員で?!」
意外な提案に、思わず、声が高くなってしまった。
穂積
「今、思い出したが、あいつらへのお仕置きが半分残ってる。小野瀬も呼んでやろう。全員で、俺の誕生日を祝ってもらうんだ」
もちろん、人数が増える方が、レストランには得になるはず。
泪さんが、私のミスを帳消しにしようとしてくれているのだろうという事には、私もすぐに気が付いた。
でも、それのどこがお仕置きなんだろう?
穂積
「盛大に飲み食いして、請求書は立花警部に送りつけてやるのもいいかもな」
翼
「あははは!」
穂積
「冗談だよ、止めろよ。あんな奴に借りを作るなんてごめんだ。そうだろう?」
翼
「そうだね」
泪さんならやりかねない、とも思ったけれど、正直、もう、あんな人には関わりたくない。
穂積
「支払ってもらうのは、うちの連中だ」
翼
「え!」
穂積
「一流ホテルの、人気のレストランディナーなんだろ?うん、お仕置きにはちょうどいい」
翼
「ちょうどいい、って……」
穂積
「一流ホテルで「支払いを賭けて最強の男決定戦!」てわけにはいかないからな。全員自腹だ。小野瀬や小笠原はともかく、藤守や如月にはきついだろ。明智も、家電買い換えたいなんて言ってたし」
ああ、そういう事か。
でも、今月10日に公務員はボーナスが出たばかり。
だから、主賓の泪さんの分を頭割りして足したとしても、多分、口で言うほどのダメージにはならないんじゃないかな。
それに、泪さんのお祝いをするなら、みんな、喜んで来るはずだもの。
なんだかんだ言っても泪さんは優しいな…なんて、思っていると。
穂積
「翼」
不意に、泪さんはベッドの上で体を起こし、胡坐をかいた。
ボクサーパンツ一丁だけど、改まった様子に、私も、急いで起きて、泪さんの前に正座をする。
向かい合うと、泪さんは、真面目な顔で口を開いた。
穂積
「その日に、あいつらの前で、婚約発表するのはどうだろう?」
翼
「……え」
予想していなかった事を言われて、私は目を見開いた。
穂積
「嫌か?」
翼
「嫌……?ううん、嫌じゃないよ!でも……」
私は、首を横に振った。
そう、嫌なんかじゃない。
急な話だったから驚いたけど、泪さんが私との交際を発表してくれるなんて、むしろ、嬉しいくらい。
でも、お父さんとの約束の事もあるし、それに、泪さんの立場が悪くならないか、それが心配……。
穂積
「櫻井判事の前で、『一人前の警察官になる』と宣言してからの、お前の頑張りは、俺が、一番よく知っている」
翼
「泪さん……」
穂積
「恋人のひいき目じゃないぞ。室長としてお前を見てきた上での評価だ。未熟な点は当然あるが、長所がそれに勝っている」
泪さんの表情は真剣だ。
職場にいるような感覚になって、下着姿だけど、思わず身が引き締まる。
穂積
「何より、仕事への熱意がある。お前なら、たとえ結婚したとしても、優秀な警察官であり続けられるはずだ。違うか?」
胸がどきどきする。
翼
「私、結婚しても、警察官でいていいの?」
泪さんは即答した。
穂積
「当たり前だ。俺が、必ず、立派な警察官に仕上げてやる。だが、家庭との両立は厳しいぞ。付いて来られるか?」
翼
「はい!」
穂積
「それなら、櫻井判事との約束は成立だ」
泪さんが、表情を和らげた。
穂積
「もう一つ。俺の、いや、俺とお前の立場の事なら、問題無い。女性警察官の職場結婚率が、90%以上だというのは知っているだろう?」
翼
「それは……うん」
穂積
「一般の企業なら、上司と部下の交際に支障がある所もあるかもしれない。だが、警察では……特に、俺のような管理職の警察官では、署内の女性と恋愛する事に、全く支障は無い」
翼
「そうなの?」
穂積
「疑うなら、例の、仲良くなった警務の一課長に確認してみろ。あの連中は、警視庁の権威を保つのが使命だからな。他所の相手とスキャンダルを起こされるのは大問題だが、円満に身内と結婚してくれるのは大歓迎なのさ」
翼
「そうなの?!」
私、いつの間にか、OLの友達に感化されてたみたい。
職場の上司との恋愛なんて、問題になるとばかり思ってた……
穂積
「職場恋愛が問題になるなら、小野瀬なんか、とっくに懲戒免職だろ」
翼
「あ」
そっか。
小野瀬さん、ごめんなさい。
すっごく納得しちゃった。
でも、そうか。
そう言われてみれば、泪さんは、私と交際を始める時に、『職場でキスしているのを見られても、結婚すれば、全て許される。そういうものだ』って言っていた。
あれは、こういう意味だったのか……
穂積
「どうだ、不安は解消したか?」
翼
「うん」
泪さんが、ほっ、と息をついた。
穂積
「なら、決まりだな」
そう言った泪さんが、にっこり笑った。
穂積
「あいつらには最高のお仕置きになるぞ」
翼
「お仕置きって…婚約発表が?」
穂積
「当たり前だ」
泪さんの、綺麗な笑顔。
完璧な笑顔なのに、何故か、背筋が寒くなった。
穂積
「今回の事で、ハッキリしただろう?あいつらはお前が可愛いんだ。そのお前と、この俺が結婚すると言ったら、さぞかし悔しがるだろうなあ」
翼
「あっ……」
穂積
「俺の女に気があるって噂をばらまいた?ふん、いい度胸だ。婚約をばらした後で、俺の前でもう一度言えるかどうか、試してやろうじゃねえか。な?名案だろ?」
翼
「待って、待って!婚約発表中止!」
穂積
「なんで?」
翼
「だって、あれは!あの時は、私を庇おうとして、みんなが……!」
穂積
「なるほど、お前のせいか?……じゃあ、あいつらは許してやろう。その代わり、お前へのお仕置きは倍増だな」
あああああ!!
引っ掛かった!
穂積
「よし翼、こっちへ来い」
泪さんが、私に向かって両手を広げた。
さっきから気にはなってたけど、泪さんも私も、下着のままだったのよね。
だから、逃げられない。
翼
「ううう、お手柔らかにお願いします」
覚悟を決めて、泪さんの腕の中に飛び込む。
泪さんは、しっかりと私を受け止めてくれた。
穂積
「お前へのお仕置きは……そうだな、ずっと、俺の側に居る事だ。これから先、何があっても、歳を取っても、俺を嫌いになっても。それが、俺に浮気を疑わせた、お前へのお仕置きだ」
疑わなかったくせに。
信じてくれてたくせに。
翼
「……泪さんたら。それじゃ、お仕置きじゃないよ」
私は、首を傾げる泪さんを見上げた。
翼
「だって、泪さんの傍に居られるのは、私にはご褒美だもの」
そう言うと、私は、伸び上がって、泪さんにキスをした。
翼
「大好きだよ、泪さん。……一日遅れだけど、お誕生日、おめでとう」
目の前で微笑んだ泪さんが、私を包み込むようなキスで応えてくれる。
今回の事はとても怖かったけど、この人を失わずに済んだ事を、みんなに感謝したい。
ひとつ年を重ねた泪さんの指先が、私の背中のホックを外すのを、私は、夢心地で感じていた。
~END~