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ふわり、ふわり、ふわり。
翼
「……んん……」
いつかのように、ふわふわと漂う小さな光に揺り起こされて微睡みから目覚めると、室内はもう明るくて、カーテン越しの窓からは、朝の光が射し込んでいた。
軽く伸びをしてから横を見れば、隣で眠っている泪さんの髪が、光を浴びてきらきらと輝いていて、とても綺麗。
翼
(……私ったら、腕枕してもらってる……)
静かに眠る泪さんの端整な顔立ちを間近で見つめながら、私は、ふ、と自然に顔を綻ばせた。
……ああ、そうか。
あの、ふわふわした優しい光。
もしかしたら、あれは、私が、心のどこかで泪さんの事を想いながら眠っている時に、浮かんでくるものなのかもしれないな……。
そんな、たわいない事を考えながら、枕元の時計に視線を移す。
いつもなら、とっくに起きていなければいけない時刻だったけど、今日は、私たち、二人とも、有給でお休み。
なんとなく嬉しくて、もう少し寝ちゃおうかな、と身動ぎしたところで、不意に、ある事に気付いた。
そおっと確かめると、掛布の下の泪さんは下着一枚、そして私は……
……やっぱり。
恥ずかしさに、私は、一人で真っ赤になってしまった。
慌てて、泪さんを起こさないように気を付けながら、手探りで下着を探す。
ベッドの下に落ちていたのを見つけて、そちらに腕を伸ばそうとしたら、傍らで、含み笑いが聞こえた。
穂積
「綺麗な身体なんだから、隠す必要は無いのに」
泪さんが呆れたように言って、笑っている。
穂積
「いつも言ってるだろう?」
翼
「そ、そういうわけにはいかないんですっ」
どうやら彼はとっくに起きていて、私が、裸を見られないように四苦八苦しているのを、黙って見ていたらしい。
穂積
「しょうがねえなあ」
泪さんは背中から私に身体を被せるようにして、長い腕で下着を拾ってくれた。
穂積
「ほら」
そのまま私に下着を穿かせ、ブラのホックを背中で留めてくれる。
翼
「うう……、ありがとう」
なんだか自分が子供になったみたいで、ちょっと恥ずかしかったけど。
翼
「おはよう、泪さん」
向き直って挨拶をすると、泪さんの指が、私の目の下を軽く撫でた。
穂積
「おはよう。……よく眠れたみたいだな」
翼
「うん。ありがとう」
泪さんが、布団をかけ直してくれる。
私は、布団に潜り込むと、泪さんに抱きついて、胸いっぱいに泪さんの香りと温もりを吸い込んだ。
いい匂い。
翼
「ありがとう。泪さんのおかげ」
穂積
「そうか。良かったな」
翼
「うん。良かった」
そのまま甘えていると、泪さんは、私が枕にしている方の腕を曲げて、ゆっくりと私の頭を撫でてくれた。
穂積
「俺からも、礼を言うよ」
翼
「え、どうして?」
泪さんが、改めて私を見る。
穂積
「こうして、俺の腕の中に戻ってきてくれた」
翼
「泪さん……」
そんな表情で見つめられて、そんな事を言われたら……胸がときめいてしまう。
穂積
「他の男に誘われたのに、お前は浮気をしなかった」
翼
「そんなの……、当たり前だよ」
穂積
「そうだな。でも、安心したんだ。取り返しのつかない事にならなくて、良かった。……忌々しいが、小野瀬にも感謝しないとな」
本当にほっとしたように告げた、その言葉には、既視感がある。
以前、私と藤守さんのお兄さん(偽者だったけど)の仲が噂になってしまって、泪さんに責められた時だ。
あの時、荒々しく私を抱いた後にも、泪さんはそう言った。
安心した、と。
……あれ?
もしかして……。
浮気したかどうかは、調べれば分かる、って、泪さんは前に言ったけど。
私はそれを言葉通りに受け取っていたから、どう調べれば分かるのか、見当もつかずにいたけれど。
……今なら、分かる気がする。
泪さんが「調べた」のは、具体的な浮気の痕跡じゃなくて。
離れていた間、私の身体が、大切に扱われていたかどうか。
私の心が、泪さんの手を拒むほど、深く傷つけられてはいないかどうか。
そして、私の、泪さんを想う気持ちが、ずっと変わらないでいたか、どうか。
それを、私の態度や、顔色で、そして、肌に触れる事で、確かめていたんじゃないかしら。
……自分ではそうでもないと思ってるんだけど、私、分かりやすいのかしら。
……それとも、やっぱり、泪さんの観察眼がすごいのかしら。
今回も、泪さん、一瞬で私の異変に気付いたし、理解してくれるのも早かったし……。
私は、思わず呟いてしまった。
翼
「泪さんって、……もしかして、私の事、すごく好きなの?」
穂積
「はぁ?!」
泪さんは面食らったようで、顔を赤くして私を睨んだ。
穂積
「お前、それ、今さらこの情況で、真顔で聞くような事か?!」
翼
「きゃあ、ごめんなさい!」
穂積
「ああ、もう……こんなガキに翻弄されてるとか、俺としたことが本当に」
泪さんは、頭痛がする、とでもいうように、右手で額を押さえた。
けれど、だからといって、適当に答えをはぐらかしたりも、しなかった。
穂積
「好きだよ」
はあ、と、息をひとつ吐いて。
穂積
「翼が、好きだ。好き過ぎるくらい、好きだ。自分でも、どうしようもない。……愛してる」
真っ直ぐに私を見つめて、そう言ってくれた。
翼
「泪さん……」
引き寄せられて、泪さんの広い肩に顔を埋める。
翼
「私も。泪さんのこと、好き過ぎ」
息が止まるほどきつく抱き締められて、幸せで、涙が出そうだった。
壁に掛けられている、12月のカレンダーが目に入るまでは。
翼
「……」
……
……今日、何日だっけ……。
翼
「あっ!!」
穂積
「わっ!!」
私が急に叫んだので、泪さんがつられて声を出す。
穂積
「何だ?耳元で、いきなりでかい声を出すな!」
翼
「……泪さん、今日……!」
穂積
「今日?」
翼
「12月、19日……!」
穂積
「うん?」
そうだな、という表情で、泪さんもカレンダーを確かめる。
翼
「そうだな、じゃないよ!今日が12月19日という事は、昨日は12月18日だよ!」
穂積
「そうだよな」
泪さんが頷いた。
翼
「だから……!ああ、どうしよう!」
穂積
「何を」
翼
「昨日、泪さんのお誕生日だった!」
泪さんが、ようやく、ああ……と、納得のいった顔をした。
穂積
「気にするな。俺も忘れてた」
翼
「ありがとう、忘れててごめんなさい!でも、そうじゃないの!問題はそこじゃないの!」
私はじたばたした。
穂積
「?」
翼
「実は、私、ホテルのレストランに、ディナーを、予約してあったの!」
穂積
「……は?」