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翼
「……」
勢いで立花警部に電話で啖呵を切ったところまでは良かったけれど、私はすぐに、不安と後悔に苛まれて、机に突っ伏した。
……どうしよう。
翼
「やってしまった……」
静かな足音が近付いて、冷たい手が、遠慮がちに頭を撫でてくれる。
……小笠原さんだ。
小笠原
「よく頑張ったよ」
翼
「ありがとうございます……」
滅多に自ら他人と関わらない小笠原さんからそんな風に慰められて、私の心は少し軽くなった。
それどころか泣きそう。
小笠原
「……事後承諾で悪いけど、さっきの電話、録音したから」
翼
「はいっ?」
小笠原
「きみ、やっぱり脅されてたんだね」
私がびっくりして顔をあげると、小笠原さんは、気まずそうに目線を逸らした。
小笠原
「……いざという時、何かの証拠になるかと思っただけなんだ。……いつも盗聴してるわけじゃ、ないからね」
小笠原さんたら。
翼
「……メールの拡散を止めてくれた時にも、ネットの個人攻撃を防いでくれた時にも、思いましたけど。小笠原さんて、いつも、私たちの為に、一歩先を考えてくれてますよね」
小笠原
「そんなんじゃないよ。この職場、お人好しが多いから、だから……俺がしっかりしないと駄目だ、って思ってるだけ」
翼
「うふふ」
小笠原さんも、捜査室が好きなんだな。
改めてそう感じた。
翼
「小笠原さんのおかげで、元気が出ました」
小笠原
「……そう?」
翼
「はい。……なんだか、食欲も出てきた感じです」
考えてみたら、あの夜から、ほとんど食べていない。
それを思い出した途端、お腹が、くぅ、と鳴った。
小笠原
「じゃあ……一緒にご飯、食べようか」
私と二人きりだからなのか、小笠原さんが、これも滅多に見せない、魅力的な笑顔を見せてくれた。
翼
「はい」
小笠原
「俺、今日は豆腐ハンバーグ作ってきたんだよ。ひとつ、あげる」
翼
「わあ。じゃあ、私の玉子焼きと交換しましょうね」
実は、小笠原さんと私は、ダイエット仲間で手作り弁当派。
私たちはそれぞれのお弁当をつつきあいながら、束の間の、穏やかな昼食を摂ったのだった。
夕方になると、外回りに出ていた明智さん、藤守さん、如月さんも戻って来た。
立花警部から電話がかかってきた事を告げ、小笠原さんが録音してくれた会話を再生すると、いつも明るくて優しいみんなの表情が曇り……やがて怒り出した。
藤守
「最低やな、こいつ……」
如月
「完っ全に計画的ですね。悪質だよ!」
明智
「櫻井、辛かっただろう、よく頑張ったな。それに、俺たちの為に怒ってくれて、嬉しいぞ。ありがとう」
そう言われ、揃って頭を下げられて、かえってこちらが恐縮してしまう。
翼
「とんでもないです。私、ただ悔しくて……それに、今まで、正直に打ち明けられなくて、すみませんでした」
明智
「大丈夫だ、分かっている」
明智さんは私の頭を撫でてくれた後、考え込むようにうつむいて、拳を口元に当てた。
明智
「……しかし、櫻井が明確な拒否の意志を示した事で、これから、相手がどう出てくるか……」
つられて、全員が黙り込んでしまう。
無理もない。
当事者の私ならともかく、実際にはあの場にいなかった明智さんや藤守さんたちが、これ以上、騒動に首を突っ込むわけにはいかない。
だけど、立花警部の矛先は、どうやら、私だけに向けられるのではなさそうなのだから。
重い沈黙を切り裂くように、内線が鳴った。
如月
「はい。特命捜査室、如月です。……うわっ、はい!」
如月さんが受話器を取ったのとほとんど同時に捜査室のドアが開いて、小野瀬さんが入ってきた。
なんだか、少し表情が硬い。
如月
「……はい、あの、でも、その件は……いえ!分かりました、伝えます……」
受話器を置いた如月さんが、私たちを振り返った。
如月
「翼ちゃん……刑事部長が、終業後すぐに、小会議室に来るように、って……」
小野瀬
「俺も、呼び出されたよ」
翼
「……」
それはつまり、私と、小野瀬さんと、立花警部が三角関係だという噂に関して、刑事部長が調査に乗り出したという事だ。
明智
「……そう来たか」
小野瀬
「搦め手で来たね。俺たちの立場を悪くする作戦だ」
明智さんと小野瀬さんが、真剣な顔で話し合っている。
翼
「小野瀬さん、明智さん、すみません……」
私が声をかけると、小野瀬さんはぱっと振り向いて、いつもの笑顔を見せた。
小野瀬
「心配ないよ。刑事部長は公正な人だ。話せば分かってくれる」
翼
「はい……」
小野瀬さんは、安心させるように、私の頭を撫でてくれた。
小野瀬
「問題は俺の方さ。『いいかげん、女の子と噂になるのはやめろ』って注意されるのかもね」
小笠原
「確かに」
藤守
「そらありそうや」
如月
「ありそうですね」
明智
「自業自得だ」
小野瀬
「きみたち、本当に失礼だよね」
小野瀬さんが笑って、全員が笑った。
みんなの気遣いが、痛いほど分かる。
私も笑いながら、そっと、滲みかけた涙を拭った。