ユーカリ
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~穂積vision~
翼
「……え……えっと……」
泣きが入った藤守からの突然の指名を受けて、反射的に立ち上がったはいいものの、翼はそのまま立ち竦んでいる。
俺は、どうやって助け船を出せばいいものか苦慮していた。
翼に、俺へのプレゼントの準備は無いはずだ。
これまでに何度も俺の欲しいものを問われ、そのたびに、「誕生日の夜、俺と過ごしてくれればそれでいい」「じゃあ飯を作ってくれ」「そこまで言うなら一緒に風呂だ」の三択ローテーションで答えてきた。
こんな事態になるのなら、職場で使うマグカップでも買ってきておいて、「もう貰ったわよ」と出せば良かったか……
だが、もしも翼が別に何か用意してくれてあったとしたら、俺の助けはヤブヘビになる。
翼はまだ、就職したばかりで働きたい。
俺との交際も婚約も、秘密にしておきたいんだから。
……そんな事を考えつつ、とりあえず成り行きを見ていた時。
翼が、ぎゅっ、と、拳を握り締めた。
あれはあいつの癖。
自分自身に気合いを入れる時の、癖だ。
だが、今このタイミングで何を……
翼
「……聞いてください」
まさか。
翼
「私、」
ちょっと待て。
翼
「……私、」
翼!
翼が、すうっ、と息を吸い込んだ。
翼
「室長のお嫁さんになります!」
言った!!
穂積
「嘘だろ?!」
俺は、思わず立ち上がっていた。
翼
「嘘じゃありません!!」
きっ、と振り向いた翼の、涙を浮かべた目が据わっている。
これは……もう駄目だ。
翼
「室長、私を、私をもらってください!」
穂積
「…………はい」
「ええええーーーーっ!!!!」
「蜂の巣をつついたような騒ぎ」という慣用句があるが、そこからの騒ぎときたらもう、まさしく収拾がつかなかった。
明智も藤守も小笠原も如月も、待て何故どうしてだいつからだ、と翼を質問攻め。
質問攻めが一段落すると、今度は、いや考え直してくれ俺も好きだったんだそれなら自分と結婚してくれという争奪戦。
当たり前だが翼が首を横に振って俺を指差すと、また寄ってたかって今度はやめろやめとけの大合唱だ。
どさくさ紛れに人の事をどSだの悪魔だのエロエロ星人だのと言いやがって、あいつら後でぶっ飛ばす。
まだ午前中なのに、どうするんだよこれ。
そこへ。
小野瀬
「こんにちはー」
のんきに現れたのは、小野瀬だった。
小野瀬
「…あっはっはっはっ!なるほど、それで、櫻井さんから逆プロポーズ!!あっはっはっはっ、あー苦しい!」
笑い過ぎだ。
可哀想に、櫻井は真っ赤な顔をハンカチに埋めて、部屋の隅っこに体育座りしている。
小野瀬がその翼の頭を慰めるように撫でているのが気に入らないが、俺は俺で4人のバカワンコたちに睨まれていて身動きとれない。
小野瀬
「そうか、そうか、穂積と、櫻井さんがねえ」
小野瀬は元々、本人の勘の良さで俺と翼の交際に気付き、その後は俺も何かと相談するようになったせいで、俺と翼の関係を知っている。
実際にはちゃんと俺からプロポーズして、翼が受けてくれた形だということも、だ。
正直言うと、小野瀬も翼を好きなんじゃないかと思う時期もあったんだが。
今は共通の知人として、秘密の交際を知る者として、俺たちを応援してくれていた。
小野瀬
「でも、まあ、おめでたい話じゃないか。きみたちだって、本当は、二人に幸せになって欲しいと思ってるんだろ?」
小野瀬のあの甘い声で諭されて、ワンコたちがおとなしくなっていく。
助かった。
持つべきものは優しいお兄様だな。
小野瀬
「寂しい気持ちは分かるよ。きみたち、今夜は俺がおごるから、いつもの居酒屋で憂さを晴らそう。ねっ?」
ああ、小野瀬が神様に見える……。
小野瀬
「だけど、フラれっぱなしじゃ癪に障るよね。だから、はい、穂積。これ、プレゼント」
そう言うと、小野瀬は、なんだか豪華な封筒を俺に差し出した。
穂積
「プレゼント?……誕生日のか?」
小野瀬
「そう。穂積の夢である、アジアのエッロいホテル、のではないけどね。静岡にある、雰囲気のいい離れを貸し切りに出来る、高級旅館の一泊チケットだよ」
良過ぎる。
小野瀬
「行ってみない?お前と、櫻井さんと」
穂積
「小野瀬……」
小野瀬
「そう、俺とで」
……
……
穂積
「は?!」
小野瀬
「だから、3人で」
穂積
「あっ本当だ、3枚入ってる!」
ペアだと思うだろ普通!
小野瀬
「先に言っておくけど、3人部屋だから」
穂積
「何しに行くんだよ」
小野瀬
「何もしないように行くんだよ」
嫌がらせか!!
やっと気付いた俺に、同じように小野瀬の企みに気付いた連中が、笑いながらダメ押ししてきた。
藤守
「年末で忙しいですけど、そういう事なら行ってきていいですよ、室長!」
小笠原
「そうだね。純粋に骨休めならね」
如月
「まさか小野瀬さんもいる部屋で、翼ちゃんに手出しはしないでしょ?生殺しですね」
明智
「留守はお任せください」
穂積
「アンタたち……」
小野瀬
「いいじゃない。3人で旅行なんて、きっと、最初で最後だよ?」
穂積
「……」
それも、そうかな……いや、小野瀬の顔を見てると、そうでもない気もするけど。
小野瀬
「はい決まり!」
一瞬しんみりした隙をつかれ、話はまとまってしまった。
慌てて翼を見れば、くすくす笑っている。
なんだかしてやられた気がするが、あいつが笑うなら、まあ、いいか。
穂積
「……そういう事なら、小野瀬だけってのは不公平ね」
小野瀬
「え?」
穂積
「小野瀬、悪いけど、フラれ男たちの憂さ晴らし大会は延期よ」
今度は小野瀬が、隙だらけの顔をした。
穂積
「全員、今夜はウチにいらっしゃい。夜通しパーティーやるわよ!」
如月
「やったあ!」
小笠原
「俺、あの部屋掃除するの嫌だよ」
穂積
「大丈夫。ワタシには、明智と小野瀬という出来た妻が二人と、可愛い新妻が一人いるの」
小野瀬
「もしかして、俺が、掃除する妻?」
明智
「すると俺は料理する妻」
翼
「それなら、私がお洗濯妻ですね、任せてください!」
藤守
「よお出来た奥さんたちやな」
藤守が笑い、全員が笑った。
穂積
「さあ、そうと決まったら仕事するわよ!」