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~穂積vision~
どうして、俺なんだろう。
本当に、俺でいいんだろうか。
深夜の残業中、つまらなそうにエロ本のページを捲っている翼の様子を時々視野に入れながら、俺はそんな事を考えていた。
室内に堆く積まれているのは、グラビアアイドルばかりを狙った悪質なストーカー事件で逮捕された被疑者の自宅から、参考資料として押収された、無数のエロ本。
被疑者の供述によれば、犯行のきっかけは、このコレクションの中にある成人向け雑誌に載っていた、ひとつの企画だったそうだ。
俺たちは、その企画が掲載されているエロ本と、被害を受けたアイドルたちが載っているページを探せと担当部署から残業を押し付けられ、こうして全員で捜査に取り組んでいる。
なんでも、雑誌の発売当時、人気のあったグラビアアイドル30人ほどを対象に愛読者アンケートが行われ、翌月号の結果発表で『ベストオブ美乳』が決定したらしい。
被疑者は、アンケートでトップ10入りしたアイドルの住所を独自に調べ上げ、全員の自宅に隠しカメラと盗聴器を仕掛け、うち数人には、直接的に付きまとったり、下着を盗んだりするストーカー行為をしたのだという。
……それだけマメなら、その雑誌の名前と10人の住所氏名ぐらい覚えとけよ!
『ベストオブ美乳』とか、ありがちな企画過ぎて絞りきれねえんだよ!
肝心な事を忘れてしまった被疑者に代わって物証を掘り返す作業は、付きまとわれた被害者と同性である翼の身になってみれば、いくら警察官として必要な仕事だとはいえ、愉快であるはずがない。
それを承知の上で、愛しい恋人にこんな事をやらせるとか、俺。
翼は少し離れた自分の席から、時々俺の方を見る。
そうだよな。
複雑だよな。
藤守や如月のように、エロ本に顔を赤らめたり照れ隠しに茶化したりする若さも、明智のように頑張って興奮を押し隠そうとする可愛さも、小笠原のように女の裸を見て無反応でいられる肉体も、俺は持ち合わせていない。
だから、グラビアを飾る美女たちが紐の解けたビキニでポーズを決めていればへえ、赤い唇でバナナをくわえていればほお、と思う。
どんな美女の裸であろうと、俺にとっては翼以上のものなどないんだが。
正直に言えば、どの女を見ても、脳内で翼に置き換えてしまう始末なんだが。
時々翼を盗み見てしまうのは、そんな俺の下心を、聡い彼女に見抜かれていはしないか心配だからなんだが。
藤守
「……すんません、ちょっとトイレ行ってきますわ」
不意に、藤守が立ち上がって、前屈みになりながら急ぎ足で廊下に出て行った。
いいなあ、あいつは正直で。
それをきっかけに、明智は凝った首を回すふりをして雑誌から顔を上げ、如月は椅子の背にもたれて身体を伸ばす風を装って、昂りそうになっている気を逸らす。
ひとり、ナナコを駆使して『ベストオブ美乳』から逆引きしている小笠原がうとうと眠そうなのは、どうやら芝居じゃなさそうだ……あいつ本当に大物だな。
そんな中、翼が立ち上がってこちらを向いた。
翼
「室長、休憩しますか?私、コーヒーを入れてきます」
穂積
「ありがとう、お願いしようかしら。……ああ、女の裸も見飽きたわ」
後半は欠伸混じりに呟きながら、俺は目頭を指先で揉んだ。
既に、作業開始から二時間が経過しているから、女の裸を見飽きたというのはまんざら嘘でもない。
穂積
「ここまでで、何か気付いた事はある?」
藤守が戻って来たのを見計らって進捗を確認する俺の机に、翼がコーヒーを置いてくれる。
10人いるはずの被害者のうち、被害がはっきりしているのは、今回被害届けを出した女性だけだ。
全員が俺の問いに首を振ったのは少し残念だったが、それも仕方ない事だ。
被疑者の供述を裏付ける為には、やはり、この作業を続けなければならない。
穂積
「……じゃあ、それぞれのタイミングで帰宅していいわよ。残りは明日にしましょう」
明智
「はい」
藤守
「明日もコレっすか……」
如月
「夢に出てきそうですよ」
小笠原
「さっきちょっと出てきた」
穂積
「適当に切り上げて、帰ってから寝てちょうだい」
苦笑しながら言うと、はい、と揃って返事をしてから、藤守と小笠原はそのまま帰宅し、如月、明智もさらに5分ほど作業をしてから、帰って行った。
翼も仕事を終えたらしく、机をまわってコーヒーカップを片付けながら、また、こっそり俺を見ている。
やめてくれ。
何食わぬ顔をして仕事を続けるの、結構難しいんだぞ。
重要な物証確認の為とはいえ、自分の彼氏が裸の女の写真に目を凝らしているのを、そんなに見つめて楽しいか?
……確かに、こっちの方が胸も大きいし、サービス精神も旺盛なようだが。
ちっともときめかない。
何も感じない。
お前に初めて出会った時の、あの胸の高鳴りに比べたら。
……なあ、翼。
お前は気付いているか?
お前を好きなのは俺だけじゃない。
どうして俺なんだ?
本当に、俺でいいのか?
お前ならもっと、他にいくらでも男はいただろう?
俺みたいなおっさんじゃなく、金髪でも悪魔でもなく、夜もしっかり寝かせてくれるだろう、安全で優しい男が。
どうして、俺を好きになってくれた?
俺が強引だったからか?
上司だから断れなかったのか?
……おいおい、溜め息ついて目を逸らすなよ。
心配になってきちまったじゃないか。
どうしてくれるんだよ。