気になる視線
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
~翼vision~
どうして、私なのかしら。
本当に、私でいいのかしら。
深夜の捜査室、真剣な眼差しで成人向け写真雑誌のページを捲る室長をこっそりと盗み見ながら、私はそんな事を考えていた。
彼が今見つめているのは、グラビアアイドルばかりを狙った悪質なストーカー事件で逮捕された被疑者の自宅から、参考資料として押収された、……いわゆる、エロ本。
本来の担当部署から、段ボール箱にして数十箱以上にも及ぶエロ本のチェックを要請され(という名目で押し付けられ)捜査室に届けられた、被疑者のお宝の中の一冊だ。
複数の被害者がいると思われる事件で、被疑者の性癖や行動を把握する為には、エロ本チェックも重要な警察業務のひとつだという事は言うまでもないし。
捜査室メンバー全員が自分の席でエロ本と向かい合っているこの光景も、見慣れたものになりつつあるし。
室長である彼が、一番刺激の強そうな雑誌を閲覧するのは当たり前の選択だと思えるようにもなったけど。
それでもやっぱり、自分の恋人が、自分より魅力的な女性のヌード写真を見つめている状況(というより、その状況をさらに自分自身が見つめているという状況)には、なかなか慣れない。
もちろん、今は、室長を筆頭に全員が、事件の全容解明に繋がる手がかりを探す作業に集中して頑張っているのは分かるけど。
捜査室で唯一の女性警察官である私にとっては、グラビアを飾る美女たちが、紐の解けたビキニでポーズを決めていようと、赤い唇でバナナをくわえていようと、所詮は同性の裸であって、それ以上の物ではない。
だから、こうして時々、室長を盗み見る余裕があった。
もっとも、それは私が目のやり場に困らないよう、男性のメンバーたちがより過激な内容のものを引き受けてくれているから、なのだけれども。
藤守
「……すんません、ちょっと、トイレ行ってきますわ」
藤守さんが立ち上がったのをきっかけに、明智さんも雑誌から顔を上げて凝った首を回し、如月さんは椅子の背にもたれて身体を伸ばす。
うとうとしている小笠原さんを横目に見てから、私も立ち上がった。
翼
「室長、休憩しますか?私、コーヒーを入れてきます」
穂積
「ありがとう、お願いしようかしら。……ああ、女の裸も見飽きたわ」
後半は欠伸混じりに呟きながら、室長は目頭を指先で揉んでいる。
室長の嘆きももっともで、時刻は既に、作業開始から二時間を超えていた。
穂積
「ここまでで、何か気付いた事はある?」
藤守さんが戻って来たのを見計らって、私が配ったコーヒーを手にした室長が、全員に確認する。
私たちは首を横に振った。
穂積
「……じゃあ、それぞれのタイミングで帰宅していいわよ。残りは明日にしましょう」
明智
「はい」
藤守
「明日もコレっすか……」
如月
「夢に出てきそうですよ」
小笠原
「さっきちょっと出てきた」
穂積
「適当に切り上げて、帰ってから寝てちょうだい」
苦笑する室長に、はい、と全員が揃って返事をしてから、藤守さんと小笠原さんはそのまま帰宅し、如月さん、明智さんもさらに5分ほど作業をしてから、帰って行った。
自分も作業を終える事にした私は、お盆を手にみんなの机をまわり、飲み終えたコーヒーカップを回収しながら、またこっそりと室長に目を向ける。
真剣な眼差しで静かにエロ本を読み進める室長の姿は、読んでいる本の内容にも関わらず、惚れ惚れするほど格好いい。
エロ本を机の上に置き、見開きのページに畳み込まれていたピンナップを開いて目を細める顔にまでときめいてしまうのだから、我ながらどうかしていると思う。
室長が眺めているのは、切れ長の目の美人が、紫の下着に包まれた大きな胸を、自分の両手で持ち上げてこちらに見せつけているセクシーな写真。
……室長、本当はああいうタイプが好きなのかな。
私とは共通項が無さそうな大人の女性を見つめている室長、その室長を見つめている私。
……ばかみたい。
急に悲しくなって、私は室長から目を逸らした。