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『警視庁特命捜査準備室』のおまけです。
未読の方は、先にそちらをお読みいただくと分かりやすいと思います。
~翼vision~
穂積
「これは、仕事用の携帯として使いなさい。捜査室全員の番号も入れてあるから」
そう言って、室長は私に、携帯を手渡してくれた。
翼
「……はい……!」
嬉しい。
嬉しい。
捜査室の仲間として、一歩みんなに近付けたような気がして、私は、頂いたばかりの携帯を抱き締めた。
翼
「……ありがとうございます!」
穂積
「期待してるわよ、櫻井」
翼
「はい!」
捜査室の中で迷子になりかけていた私は、ようやく目の前に道を見つけた思いだった。
穂積
「ただし、頑張り過ぎないこと」
室長はそんな私を見ながら、優しく笑ってくれた。
翼
「あの、室長!」
向こうへ行きかけた室長を、私は慌てて呼び止めた。
室長が足を止め、振り向いてくれる。
「はい。どうしたの?」
私は、室長に駆け寄った。
「この携帯、室長の番号も登録されてますか?」
そんな事か、というように、室長は表情を緩めた。
「もちろんよ」
私は携帯を開いた。
「今、掛けてみていいですか?」
「……はい?」
室長は呆れ顔だ。私は構わず、アドレス帳を探した。
し、し、し……、
長身の室長が、上から私の手元を覗き込む。
「『室長』では登録してないでしょ。穂積よ、穂積」
あ、そうか。
えーと、ほ、ほ……。
『穂積 泪』
うわー、名前で入ってる!
「アンタ、この距離で電話掛ける気?」
私は室長を見上げた。
確かに数歩の距離、だけど。
「最初の通話だから、室長に掛けたいんです」
私がそう言った途端、室長の顔は一瞬固まった後、みるみるうちに赤くなった。
「あの、やっぱり駄目ですか?」
「……駄目じゃ、ないわよ」
ぼそりと呟いてから、室長は、私の隣の椅子に腰掛けた。
そして、ポケットから携帯を取り出す。
私と同じデザイン、色違いのそれを見て、また嬉しさが込み上げて来た。
「アンタも座りなさい」
私は急いで、腰を下ろした。
室長は長い脚を組んで、膝の上で携帯のフラップを開く。
そうしてから、目線を上げて私を見た。
淡い色の、長い睫毛が、微かに揺れる。
……本当にきれいで、絵になる人だな。
今、この姿をカメラで撮ったら怒られるかな。怒られるだろうな。でも。ああ、撮りたい。着信画面にしたい。
「櫻井」
「はい?」
室長に名前を呼ばれて顔を上げた瞬間、『カシャッ』と音がした。
「?!」
室長がクスクス笑っている。
「ごめーん。百面相してて面白いから、つい撮っちゃったわー」
「あっ!」
穂積
「しかも連写しちゃった」
今度は私が赤くなる番だった。
「やだっ、恥ずかしい!室長ズルいです!」
「ズルいって何?ほらほら、待ってるんだから早く掛けてきなさいよ」
「ううう」
私は表示したままだった室長の電話番号を確かめて、発信した。
数秒とおかず、目の前の人の携帯が鳴る。
室長はクスリと笑ってから、電話に出てくれた。
『はい、穂積』
直に聞こえる室長の声と、電話の声が重なって、不思議な感覚。
何だか緊張する。
「えっと、櫻井です」
『お疲れさま、櫻井。今どこにいるの?』
私は噴き出してしまった。
『遊んでないで仕事しなさい。アンタの活躍を楽しみにしてるのよ』
「はーい」
『返事は短く!』
私は可笑しくてたまらない。
「はい!」
『よろしい。じゃあ切るわよ』
そう言って、室長は電話を切った。
「やっぱり、櫻井は笑っている方がいい」
小さな呟きだったけれど、私には聞こえた。
それで、室長が私を励ましてくれたのが分かる。
携帯をポケットにしまってから、室長は顔を上げて私を見た。
その眼差しは、いつものように優しい。
「室長」
「うん?」
私は立ち上がって、頭を下げた。
「これからも、よろしくお願いします」
私がそろりと頭を上げると、今度は室長が、ゆっくりと立ち上がった。
「こちらこそ、よろしくね」
微笑んで、室長が頭を下げる。
私と室長は笑いながら向かい合って、互いに、初めて会うようなお辞儀をした。
~END~
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