バレンタインデーを過ぎても
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~翼vision~
泪さんを好きになる前の私は、ミルクチョコレートが好きだった。
とろりと甘くて、口の中でふんわり溶けたら全身が幸せで満たされてゆくようで。
私にはまだよく分からないけど、恋、という気持ちに味があるとしたら、きっと、こんな味じゃないのかな……。
そう思っていた。
けれど、違った。
泪さんが教えてくれた恋の味は、もっと複雑で、奥が深いものだった。
もちろん、恋人として向き合えば、泪さんは甘く優しく私を満たしてくれたけれど。
他の女の人との噂が気になったり、誤解されて嫉妬されたりした時は、涙の塩味。
子供扱いや小さな意地悪は、ちょっと酸味の利いたスパイス。
想いが噛み合わず、分かり合えなかった時の胸の痛みは、ほろ苦い味。
そして、泪さんの事を考えるだけで胸の奥が苦しくなる……、この想いは、何と呼べばいいの?
翼
「泪さん……」
思わず声に出して呟くと、私の隣に眠っていた泪さんが瞼を開いた。
穂積
「どうした?」
穏やかな声に引き寄せられて、広い胸に顔をうずめた。
翼
「……胸の奥が切なくて、苦いの」
穂積
「昨夜は、お前に俺の苦いのを飲ませてはいないはずだが…痛い痛い痛い」
私が軽くつねったので、泪さんは顔をしかめた。
翼
「もう、嫌い!」
穂積
「ごめんごめん、俺が悪かった」
笑いながら、私の頬を大きな掌で撫でてくれる。
その心地よさに目を閉じれば、額に、優しい唇が押し付けられた。
穂積
「俺の事を考えると、苦しくなるんだろう?」
翼
「どうして分かるの?」
穂積
「俺も知ってる苦さだ」
泪さんは笑って、それ以上は答えなかった。
穂積
「じゃあ、とびきり甘くしてやろう」
翼
「……私が、子供みたいな事を言ったから?」
だとしたら、少し悲しい。
けれど、瞬きをして目を開けば、そこにいた泪さんは、柔らかく微笑んでいた。
穂積
「違う」
そう言って、泪さんは私を抱き寄せた。
穂積
「今日が、バレンタインなんてしゃらくさい日じゃなくて、俺が、お前を愛してるからだ」
翼
「泪さん……」
そういえば、釣った魚にもちゃんと餌をやる人だったっけ。
それに、黙って持ち出した盆栽にも……
穂積
「なんで笑ってる?」
翼
「ううん、なんでもない」
穂積
「笑う所じゃないだろう?まったく……お前には、もう、いい事を言ってやらん」
翼
「ごめんなさい。大好き」
穂積
「……足りない」
翼
「泪さん、大好き」
機嫌を直した泪さんが、改めて優しいキスをくれる。
胸の奥にあった苦しさが、これから二人で過ごす恋人の時間を予感させる、甘い甘いキスに溶かされてゆく。
私の泪さんはミルクチョコレートではないけれど、ビタースイートな恋人。
(むしろ、普段はチョコレートどころか、ハバネロのような暴君だけど……)
でも、そこがいいの。
~END~
穂積
「お前、今、すごく失礼な事を考えていただろう」
翼
「いいえ考えてません!!」
おしまい♪