神様には内緒
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~翼vision~
元日未明。
大晦日から夜を徹して行われた、大勢の人で賑わう神社での警備と雑踏整理の仕事がようやく終わって。
年明けのチームへの引き継ぎを済ませた捜査室のメンバーと、互いに疲れた顔を見合わせて、苦笑混じりに「今年もよろしく」と挨拶を交わして解散した後。
私は、せっかくだから一緒に初詣してから帰りましょう、と泪さんの腕を引いてお願いし、神社の本殿に向かって歩き始めていた。
辺りはまだ夜明け前で暗い道すがら、白い息を吐きながら隣を歩く背の高い彼を見上げて、私は、ふと思い付いた事を訊いてみる。
翼
「泪さんは、神様って信じる?」
すると泪さんは、前を向いたまま噴き出した。
穂積
「神社の参道では答えにくい質問だな」
何となく、そう答えるだろうという予感はしたけど。
という事は、泪さんはあまり神様を信じていないのかしら。
翼
「じゃあ、運命も信じない?」
穂積
「信じないな」
今度ははっきりと、泪さんは答えた。
それから私の方を向いて、首を傾げる。
穂積
「どうしてそんな事を訊く?」
翼
「うーん。今日、神様に願掛けするために集まって来る、大勢の人たちを見たからかな」
実際に今も、私たちの周りには同じように社殿を目指す参拝客がたくさん歩いていて、泪さんも私も、その人々が作る大きな流れの中にいる。
翼
「初詣ではみんな、『昨年はありがとうございました、今年もよろしくお願いします』って言って神様にお願いをするでしょう?」
穂積
「そうだな」
翼
「その言葉を繰り返し聞いてたら、人間って、昔からずっとこうして神様にお願いし続けてきたのかな、って思ったの」
穂積
「なるほど」
翼
「『前世はありがとうございました、来世もよろしくお願いします』…って、言ってるような気がしてきたの」
不意に、泪さんが、私と繋いでいた手を握り締めてきた。
穂積
「翼」
足を止めた泪さんに見つめられて、どきりとする。
穂積
「俺は、人生が神様次第だとしたら、前世も来世もあてにはしない」
泪さんは私を見つめたまま、真顔で言った。
けれどその真剣な眼差しは、次に瞬きをすると、優しく和らいだ。
穂積
「お前の事は、俺が必ず、この現世で幸せにしてやる」
翼
「泪さん…」
穂積
「だから、俺から離れるな。生まれ変わっても忘れるな」
いつの間にか闇が薄れ、新しい夜明けの光で、泪さんの髪が金色に煌めいている。
穂積
「運命なんか信じないが、もしも来世で出会っても、俺はきっとまたお前に恋をする」
……私も。
私も、何度生まれ変わっても、絶対泪さんを好きになる。
翼
「泪さん、大好き」
穂積
「知ってる」
翼
「私、頑張る。だから、お願い。私をずっと好きでいてね」
穂積
「神頼みしたらどうだ?」
そう言って再び歩き出した泪さんの横顔に浮かんだのは、いつも私をからかう時の余裕の笑み。
でも、私の手を引く大きな手の力がさっきより強く、足取りも少し速くなったのは、もしかしたら照れ隠し?
穂積
「ほら、神様の前に来たぞ」
私たちは、並んで手を合わせた。
ねえ、泪さん、私、今気付いたの。
私のさっきのお願いは、神様じゃなくて、『桜田門の悪魔』にしか叶えられないんだって事。
でも、それは、
神様には内緒。
~END~