二度目のデート
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
石造りの美しい街並み、季節は秋。
映画の中の小野瀬さん(じゃないけど)は、リアルに負けず劣らずのモテっぷり。
ヒロインは彼に想いを寄せながら、ひたむきに自分を愛してくれる幼馴染みとの間で揺れ動く。
この幼馴染みが金髪碧眼で、私はどこに感情移入すればいいのか、困ってしまった。
泪さんは、どんな風に想って観ているんだろう。
ちらりと横目で様子を見ようとして、私は、そのまま隣を見つめてしまった。
泪さんは、眠っていた。
端整で優しい顔立ちは、眠ると優しさの方が勝って、とても……可愛い。
こちらに倒れ込みそうな場所にさらさらの金髪が来ていて、私は、むずむずしてきた。
触りたい。
私はつとめてさりげなく(めいっぱい不審だけど)、泪さんに近付いて座り直し、肩が、泪さんの頭に触れるようにした。
すると、支えを得たと感じたのか、泪さんはこちらに横顔を向けたまま、ゆっくりともたれて来た。
きゃー。
どうしよう、成功しちゃった!
間近で感じる泪さんは、温かくて、やっぱり良い香り。
金色の髪はさらさら。
私は肩に愛しい人の重みを感じながら、映画に意識を戻した。
映画の主人公は人気者の男性の心を射止めながらも、自分が本当に愛しているのは、幼馴染みの方だと気付く。
そして、彼女を想うがゆえに遠く旅立った幼馴染みの愛に応える為に、自分もまた、彼を追って旅立っていった。
Finの文字が現れて、館内が明るくなっても、まだ、泪さんは眠っていた。
こんなに疲れているのに、急な誘いに応えてくれたのだと思うと、胸が熱くなる。
考えてみれば、私たち部下は事件を解決して報告をすれば終わりだけど、泪さんは、その報告をまとめて、さらに上に報告をしなければならない。
事件が解決した今日が、まさに、管理職としての泪さんの仕事の始まる日だったのに。
私は自分の考えの浅さに、自己嫌悪に陥りそうだった。
いつまでも寝かせてあげたいと思ったけど、今の回が最終上映だ。掃除の人が来る前に起こさないと。
翼
「泪さん」
穂積
「……」
翼
「泪さん」
穂積
「……ん」
私にもたれた体勢のまま目覚めた泪さんは、瞼を開くと同時に、状況を理解したようだった。
穂積
「あ、すまん!」
翼
「ううん」
たちまち泪さんが離れてしまったのが、ちょっと寂しい。
穂積
「重かったろ。集中出来なかっただろ。本当に、悪かった」
泪さんは平謝りだ。何か、今日は、いろいろな顔を見られる日だな。
翼
「本当に、平気。映画も、とても良かったよ」
穂積
「……そうか……?」
すまなそうな表情の泪さんを励ましながら、とりあえず映画館を出て、近くのレストランに入った。
映画の話をすると、何と、泪さんは最初の導入部でもう寝てしまっていた事が分かった。
穂積
「本当に、ごめん。お前がせっかく、選んでくれたのに」
翼
「ううん、あのね。何かあるな、と思ってた」
穂積
「え?」
翼
「最初に『映画館か?』って言った時、泪さん、まずい、って顔をしたから」
私が言うと、泪さんは項垂れた。
穂積
「相変わらず鋭いな」
溜め息混じりに言う。
穂積
「俺、映画って、寝ちゃうんだよ」
大きい身体を小さくする泪さんが何だか可愛くて、私は笑ってしまった。
穂積
「ドキュメンタリーなら、まだいいんだけど。フィクションだと思うと、つい」
ちょっと分かる気がする。
翼
「選んだ映画が特別につまらなかったから、じゃなくて、良かった」
穂積
「そんな事はない。小野瀬はどうなった?」
小野瀬さんじゃないけど。
翼
「一度は主人公と両想いになったんだけど、最後は、幼馴染みに取られちゃった」
泪さんは腕組みをして、唸った。
穂積
「映画の小野瀬も可哀想な奴」
翼
「そうだね」
小野瀬さんじゃないけど。
そろそろ、映画の話題から離れた方がいいのかな。
私は、壁の時計をちらりと見た。
すぐに泪さんはそれに気付いて、自分の腕時計を確かめた。
穂積
「もう、帰してやらないとな」
ずきん、と胸が痛んだ。
会計の伝票を持って、泪さんが先に立ち上がった。
私は重くなった気持ちと身体を持ち上げて、後をついてゆく。
泪さんが会計している間に化粧室に立ち寄ると、鏡の中の自分は、泣きそうな顔をしていた。
私はもう、こんなに泪さんを好きになっている。
黙ったまま街を歩き、車に戻ると、泪さんは、助手席側に立って、ドアを開けてくれた。
お礼を言って乗り込んだ直後、泪さんは、助手席に身体を屈めて、私にキスをした。
穂積
「……帰したくない」
真剣な表情で言って、泪さんは、もう一度、私に唇を重ねた。
私も同じ気持ち。
返事の代わりに、私からもキスを贈った。
泪さんが角度を変えながら、それに応えてくれる。
唇が離れた時、私は車外に引き出された。
立ったところを抱き締められて、また、唇を奪われる。
泪さんが、外から、車をロックしたのが分かった。
穂積
「……ホテル、行くか」
泪さんが言うのを、私はもう恍惚として聞いた。
駐車場に着く前に、瀟洒なホテルの前を通って来た。きっと、そこの事だろう。
車で安易なラブホテルに連れて行かれるのじゃない事が、嬉しかった。
それに、もう、待てない。
早く、泪さんに抱かれたかった。
翼
「行く」
短く答えて、私は、泪さんの身体をきつく抱き締めた。
泪さんの掌が私の髪を撫でてくれるのが、心地好い。
穂積
「愛してる、翼」
泪さんの言葉が、温かい胸から伝わって来た。
翼
「……私も」
私は涙を堪えて、泪さんを見上げた。
翼
「私も、愛してる」
歩き出す直前、額にキスをくれた泪さんが、私の顔を覗き込んだ。
穂積
「大人の恋なら、俺が教えてやる」
その後の笑顔は、私の一番好きな表情だった。
~END~