『アブナイ☆恋のウェディング・ベル』
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04/22(Fri) 18:25
小春
小野瀬
「……あの、教会の、石膏像ね。26聖人の像だ、って聞いたでしょ?」
翼
「はい」
如月
「……まさか」
小野瀬
「石膏像は、壁画の部屋に行くまでの、通路の両脇に並んでいて……俺、数えてみたんだよ。そしたら……」
怖がりの翼が、早くも、ひっ、と悲鳴を飲み込んで、両手で耳を押さえた。
小野瀬
「……石膏像は、27体あった。帰りにも数えたから、間違いない」
。。。。。
JS
「ええ、忍び込んで調べてみようかと思いましたよ。でもねえ、シスターの目をかいくぐって、X線検査機を運び込んで、全ての像を調べる作業は、非現実的です。それで、実行できなくて」
開店前の『イチゴドルチェ&バッナーナ』の店内にあるボックス席で小野瀬の仮説を聞いたJSは、芝居がかった溜め息をついた。
JS
「それに何より、我が友人が既に亡き者にされ、石膏像に塗り込められていたりしたら、しかも、殺害の発覚を恐れて、表向きは、行方不明の神父を探す芝居をしていたのだとしたら…僕、あのシスターを許せないじゃないですか」
きっと、こっちが彼の本音だろう、と、翼は思いたかった。
翼
「そうなったら、警察の仕事になるから。JS、早まったことはしないでね」
翼に諭されたものの、JSは、肯定も否定もしなかった。
穂積
「26聖人、って、あれでしょ?長崎の公園に、ブロンズ像がある」
座っているスツールを回しながら、穂積が話に入ってきた。
明智は、カウンターの内側で、布巾でコップを磨き上げている。
JS
「ルイルイがご存じとは、意外ですね」
穂積
「九州生まれのワタシが長崎の観光名所を知っている方が、国籍不明で神も仏も畏れないアンタが日本の聖人を知っているより自然だと思うけど」
確かに。
明智
「室長、どうします?教会を家宅捜索出来るよう、令状を請求しますか?」
穂積
「その前に小笠原に言って、26聖人のブロンズ像の資料を探しましょう。そうすれば、教会にある27体の石膏像と、顔や名前を照合する事は出来るわね?」
JS
「ええ、そんな事でしたら、もし見つかっても怪しまれません」
小野瀬
「そうか。照合してみれば、どの石膏像が聖人ではないのかが分かるね」
穂積
「ワタシの記憶が確かなら、3人は少年だったはずよ」
小野瀬
「じゃあ、残りの24体の中に、もしかしたら……」
翼
「言わないでください!」
穂積
「……櫻井には無理そうね。そんなにビクビクしてたら、シスターに怪しまれてしまうわ」
翼
「す、す、すみません」
如月
「大丈夫だよ、翼ちゃん。オレ、霊感あるし。ホラーな捜査は任せておいて!」
翼
「ホラーにしないでください……」
穂積
「さすが如月、頼もしいわね。いいわ。JSが加わってくれたし、櫻井は、石膏像の捜査からは外しましょう」
如月・小野瀬・JS
「えっ?!」
翼が、目を潤ませる。
翼
「ありがとうございます!」
穂積
「まだ、礼を言うのは早いわよ。小春から聞いたけど、明日、教会で、模擬結婚式とかいうイベントが行われるんですって?」
[削除]
04/22(Fri) 18:26
小春
翼
「あ、はい。教会の掲示板にも、張り紙がしてありました」
如月
「団地の周辺に住んでいる、結婚式に興味のあるカップルなら、誰でも見学自由なイベントらしいです」
穂積
「らしいわね。教会の内部を調べるのには、もってこいのイベントだわ。櫻井には、神父ではなくシスターの線から、捜査をしてほしいのよ」
翼
「はい!……神父さんが入っているかもしれない石膏像の捜査より、100倍も1000倍もいいです!」
穂積は、よしよしと翼の頭を撫でた。
穂積
「ただねえ……カップルと言われても、他の不審者の継続捜査もあるから、ワタシと明智はこの店から離れられないし、藤守は怪我人だし。……やっぱり、如月かしら」
如月
「オレですか?!」
張り切ったり落ち込んだりまた張り切ったり、如月は忙しい。
如月
「それはもう、喜んで!」
穂積
「いいの?助かるわあ。じゃあ、櫻井、小笠原と組んで、イベントに参加してちょうだい。如月は、ベッキーになって、小野瀬とカップルね。こういうのは、数が多い方がいいでしょう?」
如月
「ええええ……」
盛大にむくれながら、如月が小野瀬とJSを振り返る。
如月
「女装でいいなら、小野瀬さんと、変装したJSでもいいじゃないですか……」
明智
「お前、小野瀬さんとJSが仲が悪いと知らないのか?」
如月
「……知ってますけど」
JS
「ちなみに、藤守氏にも嫌われています。ドラマCDのキャンプ以来」
如月
「自慢にならないから!あと、ドラマCDとか言わない!」
JS
「僕は小春さんと参加したいんですよ」
如月
「裏切者!室長、オレ、せめて藤守さんがいいです!」
穂積
「藤守には、別の仕事を頼んであるのよ。如月が小野瀬じゃ嫌なら、やっぱり、どうにかして、明智と櫻井で行かせるのが自然かしら」
穂積が、独り言のように呟いたのを、如月は聞き逃さなかった。
如月
「やっぱり、オレが行きます!」
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04/22(Fri) 18:27
小春
リーン…ゴーン…
模擬結婚式のためのウェディング・ベルが響き渡る。
教会を背に、美男美女のモデルが扮して歩く花婿花嫁の姿を、翼は、うっとりとしながら眺めていた。
傍らには、小笠原が立っている。
小笠原
「お芝居なのに」
翼
「でも、素敵なんですもん」
小笠原
「俺なら、結婚式なんて挙げなくてもいい」
翼
「えっ」
小笠原
「結婚自体、契約みたいなものでしょ。役所へ行って、新しい戸籍を作ればいいだけ。わざわざこんな騒がしい事、しなくていいよ」
そうかなあ、という表情の翼の隣で、如月…いや、女装した今日は、ベッキーと呼ぶべきか。
ベッキーが、やれやれと首を振った。綺麗に巻いた、明るい色のウィッグのカールが揺れる。
如月
「小笠原さんには、乙女の気持ちは分からないかなあ」
小笠原
「逆に、如月に乙女心が分かる方がおかしいんだけど」
小野瀬
「ふたりとも、もめてる場合じゃないよ。これから、いよいよシスターが、司祭として、中庭での模擬結婚式を始める。俺たちはその間に、教会の中を捜査しなきゃいけない。JSは?」
そこへ、JSが駈け寄ってきた。
JSは受付だけ小春と済ませて、イベント会場に入ったらしい。
JS
「小春さんは、このイベントの昼食のケータリングを頼まれているんです。忙しそうですが、楽しそうに動き回ってましたよ」
翼
「手伝わなくていいの?」
JS
「いつもの『出張さくら庵』と変わりませんからね。小春さんはプロです。かえって邪魔になるくらいでしょう」
天気が悪ければ、式は礼拝堂で行われる予定だった。
しかし、幸いにも今日は晴天だったため、外での挙式となったのだ。
説明しながら進行される模擬結婚式の所要時間は小一時間ほど。
その間は、イベント参加者のほとんどは挙式の行われる庭か、併設された食事会場に集まる。
教会の内部を探るのには、絶好のチャンスだった。
小笠原
「これ、長崎の26聖人のブロンズ像をプリントアウトした。ここにある石膏像と、急いで照合して」
小笠原が、A4の紙を小野瀬、如月、JSに渡す。
小笠原
「俺は、櫻井さんと式に出て、シスターが教会の中に戻りそうになったら小野瀬さんの携帯に連絡するから」
小野瀬
「俺もそっちが良かったなあ…」
小笠原
「万が一、シスターが神父を殺害していたとしたら、複数犯の可能性もあるでしょ。教会の中を調べてる時にそんな連中と出会った時、俺じゃ櫻井さんを守れない」
如月は今さらながら、穂積が自分をこのチームに入れた意味に思い当っていた。
如月
「わかりましたよ。小笠原さんと翼ちゃんは、外にいてください」
二人を見送った三人は、三方に分かれて、急いで捜査に取り掛かった。
小笠原がくれた写真と、石膏像の名前と顔の造りなどを、ひとつひとつ合わせていく。
如月
「あああ、台座に付いてる名札が日本語じゃないい!ふ、ふ、フラン…シスコ…?この人、フランシスコ吉、さんかな?」
小野瀬
「如月くん、フランシスコ吉さんはここにいるよ。あれ?隣もフランシスコさんだ」
JS
「そちらの、若いフランシスコさんは、フランシスコ・ブランコさんでしょう。ええとこちらは、フランシスコ・デ・サン・ミゲルさん、パウロ…さん」
小野瀬
「パウロ…どのパウロさん?」
JS
「漢字が読めません…最後は『木』ですけど」
小野瀬
「パウロさんは三木、茨木、鈴木で、三人とも最後は『木』だよ」
如月
「小野瀬さん、ここにもフランシスコさんが!トマスさんもペトロさんも二人ずついます!」
小野瀬
「分かった、一回落ち着こう!全員で、端から順に確かめよう!」
04/22(Fri) 18:28
小春
小笠原
「……ねえ、櫻井さん。嫌なら、答えなくていいけど」
翼
「?」
屋外の式場の椅子に腰掛けて、翼と小笠原は、シスターが、聖書の一節を読み上げるのを聞いていた。
小笠原
「明智さんと別れるつもり?」
小笠原らしい率直さで尋ねられて、翼は驚くというより、むしろ笑ってしまいそうだった。
翼
「分かりません」
小笠原
「……否定もしないんだね」
本心から、分からない、としか言えなかった。
明智の事は、好きだ。
もし、今、ここに彼が現れて、「さあ式を挙げるぞ」と言って手を差し伸べてくれたら、翼は迷わずについてゆくだろう。
でも、小笠原に「分からない」と答えたのは、今、明智が現れる事は絶対にない、と思うからだ。
明智は、優しい。
藤守のように、突然、真っ直ぐな思いをぶつけて来て翼の心を揺さぶったりはしない。
如月のように、人前でも構わず、街中でも照れずに「大好き」と大声を出す事も無い。
小野瀬のように、計算された微笑みを浮かべて耳元で囁いて、距離を詰めて来る事も。
小笠原のように、率直に言いたい事を言う事も、聞きたい事を聞いてくる事も、無い。
誰よりも強いのに、謙虚で、基本的にいつも受け身で、でも、誠実に愛してくれる。
だからこそ、不安な時は一緒にいて欲しいのに。
あの瞳で見つめてくれて、あの声で「お前が好きだ」と言ってくれさえすれば、翼は何も疑わないのに。
明智は、翼を信じてくれている。
だから、勤務中は素っ気ないし、職場を離れても、翼の時間を奪おうとはしない。
そういう真面目さも実直さも好きだし、今の明智の立場も分かっているつもりだから、不満、ではない。
ただ、不安なのだ。
別れたい、とは思っていない。
ただ、このまま別れてしまうこともあるかもしれない、と、漠然と思う。
明智から別れを切り出す事は無いだろう。
翼が別れを切り出したとしても、明智なら、「分かった」と頷いて、それきりだろう。
この恋を切り替えるスイッチは、翼が持っているのだ。
小笠原が、隣から、物思いに耽る翼を見つめている。
そのメガネの奥の切れ長の目に灯っている静かな火に、翼が気づくのはまだ先の事だ。
~その頃のJS・小野瀬・如月~
「……これが、27人目か……」
三人は、通路に居並ぶ石膏像の中から、長崎で殉教した聖人に当てはまらない一体を、ようやく見つけ出していた。
JS
「失踪中の神父とは、似ていませんよ」
如月
「中身と外観は違うのかも」
小野瀬
「……如月くん、『中身』とか言わないの」
如月
「すみません。それで、どうします?これから」
小野瀬
「任せて。携帯型のX線検査装置を持って来た」
JS
「えっ」
如月
「どこに?」
驚く二人をよそに、小野瀬は、提げてきたバッグから、ノートパソコンと、なにやら機械をいくつも取り出して、石膏像の側に設置し始めた。
小野瀬
「これが、X線発生装置。こっちは、コントローラー。ここに、計測対象物があるから、ここに、デジタルパネルを設置して……」
如月
「あ、そうか!普段、鑑識で大きいX線装置ばかり見てるからピンとこなかったけど、これ、コンサートの時なんかに、手荷物検査で見かけるやつだ!」
小野瀬
「正解だよ。食品の異物混入検査や、路上に放置された不審物の非破壊検査…もちろん、こうした、建物とか、仏像とか、壊すわけにいかないものの検査にも使えるんだ。X線作業主任者の資格が要るから、だれでも操作できるわけではないけど。…あとは、専用ケーブルと、ノートパソコンを繋げば…はい、OK」
ブン…と音を立てて、機械が動き出す。
小野瀬
「さあ、急ごう」
JS
「中身が詰まっていない事を願いますよ…」
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04/22(Fri) 18:30
誰か気付いてくれたら嬉しい
小春
翼
「今、思いついたんですけど。シスター・フユコは、神父さんに好意を持っていたのかもしれませんね」
新郎新婦の誓いの言葉を聞きながら、翼が呟いた。
小笠原
「どうして?」
翼
「お金の事とか、殺害するほど憎んでたとか。そういう動機ももちろん考えられますけど、もっと自然に、好きだったから、側に居てくれると思っていたんじゃないでしょうか」
小笠原
「でも、神父はいなくなった。つまり、シスターが片思いしていた、って事?」
翼
「そこまでは断定できません。神父さんもシスターを好きだったけど、だからこそ身を引いたとか」
小笠原の視線の先で、シスターは、丸い身体で、丸い声を出して、参加者たちに結婚の素晴らしさを説いている。
小笠原は、わずかに眉をひそめた。
小笠原
「…その可能性は、俺も考えた。でも、この教会は、カトリックだよ。神父も、シスターも、結婚出来ないと分かってて、司祭の道を選んでいるはずだ」
翼
「あっ…」
小笠原
「それより、もうじき、模擬結婚式が終わるよ。小野瀬さんたちの捜査は、決論が出たかな?」
翼
「如月さんに電話してみます!」
。。。。
ここは『イチゴドルチェ&バッナーナ』の裏口。
藤守
「室長、分かりました!見つけましたよ!」
入ってきた藤守の、弾んだ声での報告に、忙しい配膳の合間を縫って、穂積が笑顔を返した。
穂積
「やってくれたわね、藤守。さすが、聞き込みの才能はピカイチだわ」
穂積に褒められて、藤守の頬も輝いた。
穂積
「アンタの捜査のおかげで、残りの声掛け事案もこれからの不審者対策も、一気に解決に向かうかもしれないわよ」
藤守
「ホンマですか?俺、自分では、よお分かってないんですけど…」
穂積は厨房で腕を振るっている明智とも言葉を交わして、頷いた。
穂積
「さあ、イチゴの店も軌道に乗ってきたし、刑事さんに戻るわよ!」
慶史さんが来ちゃうフラグになるかも、などと思いつつ、
そして、さんざん放置したのでもはや誰も読んでいないかも、と思いつつ、とにかくハッピーエンドを目指してます。
ここでパース!(>▽<)ノ⌒〇
[削除]
04/24(Sun) 04:08
スゴイ!
ジュン
小春さんスゴイです!
こんなに進められるなんて!
そして私も賢史くんと同じようによくわかっていない(-_-;)
複雑だ…
続きを考えられない私を許してください〜。・゚・(ノД`)・゚・。
[削除]
04/24(Sun) 16:33
ジュンさんありがとうございます!
小春
いいんですいいんです!
読んで下さっているだけでもいいんです!
小春頑張るよ!
*****
X線装置での検査の結果は…
石膏像に、『中身』は詰まっていなかった。
ほっとする一方、小野瀬が首を傾げる。
小野瀬
「……だとすると……この人物は、誰だ?」
行方不明の神父ではない。
26聖人の一人でもない。
JS
「……」
窓の無い薄暗い通路、天井の質素な電燈からの明かりだけが、物言わない石膏像の陰影を浮かび上がらせている。
如月
「なんか考え込んじゃって、どうしたの、JS?」
JS
「いえ……この像の人物の顔……よく見たら、どこかで見覚えがあるような……」
「?」
その時、マナーモードにしていた如月の携帯が震えた。
如月
「あっやべ。翼ちゃんからの合図だ!急ぎましょ、シスターがこっちに来るかも!」
小野瀬
「機械はバッグに戻した。車に積んでくるから、きみたちは、怪しまれないように、昼食会場へ向かって!」
*****
教会の庭の一角に設えられた、イベントの為の昼食会場。
『出張さくら庵』のキッチンカーが停められている周りにはたくさんのベンチが置かれ、何組もの恋人たちが、仲睦まじく肩を寄せて昼食を楽しんでいる。
どこにいてもすぐに分かる丸っこ…シスターの周りにも、にこやかなカップルたちがいて、質問したり答えたりして賑わっている。
どうやら、シスターの企画した、今回の疑似結婚式イベントは大成功の様だ。
少し離れた木陰に、小笠原と翼の姿もあった。
如月
「翼ちゃん、小笠原さん」
女装した如月が、二人に近付いて来た。
翼
「ベッキーちゃん、彼は?」
如月
「車に荷物を置きに行っただけぇ。すぐに来ると思うぅ」
もう一人のJSは、いそいそと小春のキッチンカーの方へと歩いていくのが見える。
小笠原
「……それで?」
如月
「別にぃ」
何も無かった、という事だろう。
翼は半分ほっとしながらも、半分は、進展が無かった事が残念そう。
小野瀬が戻ってきた。
小野瀬
「JSは?」
自分の役割を思い出して、如月が小野瀬の腕に自分の腕を絡めてから、キッチンカーを指差した。
如月
「カノジョのところでーす」
小野瀬
「呼んできてくれ」
如月
「今行ったばかりですよ?野暮ですねえ」
小野瀬
「いいから」
如月
「はぁーい」
可愛い乙女を演じながら、如月が離れてゆく。
小笠原
「小野瀬さん、何か見つけたの?」
小声で訊く小笠原に、小野瀬も、小声で返す。
小野瀬
「車に戻る前に、ふと思い出してね。ちょっと回り道をして、ついでに、壁画にもX線装置をかけてみたんだ。そうしたら……」
小野瀬が、もう一段、声を低くした。
小野瀬
「…壁画の下に、別の壁画が描かれている事が分かった」
*****
小春
「おかえりなさい、太郎さん」
JS
「寂しい思いをさせてすみません、小春さん」
ロマンティックなイベントに誘われたと思ったら、パートナーはどこかへ行ってしまって、小春は一人で他の恋人たちの為の食事を作っている。
普通なら、怒って帰ってしまっても文句の言えな状況だ。
だが、謝るJSの目の前で、小春は手際よく料理を作りながら、相変わらずにこにこしていた。
小春
「大丈夫ですよ。私、太郎さんが側に居ない時には、今頃どんな冒険をしてるのかなあ、って、勝手に想像してみるのが好きなのです」
JS
「そんな事をしてるんですか」
小春
「はい」
JSは苦笑いしたが、ふと、思いついた事を小春に尋ねた。
JS
「……でしたら、ひとつ、物語を考えてもらえませんか?」
小春
「なんでしょう」
小春が目を輝かせる。
JS
「僕の知人が、今、行方不明なんです。彼は、カトリック教徒なので、恋愛とは関係ない事情だと思うのですが……」
すると、予想外の事が起きた。
小春
「どうしてですか?」
小春が、きょとんとした顔でJSに聞き返してきたのだ。
JS
「えっ?」
小春
「カトリックでは恋愛が許されないのに、それでも恋をしてしまったら、その恋心を忘れるためにどこかへ逃げてしまおうと考えるのは、普通ではありませんか?」
JS
「…あ…」
小春
「まして、両想いになれたとしたら。その恋のために、宗教を捨てる覚悟が出来ているのだとしたら」
本当に、頭の中に浮かんだ物語を音読するように、すらすらと小春が言葉を続ける。
小春
「恋人とふたり、安全に暮らせる場所を探すことも、見つけ出せるまで、姿を隠すことも、当たり前ではないですか?」
「…恋を、してはいけないからこそ…」
JSの頭の中で、今までとは違う方向の仮説が生まれてきた。
言われてみれば、簡単に思い付くのに。
あの体形に惑わされて、見えていた答えを見逃していた。
そこへ、如月が来た。
如月
「JS、小野瀬さんが、話があるんだって。小春ちゃん、ごめんね。JSを借りてっていい?」
小春
「はい」
JS
「僕も、御大に聞いて欲しい話があります。小春さんが、ヒントをくれました」
JSは、小春を振り返った。
JS
「小春さん、行ってきます」
小春が微笑む。
小春
「どうぞ、行って下さい、太郎さん。また、冒険のお話を聞かせて下さいね」
JS
「ええ、もちろん。帰ってきたら、あなたの空想と、答え合わせをしましょう」
[削除]
04/25(Mon) 12:31
小春
如月、小野瀬、JS,そして翼と小笠原は、教会の駐車場に置かれた、小野瀬の車の車内にいた。
運転席には、見張り役の如月と翼。
後部座席でパソコンを開く小野瀬の隣には、JSと小笠原がそれぞれ座っている。
小野瀬
「前回、シスターが俺に壁画を見せてくれた時の説明では、描かれているのは福音記者ヨハネだ、と説明してくれた。頭髪が無いかわりに、長く白い顎髭を伸ばしたお爺さんだ。イエスの最愛の弟子だったそうだよ」
如月
「髪がなくなってもヒゲは生えてくるのかなあ…」
遺伝的な悩みを抱える如月は、頭髪の話題に敏感だ。
小笠原
「如月、黙ってて」
小野瀬
「これが、その、ヨハネの壁画の下に塗り込められていた絵だよ」
小野瀬がキーに触れると、ディスプレイに、X線装置で撮影した画像が映った。
小笠原
「上の絵と全然違う。JS、何の絵か分かる?」
JSはじっと画像に目を凝らしたまま、答えた。
JS
「……『聖母子と二天使』……を模した絵のようですね。カトリックの修道士であったリッピが、妻のルクレツィアと二人の子供をモデルに、聖母マリアと、二人の天使に抱かれた幼いキリストを描いた宗教画です。有名な絵画ですよ。当時としては画期的な構図で描かれていて、背景の描き方などは、後のダ・ヴィンチの『空気遠近法』の礎になったともいわれ…」
アンティーク専門の怪盗で詐欺師でもあるJSは、中世ヨーロッパの美術品に造詣が深い。
小笠原
「ちょっと待って。不自然だ」
止めなければいつまでもうんちくを語りそうなJSを、小笠原が制した。
小笠原
「カトリックの修道士が妻を?」
JS
「お気付きになりましたか、さすがですね。そうです、カトリックの修道士は結婚出来ません。しかも実は、ルクレツィアも修道女だったのです」
翼
「えっ」
小野瀬
「なるほど……」
小笠原
「……」
如月
「あのー……つまり、どういうこと?」
如月だけが、全員の顔を見比べてきょろきょろしている。
JSが、如月に向かってにっこりと笑った。
JS
「下世話な言い方をすれば、二人は、駆け落ちして夫婦になった、という事です。…まあ、実際には、画家でもあったリッピが、モデルになって欲しいと言ってルクレツィアを誘い込み、そのまま妻にしてしまった、というのがオチですが」
如月
「リッピ悪っる!」
JS
「風紀に厳しい時代で、50歳の修道士が、娘のような年齢の、穢れを知らない修道女を、誘拐まがいのやり方で妻にしたんですからね。死罪にされても仕方のない、大事件になったそうですよ」
小野瀬が、軽く手を挙げた。
JSと如月が小野瀬を見る。
小野瀬
「ありがとう、面白い話だ。もっと詳しく聞きたいけれど、今は、なぜ、この絵が隠されて、神父がいなくなったのか、が先だよ」
JS
「聡明な御大には、もう、この事件の流れが掴めているのではありませんか?」
JSが肩をすくめ、唇を笑みの形に変えると、全員が、小野瀬に期待の目を向けた。
小野瀬
「……俺の推理はこうだ。先にこの教会の司祭として赴任していた神父が、次に教会に来た修道女、シスター・フユコと恋に落ちた。だが、二人の結婚は、カトリックでは許されない事で、現代では死罪にこそならないものの、破門されてしまうような大罪。そこで、神父は、地元の人たちには疑われないよう、きれいに引継ぎを済ませ、いかにも、どこか別の教会へ異動するかのように装って、ここを離れた」
小笠原
「でも、実際には、修道士である限り、結婚は出来ない。そこで、行方不明を装う事にした。当然、シスターは事実を知っていて、敢えて、神父を探すふりをする」
如月
「誰から逃げるんです?」
JS
「カトリック、という組織からですよ。そうして時間を稼いで準備し、しっかりと生活基盤を確保してからでなければ、還俗は出来ない。彼らに、個人的な資産は無いのですから」
翼
「じゃあ……神父さんは、今、シスターとの新しい生活の為に、どこか遠くで、修道士としてではなく働ける場所と、新居を探している…と言う事ですか?」
藤守
「大阪の心斎橋の近くで、学習塾の講師になってましたわ」
突然、この場にいないはずの人物の声が聞こえて、車内の全員が、一斉に声の方を振り向いた。
助手席の窓のガラス越しに、藤守が笑顔で立っている。
翼
「藤守さん?!どうしてここに?!」
驚く翼だが、JSと小野瀬は、早くも、嫌な予感に顔を強張らせている。
藤守
「室長に言われて、手伝いに来たに決まってるやん?」
04/25(Mon) 12:32
小春
小野瀬
「どうして、教会に一度も来たことのないアイツが、たった今俺たちが行き着いたばかりの推理の結果を知ってるのかな……?」
藤守
「推理って、何の話ですか?」
藤守は笑顔のまま、ドアを開けた。
すぐ目の前にある、翼の頭を撫でる。
藤守
「俺は、ただ、室長に言われた通り、団地の噂好きな奥様達に、神父とシスターとの仲はどうだったか、丹念に聞き込みを続けただけですわ」
小野瀬
「……」
藤守
「あとは、神父とシスター、それぞれの生まれた場所から育った場所、学生時代に過ごした場所…そういう、土地勘のあるだろう地域の役所に、どちらかの転入届が提出されたら警視庁に教えてくれるように。職業安定所に連絡して、神父が仕事を探しに現れたら、教えてくれるように。そう、頼んでおいただけで」
JS
「……」
藤守の手帳に挟まれていた写真を覗いた如月が、あっ、と声を上げた。
如月
「その写真!」
藤守
「ん?おお、シスターの、学生時代の写真やで。調べてる途中で手に入ってな。かいらしい美人さんやなあ」
藤守が差し出した写真を見た全員の身体から、力が抜けてゆく。
JS
「僕としたことが、全然分からなかった…」
小野瀬
「苦労したのに…」
如月
「いや、でもこれ詐欺でしょ?!」
小笠原
「失礼だよ如月。まあ、確かに、ほとんど別人だけど」
そこに映っていたのは、すらりとして美しいシスター・フユコ。
そして、27人目の石膏像の人物だった。
イベントの終わりを告げる、シスターが鳴らすウェディング・ベルが響き渡る。
翼は小春のキッチンカーの片付けを手伝いに行っていて、丘の上からさくらが丘の街を見下ろしているのは、男たちだけだ。
小野瀬
「シスターがしきりに壁画のある場所に行きたがったのは、ヨハネの絵の下に隠された、リッピの絵を知っていたからだったのか……」
JS
「自分と神父の境遇に重なりますからね……だからこそ、隠したんでしょうが」
小笠原
「誰も何も知らないまま、近いうちに、シスターもこの教会を去っていくんだね」
藤守
「なんや、切ないな」
如月
「幸せになれるといいですね。あああ、俺も、翼ちゃんと幸せになりたいなあ」
如月のつぶやきに、全員が反応した。
藤守
「ちょお待て。なんでお前やねん」
小野瀬
「そうだよ。明智くんならともかく」
小笠原
「まさか、如月も、櫻井さんを狙っているの?」
小野瀬
「も、ってどういう事?まさか、小笠原も?」
如月
「小野瀬さんも、『も』?」
JS
「おやおや」
JSだけが、くすくすと笑いだした。
JS
「面白くなりそうですねえ」
彼らの耳には、響き渡るウェディング・ベルが、まるで、戦いの開始を告げる、ゴングのように聞こえていた……
*****
室長解禁で、いよいよ全員が翼ちゃんを攻略するための舞台が整いました。
さあ、最後にウェディング・ベルを鳴らすのは誰だ?
高校生、大学生、社会人に声掛けをしていた不審者は?
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
[削除]
04/26(Tue) 07:24
いつもの逃げ路線!
ジュン
〜翼Vision〜
今日は久しぶりのお休み。不審者事件が始まってから土日もなく働いていたので「体調管理も仕事の内」という室長の計らいで交代で休みを取ることになった。今日は室長と藤守さんと如月さんが出勤中。明日は藤守さんと如月さんがお休みだ。(室長はいつ休むんだろう?)そんなことを思いながら待ち合わせ場所へ。昼下がりのカフェでまーくんと待ち合わせだ。
明智
「すまない、待たせたか?」
待ち合わせ時間から5分遅れてまーくんが走ってきた。
翼
「大丈夫だよ。」
ニコリと笑って答えたつもりだけど私、笑えてるかな?いつもなら嬉しくて大好きなまーくんとの二人だけの時間。だけどいつもと何か違う。自分でも何が違うのかわからないほどの小さな違和感。まーくんと結婚式の希望なんかを話してもどこか自分の事じゃないみたい。結局これと言ったことは何も決まらず…。駅まで向かう途中まーくんに腕を引かれて路地に入る。
明智
「翼…」
ゆっくりとまーくんの顔が近づいてくる。キスされる。そう思った瞬間私はまーくんの口を手でふさいでいた。
不審者については何にも浮かばないのでいつもの逃げ路線で(^_^;)
ここでパース( ̄ー ̄)/⌒○
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04/26(Tue) 09:35
さすがジュンさんグッジョブ
小春
素晴らしい。
そろそろ一息入れないと、と思ってました。
他にも誰かアイディアあるかなー。
とりあえずパスしておきまーす。(ノ´ー)ノ○(全投げ)
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05/08(Sun) 08:59
小春
翼
(……どうしよう……拒んじゃった……)
『す、すまなかった。そうだよな、久しぶりなのに、こんな場所じゃ、嫌だよな…』
明智はそう言って謝ってくれた。
違うのに。
謝らなければいけないのは翼の方なのに。
明智の優しさが辛い。
こんな自分が分からない。
すれ違いを感じ始めたのは、思い出せないほど些細な事がきっかけだった。
それなのに、なぜ、いつの間に、お互いに、どこか後ろめたさを感じてしまうような関係になってしまったんだろう。
『また、明日な』
『うん』
目を合わせられないまま、別れてしまった。
明日。
以前なら、明日が待ち遠しかったのに。
明日。
こんなぎこちなさは消えて、以前のように自然な関係に戻れていればいいのに。
*****
ひとり、路地に立ち尽くしている明智を残し、翼が足早に駅へ向かって去って行く。
その後ろ姿を、少し離れた場所から、複雑な面持ちの2人が見つめていた。
如月
「藤守さん、見ちゃいました?」
藤守
「見てしもたな……」
外回りの途中で、偶然明智と翼を見かけ、声をかけようとした矢先に、路地裏での2人のやり取りを見てしまったのだが。
如月
「どうします?」
藤守
「どうせえ言うねん」
如月
「あの2人、別れちゃうのかな…」
独り言のような呟きを、藤守がたしなめる。
藤守
「如月!明智さんと櫻井がうまくいってないとしても、割り込んで、別れさすような事したらあかんで!」
如月
「分かってますよぅ。オレだって、2人には幸せになって欲しいんです。仲直りしてくれれば、その方がいいに決まってます」
如月は、食べかけだったハンバーガーの残りを、口の中に放り込んだ。
如月
(…でも、このままだったら、オレにも……)
藤守
「何か言うたか?」
如月
「もぐもぐもぐ!」
藤守
「食いながら喋るな!…とにかく、俺らは今、何も見んかった。ええな?」
如月
「もぐ!」
もぐもぐしている如月を横目に、藤守は藤守で、色々と考えていた。
藤守
(……そうや、仲直りして、櫻井が幸せになってくれるならそれが一番ええ。けど、今のままやったら、多分俺の方が……ああもう!…明智さん、なんで、もっと、しっかり捕まえておいてくれへんのや……?!)
そして藤守もまた、香が抜けてしまったコーラを飲み干した。
その横顔を、如月が見つめている。
*****
翼
(……はあ……ゆうべは眠れなくて、落ち着かなくて、こんなに早く出て来ちゃった……)
いつもよりずっと空いていた駅から警視庁までの道を歩きながら、翼は、溜め息をついていた。
すると。
「櫻井」
涼やかな声が、どこからか自分の名前を呼んだ。
辺りを見回すと、行く手の方向、自分が立っている歩道の反対側の車線で、ハザードランプを焚いて停車した車が目に入った。
見覚えのある車の運転席の窓から、笑顔の男性が振り返って手を挙げる。
見慣れた職場以外の場所で改めて見ると、その美貌は桁外れで、周囲のモブとの差は凄まじい(失礼)。
「乗っていらっしゃい」
口調はオカマだけど。
翼は急いで、小走りに横断歩道を渡った。
車を降りた穂積が、助手席側に廻ってドアを開けてくれている。
穂積
「おはよう」
翼
「おはようございます、乗せていただきます。ありがとうございます」
穂積
「どうぞ」
穂積が微笑む。
職場では厳しい穂積だが、こんな場面では、こんなに紳士的なのか。
…全ての仕草が、まるで、映画のように様になっている。
翼の方は、助手席に乗り込み、穂積が運転席に戻ってハンドルを握るまでの間でさえ、自分に羨望の眼差しを向けてゆく歩行者たちからの無言の圧に、肩身の狭さを感じるほどなのに。
翼
「えと、室長は、いつも、こんなに早いご出勤なんですね」
歩道に背を向けるように、翼は穂積に向き直った。
穂積
「お偉いオジサマたちは、朝早くから会議したいらしくてねえ」
走り出した車の窓からの風に、嫌味を吐く穂積の金髪がそよいで煌めく。
穂積
「でも、おかげでアンタを拾えたんだから、たまには良い事もあるわね」
車内での穂積は、いつもよりのんびりと話す。
なんだかひとつひとつが新鮮で、翼も微笑んでいた。
翼
「私も、良かったです。室長に拾ってもらえて」
拾われた、と思うのは、初めてじゃないな、と翼は思った。
そして、どうやら、穂積も、同じ事を思い出していたらしい。
穂積
「そう?嬉しいわ」
穂積の腕が伸びてきて、大きな手が、翼の頭を優しく撫でた。
穂積
「今日は、ついてる」
小さく呟いた穂積の声は、翼にしっかりと届いていた。
*****
室長参戦で、無意識に張り切ってしまう小春。
明智さん、如月さん藤守さん、他のみんなも頑張れ!
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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10/10(Mon) 10:46
これまでのあらすじ
小春
すっかり更新停滞してしまって申し訳ありません。
最後まで頑張ります。
☆~ご都合主義インフォメーション~☆
★さくらが丘団地の規模について、訂正です。
誤:『250世帯』→正:『2500世帯』
読み返して気付いたけど、0がひとつ足りない!Σ(°Д°)
いまさらで申し訳ありません。単純な入力ミスでした。
★ここまでの流れ。
櫻井翼には、幼い頃から2つの夢がありました。
ひとつは、人の役に立つこと。
もうひとつは、好きな人のお嫁さんになること。
警察官になる夢を叶えた翼は、男性ばかりの緊急特命捜査室で懸命に頑張り、捜査員たちから愛されるようになりました。
やがて、その内のひとり、明智誠臣さん(まーくん)からのプロポーズを受けます。
真面目で優しく、柔道と射撃では警視庁屈指の実力者でありながら、プライベートでは家事一般をそつなくこなす彼との結婚を控え、翼は幸せいっぱいでした。
ところが、さくらが丘団地で発生した、不審者による声かけ事案の捜査中、些細な事から、翼と明智さんの間に微妙な雰囲気が生まれてしまいます。
翼の気持ちが揺れている事は周りの捜査室メンバーにも自然と伝わり、彼女に寄り添いたいと考える男性たちは、翼の知らないところで、恋の火花を散らし始めるのでした…
本編では発生しなかった、翼をめぐるアブナイ恋のバトルロワイヤル!
最後に彼女とウェディングベルを鳴らすのは誰?!
……というリレーSSです。
まだ、ラストは未定です。
超マイペース更新ですが、よろしくお願いします。
参加大歓迎!
~声かけ事案と解決済みの容疑者、ウェディングベルと、新たに解放されたルートのお相手~
スタート…明智ルート
幼稚園児…黒柳理事長 イチゴの恋のニュースでウェディングベルが鳴る→+藤守
小学校低学年…桃井イチゴ 藤守と食事中に丘の上の教会の鐘→+如月
小学校高学年…南原ムタキ 怪盗ウェディングベル(JS)からの手紙(イメージの鐘)→+小野瀬
中学生…シスターフユコ(雇った複数の人物) 模擬結婚式開始の鐘…+小笠原
…模擬結婚式終了の鐘…+穂積
高校生…未解決
大学生…未解決
社会人…未解決
*****
~翼vision~
ここは捜査室。
穂積
「残る声掛け事案は、高校生、大学生、社会人をターゲットにしたものだったわね。
ワタシたちも、いつまでもさくらが丘団地ばかりに関わってはいられないわ。
全員、気合いを入れて積極的に捜査していきましょう」
「はい!」
と言っても、返事をしたのは、明智さんと私だけ。
今日、藤守さんと如月さんは公休なのだ。
でも、この場には、もうひとりいるはず…
穂積
「小笠原!アンタ、今、返事の代わりに溜め息ついたでしょ!」
小笠原
「地獄耳」
穂積
「だから聴こえてるって言ってんのよ!」
小笠原
「痛い!暴力上司!」
小笠原さんは、室長に捕まって、頭を拳でグリグリされながら、やめろよ離せよと喚いている。
でも、私は知っている(やられたことがあるから)。
あれ、傍から見る程痛くないの。
むしろ、室長に肩を抱いてもらえるから、悪い気はしないんだ。
きっと、小笠原さんも、室長に構ってもらえて、本当は、ちょっと嬉しいのよ。
明智さんと婚約してから、室長、私にはしてくれなくなっちゃったけど……って、これじゃ、私、叱られたいみたいね。
そんなことを思いながら、微笑ましく見つめていると。
室長が、ぱっ、と小笠原さんから手を離した。
穂積
「おっと、遊んでる場合じゃなかったわ。小笠原、藤守の聞き込みで、新たに分かった事実があったわね」
小笠原
「高校生と大学生に声かけをしていたのは、違う人間だけど内容は同じだった、って事だろ」
スーツの乱れを直す小笠原さんの額を、室長がデコピンした。
穂積
「敬語を使え!」
小笠原
「やめろよ暴力上司!」
穂積
「あぁ?」
さすがに話が進まない。
明智
「小笠原、いちいち逆らうな」
溜め息混じりでたしなめられて、小笠原さんが明智さんに顔を向けた。
小笠原
「ごめん」
穂積
「謝る相手が違うだろうが」
こちらもスーツの乱れを直しながら、室長がぶつぶつ不満を漏らす。
翼
「室長…」
穂積
「はい、ごめんなさい。話を進めましょう」
小笠原さんを横目で睨んで唇を尖らせる室長が可愛かったけど、笑っては失礼だと思って、私は姿勢を正した。
穂積
「結論を先に言うわ。高校生と大学生に声かけをしていたのは、間もなく隣の地区に完成する『ゆりが丘団地』の関係者たちよ」
小春
小野瀬
「……あの、教会の、石膏像ね。26聖人の像だ、って聞いたでしょ?」
翼
「はい」
如月
「……まさか」
小野瀬
「石膏像は、壁画の部屋に行くまでの、通路の両脇に並んでいて……俺、数えてみたんだよ。そしたら……」
怖がりの翼が、早くも、ひっ、と悲鳴を飲み込んで、両手で耳を押さえた。
小野瀬
「……石膏像は、27体あった。帰りにも数えたから、間違いない」
。。。。。
JS
「ええ、忍び込んで調べてみようかと思いましたよ。でもねえ、シスターの目をかいくぐって、X線検査機を運び込んで、全ての像を調べる作業は、非現実的です。それで、実行できなくて」
開店前の『イチゴドルチェ&バッナーナ』の店内にあるボックス席で小野瀬の仮説を聞いたJSは、芝居がかった溜め息をついた。
JS
「それに何より、我が友人が既に亡き者にされ、石膏像に塗り込められていたりしたら、しかも、殺害の発覚を恐れて、表向きは、行方不明の神父を探す芝居をしていたのだとしたら…僕、あのシスターを許せないじゃないですか」
きっと、こっちが彼の本音だろう、と、翼は思いたかった。
翼
「そうなったら、警察の仕事になるから。JS、早まったことはしないでね」
翼に諭されたものの、JSは、肯定も否定もしなかった。
穂積
「26聖人、って、あれでしょ?長崎の公園に、ブロンズ像がある」
座っているスツールを回しながら、穂積が話に入ってきた。
明智は、カウンターの内側で、布巾でコップを磨き上げている。
JS
「ルイルイがご存じとは、意外ですね」
穂積
「九州生まれのワタシが長崎の観光名所を知っている方が、国籍不明で神も仏も畏れないアンタが日本の聖人を知っているより自然だと思うけど」
確かに。
明智
「室長、どうします?教会を家宅捜索出来るよう、令状を請求しますか?」
穂積
「その前に小笠原に言って、26聖人のブロンズ像の資料を探しましょう。そうすれば、教会にある27体の石膏像と、顔や名前を照合する事は出来るわね?」
JS
「ええ、そんな事でしたら、もし見つかっても怪しまれません」
小野瀬
「そうか。照合してみれば、どの石膏像が聖人ではないのかが分かるね」
穂積
「ワタシの記憶が確かなら、3人は少年だったはずよ」
小野瀬
「じゃあ、残りの24体の中に、もしかしたら……」
翼
「言わないでください!」
穂積
「……櫻井には無理そうね。そんなにビクビクしてたら、シスターに怪しまれてしまうわ」
翼
「す、す、すみません」
如月
「大丈夫だよ、翼ちゃん。オレ、霊感あるし。ホラーな捜査は任せておいて!」
翼
「ホラーにしないでください……」
穂積
「さすが如月、頼もしいわね。いいわ。JSが加わってくれたし、櫻井は、石膏像の捜査からは外しましょう」
如月・小野瀬・JS
「えっ?!」
翼が、目を潤ませる。
翼
「ありがとうございます!」
穂積
「まだ、礼を言うのは早いわよ。小春から聞いたけど、明日、教会で、模擬結婚式とかいうイベントが行われるんですって?」
[削除]
04/22(Fri) 18:26
小春
翼
「あ、はい。教会の掲示板にも、張り紙がしてありました」
如月
「団地の周辺に住んでいる、結婚式に興味のあるカップルなら、誰でも見学自由なイベントらしいです」
穂積
「らしいわね。教会の内部を調べるのには、もってこいのイベントだわ。櫻井には、神父ではなくシスターの線から、捜査をしてほしいのよ」
翼
「はい!……神父さんが入っているかもしれない石膏像の捜査より、100倍も1000倍もいいです!」
穂積は、よしよしと翼の頭を撫でた。
穂積
「ただねえ……カップルと言われても、他の不審者の継続捜査もあるから、ワタシと明智はこの店から離れられないし、藤守は怪我人だし。……やっぱり、如月かしら」
如月
「オレですか?!」
張り切ったり落ち込んだりまた張り切ったり、如月は忙しい。
如月
「それはもう、喜んで!」
穂積
「いいの?助かるわあ。じゃあ、櫻井、小笠原と組んで、イベントに参加してちょうだい。如月は、ベッキーになって、小野瀬とカップルね。こういうのは、数が多い方がいいでしょう?」
如月
「ええええ……」
盛大にむくれながら、如月が小野瀬とJSを振り返る。
如月
「女装でいいなら、小野瀬さんと、変装したJSでもいいじゃないですか……」
明智
「お前、小野瀬さんとJSが仲が悪いと知らないのか?」
如月
「……知ってますけど」
JS
「ちなみに、藤守氏にも嫌われています。ドラマCDのキャンプ以来」
如月
「自慢にならないから!あと、ドラマCDとか言わない!」
JS
「僕は小春さんと参加したいんですよ」
如月
「裏切者!室長、オレ、せめて藤守さんがいいです!」
穂積
「藤守には、別の仕事を頼んであるのよ。如月が小野瀬じゃ嫌なら、やっぱり、どうにかして、明智と櫻井で行かせるのが自然かしら」
穂積が、独り言のように呟いたのを、如月は聞き逃さなかった。
如月
「やっぱり、オレが行きます!」
[削除]
04/22(Fri) 18:27
小春
リーン…ゴーン…
模擬結婚式のためのウェディング・ベルが響き渡る。
教会を背に、美男美女のモデルが扮して歩く花婿花嫁の姿を、翼は、うっとりとしながら眺めていた。
傍らには、小笠原が立っている。
小笠原
「お芝居なのに」
翼
「でも、素敵なんですもん」
小笠原
「俺なら、結婚式なんて挙げなくてもいい」
翼
「えっ」
小笠原
「結婚自体、契約みたいなものでしょ。役所へ行って、新しい戸籍を作ればいいだけ。わざわざこんな騒がしい事、しなくていいよ」
そうかなあ、という表情の翼の隣で、如月…いや、女装した今日は、ベッキーと呼ぶべきか。
ベッキーが、やれやれと首を振った。綺麗に巻いた、明るい色のウィッグのカールが揺れる。
如月
「小笠原さんには、乙女の気持ちは分からないかなあ」
小笠原
「逆に、如月に乙女心が分かる方がおかしいんだけど」
小野瀬
「ふたりとも、もめてる場合じゃないよ。これから、いよいよシスターが、司祭として、中庭での模擬結婚式を始める。俺たちはその間に、教会の中を捜査しなきゃいけない。JSは?」
そこへ、JSが駈け寄ってきた。
JSは受付だけ小春と済ませて、イベント会場に入ったらしい。
JS
「小春さんは、このイベントの昼食のケータリングを頼まれているんです。忙しそうですが、楽しそうに動き回ってましたよ」
翼
「手伝わなくていいの?」
JS
「いつもの『出張さくら庵』と変わりませんからね。小春さんはプロです。かえって邪魔になるくらいでしょう」
天気が悪ければ、式は礼拝堂で行われる予定だった。
しかし、幸いにも今日は晴天だったため、外での挙式となったのだ。
説明しながら進行される模擬結婚式の所要時間は小一時間ほど。
その間は、イベント参加者のほとんどは挙式の行われる庭か、併設された食事会場に集まる。
教会の内部を探るのには、絶好のチャンスだった。
小笠原
「これ、長崎の26聖人のブロンズ像をプリントアウトした。ここにある石膏像と、急いで照合して」
小笠原が、A4の紙を小野瀬、如月、JSに渡す。
小笠原
「俺は、櫻井さんと式に出て、シスターが教会の中に戻りそうになったら小野瀬さんの携帯に連絡するから」
小野瀬
「俺もそっちが良かったなあ…」
小笠原
「万が一、シスターが神父を殺害していたとしたら、複数犯の可能性もあるでしょ。教会の中を調べてる時にそんな連中と出会った時、俺じゃ櫻井さんを守れない」
如月は今さらながら、穂積が自分をこのチームに入れた意味に思い当っていた。
如月
「わかりましたよ。小笠原さんと翼ちゃんは、外にいてください」
二人を見送った三人は、三方に分かれて、急いで捜査に取り掛かった。
小笠原がくれた写真と、石膏像の名前と顔の造りなどを、ひとつひとつ合わせていく。
如月
「あああ、台座に付いてる名札が日本語じゃないい!ふ、ふ、フラン…シスコ…?この人、フランシスコ吉、さんかな?」
小野瀬
「如月くん、フランシスコ吉さんはここにいるよ。あれ?隣もフランシスコさんだ」
JS
「そちらの、若いフランシスコさんは、フランシスコ・ブランコさんでしょう。ええとこちらは、フランシスコ・デ・サン・ミゲルさん、パウロ…さん」
小野瀬
「パウロ…どのパウロさん?」
JS
「漢字が読めません…最後は『木』ですけど」
小野瀬
「パウロさんは三木、茨木、鈴木で、三人とも最後は『木』だよ」
如月
「小野瀬さん、ここにもフランシスコさんが!トマスさんもペトロさんも二人ずついます!」
小野瀬
「分かった、一回落ち着こう!全員で、端から順に確かめよう!」
04/22(Fri) 18:28
小春
小笠原
「……ねえ、櫻井さん。嫌なら、答えなくていいけど」
翼
「?」
屋外の式場の椅子に腰掛けて、翼と小笠原は、シスターが、聖書の一節を読み上げるのを聞いていた。
小笠原
「明智さんと別れるつもり?」
小笠原らしい率直さで尋ねられて、翼は驚くというより、むしろ笑ってしまいそうだった。
翼
「分かりません」
小笠原
「……否定もしないんだね」
本心から、分からない、としか言えなかった。
明智の事は、好きだ。
もし、今、ここに彼が現れて、「さあ式を挙げるぞ」と言って手を差し伸べてくれたら、翼は迷わずについてゆくだろう。
でも、小笠原に「分からない」と答えたのは、今、明智が現れる事は絶対にない、と思うからだ。
明智は、優しい。
藤守のように、突然、真っ直ぐな思いをぶつけて来て翼の心を揺さぶったりはしない。
如月のように、人前でも構わず、街中でも照れずに「大好き」と大声を出す事も無い。
小野瀬のように、計算された微笑みを浮かべて耳元で囁いて、距離を詰めて来る事も。
小笠原のように、率直に言いたい事を言う事も、聞きたい事を聞いてくる事も、無い。
誰よりも強いのに、謙虚で、基本的にいつも受け身で、でも、誠実に愛してくれる。
だからこそ、不安な時は一緒にいて欲しいのに。
あの瞳で見つめてくれて、あの声で「お前が好きだ」と言ってくれさえすれば、翼は何も疑わないのに。
明智は、翼を信じてくれている。
だから、勤務中は素っ気ないし、職場を離れても、翼の時間を奪おうとはしない。
そういう真面目さも実直さも好きだし、今の明智の立場も分かっているつもりだから、不満、ではない。
ただ、不安なのだ。
別れたい、とは思っていない。
ただ、このまま別れてしまうこともあるかもしれない、と、漠然と思う。
明智から別れを切り出す事は無いだろう。
翼が別れを切り出したとしても、明智なら、「分かった」と頷いて、それきりだろう。
この恋を切り替えるスイッチは、翼が持っているのだ。
小笠原が、隣から、物思いに耽る翼を見つめている。
そのメガネの奥の切れ長の目に灯っている静かな火に、翼が気づくのはまだ先の事だ。
~その頃のJS・小野瀬・如月~
「……これが、27人目か……」
三人は、通路に居並ぶ石膏像の中から、長崎で殉教した聖人に当てはまらない一体を、ようやく見つけ出していた。
JS
「失踪中の神父とは、似ていませんよ」
如月
「中身と外観は違うのかも」
小野瀬
「……如月くん、『中身』とか言わないの」
如月
「すみません。それで、どうします?これから」
小野瀬
「任せて。携帯型のX線検査装置を持って来た」
JS
「えっ」
如月
「どこに?」
驚く二人をよそに、小野瀬は、提げてきたバッグから、ノートパソコンと、なにやら機械をいくつも取り出して、石膏像の側に設置し始めた。
小野瀬
「これが、X線発生装置。こっちは、コントローラー。ここに、計測対象物があるから、ここに、デジタルパネルを設置して……」
如月
「あ、そうか!普段、鑑識で大きいX線装置ばかり見てるからピンとこなかったけど、これ、コンサートの時なんかに、手荷物検査で見かけるやつだ!」
小野瀬
「正解だよ。食品の異物混入検査や、路上に放置された不審物の非破壊検査…もちろん、こうした、建物とか、仏像とか、壊すわけにいかないものの検査にも使えるんだ。X線作業主任者の資格が要るから、だれでも操作できるわけではないけど。…あとは、専用ケーブルと、ノートパソコンを繋げば…はい、OK」
ブン…と音を立てて、機械が動き出す。
小野瀬
「さあ、急ごう」
JS
「中身が詰まっていない事を願いますよ…」
[削除]
04/22(Fri) 18:30
誰か気付いてくれたら嬉しい
小春
翼
「今、思いついたんですけど。シスター・フユコは、神父さんに好意を持っていたのかもしれませんね」
新郎新婦の誓いの言葉を聞きながら、翼が呟いた。
小笠原
「どうして?」
翼
「お金の事とか、殺害するほど憎んでたとか。そういう動機ももちろん考えられますけど、もっと自然に、好きだったから、側に居てくれると思っていたんじゃないでしょうか」
小笠原
「でも、神父はいなくなった。つまり、シスターが片思いしていた、って事?」
翼
「そこまでは断定できません。神父さんもシスターを好きだったけど、だからこそ身を引いたとか」
小笠原の視線の先で、シスターは、丸い身体で、丸い声を出して、参加者たちに結婚の素晴らしさを説いている。
小笠原は、わずかに眉をひそめた。
小笠原
「…その可能性は、俺も考えた。でも、この教会は、カトリックだよ。神父も、シスターも、結婚出来ないと分かってて、司祭の道を選んでいるはずだ」
翼
「あっ…」
小笠原
「それより、もうじき、模擬結婚式が終わるよ。小野瀬さんたちの捜査は、決論が出たかな?」
翼
「如月さんに電話してみます!」
。。。。
ここは『イチゴドルチェ&バッナーナ』の裏口。
藤守
「室長、分かりました!見つけましたよ!」
入ってきた藤守の、弾んだ声での報告に、忙しい配膳の合間を縫って、穂積が笑顔を返した。
穂積
「やってくれたわね、藤守。さすが、聞き込みの才能はピカイチだわ」
穂積に褒められて、藤守の頬も輝いた。
穂積
「アンタの捜査のおかげで、残りの声掛け事案もこれからの不審者対策も、一気に解決に向かうかもしれないわよ」
藤守
「ホンマですか?俺、自分では、よお分かってないんですけど…」
穂積は厨房で腕を振るっている明智とも言葉を交わして、頷いた。
穂積
「さあ、イチゴの店も軌道に乗ってきたし、刑事さんに戻るわよ!」
慶史さんが来ちゃうフラグになるかも、などと思いつつ、
そして、さんざん放置したのでもはや誰も読んでいないかも、と思いつつ、とにかくハッピーエンドを目指してます。
ここでパース!(>▽<)ノ⌒〇
[削除]
04/24(Sun) 04:08
スゴイ!
ジュン
小春さんスゴイです!
こんなに進められるなんて!
そして私も賢史くんと同じようによくわかっていない(-_-;)
複雑だ…
続きを考えられない私を許してください〜。・゚・(ノД`)・゚・。
[削除]
04/24(Sun) 16:33
ジュンさんありがとうございます!
小春
いいんですいいんです!
読んで下さっているだけでもいいんです!
小春頑張るよ!
*****
X線装置での検査の結果は…
石膏像に、『中身』は詰まっていなかった。
ほっとする一方、小野瀬が首を傾げる。
小野瀬
「……だとすると……この人物は、誰だ?」
行方不明の神父ではない。
26聖人の一人でもない。
JS
「……」
窓の無い薄暗い通路、天井の質素な電燈からの明かりだけが、物言わない石膏像の陰影を浮かび上がらせている。
如月
「なんか考え込んじゃって、どうしたの、JS?」
JS
「いえ……この像の人物の顔……よく見たら、どこかで見覚えがあるような……」
「?」
その時、マナーモードにしていた如月の携帯が震えた。
如月
「あっやべ。翼ちゃんからの合図だ!急ぎましょ、シスターがこっちに来るかも!」
小野瀬
「機械はバッグに戻した。車に積んでくるから、きみたちは、怪しまれないように、昼食会場へ向かって!」
*****
教会の庭の一角に設えられた、イベントの為の昼食会場。
『出張さくら庵』のキッチンカーが停められている周りにはたくさんのベンチが置かれ、何組もの恋人たちが、仲睦まじく肩を寄せて昼食を楽しんでいる。
どこにいてもすぐに分かる丸っこ…シスターの周りにも、にこやかなカップルたちがいて、質問したり答えたりして賑わっている。
どうやら、シスターの企画した、今回の疑似結婚式イベントは大成功の様だ。
少し離れた木陰に、小笠原と翼の姿もあった。
如月
「翼ちゃん、小笠原さん」
女装した如月が、二人に近付いて来た。
翼
「ベッキーちゃん、彼は?」
如月
「車に荷物を置きに行っただけぇ。すぐに来ると思うぅ」
もう一人のJSは、いそいそと小春のキッチンカーの方へと歩いていくのが見える。
小笠原
「……それで?」
如月
「別にぃ」
何も無かった、という事だろう。
翼は半分ほっとしながらも、半分は、進展が無かった事が残念そう。
小野瀬が戻ってきた。
小野瀬
「JSは?」
自分の役割を思い出して、如月が小野瀬の腕に自分の腕を絡めてから、キッチンカーを指差した。
如月
「カノジョのところでーす」
小野瀬
「呼んできてくれ」
如月
「今行ったばかりですよ?野暮ですねえ」
小野瀬
「いいから」
如月
「はぁーい」
可愛い乙女を演じながら、如月が離れてゆく。
小笠原
「小野瀬さん、何か見つけたの?」
小声で訊く小笠原に、小野瀬も、小声で返す。
小野瀬
「車に戻る前に、ふと思い出してね。ちょっと回り道をして、ついでに、壁画にもX線装置をかけてみたんだ。そうしたら……」
小野瀬が、もう一段、声を低くした。
小野瀬
「…壁画の下に、別の壁画が描かれている事が分かった」
*****
小春
「おかえりなさい、太郎さん」
JS
「寂しい思いをさせてすみません、小春さん」
ロマンティックなイベントに誘われたと思ったら、パートナーはどこかへ行ってしまって、小春は一人で他の恋人たちの為の食事を作っている。
普通なら、怒って帰ってしまっても文句の言えな状況だ。
だが、謝るJSの目の前で、小春は手際よく料理を作りながら、相変わらずにこにこしていた。
小春
「大丈夫ですよ。私、太郎さんが側に居ない時には、今頃どんな冒険をしてるのかなあ、って、勝手に想像してみるのが好きなのです」
JS
「そんな事をしてるんですか」
小春
「はい」
JSは苦笑いしたが、ふと、思いついた事を小春に尋ねた。
JS
「……でしたら、ひとつ、物語を考えてもらえませんか?」
小春
「なんでしょう」
小春が目を輝かせる。
JS
「僕の知人が、今、行方不明なんです。彼は、カトリック教徒なので、恋愛とは関係ない事情だと思うのですが……」
すると、予想外の事が起きた。
小春
「どうしてですか?」
小春が、きょとんとした顔でJSに聞き返してきたのだ。
JS
「えっ?」
小春
「カトリックでは恋愛が許されないのに、それでも恋をしてしまったら、その恋心を忘れるためにどこかへ逃げてしまおうと考えるのは、普通ではありませんか?」
JS
「…あ…」
小春
「まして、両想いになれたとしたら。その恋のために、宗教を捨てる覚悟が出来ているのだとしたら」
本当に、頭の中に浮かんだ物語を音読するように、すらすらと小春が言葉を続ける。
小春
「恋人とふたり、安全に暮らせる場所を探すことも、見つけ出せるまで、姿を隠すことも、当たり前ではないですか?」
「…恋を、してはいけないからこそ…」
JSの頭の中で、今までとは違う方向の仮説が生まれてきた。
言われてみれば、簡単に思い付くのに。
あの体形に惑わされて、見えていた答えを見逃していた。
そこへ、如月が来た。
如月
「JS、小野瀬さんが、話があるんだって。小春ちゃん、ごめんね。JSを借りてっていい?」
小春
「はい」
JS
「僕も、御大に聞いて欲しい話があります。小春さんが、ヒントをくれました」
JSは、小春を振り返った。
JS
「小春さん、行ってきます」
小春が微笑む。
小春
「どうぞ、行って下さい、太郎さん。また、冒険のお話を聞かせて下さいね」
JS
「ええ、もちろん。帰ってきたら、あなたの空想と、答え合わせをしましょう」
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04/25(Mon) 12:31
小春
如月、小野瀬、JS,そして翼と小笠原は、教会の駐車場に置かれた、小野瀬の車の車内にいた。
運転席には、見張り役の如月と翼。
後部座席でパソコンを開く小野瀬の隣には、JSと小笠原がそれぞれ座っている。
小野瀬
「前回、シスターが俺に壁画を見せてくれた時の説明では、描かれているのは福音記者ヨハネだ、と説明してくれた。頭髪が無いかわりに、長く白い顎髭を伸ばしたお爺さんだ。イエスの最愛の弟子だったそうだよ」
如月
「髪がなくなってもヒゲは生えてくるのかなあ…」
遺伝的な悩みを抱える如月は、頭髪の話題に敏感だ。
小笠原
「如月、黙ってて」
小野瀬
「これが、その、ヨハネの壁画の下に塗り込められていた絵だよ」
小野瀬がキーに触れると、ディスプレイに、X線装置で撮影した画像が映った。
小笠原
「上の絵と全然違う。JS、何の絵か分かる?」
JSはじっと画像に目を凝らしたまま、答えた。
JS
「……『聖母子と二天使』……を模した絵のようですね。カトリックの修道士であったリッピが、妻のルクレツィアと二人の子供をモデルに、聖母マリアと、二人の天使に抱かれた幼いキリストを描いた宗教画です。有名な絵画ですよ。当時としては画期的な構図で描かれていて、背景の描き方などは、後のダ・ヴィンチの『空気遠近法』の礎になったともいわれ…」
アンティーク専門の怪盗で詐欺師でもあるJSは、中世ヨーロッパの美術品に造詣が深い。
小笠原
「ちょっと待って。不自然だ」
止めなければいつまでもうんちくを語りそうなJSを、小笠原が制した。
小笠原
「カトリックの修道士が妻を?」
JS
「お気付きになりましたか、さすがですね。そうです、カトリックの修道士は結婚出来ません。しかも実は、ルクレツィアも修道女だったのです」
翼
「えっ」
小野瀬
「なるほど……」
小笠原
「……」
如月
「あのー……つまり、どういうこと?」
如月だけが、全員の顔を見比べてきょろきょろしている。
JSが、如月に向かってにっこりと笑った。
JS
「下世話な言い方をすれば、二人は、駆け落ちして夫婦になった、という事です。…まあ、実際には、画家でもあったリッピが、モデルになって欲しいと言ってルクレツィアを誘い込み、そのまま妻にしてしまった、というのがオチですが」
如月
「リッピ悪っる!」
JS
「風紀に厳しい時代で、50歳の修道士が、娘のような年齢の、穢れを知らない修道女を、誘拐まがいのやり方で妻にしたんですからね。死罪にされても仕方のない、大事件になったそうですよ」
小野瀬が、軽く手を挙げた。
JSと如月が小野瀬を見る。
小野瀬
「ありがとう、面白い話だ。もっと詳しく聞きたいけれど、今は、なぜ、この絵が隠されて、神父がいなくなったのか、が先だよ」
JS
「聡明な御大には、もう、この事件の流れが掴めているのではありませんか?」
JSが肩をすくめ、唇を笑みの形に変えると、全員が、小野瀬に期待の目を向けた。
小野瀬
「……俺の推理はこうだ。先にこの教会の司祭として赴任していた神父が、次に教会に来た修道女、シスター・フユコと恋に落ちた。だが、二人の結婚は、カトリックでは許されない事で、現代では死罪にこそならないものの、破門されてしまうような大罪。そこで、神父は、地元の人たちには疑われないよう、きれいに引継ぎを済ませ、いかにも、どこか別の教会へ異動するかのように装って、ここを離れた」
小笠原
「でも、実際には、修道士である限り、結婚は出来ない。そこで、行方不明を装う事にした。当然、シスターは事実を知っていて、敢えて、神父を探すふりをする」
如月
「誰から逃げるんです?」
JS
「カトリック、という組織からですよ。そうして時間を稼いで準備し、しっかりと生活基盤を確保してからでなければ、還俗は出来ない。彼らに、個人的な資産は無いのですから」
翼
「じゃあ……神父さんは、今、シスターとの新しい生活の為に、どこか遠くで、修道士としてではなく働ける場所と、新居を探している…と言う事ですか?」
藤守
「大阪の心斎橋の近くで、学習塾の講師になってましたわ」
突然、この場にいないはずの人物の声が聞こえて、車内の全員が、一斉に声の方を振り向いた。
助手席の窓のガラス越しに、藤守が笑顔で立っている。
翼
「藤守さん?!どうしてここに?!」
驚く翼だが、JSと小野瀬は、早くも、嫌な予感に顔を強張らせている。
藤守
「室長に言われて、手伝いに来たに決まってるやん?」
04/25(Mon) 12:32
小春
小野瀬
「どうして、教会に一度も来たことのないアイツが、たった今俺たちが行き着いたばかりの推理の結果を知ってるのかな……?」
藤守
「推理って、何の話ですか?」
藤守は笑顔のまま、ドアを開けた。
すぐ目の前にある、翼の頭を撫でる。
藤守
「俺は、ただ、室長に言われた通り、団地の噂好きな奥様達に、神父とシスターとの仲はどうだったか、丹念に聞き込みを続けただけですわ」
小野瀬
「……」
藤守
「あとは、神父とシスター、それぞれの生まれた場所から育った場所、学生時代に過ごした場所…そういう、土地勘のあるだろう地域の役所に、どちらかの転入届が提出されたら警視庁に教えてくれるように。職業安定所に連絡して、神父が仕事を探しに現れたら、教えてくれるように。そう、頼んでおいただけで」
JS
「……」
藤守の手帳に挟まれていた写真を覗いた如月が、あっ、と声を上げた。
如月
「その写真!」
藤守
「ん?おお、シスターの、学生時代の写真やで。調べてる途中で手に入ってな。かいらしい美人さんやなあ」
藤守が差し出した写真を見た全員の身体から、力が抜けてゆく。
JS
「僕としたことが、全然分からなかった…」
小野瀬
「苦労したのに…」
如月
「いや、でもこれ詐欺でしょ?!」
小笠原
「失礼だよ如月。まあ、確かに、ほとんど別人だけど」
そこに映っていたのは、すらりとして美しいシスター・フユコ。
そして、27人目の石膏像の人物だった。
イベントの終わりを告げる、シスターが鳴らすウェディング・ベルが響き渡る。
翼は小春のキッチンカーの片付けを手伝いに行っていて、丘の上からさくらが丘の街を見下ろしているのは、男たちだけだ。
小野瀬
「シスターがしきりに壁画のある場所に行きたがったのは、ヨハネの絵の下に隠された、リッピの絵を知っていたからだったのか……」
JS
「自分と神父の境遇に重なりますからね……だからこそ、隠したんでしょうが」
小笠原
「誰も何も知らないまま、近いうちに、シスターもこの教会を去っていくんだね」
藤守
「なんや、切ないな」
如月
「幸せになれるといいですね。あああ、俺も、翼ちゃんと幸せになりたいなあ」
如月のつぶやきに、全員が反応した。
藤守
「ちょお待て。なんでお前やねん」
小野瀬
「そうだよ。明智くんならともかく」
小笠原
「まさか、如月も、櫻井さんを狙っているの?」
小野瀬
「も、ってどういう事?まさか、小笠原も?」
如月
「小野瀬さんも、『も』?」
JS
「おやおや」
JSだけが、くすくすと笑いだした。
JS
「面白くなりそうですねえ」
彼らの耳には、響き渡るウェディング・ベルが、まるで、戦いの開始を告げる、ゴングのように聞こえていた……
*****
室長解禁で、いよいよ全員が翼ちゃんを攻略するための舞台が整いました。
さあ、最後にウェディング・ベルを鳴らすのは誰だ?
高校生、大学生、社会人に声掛けをしていた不審者は?
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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04/26(Tue) 07:24
いつもの逃げ路線!
ジュン
〜翼Vision〜
今日は久しぶりのお休み。不審者事件が始まってから土日もなく働いていたので「体調管理も仕事の内」という室長の計らいで交代で休みを取ることになった。今日は室長と藤守さんと如月さんが出勤中。明日は藤守さんと如月さんがお休みだ。(室長はいつ休むんだろう?)そんなことを思いながら待ち合わせ場所へ。昼下がりのカフェでまーくんと待ち合わせだ。
明智
「すまない、待たせたか?」
待ち合わせ時間から5分遅れてまーくんが走ってきた。
翼
「大丈夫だよ。」
ニコリと笑って答えたつもりだけど私、笑えてるかな?いつもなら嬉しくて大好きなまーくんとの二人だけの時間。だけどいつもと何か違う。自分でも何が違うのかわからないほどの小さな違和感。まーくんと結婚式の希望なんかを話してもどこか自分の事じゃないみたい。結局これと言ったことは何も決まらず…。駅まで向かう途中まーくんに腕を引かれて路地に入る。
明智
「翼…」
ゆっくりとまーくんの顔が近づいてくる。キスされる。そう思った瞬間私はまーくんの口を手でふさいでいた。
不審者については何にも浮かばないのでいつもの逃げ路線で(^_^;)
ここでパース( ̄ー ̄)/⌒○
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04/26(Tue) 09:35
さすがジュンさんグッジョブ
小春
素晴らしい。
そろそろ一息入れないと、と思ってました。
他にも誰かアイディアあるかなー。
とりあえずパスしておきまーす。(ノ´ー)ノ○(全投げ)
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05/08(Sun) 08:59
小春
翼
(……どうしよう……拒んじゃった……)
『す、すまなかった。そうだよな、久しぶりなのに、こんな場所じゃ、嫌だよな…』
明智はそう言って謝ってくれた。
違うのに。
謝らなければいけないのは翼の方なのに。
明智の優しさが辛い。
こんな自分が分からない。
すれ違いを感じ始めたのは、思い出せないほど些細な事がきっかけだった。
それなのに、なぜ、いつの間に、お互いに、どこか後ろめたさを感じてしまうような関係になってしまったんだろう。
『また、明日な』
『うん』
目を合わせられないまま、別れてしまった。
明日。
以前なら、明日が待ち遠しかったのに。
明日。
こんなぎこちなさは消えて、以前のように自然な関係に戻れていればいいのに。
*****
ひとり、路地に立ち尽くしている明智を残し、翼が足早に駅へ向かって去って行く。
その後ろ姿を、少し離れた場所から、複雑な面持ちの2人が見つめていた。
如月
「藤守さん、見ちゃいました?」
藤守
「見てしもたな……」
外回りの途中で、偶然明智と翼を見かけ、声をかけようとした矢先に、路地裏での2人のやり取りを見てしまったのだが。
如月
「どうします?」
藤守
「どうせえ言うねん」
如月
「あの2人、別れちゃうのかな…」
独り言のような呟きを、藤守がたしなめる。
藤守
「如月!明智さんと櫻井がうまくいってないとしても、割り込んで、別れさすような事したらあかんで!」
如月
「分かってますよぅ。オレだって、2人には幸せになって欲しいんです。仲直りしてくれれば、その方がいいに決まってます」
如月は、食べかけだったハンバーガーの残りを、口の中に放り込んだ。
如月
(…でも、このままだったら、オレにも……)
藤守
「何か言うたか?」
如月
「もぐもぐもぐ!」
藤守
「食いながら喋るな!…とにかく、俺らは今、何も見んかった。ええな?」
如月
「もぐ!」
もぐもぐしている如月を横目に、藤守は藤守で、色々と考えていた。
藤守
(……そうや、仲直りして、櫻井が幸せになってくれるならそれが一番ええ。けど、今のままやったら、多分俺の方が……ああもう!…明智さん、なんで、もっと、しっかり捕まえておいてくれへんのや……?!)
そして藤守もまた、香が抜けてしまったコーラを飲み干した。
その横顔を、如月が見つめている。
*****
翼
(……はあ……ゆうべは眠れなくて、落ち着かなくて、こんなに早く出て来ちゃった……)
いつもよりずっと空いていた駅から警視庁までの道を歩きながら、翼は、溜め息をついていた。
すると。
「櫻井」
涼やかな声が、どこからか自分の名前を呼んだ。
辺りを見回すと、行く手の方向、自分が立っている歩道の反対側の車線で、ハザードランプを焚いて停車した車が目に入った。
見覚えのある車の運転席の窓から、笑顔の男性が振り返って手を挙げる。
見慣れた職場以外の場所で改めて見ると、その美貌は桁外れで、周囲のモブとの差は凄まじい(失礼)。
「乗っていらっしゃい」
口調はオカマだけど。
翼は急いで、小走りに横断歩道を渡った。
車を降りた穂積が、助手席側に廻ってドアを開けてくれている。
穂積
「おはよう」
翼
「おはようございます、乗せていただきます。ありがとうございます」
穂積
「どうぞ」
穂積が微笑む。
職場では厳しい穂積だが、こんな場面では、こんなに紳士的なのか。
…全ての仕草が、まるで、映画のように様になっている。
翼の方は、助手席に乗り込み、穂積が運転席に戻ってハンドルを握るまでの間でさえ、自分に羨望の眼差しを向けてゆく歩行者たちからの無言の圧に、肩身の狭さを感じるほどなのに。
翼
「えと、室長は、いつも、こんなに早いご出勤なんですね」
歩道に背を向けるように、翼は穂積に向き直った。
穂積
「お偉いオジサマたちは、朝早くから会議したいらしくてねえ」
走り出した車の窓からの風に、嫌味を吐く穂積の金髪がそよいで煌めく。
穂積
「でも、おかげでアンタを拾えたんだから、たまには良い事もあるわね」
車内での穂積は、いつもよりのんびりと話す。
なんだかひとつひとつが新鮮で、翼も微笑んでいた。
翼
「私も、良かったです。室長に拾ってもらえて」
拾われた、と思うのは、初めてじゃないな、と翼は思った。
そして、どうやら、穂積も、同じ事を思い出していたらしい。
穂積
「そう?嬉しいわ」
穂積の腕が伸びてきて、大きな手が、翼の頭を優しく撫でた。
穂積
「今日は、ついてる」
小さく呟いた穂積の声は、翼にしっかりと届いていた。
*****
室長参戦で、無意識に張り切ってしまう小春。
明智さん、如月さん藤守さん、他のみんなも頑張れ!
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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10/10(Mon) 10:46
これまでのあらすじ
小春
すっかり更新停滞してしまって申し訳ありません。
最後まで頑張ります。
☆~ご都合主義インフォメーション~☆
★さくらが丘団地の規模について、訂正です。
誤:『250世帯』→正:『2500世帯』
読み返して気付いたけど、0がひとつ足りない!Σ(°Д°)
いまさらで申し訳ありません。単純な入力ミスでした。
★ここまでの流れ。
櫻井翼には、幼い頃から2つの夢がありました。
ひとつは、人の役に立つこと。
もうひとつは、好きな人のお嫁さんになること。
警察官になる夢を叶えた翼は、男性ばかりの緊急特命捜査室で懸命に頑張り、捜査員たちから愛されるようになりました。
やがて、その内のひとり、明智誠臣さん(まーくん)からのプロポーズを受けます。
真面目で優しく、柔道と射撃では警視庁屈指の実力者でありながら、プライベートでは家事一般をそつなくこなす彼との結婚を控え、翼は幸せいっぱいでした。
ところが、さくらが丘団地で発生した、不審者による声かけ事案の捜査中、些細な事から、翼と明智さんの間に微妙な雰囲気が生まれてしまいます。
翼の気持ちが揺れている事は周りの捜査室メンバーにも自然と伝わり、彼女に寄り添いたいと考える男性たちは、翼の知らないところで、恋の火花を散らし始めるのでした…
本編では発生しなかった、翼をめぐるアブナイ恋のバトルロワイヤル!
最後に彼女とウェディングベルを鳴らすのは誰?!
……というリレーSSです。
まだ、ラストは未定です。
超マイペース更新ですが、よろしくお願いします。
参加大歓迎!
~声かけ事案と解決済みの容疑者、ウェディングベルと、新たに解放されたルートのお相手~
スタート…明智ルート
幼稚園児…黒柳理事長 イチゴの恋のニュースでウェディングベルが鳴る→+藤守
小学校低学年…桃井イチゴ 藤守と食事中に丘の上の教会の鐘→+如月
小学校高学年…南原ムタキ 怪盗ウェディングベル(JS)からの手紙(イメージの鐘)→+小野瀬
中学生…シスターフユコ(雇った複数の人物) 模擬結婚式開始の鐘…+小笠原
…模擬結婚式終了の鐘…+穂積
高校生…未解決
大学生…未解決
社会人…未解決
*****
~翼vision~
ここは捜査室。
穂積
「残る声掛け事案は、高校生、大学生、社会人をターゲットにしたものだったわね。
ワタシたちも、いつまでもさくらが丘団地ばかりに関わってはいられないわ。
全員、気合いを入れて積極的に捜査していきましょう」
「はい!」
と言っても、返事をしたのは、明智さんと私だけ。
今日、藤守さんと如月さんは公休なのだ。
でも、この場には、もうひとりいるはず…
穂積
「小笠原!アンタ、今、返事の代わりに溜め息ついたでしょ!」
小笠原
「地獄耳」
穂積
「だから聴こえてるって言ってんのよ!」
小笠原
「痛い!暴力上司!」
小笠原さんは、室長に捕まって、頭を拳でグリグリされながら、やめろよ離せよと喚いている。
でも、私は知っている(やられたことがあるから)。
あれ、傍から見る程痛くないの。
むしろ、室長に肩を抱いてもらえるから、悪い気はしないんだ。
きっと、小笠原さんも、室長に構ってもらえて、本当は、ちょっと嬉しいのよ。
明智さんと婚約してから、室長、私にはしてくれなくなっちゃったけど……って、これじゃ、私、叱られたいみたいね。
そんなことを思いながら、微笑ましく見つめていると。
室長が、ぱっ、と小笠原さんから手を離した。
穂積
「おっと、遊んでる場合じゃなかったわ。小笠原、藤守の聞き込みで、新たに分かった事実があったわね」
小笠原
「高校生と大学生に声かけをしていたのは、違う人間だけど内容は同じだった、って事だろ」
スーツの乱れを直す小笠原さんの額を、室長がデコピンした。
穂積
「敬語を使え!」
小笠原
「やめろよ暴力上司!」
穂積
「あぁ?」
さすがに話が進まない。
明智
「小笠原、いちいち逆らうな」
溜め息混じりでたしなめられて、小笠原さんが明智さんに顔を向けた。
小笠原
「ごめん」
穂積
「謝る相手が違うだろうが」
こちらもスーツの乱れを直しながら、室長がぶつぶつ不満を漏らす。
翼
「室長…」
穂積
「はい、ごめんなさい。話を進めましょう」
小笠原さんを横目で睨んで唇を尖らせる室長が可愛かったけど、笑っては失礼だと思って、私は姿勢を正した。
穂積
「結論を先に言うわ。高校生と大学生に声かけをしていたのは、間もなく隣の地区に完成する『ゆりが丘団地』の関係者たちよ」