『アブナイ☆恋のウェディング・ベル』
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11/28(Sat) 12:08
リレーSS専用スレッド・39
小春
こちらではリレーSS『アブナイ☆恋のウェディング・ベル』を開催しています。
人気の団地の周辺で多発する、不審な声かけ事案。
捜査室メンバーは、全ての謎を解決出来るのか?
そして、ウェディング・ベルの音とともに移り変わる恋の結末は?
早く続きを読みたい方は、勇気を出して書き込んでリレーを動かしてね!
パース!ヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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11/29(Sun) 06:15
小春
~翼vision~
なにがなんだか分からない。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう……
捜査室に戻った明智さんは、イチゴちゃんのお店『ドルチェ&バッナーナ』での聞き込み捜査の結果を報告、室長に報告した。
つまり、店の料理の味が落ちたのは、シェフとパティシエが辞めてしまったからだということ。
そのため、困ったイチゴちゃんが、黒ずくめの青年の姿に変装して、子供や住民たちに声をかけては、食べたいものを尋ねたり、時には試食させたりしていたのだということ。
室長は、明智さんの報告を、頷きながら聞いていた。
……明智さんが、低い声で、
『問題はそこからです』と、言うまでは。
穂積
「はぁ?……オーナーに結婚を申し込まれた?!」
なんでそうなるのよ、と呆れる室長に、明智さんは、泣きそうな顔でさらに言った。
明智
「オーナーは、桃井イチゴという男性です。いや、見た目はアイドルみたいな女性なんですが!実は、男なんです!元相撲部の!そのイチゴが、俺を、いけぼでいけめんでないすばでぃだと言って!結婚したいと言い出して!」
穂積
「はあ」
藤守
「腹筋が割れてる男がタイプなんだそうですわ」
翼
「明智さんに抱きついて離れなかったんですよ」
明智
「室長!」
明智さんの声が裏返った。
明智
「どうすればいいんですか?俺は、ただ、カフェに行って、室長のご命令通りに、ケーキを作っただけなんです!それなのに、まさか、男からプロポーズされるなんて」
声を震わせる明智さんを目の当たりにして、さすがの室長も、すまなそうな表情で立ち上がった。
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11/29(Sun) 06:17
小春
穂積
「悪かったわ、明智。ワタシのミスだわ」
明智さんに頭を下げた室長は、続けて、私にも頭を下げてくれた。
穂積
「櫻井にも謝るわ。ごめんなさい」
翼
「そんな……」
室長に頭を下げられるなんて滅多に無いことで、私は焦ってしまう。
穂積
「明智に、カフェで調理をしてみせろと言ったのはね。そのまま潜入させて、残る不審者を洗い出そうと思ったからなのよ」
明智
「えっ?」
藤守
「幼稚園児に声をかけていたのは、子供を心配した、黒柳保育園の黒柳理事長。小学校低学年に声をかけていたのは、厨房スタッフに逃げられて悩んでた桃井イチゴ。もう、解決したんと違いますの?」
穂積
「ところが、それ以外にもいるのよ。…小笠原、リスト呼んで」
小笠原
「小学校高学年、中学生、高校生、大学生、社会人。それぞれ、別の不審者だと思われる」
如月
「そんなに?」
穂積
「だからね。カフェは情報が集まりやすいでしょう?
そこで、厨房スタッフとして明智をカフェに配置させれば、料理の味が上がって店も助かるし、我々も楽になると思ったの。
でもまさか、オーナーがそんなややこしい人物だったとはね」
明智
「そんなお考えがあっての事だったとは…」
どうやら、明智さんも納得したみたい。
穂積
「とりあえず、アンタたちのおかげで、二人の不審者については解決したわ。次の、小学校高学年を狙った不審者に関しては、藤守と櫻井のピュアコンビが担当してちょうだい」
「はい」
私と藤守さんは、声を揃えて返事をした。
穂積
「明智、気が進まないだろうけど、明日はまた、桃井の店に行ってくれるかしら」
明智
「はい。……しかし……」
穂積
「ワタシも一緒に行くわ」
明智
「室長が?」
穂積
「ええ。イチゴはワタシに任せて」
室長がにっこり笑う。
頼もしいけど、あの笑顔の時の室長は……
私は、ちょっとイチゴちゃんが心配になって、小さく身震いした。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/01(Tue) 15:13
小春
翌日。
『ドルチェ&バッナーナ』から帰って来た明智は、どこか晴れやかな表情をしていた。
明智
「イチゴが、室長と小野瀬さんを気に入ってくれたんだ」
如月
「へ?なんで小野瀬さん?」
意味がわからないメンバーが穂積を振り返れば、穂積は、小野瀬と顔を見合わせて溜め息をついた。
穂積
「仕方ないじゃないの。明智の腹筋と引き換えだもの、ワタシ一人の筋肉じゃ足りないでしょ」
小野瀬
「だからって、どうして俺を巻き込むかな」
小野瀬は、不機嫌さを隠そうともしない。
小野瀬
「不審者案件を解決する為じゃなきゃ、絶対に手伝わないところだよ。俺はね、染色体がXXの、本物の女性にしか興味はないの」
穂積
「ぜんぶ解決したら、何かしらのお礼はするわよ」
小野瀬
「毎回そう言われて、毎回ウーロン茶のペットボトル1本で済まされて、文句を言ったら『何かしら?』って首をかしげて言われるだけなんだ。絶対そうだ」
穂積
「分かったわよ、缶コーヒーもつけるわよ」
小野瀬
「俺が聞き分けないみたいな雰囲気出すな!」
穂積
「缶コーヒーを馬鹿にするんじゃないわよ!その気になれば藤守が手に入るお得なアイテムなのよ!」
いつものように口喧嘩を始めた穂積と小野瀬を横目に、明智が室内を見回した。
明智
「そういえば、藤守は?」
小笠原
「櫻井さんと聞き込みに出てるよ」
明智
「そうか」
イチゴの件について、結局、まだ、翼とちゃんと話せていない。
明智
(まあ、藤守になら、愚痴も言いやすいか……)
翼の誤解が解けたかどうか、少し不安はあるが、きっと大丈夫だろう。
明智はそう思い直して、とりあえず今日の報告書をまとめるため、自分の席についた。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/02(Wed) 10:25
ジュン
藤守
「ありがとうな。もし何か思い出したり話したいことがあったら気軽に連絡してや。」
藤守は自分の名刺を渡しながら笑顔を浮かべた。声かけの被害にあった小学校高学年の児童宅を回っていたのだ。
翼
「声を掛けられたのは男の子ばかりでしたね。」
藤守
「そうやな。変質者なら女児に声をかけるやつが多いんやけど…。まあ、だからって変質者の線が消えるわけやないけどな。」
もと少年課の藤守は色んな子供に接するのも上手くスムーズに話を聞いていった。『さすがだな。』っと思う翼だが、どうしても聞き込みに集中できない。
翼
(まーくん、今日はどうだったのかな?なんだかモヤモヤするな…)
昨日のイチゴの熱愛報道から気持ちがモヤモヤしたまま切り替えができない…。つい溜め息を洩らした時、ポンっと頭に手の感触があった。
藤守
「櫻井?聞いてるか?室長に連絡したら報告は明日でいいから今日は直帰してええって。」
いつの間に連絡していたんだろう?そんなことにも気付かないほど心ここにあらずだったなんて…。自分の不甲斐なさについ俯いてしまう。
藤守
「さ~くらい、飯食いに行かへんか?」
突然の誘いに藤守さんを見上げて首を傾げてしまう。いつもは捜査室のメンバーと一緒に行くのに…藤守さんと2人で夕飯は初めてだった。
藤守
「ほら、行くで~!」
藤守さんは私の返事も聞かず背中を押して歩き始めた。
食事の席で何が起こるのか!?それはわからない!ここでパース(* ̄▽ ̄)ノ⌒〇
12/02(Wed) 12:26
ジュンさんありがとうございます。(´ 3`)ちゅー
小春
藤守
「小学校の男子生徒にばかり声かける、ってどういう人間なのか、考えてみたんやけどな……」
テーブルを挟んだ向かいの席から、藤守が話し掛けてくる。
彼の後ろには、ガラス張りの、大きな窓。
そこからは、教会がある緑の丘の景色が広がっているのが見える。
ちょうど夕暮れが近付いていて、そちらに気を取られそうになるような美しさだ。
藤守は仕事の話をしているのに、まるで、デートのようなシチュエーション。
藤守
「小児性愛、いわゆるショタコンとか、同性愛とかも、うーん、まあ、ありえなくはないけど。今日、聞き込みをした範囲では、俺、もしかして、スポーツか何か、英才教育のスカウトの可能性もあるんやないかと……」
藤守が、不意に、言葉を切った。
藤守
「櫻井、聞いとる?」
翼
「えっ?はい、聞いてます」
実際は、半ば聞き流していたといってもいい状態だった。
今の、目に見えているこの景色と。目の前にいる相手と。話の内容と。自分の中でごちゃごちゃしている感情と。
何もかもちぐはぐで、まるで現実味が感じられない。
藤守
「櫻井……」
西日で逆光になった藤守の表情はよく分からないけれど、その声には心配そうな響きがある。
翼
「……すみません。本当は、ぼんやりしてました…」
申し訳なくて、翼は頭を下げた。
藤守
「ええよ、ええよ。昨日の今日や、無理もないわ」
藤守は大げさに手を振って、許してくれた。
藤守
「……お前、ゆうべ、泣いたやろ?嘘ついても分かるで」
先に言われてしまっては、誤魔化しようもない。
翼は、はい、と、正直に答えてしまった。
藤守
「やっぱりな」
藤守は頷いてから、ぐっ、と、拳を握りしめた。
藤守
「……櫻井。明智さんとの婚約、考え直したらどうや?」
翼
「えっ?!」
藤守
「いや、やめろ言うんやない。けど、俺、お前を泣かせる明智さんは、どうしても納得出来ひんのや!」
叫ぶ藤守の声の後から、丘の上の教会の鳴らすウェディング・ベルが聞こえてきた……
☆☆☆☆
あああ、鳴らしてしまいました。
さて、明智さんと藤守さんがステージに並んでいます。
この先、ヒロインを巡って、本家さまではありえない恋のバトルが発生するのか?しないのか?
それは続くあなたしだい!
パースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/13(Sat) 10:16
明智さんが可哀想
小春
告白とも思える言葉に対して、返事をうやむやにしたまま、翼は藤守と別れ、帰路についていた。
翼
(……なんだか疲れちゃった……)
明智は結局、カフェ「ドルチェ&バッナーナ」にパティシエとして潜入し、不審者の捜査を続ける事になった。
という事は、オーナーの桃井イチゴから明智への積極的なアプローチも続くだろう、と、思うと複雑だ。
穂積と小野瀬が、アルバイトを装ってカフェに入ってくれることになった事だけが、翼にとっては唯一の安心の材料だった。
二人は、イチゴと明智の間に入って、明智の貞操のバリケードになってくれるはずだ。
翼は、安堵とも、諦めとも分からない溜め息をついた。
翼
(イチゴちゃんになつかれて、肉体的な攻撃はともかく、気持ちまで強く振り払えないのは、まーくんの優しさだよね……)
分かってはいても、アイドルのよう、どころか、実際に現役の人気アイドルである可愛いイチゴと、自分の恋人である明智が抱き合っていた光景は、翼にとっては衝撃的過ぎた。
どちらも男性だと、頭では分かっていても、だ。
「翼」
翼
(藤守さん……)
藤守が、自分に特別な好意を持っていてくれたなんて、今まで気付かなかった。
自分も、藤守に対して、良い先輩だという以上の感情なんて無かった。
だけど、イチゴの可愛さを魅力として意識した時、敗北感を抱いていた翼にとって、そのタイミングで自分を認めてくれた藤守が、なせか急に輝いて見えてしまったとして、仕方のない事なのではないだろうか。
「翼」
明智の事はもちろん好きだ。
でも、真っ直ぐに自分を見つめてくれた、さっきの藤守の眼差しが忘れられない。
「翼」
考えがまとまらない。
とにかく帰って、一人になって、考えたい。
翼は駅の改札を抜けると、ホームに向かって歩みを速めた。
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03/13(Sat) 11:50
ということでこうなった
小春
明智
「翼……」
明智は、改札の手前に佇んで、走り出て行く電車を見送っていた。
自分の声に振り向かないまま、翼は歩き去ってしまった。
よほど考え込んでいたのか、それとも。
明智の声だと分かっていて、聞こえない振りをしていたとしたら……
「明智さん」
藤守の声に、明智は振り向いた。
「藤守?帰ったんじゃなかったのか」
「櫻井が、ちゃんと電車に乗るまで、見届けようと思て」
「そうか、すまん」
「……明智さんにお礼を言われると、複雑ですわ」
「え?」
「俺、阿呆やから、正直に言うてええですか?」
藤守は真顔、というより、半ば泣き顔のような、思い詰めた表情をしていた。
「櫻井が落ち込んでるんは、明智さんに責任があると思うてます」
明智は思う。
正直だというならは、藤守は、捜査室で最も正直な人間だと思う。
その藤守が言うのだ。
心当たりも、ある。
だから、気になるのはむしろ、それが事実かどうかではなく、なぜ、藤守が、それを自分に言うのかという事の理由だ。
「藤守、お前、もしかしたら」
藤守が、唇を噛んだ。
次に明智が何か言ったら、宣戦布告しよう。
櫻井をくれと、あるいは、奪うつもりだと。
恋敵として、明智さんと争うことになるのは辛い。
でも、これだけは譲れないのだと。
「藤守……」
明智が口を開いた。
「そうか、そうだよな。すまなかった。お前が怒るのは当たり前だ」
……へ?
「櫻井は、お前にとっては、『職場の可愛い妹』なんだからな」
「いや、あの、明智さん」
「いつも『困ったらお兄ちゃんに何でも言えや』と言ってたのを知ってる。今回、イチゴと俺の事で、翼…ゴホン、櫻井を混乱させてしまった。お前、相談に乗ってくれたんだな」
「俺はそんな」
「お前にまで心配をかけて、すまん。これからも櫻井を頼む」
「明智さん」
「俺は不器用だから、うっかり櫻井を傷つけてしまう事がこれからもあるかもしれん。その時は藤守、俺の、俺と櫻井の力になってくれ」
「明智さん……」
「頼んだぞ、藤守」
「……」
藤守は、拳を握りしめた。
「……任せてくださいよ!」
ああ、
言ってもうた。
行ってもうた……
何度も「ありがとう」と言いながら、笑顔で手を振って去っていく明智を、やはり笑顔で見送りながら、藤守は、心で泣いていた。
(忘れてた……明智さんは天然やった……)
こうして、藤守は、恋心を内に秘めたまま、翼とウエディング・ベルを鳴らず事を夢に見ながら、明日からも「いい人」を演じ続けなければならないのだった……
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/16(Tue) 06:42
炸裂!
ジュン
宣戦布告に失敗した翌日、監視カメラの解析をしていた小笠原から男児に声をかけていた人物の人相が判明した。
翼
「爽やかそうな人ですね?」
藤守
「ああ、そうやな。身体も引き締まってるしスポーツマンって感じやな。」
小笠原
「複数の男児に声かけしているから間違いないよ。」
小笠原が映像処理してくれているのでハッキリと顔を確認できる。
30歳前後とみられる爽やかイケメン。
藤守
「この映像プリントアウトして声かけのあった近辺のスポーツ教室を回ってみよか?」
翼
「スポーツ教室ですか?体操とか?」
地図で調べてみると周辺には体操教室、水泳教室、空手や少林寺の教室もあった。
藤守
「片っ端から聞き込みしよう。」
・・・・・
現地に着くまで藤守は無言で考え込んでいた。
昨日、明智の天然炸裂により宣戦布告も出来なかった。
もちろん好んで明智と争いたいとは思っていない。しかし、自分だってずっと櫻井のことが好きだったのだ。その櫻井が悲しそうにしているのを黙って見てはいられない。
いつまでも『いい人』を演じていていいのか。だからと言って櫻井の気持ちを無視して奪ってしまえばいいというものでもない。考えがまとまらないまま声かけの現場に到着した。
翼
「じゃあ近くから順に教室を回ってみましょう。」
翼がぎゅっぎゅっと拳を握った。
だが結果として藤守と当たりをつけたスポーツ教室には声かけの人物はいなかった。プリントアウトした写真を見せてみてもスタッフではないとの返事ばかり。
藤守
「すまん。俺の考え違いやったみたいや。」
スポーツのスカウトではないかという藤守の考えは間違っていないように思える。しかし近辺の教室には当てはまる人物はいなかった。
翼
「もう少し範囲を拡げてみますか?」
2人は捜査室に戻って作戦を練り直すことにした。
帰り道、『ドルチェ&バッナーナ』の前を通った。小野瀬さんがウェイター姿で女性客の相手をしている。
翼
(明智さん、イチゴさんと一緒にいるのかな?)
ふとそんな考えが過って表情が曇る。それを藤守は見逃さなかった。
翼の手を握り歩き始めた。
翼
「ふ、藤守さん!?」
手を離そうとしても藤守がぎゅっと握って放してくれない。
高架下に差し掛かった時
藤守
「そんな顔してまで…そんな悲しそうな顔してまで明智さんとおらなアカンのか!」
藤守の壁ドンが炸裂した。
さて、どうなる?(^^;相変わらず何も考えていませんのでここでパース(* ̄▽ ̄)ノ⌒〇
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03/16(Tue) 12:39
ドキドキ急展開
小春
翼
「ふ、藤守さん?!」
高架下の壁に追い込まれて、翼が目を丸くする。
藤守は構わず、その瞳を真っ直ぐに見つめた。
翼
「……」
藤守
「お前のそんな顔、見てられへん……」
翼
「……藤守さ」
藤守が、翼との距離をさらにぐっと詰めようとした、その時。
RRRRRR…
藤守の携帯が鳴った。
なんやねんこんな時に!
一瞬、無視しようかと思った。
だが、もしも室長からの着信だったら、3コールまでに出ないと後で〆られてしまう。
はあ、と大きな息を吐いて、誰がかけてきたのかを確認する。
発信者は、小笠原。
捜査室にいて情報を総合し、室長を経由して指示を送ってくる。
捜査に進展があったのだろうか。
出ないわけにはいかなかった。
藤守
「藤守や」
小笠原の声
《そこ、防犯カメラの守備範囲だから》
藤守
「え?うぉ!」
藤守が思わず飛び退いたのは、翼の頭の上、自分が手を伸ばした高さよりもさらに高い壁に設置された、カメラのレンズと目が合ったからだ。
小笠原の声が、冷静に追い討ちをかける。
小笠原の声
《ちなみに、この辺りの防犯カメラの画像は、『ドルチェ&バッナーナ』の室長のパソコンにリアルタイムで集まってる》
すると、その穂積の声が、藤守のP-phonに割り込んできた。
穂積の声
《藤守》
藤守
「ひいっ?!」
穂積の声
《なによ、いきなり。裸足でカエルを踏んづけたみたいな声出さないでよ》
藤守
「すすすすっ、すみません!」
複数通話可能なP-phonではあるが、どうやら穂積は、直前の、小笠原と藤守の会話は聞いていなかったようで。
穂積の声
《アンタたち、小学校の近くにいるでしょう?すぐに向かってちょうだい》
藤守
「小学校、ですか」
振り返った藤守の目が、それらしい緑色のフェンスを視界の端に捉えた。
藤守
「あれやろか」
穂積の声
《そう、それ》
独り言に返事が来る。
ひっ、と、もう一度、藤守の喉が鳴った。
穂積の声
《その小学校の校庭に、パンツ一丁の爽やかイケメンが現れたと通報があったわ。二人で向かってちょうだい》
藤守
「パンツ一丁……って、不審者どころか変質者ですやん!」
穂積の声
《遠巻きにしている教師や小学生相手に、テカテカボディでポージング決めてるらしいわ。すぐに行って、取り押さえてちょうだい》
そこまで裏声でオカマ口調だった穂積の声が、不意に低くなった。
穂積の声
《俺に壁ドンされたくなけりゃ、全力疾走で行け》
絶対バレてる!
藤守
「はいぃぃいっ!櫻井、行くで!」
翼
「はっ、はい!」
藤守の手が、翼の手を再び掴む。
走り出しながら、さっきから翼の胸は、事件とは別のところで、ときめき始めていた。
翼ちゃんに心境の変化が?!
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
03/21(Sun) 20:56
見てくれ俺の筋肉を!
小春
小笠原の声
≪小学校の防犯カメラからの映像を元にデータベースを検索してみた結果、筋肉男の身元が判明したよ≫
走り続ける翼と藤守の耳に、スピーカーモードにしたP‐phonから、小笠原の声が次々と新たな情報を届けて来る。
それによると、男の名前は南原ムタキ。
スポーツ施設の指導者への聞き込みで名前が出なかったのも当然で、南原は、成人を対象としたボディビルジムの、熱心な会員の一人に過ぎなかった。
藤守と翼の訪問を受けたあと、スポーツジムのスタッフたちの会話の中から、「そういえば少し変わったヤツがいるよな」といった感じで、南原の名前が出たのだと言う。
スポーツで上達してゆく過程の人間にはありがちな事だが、南原は、今まさにトレーニングの効果が現れ始めた時期で、誰かに、自分の努力の成果を見て欲しくて、ヒーローに憧れる年頃の、小学校の男子に声をかけている可能性がある、と。
藤守
「よお分からんな。同じように筋肉を鍛えてはる明智さんやイチゴなら、筋肉フェチの気持ちが分かるのかもしれへんけど」
翼
「藤守さん、校庭に人が集まってます」
翼の声に視線を移せば、確かに、教職員らしい大人の男女が、学校備え付けの刺股やロープを手に、校庭の中央に向かって身構えていた。
藤守
「校長先生はどこですか?」
犯人を刺激しないよう、藤守は、声を低くして職員の背中を叩いた。
「犯人を説得しています」
返事が返ってくる。
藤守は礼を言い、翼の手を引いて人垣の前に出た。
異様な光景だった。
きっちりスーツを着た、小柄な校長が、5メートルほどの距離をおいて、パンツ一枚の美丈夫と向かい合っている。
南原ムタキは特に暴れる様子もなく、むしろ堂々と、ボディビルのポージングを続けていた。
翼
「……藤守さん、どうします?」
南原を直接視野に入れないよう顔を背けながら、赤い顔をした翼が尋ねてくる。
どうやら、翼には南原が直視できないらしい。
藤守
「……櫻井、近くに、あいつがここまで着て来た服があるはずや。探してみて」
翼
「そうですね。……もしも見当たらなければ、男性の先生から借りてきます」
翼は頷いて、藤守から離れて行った。
藤守
(さて、どないする?校長と交代して説得するか、それとも、実力行使で押さえ込むか?それとも……)
翼が安全と思われる距離まで離れたのを確かめて、藤守は思案を巡らせた。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/23(Tue) 16:14
そろそろ藤守さんのターンらしくしなければ。
小春
穂積
「小学校の校庭で、細マッチョな爽やかイケメンが、パンイチでボディビルのポージングしてるんですって」
ドルチェ&バッナーナの店内。
小笠原からの報告を受け、藤守に、小学校に向かうよう電話で指示を出した後、穂積はそう言ってひとつ、溜め息をついた。
イチゴ
「何それ気になる!」
穂積の言葉に飛び付いたのは、オーナーとしてこのカフェを経営する男性でありながら、女装した姿で、現役のスーパーアイドルとして活躍中でもある、桃井イチゴだった。
小野瀬
「桃井さんは、腹筋バキバキの強い男が好きだからね」
傍らに立つ小野瀬の台詞が、棒読みなのも仕方がない。
盛装してステージに立てばキャーキャー言われる美少女イチゴのはずだが、今はスッピンだ。
自分と同じ染色体を持つ人間には恋愛感情を持たない小野瀬からすれば、単純にちょっと可愛い顔をした、細身で小柄な若い男に過ぎないのだから。
イチゴ
「ねえねえ室長さん。小学校は遠くないし、向こうには、藤守さんと櫻井さんもいるんでしょ?イチゴ、見に行ってきてもいい?」
言いながら、イチゴは早くも変装用の伊達メガネをかけ、大きなマスクに着け直している。
イチゴ
「自転車に乗って行けばすぐだし、その人が強いかどうか確かめたら、すぐ戻って来るから!」
小野瀬
「桃井さん、お店はどうするの?」
イチゴ
「厨房に明智さんがいて、フロアに室長さんと小野瀬さんがいてくれれば、イチゴ居なくても大繁盛でしょ?」
小野瀬
「あのねえ、」
穂積
「イチゴ」
呆れる小野瀬の声を、顔を上げた穂積が遮った。
穂積
「行っていいわよ。その代わり、藤守に伝言を頼めるかしら」
イチゴ
「さすが室長さん!明智さんの次に大好き!」
小学校の校庭。
懸命に説得を続ける校長の声が届いているのかいないのか、南原ムタキのパフォーマンスは続いていた。
人垣を作って、校長と南原を囲んでいる教職員たちは、じりじりと包囲を狭めている。
南原ムタキはパンツ一枚だ。
だが、武器を忍ばせている可能性もゼロではない。
大人数で一気に、有無を言わせず押さえ込むには、まだ、しばらくの時間が必要だった。
そこに。
「いやーん、腹筋バキバキ!」
黄色い悲鳴……いや、黄色い歓声が、藤守の背後から聞こえてきた。
「は?」
藤守が振り返ったそこにいたのは、桃井イチゴだった。
「い、イチ……」
しかしまさか、大人気のスーパーアイドルの名前を呼ぶわけにはいかない。
藤守がモゴモゴしている間に、イチゴは教職員たちの間を縫って、藤守に近付いて来た。
「藤守さん、室長さんから伝言だよ」
イチゴは小声で言うと、背伸びをして、藤守の耳元に唇を寄せた。
甘い香りがして、こんな時なのに、藤守の心臓がドキリと音を立てる。
イチゴは、囁くように言った。
「南原は校長たちに任せておけばいいから、校内に不審な点が無いか、調べろって。教職員たちが校庭に集中している間に、校長室や職員室に、誰かが侵入してるかも知れない、って!」
「……!」
藤守は、咄嗟に周囲を見た。
翼の姿が見えない。
南原の衣服が見つからず、調達するために校内に入っていったに違いない。
(なんで行かせたんや!なんで気付かんかったんや!)
自分を責めながらも、藤守は、冷静な部分で教頭を探した。
「教頭先生はいますか?!」
近くにいた教師に尋ねると、運良く、数人先にいた教頭が振り向いた。
「一緒に、校内に戻ってください。もしかしたら、こっちは囮やいうことも」
そこまで言うと、教頭も、ハッとした様子で頷いた。
すぐに動き出してくれ、痩身を屈めるようにして、藤守の先に立ってくれる。
南原を刺激しないように動きながら、藤守はイチゴを振り返った。
イチゴは何を思っているのか、もう藤守は眼中に無いようだ。
南原を見据えて高々と脚を上げて、四股を踏み始めている。
「お、おい…」
呼びかけたものの、すぐに考え直す。
室長が、校庭より校内だと言った。
だから、自分はそちらへ向かわなければならない。
……校長室や職員室が狙われる?
南原の目的は、小学生へのパフォーマンスだけではないのか?
パフォーマンスの裏で、別の誰かが侵入してる?
誰が?
何のために?
南原はそれを知っているのか?
……様々な疑問が浮かぶ藤守の思考の中で、けれど、最優先されたのは、やはり、翼の身の安全だった。
「すまん、櫻井!今行くで!」
騒然とする校庭を後にして、藤守は教頭を追って、校内に飛び込んでいった。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/26(Fri) 06:41
ような物!
ジュン
職員の更衣室で男性教師のジャージを見つけて翼は鍵を掛けた。
翼
(借りれてよかった。)
早く校庭に戻らなければと走り出そうとした瞬間、バキッと大きな音が響いた。
翼
(誰かいる?)
職員は南原を取り押さえようと校庭に出ているはず。それに木が割れるような大きな音が気になった。
耳をすませばどうやら職員室の隣、校長室から聞こえてくる気がする。念のためと翼は校長室を確認することにした。
翼
「誰かいるんですか?」
そっと扉を開け中を覗き込む。部屋の中には男性が一人。翼に気付いていないようでバールのような物で床板を剥がしているようだ。
首筋がピリッと痛んだ。『藤守に応援を』と顔を引っ込めようとした時、床板を剥がしていた人物と目が合った。
次の瞬間にはバールのような物を振り上げこちらに向かってきた。
逃げようと身体が動くのに一瞬の間があった。翼が背中を向けた時には男性はバールのような物を振り下ろしていた。
藤守
「櫻井!」
振り下ろされたバールのような物は藤守の左腕で止められた。
藤守
「ッ!」
左腕の痛みに顔を歪めながら藤守は蹴りを繰り出した。男性がよろけた所で腕を捻り上げバールのような物を落とさせる。そして足払いで男性をうつ伏せに倒し押さえつけた。
藤守
「傷害の現行犯で逮捕や!」
男性の目的は?校長室の床下に何があるのか!?
ここでパース(* ̄▽ ̄)ノ⌒〇
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03/26(Fri) 17:10
バールという事で
小春
藤守が、抑え込んだ侵入者に手錠をかけたその直後。
侵入者の顔を確かめた教頭が、あっ、と叫んだ。
教頭
「奈矢見くん?!」
翼
「えっ?教頭先生、この人をご存じなんですか?」
翼の問いに、教頭は頷いた。
教頭
「はい。彼は、我が校の、スクールカウンセラーです」
翼
「カウンセラーって……児童の為の、生活相談員ですよね?そのカウンセラーが、何故、こんな事を?」
奈矢見
「教頭……」
藤守の身体の下から、奈矢見、と呼ばれた男が、苦しそうに声を出した。
教頭
「奈矢見くん、まさか、この床下に?!」
奈矢見
「はい、やっと……やっと、見つけました!」
話が見えない。
翼は藤守に相談しようとして、青ざめた。
翼
「あっ!藤守さん、怪我は?」
藤守
「ああ……ははっ、大丈夫や。バールを受け止めたんやから、そら痛いけどな。骨まではいってへんやろ……と、思う」
翼
「本当ですか?」
藤守
「ああ。それより、教頭先生。話を聞かせてください」
藤守に促されて、教頭は、床に落ちていたバールを拾い上げ、先程の奈矢見がしていたように、校長室の床に差し込むと、一気に力を入れた。
すると。
床下には不自然な空間があった。
教頭は床に這いつくばって空間に手を入れると、床下に置かれていた箱を、床の上まで持ち上げた。
リンゴ箱ほどの大きさで、開けると、大小、いくつもの封筒が入っている。
藤守
「これは……?」
その時。
不意に、校庭の方から、わっ、という歓声が上がった。
翼が驚いて窓から見ると、南原がイチゴに押し倒され、校長ら教職員が南原を取り押さえたところだった。
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03/26(Fri) 17:14
小春
翼
「藤守さん、イチ、桃井さんがやってくれましたよ!」
翼はほっとしたように言った。
藤守は翼に笑顔で頷いたが、教頭と奈矢見の表情を見て、眉を潜めた。
藤守
「教頭、奈矢見さん。とりあえず、ここを離れましょ」
そう言って、藤守は身体を起こし、奈矢見を立ち上がらせた。
翼
「藤守さん?!」
藤守
「櫻井。これは、間違ってる行動かもしれん。けどな。室長が、いつも言うてるやろ?俺らの仕事は、犯罪者を作る事やない。事件を解決する事や」
翼は、藤守の意外な行動に驚いたものの、すぐに、何か事情があるのだと察して、後に続いた。
教頭
「ありがとうございます!……床板は、元通りに嵌めて絨毯を戻しておけば、すぐには気付かれないでしょう。あの騒ぎですから、この後、校長室には大勢の出入りがあって、床下どころではないはずです」
奈矢見
「教頭、とりあえず、カウンセリングルームに」
教頭
「そうだな、あそこなら、鍵もかけられるし、面談中の札をかければ、やたらには入れない」
教頭と奈矢見は、素早くそんな言葉を交わし、藤守と翼を促すと、箱を抱えて校長室を出る。
パトカーのサイレンの音が、遠くから聞こえてきた。
03/26(Fri) 17:15
小春
翼
「これは……?」
カウンセリングルームの中。
箱の中を改めて見せられても、翼には、その、いくつもの封筒が何を意味しているのか、すぐには分からなかった。
奈矢見
「これは、現金ですよ」
いまだ藤守と手錠で繋がれたまま、奈矢見が、低い声で言った。
藤守
「現金?……どの封筒も、かなり、厚いですよ?」
教頭
「これは、校長の隠し金なのです」
藤守・翼
「えっ!」
教頭は、溜め息をついた。
教頭
「……スクールカウンセラーという、奈矢見くんの仕事は、悩みのある生徒の相談相手になり、適切な対処法を一緒に考え、必要であれば教師や家族とも話し合い、問題を解決に向かわせるというものです……」
奈矢見
「その通りです。当然、家庭環境も調べますし、例えば、いじめ問題であれば、加害者、被害者にそれぞれ話を聞いたりもしました」
教頭
「基本的に校内の問題ですから、奈矢見くんは、当然、校長に経過報告をします。そして、万引きなら警察、風紀違反なら保護者呼び出し……というように、しかるべき所に連絡し、対応していたのです」
翼には、奈矢見と教頭の話が、なぜこの現金に繋がるのか、さらに、この現金をなぜ校長が隠さなければならないのか、いまだにまだ分からない。
藤守
「もしかして、この、大きい方の封筒は、しかるべき場所……警察や、教育委員会に行くべき、スクールカウンセリングの報告資料ですか?」
奈矢見
「……おっしゃる通りです」
翼
「じゃあ、この、お金の山は……?」
奈矢見
「口止め料ですよ」
教頭と奈矢見は、悔しそうに翼を見つめた。
奈矢見
「校長は、僕の調査で分かった事実を、世間や、志望校に知らせない事を条件に、事件を起こした生徒や、いじめ加害者の保護者たちから、お金を受け取っていたんです」
教頭
「同時に、教育委員会に報告すべき事実も、ほとんどを自分のところで揉み消していた。……わたしは、自分が保護者面談を担当したり、奈矢見くんから報告を受けた事柄が、いつまでたっても表沙汰にならない事を不思議に思った。それで校長を疑い、証拠を探していたのです」
翼
「なんて事……」
藤守
「すると、今日の、南原の騒ぎは」
奈矢見
「南原くんは、僕の親友です。僕が悩んでいたのを見かねて、自分が、目立つ事をして、囮になる。その隙に証拠を探せ。一発勝負だ、と……犯罪者にされてしまうかもしれないのに……」
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03/26(Fri) 17:19
小春
奈矢見は、涙ぐんでいた。
藤守
「……お話は、分かりました。任せとってください!」
翼
「藤守さん」
藤守
「櫻井、表に、如月が、パトカーで来とる。教頭と奈矢見さんを保護して、捜査室まで連れてくんや」
翼
「はい」
藤守と翼は、騒ぎに巻き込まれないように校舎の裏を廻りながら、如月と連絡を取り合って、パトカーまで辿り着いた。
藤守
「如月、二人と、櫻井と、証拠品を頼むで。校長の手から、守るんや。後は、室長が何とかしてくれるはずや」
如月
「了解です!」
藤守
「……」
翼
「藤守さん?」
藤守
「……悪い、ちょっと、保健室に寄ってくわ。折れてはおらんけど……、ひょっとしたら、ヒビ入ってるかも」
翼
「わ、私も残ります!」
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
リレーSS専用スレッド・39
小春
こちらではリレーSS『アブナイ☆恋のウェディング・ベル』を開催しています。
人気の団地の周辺で多発する、不審な声かけ事案。
捜査室メンバーは、全ての謎を解決出来るのか?
そして、ウェディング・ベルの音とともに移り変わる恋の結末は?
早く続きを読みたい方は、勇気を出して書き込んでリレーを動かしてね!
パース!ヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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11/29(Sun) 06:15
小春
~翼vision~
なにがなんだか分からない。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう……
捜査室に戻った明智さんは、イチゴちゃんのお店『ドルチェ&バッナーナ』での聞き込み捜査の結果を報告、室長に報告した。
つまり、店の料理の味が落ちたのは、シェフとパティシエが辞めてしまったからだということ。
そのため、困ったイチゴちゃんが、黒ずくめの青年の姿に変装して、子供や住民たちに声をかけては、食べたいものを尋ねたり、時には試食させたりしていたのだということ。
室長は、明智さんの報告を、頷きながら聞いていた。
……明智さんが、低い声で、
『問題はそこからです』と、言うまでは。
穂積
「はぁ?……オーナーに結婚を申し込まれた?!」
なんでそうなるのよ、と呆れる室長に、明智さんは、泣きそうな顔でさらに言った。
明智
「オーナーは、桃井イチゴという男性です。いや、見た目はアイドルみたいな女性なんですが!実は、男なんです!元相撲部の!そのイチゴが、俺を、いけぼでいけめんでないすばでぃだと言って!結婚したいと言い出して!」
穂積
「はあ」
藤守
「腹筋が割れてる男がタイプなんだそうですわ」
翼
「明智さんに抱きついて離れなかったんですよ」
明智
「室長!」
明智さんの声が裏返った。
明智
「どうすればいいんですか?俺は、ただ、カフェに行って、室長のご命令通りに、ケーキを作っただけなんです!それなのに、まさか、男からプロポーズされるなんて」
声を震わせる明智さんを目の当たりにして、さすがの室長も、すまなそうな表情で立ち上がった。
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11/29(Sun) 06:17
小春
穂積
「悪かったわ、明智。ワタシのミスだわ」
明智さんに頭を下げた室長は、続けて、私にも頭を下げてくれた。
穂積
「櫻井にも謝るわ。ごめんなさい」
翼
「そんな……」
室長に頭を下げられるなんて滅多に無いことで、私は焦ってしまう。
穂積
「明智に、カフェで調理をしてみせろと言ったのはね。そのまま潜入させて、残る不審者を洗い出そうと思ったからなのよ」
明智
「えっ?」
藤守
「幼稚園児に声をかけていたのは、子供を心配した、黒柳保育園の黒柳理事長。小学校低学年に声をかけていたのは、厨房スタッフに逃げられて悩んでた桃井イチゴ。もう、解決したんと違いますの?」
穂積
「ところが、それ以外にもいるのよ。…小笠原、リスト呼んで」
小笠原
「小学校高学年、中学生、高校生、大学生、社会人。それぞれ、別の不審者だと思われる」
如月
「そんなに?」
穂積
「だからね。カフェは情報が集まりやすいでしょう?
そこで、厨房スタッフとして明智をカフェに配置させれば、料理の味が上がって店も助かるし、我々も楽になると思ったの。
でもまさか、オーナーがそんなややこしい人物だったとはね」
明智
「そんなお考えがあっての事だったとは…」
どうやら、明智さんも納得したみたい。
穂積
「とりあえず、アンタたちのおかげで、二人の不審者については解決したわ。次の、小学校高学年を狙った不審者に関しては、藤守と櫻井のピュアコンビが担当してちょうだい」
「はい」
私と藤守さんは、声を揃えて返事をした。
穂積
「明智、気が進まないだろうけど、明日はまた、桃井の店に行ってくれるかしら」
明智
「はい。……しかし……」
穂積
「ワタシも一緒に行くわ」
明智
「室長が?」
穂積
「ええ。イチゴはワタシに任せて」
室長がにっこり笑う。
頼もしいけど、あの笑顔の時の室長は……
私は、ちょっとイチゴちゃんが心配になって、小さく身震いした。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/01(Tue) 15:13
小春
翌日。
『ドルチェ&バッナーナ』から帰って来た明智は、どこか晴れやかな表情をしていた。
明智
「イチゴが、室長と小野瀬さんを気に入ってくれたんだ」
如月
「へ?なんで小野瀬さん?」
意味がわからないメンバーが穂積を振り返れば、穂積は、小野瀬と顔を見合わせて溜め息をついた。
穂積
「仕方ないじゃないの。明智の腹筋と引き換えだもの、ワタシ一人の筋肉じゃ足りないでしょ」
小野瀬
「だからって、どうして俺を巻き込むかな」
小野瀬は、不機嫌さを隠そうともしない。
小野瀬
「不審者案件を解決する為じゃなきゃ、絶対に手伝わないところだよ。俺はね、染色体がXXの、本物の女性にしか興味はないの」
穂積
「ぜんぶ解決したら、何かしらのお礼はするわよ」
小野瀬
「毎回そう言われて、毎回ウーロン茶のペットボトル1本で済まされて、文句を言ったら『何かしら?』って首をかしげて言われるだけなんだ。絶対そうだ」
穂積
「分かったわよ、缶コーヒーもつけるわよ」
小野瀬
「俺が聞き分けないみたいな雰囲気出すな!」
穂積
「缶コーヒーを馬鹿にするんじゃないわよ!その気になれば藤守が手に入るお得なアイテムなのよ!」
いつものように口喧嘩を始めた穂積と小野瀬を横目に、明智が室内を見回した。
明智
「そういえば、藤守は?」
小笠原
「櫻井さんと聞き込みに出てるよ」
明智
「そうか」
イチゴの件について、結局、まだ、翼とちゃんと話せていない。
明智
(まあ、藤守になら、愚痴も言いやすいか……)
翼の誤解が解けたかどうか、少し不安はあるが、きっと大丈夫だろう。
明智はそう思い直して、とりあえず今日の報告書をまとめるため、自分の席についた。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/02(Wed) 10:25
ジュン
藤守
「ありがとうな。もし何か思い出したり話したいことがあったら気軽に連絡してや。」
藤守は自分の名刺を渡しながら笑顔を浮かべた。声かけの被害にあった小学校高学年の児童宅を回っていたのだ。
翼
「声を掛けられたのは男の子ばかりでしたね。」
藤守
「そうやな。変質者なら女児に声をかけるやつが多いんやけど…。まあ、だからって変質者の線が消えるわけやないけどな。」
もと少年課の藤守は色んな子供に接するのも上手くスムーズに話を聞いていった。『さすがだな。』っと思う翼だが、どうしても聞き込みに集中できない。
翼
(まーくん、今日はどうだったのかな?なんだかモヤモヤするな…)
昨日のイチゴの熱愛報道から気持ちがモヤモヤしたまま切り替えができない…。つい溜め息を洩らした時、ポンっと頭に手の感触があった。
藤守
「櫻井?聞いてるか?室長に連絡したら報告は明日でいいから今日は直帰してええって。」
いつの間に連絡していたんだろう?そんなことにも気付かないほど心ここにあらずだったなんて…。自分の不甲斐なさについ俯いてしまう。
藤守
「さ~くらい、飯食いに行かへんか?」
突然の誘いに藤守さんを見上げて首を傾げてしまう。いつもは捜査室のメンバーと一緒に行くのに…藤守さんと2人で夕飯は初めてだった。
藤守
「ほら、行くで~!」
藤守さんは私の返事も聞かず背中を押して歩き始めた。
食事の席で何が起こるのか!?それはわからない!ここでパース(* ̄▽ ̄)ノ⌒〇
12/02(Wed) 12:26
ジュンさんありがとうございます。(´ 3`)ちゅー
小春
藤守
「小学校の男子生徒にばかり声かける、ってどういう人間なのか、考えてみたんやけどな……」
テーブルを挟んだ向かいの席から、藤守が話し掛けてくる。
彼の後ろには、ガラス張りの、大きな窓。
そこからは、教会がある緑の丘の景色が広がっているのが見える。
ちょうど夕暮れが近付いていて、そちらに気を取られそうになるような美しさだ。
藤守は仕事の話をしているのに、まるで、デートのようなシチュエーション。
藤守
「小児性愛、いわゆるショタコンとか、同性愛とかも、うーん、まあ、ありえなくはないけど。今日、聞き込みをした範囲では、俺、もしかして、スポーツか何か、英才教育のスカウトの可能性もあるんやないかと……」
藤守が、不意に、言葉を切った。
藤守
「櫻井、聞いとる?」
翼
「えっ?はい、聞いてます」
実際は、半ば聞き流していたといってもいい状態だった。
今の、目に見えているこの景色と。目の前にいる相手と。話の内容と。自分の中でごちゃごちゃしている感情と。
何もかもちぐはぐで、まるで現実味が感じられない。
藤守
「櫻井……」
西日で逆光になった藤守の表情はよく分からないけれど、その声には心配そうな響きがある。
翼
「……すみません。本当は、ぼんやりしてました…」
申し訳なくて、翼は頭を下げた。
藤守
「ええよ、ええよ。昨日の今日や、無理もないわ」
藤守は大げさに手を振って、許してくれた。
藤守
「……お前、ゆうべ、泣いたやろ?嘘ついても分かるで」
先に言われてしまっては、誤魔化しようもない。
翼は、はい、と、正直に答えてしまった。
藤守
「やっぱりな」
藤守は頷いてから、ぐっ、と、拳を握りしめた。
藤守
「……櫻井。明智さんとの婚約、考え直したらどうや?」
翼
「えっ?!」
藤守
「いや、やめろ言うんやない。けど、俺、お前を泣かせる明智さんは、どうしても納得出来ひんのや!」
叫ぶ藤守の声の後から、丘の上の教会の鳴らすウェディング・ベルが聞こえてきた……
☆☆☆☆
あああ、鳴らしてしまいました。
さて、明智さんと藤守さんがステージに並んでいます。
この先、ヒロインを巡って、本家さまではありえない恋のバトルが発生するのか?しないのか?
それは続くあなたしだい!
パースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/13(Sat) 10:16
明智さんが可哀想
小春
告白とも思える言葉に対して、返事をうやむやにしたまま、翼は藤守と別れ、帰路についていた。
翼
(……なんだか疲れちゃった……)
明智は結局、カフェ「ドルチェ&バッナーナ」にパティシエとして潜入し、不審者の捜査を続ける事になった。
という事は、オーナーの桃井イチゴから明智への積極的なアプローチも続くだろう、と、思うと複雑だ。
穂積と小野瀬が、アルバイトを装ってカフェに入ってくれることになった事だけが、翼にとっては唯一の安心の材料だった。
二人は、イチゴと明智の間に入って、明智の貞操のバリケードになってくれるはずだ。
翼は、安堵とも、諦めとも分からない溜め息をついた。
翼
(イチゴちゃんになつかれて、肉体的な攻撃はともかく、気持ちまで強く振り払えないのは、まーくんの優しさだよね……)
分かってはいても、アイドルのよう、どころか、実際に現役の人気アイドルである可愛いイチゴと、自分の恋人である明智が抱き合っていた光景は、翼にとっては衝撃的過ぎた。
どちらも男性だと、頭では分かっていても、だ。
「翼」
翼
(藤守さん……)
藤守が、自分に特別な好意を持っていてくれたなんて、今まで気付かなかった。
自分も、藤守に対して、良い先輩だという以上の感情なんて無かった。
だけど、イチゴの可愛さを魅力として意識した時、敗北感を抱いていた翼にとって、そのタイミングで自分を認めてくれた藤守が、なせか急に輝いて見えてしまったとして、仕方のない事なのではないだろうか。
「翼」
明智の事はもちろん好きだ。
でも、真っ直ぐに自分を見つめてくれた、さっきの藤守の眼差しが忘れられない。
「翼」
考えがまとまらない。
とにかく帰って、一人になって、考えたい。
翼は駅の改札を抜けると、ホームに向かって歩みを速めた。
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03/13(Sat) 11:50
ということでこうなった
小春
明智
「翼……」
明智は、改札の手前に佇んで、走り出て行く電車を見送っていた。
自分の声に振り向かないまま、翼は歩き去ってしまった。
よほど考え込んでいたのか、それとも。
明智の声だと分かっていて、聞こえない振りをしていたとしたら……
「明智さん」
藤守の声に、明智は振り向いた。
「藤守?帰ったんじゃなかったのか」
「櫻井が、ちゃんと電車に乗るまで、見届けようと思て」
「そうか、すまん」
「……明智さんにお礼を言われると、複雑ですわ」
「え?」
「俺、阿呆やから、正直に言うてええですか?」
藤守は真顔、というより、半ば泣き顔のような、思い詰めた表情をしていた。
「櫻井が落ち込んでるんは、明智さんに責任があると思うてます」
明智は思う。
正直だというならは、藤守は、捜査室で最も正直な人間だと思う。
その藤守が言うのだ。
心当たりも、ある。
だから、気になるのはむしろ、それが事実かどうかではなく、なぜ、藤守が、それを自分に言うのかという事の理由だ。
「藤守、お前、もしかしたら」
藤守が、唇を噛んだ。
次に明智が何か言ったら、宣戦布告しよう。
櫻井をくれと、あるいは、奪うつもりだと。
恋敵として、明智さんと争うことになるのは辛い。
でも、これだけは譲れないのだと。
「藤守……」
明智が口を開いた。
「そうか、そうだよな。すまなかった。お前が怒るのは当たり前だ」
……へ?
「櫻井は、お前にとっては、『職場の可愛い妹』なんだからな」
「いや、あの、明智さん」
「いつも『困ったらお兄ちゃんに何でも言えや』と言ってたのを知ってる。今回、イチゴと俺の事で、翼…ゴホン、櫻井を混乱させてしまった。お前、相談に乗ってくれたんだな」
「俺はそんな」
「お前にまで心配をかけて、すまん。これからも櫻井を頼む」
「明智さん」
「俺は不器用だから、うっかり櫻井を傷つけてしまう事がこれからもあるかもしれん。その時は藤守、俺の、俺と櫻井の力になってくれ」
「明智さん……」
「頼んだぞ、藤守」
「……」
藤守は、拳を握りしめた。
「……任せてくださいよ!」
ああ、
言ってもうた。
行ってもうた……
何度も「ありがとう」と言いながら、笑顔で手を振って去っていく明智を、やはり笑顔で見送りながら、藤守は、心で泣いていた。
(忘れてた……明智さんは天然やった……)
こうして、藤守は、恋心を内に秘めたまま、翼とウエディング・ベルを鳴らず事を夢に見ながら、明日からも「いい人」を演じ続けなければならないのだった……
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/16(Tue) 06:42
炸裂!
ジュン
宣戦布告に失敗した翌日、監視カメラの解析をしていた小笠原から男児に声をかけていた人物の人相が判明した。
翼
「爽やかそうな人ですね?」
藤守
「ああ、そうやな。身体も引き締まってるしスポーツマンって感じやな。」
小笠原
「複数の男児に声かけしているから間違いないよ。」
小笠原が映像処理してくれているのでハッキリと顔を確認できる。
30歳前後とみられる爽やかイケメン。
藤守
「この映像プリントアウトして声かけのあった近辺のスポーツ教室を回ってみよか?」
翼
「スポーツ教室ですか?体操とか?」
地図で調べてみると周辺には体操教室、水泳教室、空手や少林寺の教室もあった。
藤守
「片っ端から聞き込みしよう。」
・・・・・
現地に着くまで藤守は無言で考え込んでいた。
昨日、明智の天然炸裂により宣戦布告も出来なかった。
もちろん好んで明智と争いたいとは思っていない。しかし、自分だってずっと櫻井のことが好きだったのだ。その櫻井が悲しそうにしているのを黙って見てはいられない。
いつまでも『いい人』を演じていていいのか。だからと言って櫻井の気持ちを無視して奪ってしまえばいいというものでもない。考えがまとまらないまま声かけの現場に到着した。
翼
「じゃあ近くから順に教室を回ってみましょう。」
翼がぎゅっぎゅっと拳を握った。
だが結果として藤守と当たりをつけたスポーツ教室には声かけの人物はいなかった。プリントアウトした写真を見せてみてもスタッフではないとの返事ばかり。
藤守
「すまん。俺の考え違いやったみたいや。」
スポーツのスカウトではないかという藤守の考えは間違っていないように思える。しかし近辺の教室には当てはまる人物はいなかった。
翼
「もう少し範囲を拡げてみますか?」
2人は捜査室に戻って作戦を練り直すことにした。
帰り道、『ドルチェ&バッナーナ』の前を通った。小野瀬さんがウェイター姿で女性客の相手をしている。
翼
(明智さん、イチゴさんと一緒にいるのかな?)
ふとそんな考えが過って表情が曇る。それを藤守は見逃さなかった。
翼の手を握り歩き始めた。
翼
「ふ、藤守さん!?」
手を離そうとしても藤守がぎゅっと握って放してくれない。
高架下に差し掛かった時
藤守
「そんな顔してまで…そんな悲しそうな顔してまで明智さんとおらなアカンのか!」
藤守の壁ドンが炸裂した。
さて、どうなる?(^^;相変わらず何も考えていませんのでここでパース(* ̄▽ ̄)ノ⌒〇
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03/16(Tue) 12:39
ドキドキ急展開
小春
翼
「ふ、藤守さん?!」
高架下の壁に追い込まれて、翼が目を丸くする。
藤守は構わず、その瞳を真っ直ぐに見つめた。
翼
「……」
藤守
「お前のそんな顔、見てられへん……」
翼
「……藤守さ」
藤守が、翼との距離をさらにぐっと詰めようとした、その時。
RRRRRR…
藤守の携帯が鳴った。
なんやねんこんな時に!
一瞬、無視しようかと思った。
だが、もしも室長からの着信だったら、3コールまでに出ないと後で〆られてしまう。
はあ、と大きな息を吐いて、誰がかけてきたのかを確認する。
発信者は、小笠原。
捜査室にいて情報を総合し、室長を経由して指示を送ってくる。
捜査に進展があったのだろうか。
出ないわけにはいかなかった。
藤守
「藤守や」
小笠原の声
《そこ、防犯カメラの守備範囲だから》
藤守
「え?うぉ!」
藤守が思わず飛び退いたのは、翼の頭の上、自分が手を伸ばした高さよりもさらに高い壁に設置された、カメラのレンズと目が合ったからだ。
小笠原の声が、冷静に追い討ちをかける。
小笠原の声
《ちなみに、この辺りの防犯カメラの画像は、『ドルチェ&バッナーナ』の室長のパソコンにリアルタイムで集まってる》
すると、その穂積の声が、藤守のP-phonに割り込んできた。
穂積の声
《藤守》
藤守
「ひいっ?!」
穂積の声
《なによ、いきなり。裸足でカエルを踏んづけたみたいな声出さないでよ》
藤守
「すすすすっ、すみません!」
複数通話可能なP-phonではあるが、どうやら穂積は、直前の、小笠原と藤守の会話は聞いていなかったようで。
穂積の声
《アンタたち、小学校の近くにいるでしょう?すぐに向かってちょうだい》
藤守
「小学校、ですか」
振り返った藤守の目が、それらしい緑色のフェンスを視界の端に捉えた。
藤守
「あれやろか」
穂積の声
《そう、それ》
独り言に返事が来る。
ひっ、と、もう一度、藤守の喉が鳴った。
穂積の声
《その小学校の校庭に、パンツ一丁の爽やかイケメンが現れたと通報があったわ。二人で向かってちょうだい》
藤守
「パンツ一丁……って、不審者どころか変質者ですやん!」
穂積の声
《遠巻きにしている教師や小学生相手に、テカテカボディでポージング決めてるらしいわ。すぐに行って、取り押さえてちょうだい》
そこまで裏声でオカマ口調だった穂積の声が、不意に低くなった。
穂積の声
《俺に壁ドンされたくなけりゃ、全力疾走で行け》
絶対バレてる!
藤守
「はいぃぃいっ!櫻井、行くで!」
翼
「はっ、はい!」
藤守の手が、翼の手を再び掴む。
走り出しながら、さっきから翼の胸は、事件とは別のところで、ときめき始めていた。
翼ちゃんに心境の変化が?!
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
03/21(Sun) 20:56
見てくれ俺の筋肉を!
小春
小笠原の声
≪小学校の防犯カメラからの映像を元にデータベースを検索してみた結果、筋肉男の身元が判明したよ≫
走り続ける翼と藤守の耳に、スピーカーモードにしたP‐phonから、小笠原の声が次々と新たな情報を届けて来る。
それによると、男の名前は南原ムタキ。
スポーツ施設の指導者への聞き込みで名前が出なかったのも当然で、南原は、成人を対象としたボディビルジムの、熱心な会員の一人に過ぎなかった。
藤守と翼の訪問を受けたあと、スポーツジムのスタッフたちの会話の中から、「そういえば少し変わったヤツがいるよな」といった感じで、南原の名前が出たのだと言う。
スポーツで上達してゆく過程の人間にはありがちな事だが、南原は、今まさにトレーニングの効果が現れ始めた時期で、誰かに、自分の努力の成果を見て欲しくて、ヒーローに憧れる年頃の、小学校の男子に声をかけている可能性がある、と。
藤守
「よお分からんな。同じように筋肉を鍛えてはる明智さんやイチゴなら、筋肉フェチの気持ちが分かるのかもしれへんけど」
翼
「藤守さん、校庭に人が集まってます」
翼の声に視線を移せば、確かに、教職員らしい大人の男女が、学校備え付けの刺股やロープを手に、校庭の中央に向かって身構えていた。
藤守
「校長先生はどこですか?」
犯人を刺激しないよう、藤守は、声を低くして職員の背中を叩いた。
「犯人を説得しています」
返事が返ってくる。
藤守は礼を言い、翼の手を引いて人垣の前に出た。
異様な光景だった。
きっちりスーツを着た、小柄な校長が、5メートルほどの距離をおいて、パンツ一枚の美丈夫と向かい合っている。
南原ムタキは特に暴れる様子もなく、むしろ堂々と、ボディビルのポージングを続けていた。
翼
「……藤守さん、どうします?」
南原を直接視野に入れないよう顔を背けながら、赤い顔をした翼が尋ねてくる。
どうやら、翼には南原が直視できないらしい。
藤守
「……櫻井、近くに、あいつがここまで着て来た服があるはずや。探してみて」
翼
「そうですね。……もしも見当たらなければ、男性の先生から借りてきます」
翼は頷いて、藤守から離れて行った。
藤守
(さて、どないする?校長と交代して説得するか、それとも、実力行使で押さえ込むか?それとも……)
翼が安全と思われる距離まで離れたのを確かめて、藤守は思案を巡らせた。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/23(Tue) 16:14
そろそろ藤守さんのターンらしくしなければ。
小春
穂積
「小学校の校庭で、細マッチョな爽やかイケメンが、パンイチでボディビルのポージングしてるんですって」
ドルチェ&バッナーナの店内。
小笠原からの報告を受け、藤守に、小学校に向かうよう電話で指示を出した後、穂積はそう言ってひとつ、溜め息をついた。
イチゴ
「何それ気になる!」
穂積の言葉に飛び付いたのは、オーナーとしてこのカフェを経営する男性でありながら、女装した姿で、現役のスーパーアイドルとして活躍中でもある、桃井イチゴだった。
小野瀬
「桃井さんは、腹筋バキバキの強い男が好きだからね」
傍らに立つ小野瀬の台詞が、棒読みなのも仕方がない。
盛装してステージに立てばキャーキャー言われる美少女イチゴのはずだが、今はスッピンだ。
自分と同じ染色体を持つ人間には恋愛感情を持たない小野瀬からすれば、単純にちょっと可愛い顔をした、細身で小柄な若い男に過ぎないのだから。
イチゴ
「ねえねえ室長さん。小学校は遠くないし、向こうには、藤守さんと櫻井さんもいるんでしょ?イチゴ、見に行ってきてもいい?」
言いながら、イチゴは早くも変装用の伊達メガネをかけ、大きなマスクに着け直している。
イチゴ
「自転車に乗って行けばすぐだし、その人が強いかどうか確かめたら、すぐ戻って来るから!」
小野瀬
「桃井さん、お店はどうするの?」
イチゴ
「厨房に明智さんがいて、フロアに室長さんと小野瀬さんがいてくれれば、イチゴ居なくても大繁盛でしょ?」
小野瀬
「あのねえ、」
穂積
「イチゴ」
呆れる小野瀬の声を、顔を上げた穂積が遮った。
穂積
「行っていいわよ。その代わり、藤守に伝言を頼めるかしら」
イチゴ
「さすが室長さん!明智さんの次に大好き!」
小学校の校庭。
懸命に説得を続ける校長の声が届いているのかいないのか、南原ムタキのパフォーマンスは続いていた。
人垣を作って、校長と南原を囲んでいる教職員たちは、じりじりと包囲を狭めている。
南原ムタキはパンツ一枚だ。
だが、武器を忍ばせている可能性もゼロではない。
大人数で一気に、有無を言わせず押さえ込むには、まだ、しばらくの時間が必要だった。
そこに。
「いやーん、腹筋バキバキ!」
黄色い悲鳴……いや、黄色い歓声が、藤守の背後から聞こえてきた。
「は?」
藤守が振り返ったそこにいたのは、桃井イチゴだった。
「い、イチ……」
しかしまさか、大人気のスーパーアイドルの名前を呼ぶわけにはいかない。
藤守がモゴモゴしている間に、イチゴは教職員たちの間を縫って、藤守に近付いて来た。
「藤守さん、室長さんから伝言だよ」
イチゴは小声で言うと、背伸びをして、藤守の耳元に唇を寄せた。
甘い香りがして、こんな時なのに、藤守の心臓がドキリと音を立てる。
イチゴは、囁くように言った。
「南原は校長たちに任せておけばいいから、校内に不審な点が無いか、調べろって。教職員たちが校庭に集中している間に、校長室や職員室に、誰かが侵入してるかも知れない、って!」
「……!」
藤守は、咄嗟に周囲を見た。
翼の姿が見えない。
南原の衣服が見つからず、調達するために校内に入っていったに違いない。
(なんで行かせたんや!なんで気付かんかったんや!)
自分を責めながらも、藤守は、冷静な部分で教頭を探した。
「教頭先生はいますか?!」
近くにいた教師に尋ねると、運良く、数人先にいた教頭が振り向いた。
「一緒に、校内に戻ってください。もしかしたら、こっちは囮やいうことも」
そこまで言うと、教頭も、ハッとした様子で頷いた。
すぐに動き出してくれ、痩身を屈めるようにして、藤守の先に立ってくれる。
南原を刺激しないように動きながら、藤守はイチゴを振り返った。
イチゴは何を思っているのか、もう藤守は眼中に無いようだ。
南原を見据えて高々と脚を上げて、四股を踏み始めている。
「お、おい…」
呼びかけたものの、すぐに考え直す。
室長が、校庭より校内だと言った。
だから、自分はそちらへ向かわなければならない。
……校長室や職員室が狙われる?
南原の目的は、小学生へのパフォーマンスだけではないのか?
パフォーマンスの裏で、別の誰かが侵入してる?
誰が?
何のために?
南原はそれを知っているのか?
……様々な疑問が浮かぶ藤守の思考の中で、けれど、最優先されたのは、やはり、翼の身の安全だった。
「すまん、櫻井!今行くで!」
騒然とする校庭を後にして、藤守は教頭を追って、校内に飛び込んでいった。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/26(Fri) 06:41
ような物!
ジュン
職員の更衣室で男性教師のジャージを見つけて翼は鍵を掛けた。
翼
(借りれてよかった。)
早く校庭に戻らなければと走り出そうとした瞬間、バキッと大きな音が響いた。
翼
(誰かいる?)
職員は南原を取り押さえようと校庭に出ているはず。それに木が割れるような大きな音が気になった。
耳をすませばどうやら職員室の隣、校長室から聞こえてくる気がする。念のためと翼は校長室を確認することにした。
翼
「誰かいるんですか?」
そっと扉を開け中を覗き込む。部屋の中には男性が一人。翼に気付いていないようでバールのような物で床板を剥がしているようだ。
首筋がピリッと痛んだ。『藤守に応援を』と顔を引っ込めようとした時、床板を剥がしていた人物と目が合った。
次の瞬間にはバールのような物を振り上げこちらに向かってきた。
逃げようと身体が動くのに一瞬の間があった。翼が背中を向けた時には男性はバールのような物を振り下ろしていた。
藤守
「櫻井!」
振り下ろされたバールのような物は藤守の左腕で止められた。
藤守
「ッ!」
左腕の痛みに顔を歪めながら藤守は蹴りを繰り出した。男性がよろけた所で腕を捻り上げバールのような物を落とさせる。そして足払いで男性をうつ伏せに倒し押さえつけた。
藤守
「傷害の現行犯で逮捕や!」
男性の目的は?校長室の床下に何があるのか!?
ここでパース(* ̄▽ ̄)ノ⌒〇
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03/26(Fri) 17:10
バールという事で
小春
藤守が、抑え込んだ侵入者に手錠をかけたその直後。
侵入者の顔を確かめた教頭が、あっ、と叫んだ。
教頭
「奈矢見くん?!」
翼
「えっ?教頭先生、この人をご存じなんですか?」
翼の問いに、教頭は頷いた。
教頭
「はい。彼は、我が校の、スクールカウンセラーです」
翼
「カウンセラーって……児童の為の、生活相談員ですよね?そのカウンセラーが、何故、こんな事を?」
奈矢見
「教頭……」
藤守の身体の下から、奈矢見、と呼ばれた男が、苦しそうに声を出した。
教頭
「奈矢見くん、まさか、この床下に?!」
奈矢見
「はい、やっと……やっと、見つけました!」
話が見えない。
翼は藤守に相談しようとして、青ざめた。
翼
「あっ!藤守さん、怪我は?」
藤守
「ああ……ははっ、大丈夫や。バールを受け止めたんやから、そら痛いけどな。骨まではいってへんやろ……と、思う」
翼
「本当ですか?」
藤守
「ああ。それより、教頭先生。話を聞かせてください」
藤守に促されて、教頭は、床に落ちていたバールを拾い上げ、先程の奈矢見がしていたように、校長室の床に差し込むと、一気に力を入れた。
すると。
床下には不自然な空間があった。
教頭は床に這いつくばって空間に手を入れると、床下に置かれていた箱を、床の上まで持ち上げた。
リンゴ箱ほどの大きさで、開けると、大小、いくつもの封筒が入っている。
藤守
「これは……?」
その時。
不意に、校庭の方から、わっ、という歓声が上がった。
翼が驚いて窓から見ると、南原がイチゴに押し倒され、校長ら教職員が南原を取り押さえたところだった。
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03/26(Fri) 17:14
小春
翼
「藤守さん、イチ、桃井さんがやってくれましたよ!」
翼はほっとしたように言った。
藤守は翼に笑顔で頷いたが、教頭と奈矢見の表情を見て、眉を潜めた。
藤守
「教頭、奈矢見さん。とりあえず、ここを離れましょ」
そう言って、藤守は身体を起こし、奈矢見を立ち上がらせた。
翼
「藤守さん?!」
藤守
「櫻井。これは、間違ってる行動かもしれん。けどな。室長が、いつも言うてるやろ?俺らの仕事は、犯罪者を作る事やない。事件を解決する事や」
翼は、藤守の意外な行動に驚いたものの、すぐに、何か事情があるのだと察して、後に続いた。
教頭
「ありがとうございます!……床板は、元通りに嵌めて絨毯を戻しておけば、すぐには気付かれないでしょう。あの騒ぎですから、この後、校長室には大勢の出入りがあって、床下どころではないはずです」
奈矢見
「教頭、とりあえず、カウンセリングルームに」
教頭
「そうだな、あそこなら、鍵もかけられるし、面談中の札をかければ、やたらには入れない」
教頭と奈矢見は、素早くそんな言葉を交わし、藤守と翼を促すと、箱を抱えて校長室を出る。
パトカーのサイレンの音が、遠くから聞こえてきた。
03/26(Fri) 17:15
小春
翼
「これは……?」
カウンセリングルームの中。
箱の中を改めて見せられても、翼には、その、いくつもの封筒が何を意味しているのか、すぐには分からなかった。
奈矢見
「これは、現金ですよ」
いまだ藤守と手錠で繋がれたまま、奈矢見が、低い声で言った。
藤守
「現金?……どの封筒も、かなり、厚いですよ?」
教頭
「これは、校長の隠し金なのです」
藤守・翼
「えっ!」
教頭は、溜め息をついた。
教頭
「……スクールカウンセラーという、奈矢見くんの仕事は、悩みのある生徒の相談相手になり、適切な対処法を一緒に考え、必要であれば教師や家族とも話し合い、問題を解決に向かわせるというものです……」
奈矢見
「その通りです。当然、家庭環境も調べますし、例えば、いじめ問題であれば、加害者、被害者にそれぞれ話を聞いたりもしました」
教頭
「基本的に校内の問題ですから、奈矢見くんは、当然、校長に経過報告をします。そして、万引きなら警察、風紀違反なら保護者呼び出し……というように、しかるべき所に連絡し、対応していたのです」
翼には、奈矢見と教頭の話が、なぜこの現金に繋がるのか、さらに、この現金をなぜ校長が隠さなければならないのか、いまだにまだ分からない。
藤守
「もしかして、この、大きい方の封筒は、しかるべき場所……警察や、教育委員会に行くべき、スクールカウンセリングの報告資料ですか?」
奈矢見
「……おっしゃる通りです」
翼
「じゃあ、この、お金の山は……?」
奈矢見
「口止め料ですよ」
教頭と奈矢見は、悔しそうに翼を見つめた。
奈矢見
「校長は、僕の調査で分かった事実を、世間や、志望校に知らせない事を条件に、事件を起こした生徒や、いじめ加害者の保護者たちから、お金を受け取っていたんです」
教頭
「同時に、教育委員会に報告すべき事実も、ほとんどを自分のところで揉み消していた。……わたしは、自分が保護者面談を担当したり、奈矢見くんから報告を受けた事柄が、いつまでたっても表沙汰にならない事を不思議に思った。それで校長を疑い、証拠を探していたのです」
翼
「なんて事……」
藤守
「すると、今日の、南原の騒ぎは」
奈矢見
「南原くんは、僕の親友です。僕が悩んでいたのを見かねて、自分が、目立つ事をして、囮になる。その隙に証拠を探せ。一発勝負だ、と……犯罪者にされてしまうかもしれないのに……」
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03/26(Fri) 17:19
小春
奈矢見は、涙ぐんでいた。
藤守
「……お話は、分かりました。任せとってください!」
翼
「藤守さん」
藤守
「櫻井、表に、如月が、パトカーで来とる。教頭と奈矢見さんを保護して、捜査室まで連れてくんや」
翼
「はい」
藤守と翼は、騒ぎに巻き込まれないように校舎の裏を廻りながら、如月と連絡を取り合って、パトカーまで辿り着いた。
藤守
「如月、二人と、櫻井と、証拠品を頼むで。校長の手から、守るんや。後は、室長が何とかしてくれるはずや」
如月
「了解です!」
藤守
「……」
翼
「藤守さん?」
藤守
「……悪い、ちょっと、保健室に寄ってくわ。折れてはおらんけど……、ひょっとしたら、ヒビ入ってるかも」
翼
「わ、私も残ります!」
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○