『アブナイ☆恋をもう一度』
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11/24(Sat) 14:07
続けます
小春
捜査室。
翼と穂積の関係について明智から説明を受けた如月と小笠原は、驚きと戸惑い、そして、一抹の寂しさを隠しきれない。
如月
「室長の口から聞きたかったなあ……」
明智
「もちろん、室長だってそうしたかっただろうさ」
小笠原
「あの人、櫻井さんのお父さんに嫌われてるらしいから。実はまだ、正式な婚約はしていないのかも」
明智
「その可能性はあるな」
如月
「そうかなあ。たとえそうだとしても、交際してることまで内緒にしなくてもいいじゃないですか」
明智
「俺たちと櫻井なら、交際していたとしても、単なる職場恋愛で済むが。室長の場合、上司と部下だからな。軽率に発表できなかったとしても無理はない」
納得したのかしないのか、うーん、と唸る如月と、静かに何か考えている小笠原を見ながら、明智は腕組みをした。
明智
「櫻井の気持ちも考えてやれ」
如月
「そっか。落ち込んでる翼ちゃんを励ましてあげて、いい先輩だなと思わせて好きになってもらうのが、恋愛のセオリーですよね!」
明智
「そんな事は言っていない!」
明智はため息をついた。
明智
「これからの事を考えよう。室長の怪我は、記憶を失っている以外は軽傷だ。おそらく、近々退院して、この捜査室に戻って来る。もちろん、室長としてだが、中身は、新卒の警察官だ」
如月
「あっ、そうか!じゃあ、俺が室長の教育係ですか?うわー、緊張するけどワクワクするな!」
明智
「いや、教育係は小笠原に任せよう」
如月
「えー?」
小笠原
「俺?」
明智
「とりあえず、内勤で俺たちの後方支援をしてもらうつもりだ。となると、適任は小笠原だろう」
如月
「小笠原さん、俺に譲ってくださいよ!室長を後輩みたいに連れて歩きたいんです!」
小笠原
「やだね。そういう事なら、この機会に、いつも室長が面倒臭がって俺任せにする仕事をやってもらうんだ」
明智
「室長は記憶喪失だが、年齢も階級も上だ。くれぐれも、失礼な事を考えるんじゃないぞ」
小笠原・如月
「はーい」
明智は深々とため息をついた……
翼ちゃんを取り合うはずが、室長の取り合いになってしまった(笑)
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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11/29(Thu) 21:07
いよいよ退院
小春
数日後。
記憶は戻らないまま、穂積の退院が決まった。
退院の手続きや支払い、また、警視庁に復帰するにあたっての段取りは、小野瀬と明智が手分けして整えた。
もちろん、退院後のケアについては轟婦長が胸を叩いて請け負ってくれ、とりあえずは、経過報告を兼ねて、穂積は毎日、終業後に警察病院に顔を出し、治療を続ける事も決まった。
退院の前日、翼は、小野瀬と二人で、穂積の自宅のあるマンションを訪れていた。
翼の合鍵で入った部屋は、この数日の間にきれいに掃除され、主の帰りを待っている。
翼
「覚えているのは、上京してからここに住んでいたという事だけ……なんですもんね」
小野瀬
「そうだね。しばらくは落ち着かないだろうな」
翼としては、穂積の生活を補助してあげたい気持ちはもちろんある。
けれど、今の穂積は、翼と結婚の約束までしたあの穂積ではない。
単なる職場の上司と部下であって、それ以上ではないのだ。
小野瀬
「当分の間は、俺が、病院から穂積をここまで送り届けた後、そのまま泊まるよ。記憶の無い穂積を一人にするのは、危険だからね」
翼
「はい。お願いします」
翼は唇を噛んで、小野瀬に頭を下げた。
小野瀬
「早く、きみにその役目をバトンタッチ出来ればいいんだけど」
どうやら小野瀬には、翼の寂しさなどお見通しらしい。
小野瀬
「辛いだろうけど、しばらくは我慢して」
翼
「はい」
翼が笑顔を作って顔をあげると、小野瀬は優しく、翼の肩を撫でてくれた。
小野瀬
「寂しくてたまらない時は、いつでも俺にすがってくれていいからね?」
翼
「小野瀬さんたら」
いつもの軽口だと思った翼は笑って受け流したけれど、小野瀬の方はちょっぴり残念そうだ。
翼は気付かなかったようだけれど。
小野瀬
「さあ、明日からは忙しくなるよ」
捜査室への復帰、自宅での生活、治療、学習。
それに、翼にとっては、轟婦長の存在も気になる。
翼
(室長……本当に、私の事を思い出してくれるかな……好きに、なってくれるかな……)
捜査室の室長机の上には、穂積が、小学生の頃に翼の父の元から持ち去ったまま十数年育てている紅葉の盆栽がある。
翼の父がその紅葉に娘の名前を付けて呼んでいたおかげで、穂積が翼の名前を覚えていた盆栽だ。
翼
(室長……)
今でも翼が思い出すのは、記憶を失う前の穂積の笑顔と、大きな手の温もり。
翼
(早く……『泪さん』に会いたいな……)
小野瀬とともに部屋を後にしながら、翼は思う。
『泪さん』に戻った穂積と、誕生日を一緒に祝いたい、と。
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11/30(Fri) 12:56
室長、復帰!
ジュン
退院の翌朝、穂積は小野瀬の案内で捜査室に足を踏み入れた。
小野瀬
「奥のデスクがお前のだよ。」
小野瀬に促されて穂積は自分のデスクにそっと触れた。
捜査室が一望できるその場所。穂積はくるりと辺りを見回した。
メンバーのデスクは各々の雰囲気を醸し出している。
小野瀬や小笠原がいつも寝ているソファーは穂積のこだわりの品だ。
ラックにはこれまで捜査室で扱った事件のファイルが時系列順に並んでいる。
穂積
「いい部屋だな。」
小野瀬
「お前が捜査室の皆と作ってきたんだよ。」
小野瀬の言葉に穂積は少し寂しそうに微笑んだ。
バタン!
藤守
「おはようございます!」
如月
「室長、退院おめでとうございます!」
今日から穂積が復帰すると聞いていたメンバーが順番を競うように捜査室に飛び込んでくる。
どうやら来る途中で全員が揃ってしまい我先にと走り出したのだとか。
一番最後に来たのは翼と小笠原。
翼は皆の速度に敵うわけがなく置いていかれ、小笠原は走って行く藤守と如月を呆れた目で見ていたようだ。
翼と明智がコーヒーを淹れてミーティングテーブルへ。
穂積
「何もわからない状態だが精一杯努力する。みんな、よろしく頼む。」
穂積がメンバーに向かって勢いよく頭を下げた。
「はい!」
さあ、室長、復帰でこれからどうなる?
ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇
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11/30(Fri) 15:05
室長ダメダメ(笑)
小春
穂積
「……っ」
頭を上げた次の瞬間、小さくよろめいた穂積を小野瀬が支えた。
小野瀬
「こら、急に頭を動かすなと何度も言っただろ?」
口では叱ったものの、小野瀬が穂積の肩を支える手は優しい。
穂積
「すまない」
穂積がしゅんとしながら小野瀬に詫びる様子を、他のメンバーは珍しそうに見ている。
小笠原
「(小声)室長、別人みたいにしおらしいね」
如月
「(小声)なんかキュンとしちゃいますよ」
その穂積は、今度は明智に促されて、室長席の椅子に腰を下ろした。
ひどく居心地が悪そうな中、机の上の紅葉の盆栽に気付いて、ふと、目を細めた仕草に翼の胸が痛くなる。
明智
「当面、室長には、内勤に専念していただきます。署内の会議には自分が同行しますし、重要な対外的業務は刑事部長が補佐してくださるそうですので」
穂積
「分かった」
明智
「それ以外の事は、小野瀬さんと小笠原に聞いていただければなんとかなります」
穂積
「分かった」
小野瀬
「(小声)まあ、元々が優秀な奴だからね。記憶障害も、新しく覚える事に関しては問題ないそうだし。じきに、本来の働きが出来るようになるさ」
藤守
「そうですよね」
業務日誌やこれまでの報告書の場所などを確認しあっている明智と穂積を眺めながら、小野瀬が藤守と頷き合っている。
自分に出来る事が思い付かない翼は、黙って立ち尽くすしかなかった。
終業後。
藤守や如月が穂積に寄ってきた。
藤守
「室長、とりあえず退院祝いしましょ」
穂積
「ありがとう。だが、まだ、酒は止められているんだが」
如月
「飲まないのは小野瀬さんもですし」
藤守と如月は「とりあえずとりあえず」などと言いながら音頭をとり、小野瀬、轟婦長、そして藤守アニやジュンも誘って、穂
積の退院祝いの宴会を開く事になった。
場所はいつもの居酒屋だ。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/05(Wed) 10:25
居酒屋にて
小春
結論から言うと、宴会は全く盛り上がらなかった。
穂積は借りてきた猫のようだし、他のメンバーはそんな穂積と何を話せばいいのか分からない。
唯一、乾杯の後で「誘ってもらえて嬉しいよ」と豪快に笑った轟婦長が、病院あるあるの面白いエピソードをいくつか披露してくれ、その間だけは一同も心置きなく笑っていられたのだが……
婦長は20分ほど場を暖めると、「珍客も長居すると嫌われるからね」と笑いながら、病院の仕事に帰って行ってしまった。
さっきまでが面白かっただけに、婦長の抜けた大きな穴を埋められる芸達者はおらず……。
幹事の藤守と如月は、小声で「やっばりまだ早かったんや」「何とかしてくださいよ」「無茶言うなや」などと小突き合っている。
そんな気まずい空気を破ったのは、上座に座らされていた穂積の、よく通る声だった。
穂積
「その……よければ、この捜査室の話を聞かせてくれないか」
実は、と前置きして、穂積は、今日までに、穂積自身が書き残し続けてきた、特命捜査準備室時代からの日報や日誌を、全部読み返してきたのだと明かした。
穂積
「だが……自分が書いたはずの文字を目で追っても、自分の名前の日付け印を見ても……何も思い出せなかった」
翼
(室長……)
穂積
「お前たちは気を遣って、新しい関係を築こうとしてくれている。
それは分かるし、建設的だと思う。
だが……俺は、思い出したい。
お前たちと過ごしてきた時間の事を、知りたいんだ」
12/05(Wed) 10:28
イイハナシダッタノニナー
小春
穂積は、正座した膝の上で拳を握っている。
穂積
「明智が俺のボタンを難なく付け直し、スコーンまで焼いてきてくれるのは何故だ?
藤守が初対面の時、泣きながら俺に抱きついて来てくれたのは、何故だ?
小笠原が、俺が仕事をひとつ覚えるたび『偉い偉い』って頭を撫でてくれるのはどうしてだ?
如月がしょっちゅう俺を外回りに誘ってくれるのは、有難いけれど何か理由があるのか?
櫻井は……何で、俺を見るたび悲しそうな顔をするんだ?」
そう言う穂積の方こそ、悲しそうな顔をしている。
穂積
「俺は、お前のそんな顔は見たくない。どうすれば、笑ってくれる?」
翼
「室長……」
胸が詰まって、誰も、声を出せない。
しん、と会場が静まり返った。
こういうとき、必ず貧乏くじを引かされてしまう男がいる。
捜査室メンバーはもちろん、藤守アニやジュンにまで視線で圧力をかけられて、警察チーム最年長である小野瀬は溜め息をついた。
小野瀬
「あー……穂積……」
小野瀬に呼び掛けられて、穂積は、翼を見つめていた視線を小野瀬に向けた。
穂積
「小野瀬、お前も不思議だ。俺と親友だったと言ってくれたが、どうやって親しくなったんだ?絶対、合わないタイプだと思うのに」
小野瀬
「え?……えーと……話してもいいけど、長くなるよ?」
穂積
「は?」
明智
「知らない方が幸せなのでは」
穂積
「え?」
こんなところで、パースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/05(Wed) 12:53
室長がかわいそう
ジュン
小野瀬
「えーっとそれで穂積から俺にキスをしたんだ。その一件以来お前はオカマキャラで通ってる・・・」
小野瀬は穂積に例の一件を説明した。
穂積は瞬きもせずに小野瀬を見つめていた。固まっている。
明智
「あ、あの室長?」
おずおずと明智が穂積に声をかける。その声でようやく穂積も我にかえったようだった。
穂積
「俺が男にキス?オカマ・・・」
ショックが大きすぎてまだ思考がついてこないようだ。
小野瀬
「ごめん、穂積。」
沈黙が再び場を支配する。その雰囲気を何とかしようとアニが口を開いた。
アニ
「心配するな穂積。お前のオカマキャラは完璧だ!」
アニはフォローのつもりだったのだろうが穂積はますます頭を抱えた。
アニの両側で藤守とジュンが肘で突っ込みをいれる。「フォローになってへんわ!」「何を言ってるんですか!」「いや、この空気をどうにかしようとしてだな」3人が小声でやりあっていると今度は如月が口を開いた。
如月
「だ、大丈夫ですよ!室長はオカマでも立派な暴君でしたから。何せ桜田門の悪魔ですからね!」
すかさず如月の頭を小笠原が叩く。
穂積
「桜田門の悪魔・・・」
自分がオカマで桜田門の悪魔と呼ばれるほどの暴君・・・今の穂積には簡単には受け入れられない。
しかし、穂積の頭にはある可能性が浮かんだ。
穂積
「櫻井。お前がいつも悲しそうな顔をしているのは俺のことが怖いからなのか?」
翼
「違います!私は暴君でも悪魔でも本当は優しい室長を知っています!」
翼の言葉に穂積は寂しそうに笑って
穂積
「暴君で悪魔なのは否定しないんだな・・・」
滅茶苦茶言われちゃった室長。かなりかわいそう(^_^;)
そんな室長を慰めるような続きをよろしくです。ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇
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12/06(Thu) 07:00
フォロー出来なかった……
小春
宴会終了後。
翼が靴を履いていると、先に店を出たはずの小野瀬が、弱り果てた顔で戻ってきた。
小野瀬
「困っちゃったよ、櫻井さん。穂積が、俺と口を利いてくれない」
翼
「……分かる気はしますけど」
穂積にしてみれば、ついさっき、「自分から小野瀬にキスした」と聞かされたばかりだ。
小野瀬
「俺になついてくれてた穂積は可愛かったのに。いやそれも惜しいんだけど、それより、俺が穂積を送っていって泊まって様子を観察する予定が不可能になってしまったよ」
翼
「困りましたね……」
小野瀬
「代わりに適任なのは明智くんだけど、彼はお姉さんたちと同居していて、さらに穂積の面倒までみてくれとは頼めない」
翼
「ですよね。でも、私もまだ、室長のところにお泊まり出来るほどの仲ではないですし……」
小野瀬
「もちろん、他のメンバーもだよ。そこで、なんだけどね」
小野瀬は、意外な事を言い出した。
小野瀬
「申し訳無いんだけど、きみのご実家にお願いできないかな?」
翼
「えっ?!」
と、驚いてはみたものの。
翼
「……いいかもしれない」
翼も、どうして小野瀬がそんな事を言い出したのか、すぐに納得した。
***
翼と穂積はタクシーで、翼の実家へ向かっていた。
後部座席に穂積とふたりで並んで座ると翼は少しそわそわしたが、穂積の方は、翼より、これから向かう場所の方が気になっているようだ。
穂積
「……なあ、櫻井、本当に、櫻井判事に会えるのか?いや、判事は俺に会ってくれるのか?」
翼とは違う理由でそわそわしながら、穂積が尋ねてくる。
翼
「大丈夫です。今回の室長の事情は父も知っていますし、さっきの居酒屋から電話もしてあります。歓迎してくれるはずです」
穂積
「歓迎はされないと思うんだがなあ……」
穂積はなかなか納得しない。
それもそうだろう。
現在、翼の父は穂積と翼の婚約を(既成事実と穂積の強引さで押し切られた形ではあるが)渋々ながら認めてくれている。
穂積と翼は(一応)両親公認の仲であり、だからこそ、小野瀬も櫻井家を頼れないかと言い出したのだが。
しかし、今、ここにいる穂積はそんな事は知らない穂積だ。
鹿児島時代からの反省と後悔に苛まれつつ、紅葉の盆栽を抱えたままの穂積なのだ。
緊張した面持ちで溜め息を繰り返す穂積に、翼は「大丈夫ですよ」としか言えない。
両親には電話で事情を話し、これから毎日、穂積を泊めて面倒を見て欲しい、もちろん翼も泊まって手伝うから、と伝えてはあるけれど。
心の中で(お父さんお願い)と手を合わせる事しか出来ない。
さっき居酒屋でさんざんな目に遭った穂積の傷口に塩を塗り込むような親ではないと、信じてはいるけれど信じきるだけの自信もない。
はあ、と、翼は、穂積と一緒に溜め息をついた。
***
※御都合主義インフォメーション……公式設定では二人が婚約を報告に行った時点で、盆栽は判事に返されていますが、このリレーでは話の展開の都合で、まだ室長の手元にあります。
が、例の「でも、もう、俺たちそういう仲なので」の「結婚しますよ宣言」は経過しているとご理解の上でお進みください。m(_ _)m
櫻井家での同居生活は始まるのか?
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/07(Fri) 08:35
櫻井家にて
小春
翼
「ただいま」
タクシーを降りた翼は、実家ならではの遠慮の無さで玄関の戸を開けた。
深夜と言うほどではないが、時刻は午後9時を過ぎている。
それでも、翼の母親は、きちんと普段着を着て翼を出迎えてくれた。
櫻井母
「お帰りなさい」
翼
「お母さん、急にごめんね」
櫻井母
「いいのよ。穂積さんは?」
そこへ、タクシーの支払いを済ませていた穂積が、翼から少し遅れて玄関に姿を現した。
穂積
「夜分に申し訳ありません」
穂積は翼の母に気付くと、深々と頭を下げた。
穂積
「初めまして、穂積と申します」
初めまして、ではないのだが。
櫻井母
「翼の母でございます」
記憶の曖昧な穂積を刺激しないよう、翼の母もまた、穂積に合わせて、丁寧に頭を下げた。
櫻井母
「さあ、どうぞ」
穂積
「あの、判事……櫻井さんは」
櫻井母
「居間におります。さあ、ご遠慮なく」
翼
「室長、どうぞ」
二人に促されて、穂積は、ようやく櫻井家の敷居を跨いだ。
翼が居間の襖を開けると、座卓の向こうに、翼の父が座っていた。
その姿を目にした途端、穂積はまだ廊下にいながら急いで膝をつき、両手を揃えて頭を下げた。
穂積
「穂積泪です」
穂積はそのまま頭を上げない。
翼も驚いたが、さすがの櫻井父もこの行動には面食らったようで、自分に向かって頭を下げている穂積と、その傍らにある、穂積がここに来る前に警視庁に寄って持ってきた、紅葉の盆栽とを見比べている。
穂積
「ご無沙汰してしまい、申し訳ありませんでした」
櫻井父
「……とりあえず、顔を上げなさい」
翼の父に促されて、穂積はゆっくりと、というよりはおずおずと、頭を上げた。
穂積
「盆栽をお返しします」
そう言って、大事そうに盆栽を自分の前に出す。
穂積
「本当に、申し訳ありませんでした」
櫻井父
「……うむ」
差し出された盆栽を、翼の母が気を遣って座卓の上まで運ぶ。
それを眺めて、翼の父は、ううむ、と、もう一度、唸った。
櫻井父
「……間違いなく『翼』だ。だが……」
神妙に正座している穂積が、びくりと震えた。
櫻井父
「……立派に育てられている。……もう、わたしの手は必要ないようだな」
誰に聞かせるでもなく呟いた後、翼の父は改めて、穂積を見つめた。
櫻井父
「『翼』の成長に免じて、これを持ち去った罪は許してやろう」
穂積
「……ありがとうございます」
翼の父のひとことで、穂積が、長い間背負っていた肩の荷を下ろし、心から安堵したのが誰の目にも分かった。
穂積
「ありがとうございます!」
再び深々と、穂積が頭を下げた。
櫻井父
「……それにしても、記憶喪失とはな。不便だろう」
翼の母が入れてくれたお茶を啜りながら、翼の父は穂積を慮った。
穂積
「はい。皆さんに助けられて、どうにかやっています」
櫻井父
「困った時はお互いさまだ。お前の事は、落ち着くまで我が家で面倒をみよう」
穂積
「重ね重ね、ありがとうございます」
櫻井父
「……翼の事はどうなんだ」
穂積
「はい?」
翼はひやりとした。
自分と穂積が特別な関係だった事は、今回の事故を機に病院と捜査室には知られてしまったが、当の穂積には、まだ、何も知らせていないのだ。
翼
「お、お父さん。その話はまだ」
櫻井父
「まだ?何故話さん。お前、こいつと別れる気か」
翼
「お父さん!」
櫻井父
「穂積、わたしの娘を汚しておいて、忘れたでは済まさんぞ」
穂積
「汚した?」
翼
「お父さんってば、やめて!」
思いがけないタイミングでの父からの暴露。
翼
「泪さんは覚えてないんだから!」
翼は半泣きだ。
翼
「私は、時間がかかってもいいんだから……!」
穂積
「……そうだったのか」
父親に向かって、さらに言い募ろうとした翼を止めたのは、穂積の呟きだった。
翼
「……え?」
思わず穂積を振り向いた翼を、穂積が、真っ直ぐに見つめていた。
穂積
「だから、お前は、いつも悲しそうな顔をしていたのか」
ようやく合点がいった、という表情の穂積が、自分を見つめている。
穂積
「櫻井、すまない。……肝心な所は覚えていない。だが……汚したつもりはない」
穂積の言葉の後半は、翼ではなく、翼の父に向けられていた。
穂積
「人も、盆栽も、同じだ。俺は、責任を伴うものには愛情を持って接する」
翼
「泪さん……」
穂積
「辛い思いをさせたな」
翼の目から涙が溢れる。
まだ、『泪さん』には戻っていない。
でも、やっぱり、この人は、あの人と同じ人なのだ。
櫻井父
「母さん、穂積の布団はわたしの隣に敷きなさい」
翼
「え?」
唐突な父の言葉に、穂積に抱きつきそうになっていた翼の動きが止まる。
櫻井父
「それでいいな!穂積!」
穂積
「はい。もちろん喜んで」
櫻井父
「翼は母さんと寝るんだぞ!」
布団を敷く支度に動き始めた翼の母を手伝う為に、穂積も立ち上がる。
当然翼も。
押し入れと部屋を往き来する合間に、ふと、穂積と目が合った。
穂積が微笑む。
今までには無かった事だ。
翼も、父の目を盗んで笑顔を返す。
しばらく笑っていなかったから、少し、ぎこちなかったかもしれないけれど。
***
ようやく恋の予感?
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/12(Wed) 07:53
どうする翼
小春
翌日から、穂積は一変した。
記憶が戻らないのはそのままなのだが、捜査室のメンバーに対する態度は、豹変したと言ってよかった。
穂積の言い分はこうだ。
穂積
「だって、俺は悪魔で暴君だったんだろう?」
穂積いわく、自分は中学生の時にはもう錦江湾の悪魔と呼ばれ、高校では生徒会の肩書きを武器に、購買で人気の焼きそばパンを優先的に買える権利を制度化するほどの暴君だった。
記憶を失ったせいで、社会人になってからの自分の行動や生活態度がどうだったか、思い出せなかったからおとなしくしていたのだという。
しかし、昨日の宴会で分かった。
如月が教えてくれたじゃないか。
俺は悪魔で暴君だったと。
それなら遠慮はいらないはずだ、と。
如月
「しまった失敗した……温厚で物静かで優しくて、金欠の時にはお小遣いをくれる上司だったと言っておけば良かった……」
藤守
「泣くな如月手遅れや。あの可憐な室長はもうおらんのや」
小笠原
「可愛かったのに」
明智
「諦めて現実を見ろ」
穂積
「そうだ諦めろ」
穂積は大きく頷いて、4人の頭を順番に、丸めた新聞でぽんぽんぽんぽんと叩いた。
叩かれた方は痛い痛いと大袈裟に騒いでいたが、どこか嬉しそうでもあった。
こうして、一見、記憶を失う前と同じに振る舞うようになった穂積だったが、何もかも元通りに戻ったかといえば、実際にはそうはいかなかった。
少なくとも翼にとっては。
穂積は、翼と結ばれ、婚約までしていた仲だったと翼の父に告げられて知ってからも、急に馴れ馴れしくしてはこなかった。
むしろ、知った上で何のアプローチもしてこないのだから、翼にしてみれば寂しいような恨めしいような。
翼
(本当に、公私混同しない人だったんだな……)
翼
「はあ……」
終業時刻を迎え、翼は、一足先に警視庁を出た。
穂積は、明智か小野瀬が車で翼の家の近所まで送ってきてくれる事になっている。
それまでに家に帰り、穂積を迎える支度を整えておくのが翼の仕事だ。
もっとも、帰宅してみれば、真面目な専業主婦である実家の母が風呂も食事も抜かりなく準備してくれていて、手伝うどころか、実際、翼がするべき事は何もなかったが。
考えてみれば、あの口うるさい父親を何十年も支えてきたのだから、気配りが行き届いているのは当然かもしれない……。
12/12(Wed) 07:57
どうする穂積
小春
母
「電話して、穂積さんとは近くの喫茶店で待ち合わせしたらどう?
家ではお父さんが気になって、二人で話すことも難しいでしょう?」
翼の気持ちなどお見通しの母からの提案は、沈みかけていた翼を力付けた。
翼
「ありがとう、そうしてみる!」
翼はすぐに小野瀬に電話をかけた。
用件を伝えると、小野瀬も賛成してくれた。
小野瀬
『名案だね。そうしよう。だって、きみと穂積はまだ、出会ったばかりなんだから』
電話を切ってから、翼は急にドキドキしてきた。
『きみと穂積はまだ、出会ったばかりなんだから』
翼
(これって初デート、だよね……)
頭の中のどこかから「違う」とツッコミが入るけど、違わない。
穂積が記憶を失ってから、二人きりで会うのは初めてだし。
お互いに好意があったと穂積が知ってから、二人だけで話をする機会もなかった。
だから、これは。
翼
(わああ、私から誘っちゃった!)
どうしようどうしようと思いながらも化粧を直し、母に送り出されて、指定した喫茶店に向かうしかない。
そして喫茶店に着けば、間もなく、仕事を終えた穂積がやって来た。
穂積の来店に気付いた数人の女性客が彼の美貌に驚いたり囁きあうのを見て、翼は不意に不安になり、胸を張るどころか俯いてしまった。
今までは、穂積に愛されている自信があった。
でも、今の自分にそれはない。
そのせいで、こんなにも不安な気持ちになるなんて……
穂積
「待たせてすまない」
そんな、他人行儀な事を言わないで。
(あー腹減った。アホアホコンビの報告書がちっとも完成しなくてな)
穂積
「迎えに来てくれてありがとう」
(何か食うか?俺はお前を食いたいが、その前に腹ごしらえだ)
穂積
「櫻井?」
翼
「……泪さん」
顔を上げたら、涙がこぼれた。
翼
「泪さんに、抱かれたい。抱いて欲しい」
こんなところで、パースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/13(Thu) 13:43
恋してみよう
ジュン
穂積
「櫻井・・・」
俯いてしまった翼の隣に穂積は席を移す。そしてぎこちなく翼をそっと抱き締めた。
翼
「るいさ・・・」
穂積
「すまない。今の俺にはお前を抱くことは出来ない。」
わかっていた。まだ知り合ったばかりの状態の私たち。泪さんがいい加減な気持ちで女性を抱いたりしないこと。そんなことは頭ではわかっていたのに。不安でどうしようもなくて「抱いて欲しい」だなんて言ってしまった。
翼
「私の方こそすみません。室長。」
翼は涙を堪えて顔を上げ穂積を見つめた。困った顔の穂積が翼の目に写る。困らせてしまった後悔が沸き上がる。
穂積
「櫻井、そんな顔をしないでくれ。」
穂積は翼を抱き締めている腕に力を込めた。
穂積
「お前にそんな顔をされるとどうしていいかわからなくなる。」
(ああ、やっぱり泪さんは優しいな)
穂積
「櫻井。」
穂積は体を少し離し翼の顔を覗き込んだ。
穂積
「俺と恋をしてみないか?」
・・・・・・
翌日。
穂積
「藤守。第三会議室へ。」
藤守
「は、はい!」
小笠原
「藤守さん、何かしたの?」
第三会議室とは小さな部屋で、以前の室長が個人的に指導が必要なときに使っていた部屋だ。所謂、お説教部屋。
藤守
「いや、覚えがないんやけど。」
如月
「また書類貯めてるからじゃないですか~?」
藤守
「それはお前もやろ!」
第三会議室。
藤守
「失礼します。」
おずおずと室内に入った藤守は穂積と向かい合う形で座らされた。
穂積
「藤守、お前は藤守検察官の所のジュンと付き合っているらしいな?」
てっきり仕事の話だと思っていた藤守はキョトンとした顔をしている。
藤守
「えっ?は、はい。まだ半年くらいですけど・・・」
(もしかして検察の人間と付き合うのはアカンのか?いや、前まではそんなん言うてなかったし・・・)
1人内心オドオドとしている藤守に穂積は質問を続けた。
穂積
「体の関係はあるのか?」
藤守
「・・・」
穂積
「・・・」
藤守
「なっ!なんですか!?セクハラですか!?」
顔を真っ赤にして藤守は動揺を隠せない。
穂積
「いや、すまん。そういうことじゃなくてだ。」
穂積いわく翼と一から交際をし直そうと考えたが今までの自分の恋愛観を押し付けていいのか悩んでしまった。それで翼と年齢の近い藤守の意見を聞こうと思ったのだと言う。確かにジュンは翼と同じ年だし、仲もいい。藤守とジュンがテーマパークに行った話を翼が羨ましそうに聞いていたとジュンが言っていたこともある。
藤守
「そういうことなら任せてください!櫻井が喜ぶデートプランを練りますわ!」
穂積
「ありがとう藤守。俺の方でももう少し考えてみる。」
さてさてどんなデートになりますやら(笑)
ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇
続けます
小春
捜査室。
翼と穂積の関係について明智から説明を受けた如月と小笠原は、驚きと戸惑い、そして、一抹の寂しさを隠しきれない。
如月
「室長の口から聞きたかったなあ……」
明智
「もちろん、室長だってそうしたかっただろうさ」
小笠原
「あの人、櫻井さんのお父さんに嫌われてるらしいから。実はまだ、正式な婚約はしていないのかも」
明智
「その可能性はあるな」
如月
「そうかなあ。たとえそうだとしても、交際してることまで内緒にしなくてもいいじゃないですか」
明智
「俺たちと櫻井なら、交際していたとしても、単なる職場恋愛で済むが。室長の場合、上司と部下だからな。軽率に発表できなかったとしても無理はない」
納得したのかしないのか、うーん、と唸る如月と、静かに何か考えている小笠原を見ながら、明智は腕組みをした。
明智
「櫻井の気持ちも考えてやれ」
如月
「そっか。落ち込んでる翼ちゃんを励ましてあげて、いい先輩だなと思わせて好きになってもらうのが、恋愛のセオリーですよね!」
明智
「そんな事は言っていない!」
明智はため息をついた。
明智
「これからの事を考えよう。室長の怪我は、記憶を失っている以外は軽傷だ。おそらく、近々退院して、この捜査室に戻って来る。もちろん、室長としてだが、中身は、新卒の警察官だ」
如月
「あっ、そうか!じゃあ、俺が室長の教育係ですか?うわー、緊張するけどワクワクするな!」
明智
「いや、教育係は小笠原に任せよう」
如月
「えー?」
小笠原
「俺?」
明智
「とりあえず、内勤で俺たちの後方支援をしてもらうつもりだ。となると、適任は小笠原だろう」
如月
「小笠原さん、俺に譲ってくださいよ!室長を後輩みたいに連れて歩きたいんです!」
小笠原
「やだね。そういう事なら、この機会に、いつも室長が面倒臭がって俺任せにする仕事をやってもらうんだ」
明智
「室長は記憶喪失だが、年齢も階級も上だ。くれぐれも、失礼な事を考えるんじゃないぞ」
小笠原・如月
「はーい」
明智は深々とため息をついた……
翼ちゃんを取り合うはずが、室長の取り合いになってしまった(笑)
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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11/29(Thu) 21:07
いよいよ退院
小春
数日後。
記憶は戻らないまま、穂積の退院が決まった。
退院の手続きや支払い、また、警視庁に復帰するにあたっての段取りは、小野瀬と明智が手分けして整えた。
もちろん、退院後のケアについては轟婦長が胸を叩いて請け負ってくれ、とりあえずは、経過報告を兼ねて、穂積は毎日、終業後に警察病院に顔を出し、治療を続ける事も決まった。
退院の前日、翼は、小野瀬と二人で、穂積の自宅のあるマンションを訪れていた。
翼の合鍵で入った部屋は、この数日の間にきれいに掃除され、主の帰りを待っている。
翼
「覚えているのは、上京してからここに住んでいたという事だけ……なんですもんね」
小野瀬
「そうだね。しばらくは落ち着かないだろうな」
翼としては、穂積の生活を補助してあげたい気持ちはもちろんある。
けれど、今の穂積は、翼と結婚の約束までしたあの穂積ではない。
単なる職場の上司と部下であって、それ以上ではないのだ。
小野瀬
「当分の間は、俺が、病院から穂積をここまで送り届けた後、そのまま泊まるよ。記憶の無い穂積を一人にするのは、危険だからね」
翼
「はい。お願いします」
翼は唇を噛んで、小野瀬に頭を下げた。
小野瀬
「早く、きみにその役目をバトンタッチ出来ればいいんだけど」
どうやら小野瀬には、翼の寂しさなどお見通しらしい。
小野瀬
「辛いだろうけど、しばらくは我慢して」
翼
「はい」
翼が笑顔を作って顔をあげると、小野瀬は優しく、翼の肩を撫でてくれた。
小野瀬
「寂しくてたまらない時は、いつでも俺にすがってくれていいからね?」
翼
「小野瀬さんたら」
いつもの軽口だと思った翼は笑って受け流したけれど、小野瀬の方はちょっぴり残念そうだ。
翼は気付かなかったようだけれど。
小野瀬
「さあ、明日からは忙しくなるよ」
捜査室への復帰、自宅での生活、治療、学習。
それに、翼にとっては、轟婦長の存在も気になる。
翼
(室長……本当に、私の事を思い出してくれるかな……好きに、なってくれるかな……)
捜査室の室長机の上には、穂積が、小学生の頃に翼の父の元から持ち去ったまま十数年育てている紅葉の盆栽がある。
翼の父がその紅葉に娘の名前を付けて呼んでいたおかげで、穂積が翼の名前を覚えていた盆栽だ。
翼
(室長……)
今でも翼が思い出すのは、記憶を失う前の穂積の笑顔と、大きな手の温もり。
翼
(早く……『泪さん』に会いたいな……)
小野瀬とともに部屋を後にしながら、翼は思う。
『泪さん』に戻った穂積と、誕生日を一緒に祝いたい、と。
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11/30(Fri) 12:56
室長、復帰!
ジュン
退院の翌朝、穂積は小野瀬の案内で捜査室に足を踏み入れた。
小野瀬
「奥のデスクがお前のだよ。」
小野瀬に促されて穂積は自分のデスクにそっと触れた。
捜査室が一望できるその場所。穂積はくるりと辺りを見回した。
メンバーのデスクは各々の雰囲気を醸し出している。
小野瀬や小笠原がいつも寝ているソファーは穂積のこだわりの品だ。
ラックにはこれまで捜査室で扱った事件のファイルが時系列順に並んでいる。
穂積
「いい部屋だな。」
小野瀬
「お前が捜査室の皆と作ってきたんだよ。」
小野瀬の言葉に穂積は少し寂しそうに微笑んだ。
バタン!
藤守
「おはようございます!」
如月
「室長、退院おめでとうございます!」
今日から穂積が復帰すると聞いていたメンバーが順番を競うように捜査室に飛び込んでくる。
どうやら来る途中で全員が揃ってしまい我先にと走り出したのだとか。
一番最後に来たのは翼と小笠原。
翼は皆の速度に敵うわけがなく置いていかれ、小笠原は走って行く藤守と如月を呆れた目で見ていたようだ。
翼と明智がコーヒーを淹れてミーティングテーブルへ。
穂積
「何もわからない状態だが精一杯努力する。みんな、よろしく頼む。」
穂積がメンバーに向かって勢いよく頭を下げた。
「はい!」
さあ、室長、復帰でこれからどうなる?
ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇
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11/30(Fri) 15:05
室長ダメダメ(笑)
小春
穂積
「……っ」
頭を上げた次の瞬間、小さくよろめいた穂積を小野瀬が支えた。
小野瀬
「こら、急に頭を動かすなと何度も言っただろ?」
口では叱ったものの、小野瀬が穂積の肩を支える手は優しい。
穂積
「すまない」
穂積がしゅんとしながら小野瀬に詫びる様子を、他のメンバーは珍しそうに見ている。
小笠原
「(小声)室長、別人みたいにしおらしいね」
如月
「(小声)なんかキュンとしちゃいますよ」
その穂積は、今度は明智に促されて、室長席の椅子に腰を下ろした。
ひどく居心地が悪そうな中、机の上の紅葉の盆栽に気付いて、ふと、目を細めた仕草に翼の胸が痛くなる。
明智
「当面、室長には、内勤に専念していただきます。署内の会議には自分が同行しますし、重要な対外的業務は刑事部長が補佐してくださるそうですので」
穂積
「分かった」
明智
「それ以外の事は、小野瀬さんと小笠原に聞いていただければなんとかなります」
穂積
「分かった」
小野瀬
「(小声)まあ、元々が優秀な奴だからね。記憶障害も、新しく覚える事に関しては問題ないそうだし。じきに、本来の働きが出来るようになるさ」
藤守
「そうですよね」
業務日誌やこれまでの報告書の場所などを確認しあっている明智と穂積を眺めながら、小野瀬が藤守と頷き合っている。
自分に出来る事が思い付かない翼は、黙って立ち尽くすしかなかった。
終業後。
藤守や如月が穂積に寄ってきた。
藤守
「室長、とりあえず退院祝いしましょ」
穂積
「ありがとう。だが、まだ、酒は止められているんだが」
如月
「飲まないのは小野瀬さんもですし」
藤守と如月は「とりあえずとりあえず」などと言いながら音頭をとり、小野瀬、轟婦長、そして藤守アニやジュンも誘って、穂
積の退院祝いの宴会を開く事になった。
場所はいつもの居酒屋だ。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/05(Wed) 10:25
居酒屋にて
小春
結論から言うと、宴会は全く盛り上がらなかった。
穂積は借りてきた猫のようだし、他のメンバーはそんな穂積と何を話せばいいのか分からない。
唯一、乾杯の後で「誘ってもらえて嬉しいよ」と豪快に笑った轟婦長が、病院あるあるの面白いエピソードをいくつか披露してくれ、その間だけは一同も心置きなく笑っていられたのだが……
婦長は20分ほど場を暖めると、「珍客も長居すると嫌われるからね」と笑いながら、病院の仕事に帰って行ってしまった。
さっきまでが面白かっただけに、婦長の抜けた大きな穴を埋められる芸達者はおらず……。
幹事の藤守と如月は、小声で「やっばりまだ早かったんや」「何とかしてくださいよ」「無茶言うなや」などと小突き合っている。
そんな気まずい空気を破ったのは、上座に座らされていた穂積の、よく通る声だった。
穂積
「その……よければ、この捜査室の話を聞かせてくれないか」
実は、と前置きして、穂積は、今日までに、穂積自身が書き残し続けてきた、特命捜査準備室時代からの日報や日誌を、全部読み返してきたのだと明かした。
穂積
「だが……自分が書いたはずの文字を目で追っても、自分の名前の日付け印を見ても……何も思い出せなかった」
翼
(室長……)
穂積
「お前たちは気を遣って、新しい関係を築こうとしてくれている。
それは分かるし、建設的だと思う。
だが……俺は、思い出したい。
お前たちと過ごしてきた時間の事を、知りたいんだ」
12/05(Wed) 10:28
イイハナシダッタノニナー
小春
穂積は、正座した膝の上で拳を握っている。
穂積
「明智が俺のボタンを難なく付け直し、スコーンまで焼いてきてくれるのは何故だ?
藤守が初対面の時、泣きながら俺に抱きついて来てくれたのは、何故だ?
小笠原が、俺が仕事をひとつ覚えるたび『偉い偉い』って頭を撫でてくれるのはどうしてだ?
如月がしょっちゅう俺を外回りに誘ってくれるのは、有難いけれど何か理由があるのか?
櫻井は……何で、俺を見るたび悲しそうな顔をするんだ?」
そう言う穂積の方こそ、悲しそうな顔をしている。
穂積
「俺は、お前のそんな顔は見たくない。どうすれば、笑ってくれる?」
翼
「室長……」
胸が詰まって、誰も、声を出せない。
しん、と会場が静まり返った。
こういうとき、必ず貧乏くじを引かされてしまう男がいる。
捜査室メンバーはもちろん、藤守アニやジュンにまで視線で圧力をかけられて、警察チーム最年長である小野瀬は溜め息をついた。
小野瀬
「あー……穂積……」
小野瀬に呼び掛けられて、穂積は、翼を見つめていた視線を小野瀬に向けた。
穂積
「小野瀬、お前も不思議だ。俺と親友だったと言ってくれたが、どうやって親しくなったんだ?絶対、合わないタイプだと思うのに」
小野瀬
「え?……えーと……話してもいいけど、長くなるよ?」
穂積
「は?」
明智
「知らない方が幸せなのでは」
穂積
「え?」
こんなところで、パースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/05(Wed) 12:53
室長がかわいそう
ジュン
小野瀬
「えーっとそれで穂積から俺にキスをしたんだ。その一件以来お前はオカマキャラで通ってる・・・」
小野瀬は穂積に例の一件を説明した。
穂積は瞬きもせずに小野瀬を見つめていた。固まっている。
明智
「あ、あの室長?」
おずおずと明智が穂積に声をかける。その声でようやく穂積も我にかえったようだった。
穂積
「俺が男にキス?オカマ・・・」
ショックが大きすぎてまだ思考がついてこないようだ。
小野瀬
「ごめん、穂積。」
沈黙が再び場を支配する。その雰囲気を何とかしようとアニが口を開いた。
アニ
「心配するな穂積。お前のオカマキャラは完璧だ!」
アニはフォローのつもりだったのだろうが穂積はますます頭を抱えた。
アニの両側で藤守とジュンが肘で突っ込みをいれる。「フォローになってへんわ!」「何を言ってるんですか!」「いや、この空気をどうにかしようとしてだな」3人が小声でやりあっていると今度は如月が口を開いた。
如月
「だ、大丈夫ですよ!室長はオカマでも立派な暴君でしたから。何せ桜田門の悪魔ですからね!」
すかさず如月の頭を小笠原が叩く。
穂積
「桜田門の悪魔・・・」
自分がオカマで桜田門の悪魔と呼ばれるほどの暴君・・・今の穂積には簡単には受け入れられない。
しかし、穂積の頭にはある可能性が浮かんだ。
穂積
「櫻井。お前がいつも悲しそうな顔をしているのは俺のことが怖いからなのか?」
翼
「違います!私は暴君でも悪魔でも本当は優しい室長を知っています!」
翼の言葉に穂積は寂しそうに笑って
穂積
「暴君で悪魔なのは否定しないんだな・・・」
滅茶苦茶言われちゃった室長。かなりかわいそう(^_^;)
そんな室長を慰めるような続きをよろしくです。ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇
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12/06(Thu) 07:00
フォロー出来なかった……
小春
宴会終了後。
翼が靴を履いていると、先に店を出たはずの小野瀬が、弱り果てた顔で戻ってきた。
小野瀬
「困っちゃったよ、櫻井さん。穂積が、俺と口を利いてくれない」
翼
「……分かる気はしますけど」
穂積にしてみれば、ついさっき、「自分から小野瀬にキスした」と聞かされたばかりだ。
小野瀬
「俺になついてくれてた穂積は可愛かったのに。いやそれも惜しいんだけど、それより、俺が穂積を送っていって泊まって様子を観察する予定が不可能になってしまったよ」
翼
「困りましたね……」
小野瀬
「代わりに適任なのは明智くんだけど、彼はお姉さんたちと同居していて、さらに穂積の面倒までみてくれとは頼めない」
翼
「ですよね。でも、私もまだ、室長のところにお泊まり出来るほどの仲ではないですし……」
小野瀬
「もちろん、他のメンバーもだよ。そこで、なんだけどね」
小野瀬は、意外な事を言い出した。
小野瀬
「申し訳無いんだけど、きみのご実家にお願いできないかな?」
翼
「えっ?!」
と、驚いてはみたものの。
翼
「……いいかもしれない」
翼も、どうして小野瀬がそんな事を言い出したのか、すぐに納得した。
***
翼と穂積はタクシーで、翼の実家へ向かっていた。
後部座席に穂積とふたりで並んで座ると翼は少しそわそわしたが、穂積の方は、翼より、これから向かう場所の方が気になっているようだ。
穂積
「……なあ、櫻井、本当に、櫻井判事に会えるのか?いや、判事は俺に会ってくれるのか?」
翼とは違う理由でそわそわしながら、穂積が尋ねてくる。
翼
「大丈夫です。今回の室長の事情は父も知っていますし、さっきの居酒屋から電話もしてあります。歓迎してくれるはずです」
穂積
「歓迎はされないと思うんだがなあ……」
穂積はなかなか納得しない。
それもそうだろう。
現在、翼の父は穂積と翼の婚約を(既成事実と穂積の強引さで押し切られた形ではあるが)渋々ながら認めてくれている。
穂積と翼は(一応)両親公認の仲であり、だからこそ、小野瀬も櫻井家を頼れないかと言い出したのだが。
しかし、今、ここにいる穂積はそんな事は知らない穂積だ。
鹿児島時代からの反省と後悔に苛まれつつ、紅葉の盆栽を抱えたままの穂積なのだ。
緊張した面持ちで溜め息を繰り返す穂積に、翼は「大丈夫ですよ」としか言えない。
両親には電話で事情を話し、これから毎日、穂積を泊めて面倒を見て欲しい、もちろん翼も泊まって手伝うから、と伝えてはあるけれど。
心の中で(お父さんお願い)と手を合わせる事しか出来ない。
さっき居酒屋でさんざんな目に遭った穂積の傷口に塩を塗り込むような親ではないと、信じてはいるけれど信じきるだけの自信もない。
はあ、と、翼は、穂積と一緒に溜め息をついた。
***
※御都合主義インフォメーション……公式設定では二人が婚約を報告に行った時点で、盆栽は判事に返されていますが、このリレーでは話の展開の都合で、まだ室長の手元にあります。
が、例の「でも、もう、俺たちそういう仲なので」の「結婚しますよ宣言」は経過しているとご理解の上でお進みください。m(_ _)m
櫻井家での同居生活は始まるのか?
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/07(Fri) 08:35
櫻井家にて
小春
翼
「ただいま」
タクシーを降りた翼は、実家ならではの遠慮の無さで玄関の戸を開けた。
深夜と言うほどではないが、時刻は午後9時を過ぎている。
それでも、翼の母親は、きちんと普段着を着て翼を出迎えてくれた。
櫻井母
「お帰りなさい」
翼
「お母さん、急にごめんね」
櫻井母
「いいのよ。穂積さんは?」
そこへ、タクシーの支払いを済ませていた穂積が、翼から少し遅れて玄関に姿を現した。
穂積
「夜分に申し訳ありません」
穂積は翼の母に気付くと、深々と頭を下げた。
穂積
「初めまして、穂積と申します」
初めまして、ではないのだが。
櫻井母
「翼の母でございます」
記憶の曖昧な穂積を刺激しないよう、翼の母もまた、穂積に合わせて、丁寧に頭を下げた。
櫻井母
「さあ、どうぞ」
穂積
「あの、判事……櫻井さんは」
櫻井母
「居間におります。さあ、ご遠慮なく」
翼
「室長、どうぞ」
二人に促されて、穂積は、ようやく櫻井家の敷居を跨いだ。
翼が居間の襖を開けると、座卓の向こうに、翼の父が座っていた。
その姿を目にした途端、穂積はまだ廊下にいながら急いで膝をつき、両手を揃えて頭を下げた。
穂積
「穂積泪です」
穂積はそのまま頭を上げない。
翼も驚いたが、さすがの櫻井父もこの行動には面食らったようで、自分に向かって頭を下げている穂積と、その傍らにある、穂積がここに来る前に警視庁に寄って持ってきた、紅葉の盆栽とを見比べている。
穂積
「ご無沙汰してしまい、申し訳ありませんでした」
櫻井父
「……とりあえず、顔を上げなさい」
翼の父に促されて、穂積はゆっくりと、というよりはおずおずと、頭を上げた。
穂積
「盆栽をお返しします」
そう言って、大事そうに盆栽を自分の前に出す。
穂積
「本当に、申し訳ありませんでした」
櫻井父
「……うむ」
差し出された盆栽を、翼の母が気を遣って座卓の上まで運ぶ。
それを眺めて、翼の父は、ううむ、と、もう一度、唸った。
櫻井父
「……間違いなく『翼』だ。だが……」
神妙に正座している穂積が、びくりと震えた。
櫻井父
「……立派に育てられている。……もう、わたしの手は必要ないようだな」
誰に聞かせるでもなく呟いた後、翼の父は改めて、穂積を見つめた。
櫻井父
「『翼』の成長に免じて、これを持ち去った罪は許してやろう」
穂積
「……ありがとうございます」
翼の父のひとことで、穂積が、長い間背負っていた肩の荷を下ろし、心から安堵したのが誰の目にも分かった。
穂積
「ありがとうございます!」
再び深々と、穂積が頭を下げた。
櫻井父
「……それにしても、記憶喪失とはな。不便だろう」
翼の母が入れてくれたお茶を啜りながら、翼の父は穂積を慮った。
穂積
「はい。皆さんに助けられて、どうにかやっています」
櫻井父
「困った時はお互いさまだ。お前の事は、落ち着くまで我が家で面倒をみよう」
穂積
「重ね重ね、ありがとうございます」
櫻井父
「……翼の事はどうなんだ」
穂積
「はい?」
翼はひやりとした。
自分と穂積が特別な関係だった事は、今回の事故を機に病院と捜査室には知られてしまったが、当の穂積には、まだ、何も知らせていないのだ。
翼
「お、お父さん。その話はまだ」
櫻井父
「まだ?何故話さん。お前、こいつと別れる気か」
翼
「お父さん!」
櫻井父
「穂積、わたしの娘を汚しておいて、忘れたでは済まさんぞ」
穂積
「汚した?」
翼
「お父さんってば、やめて!」
思いがけないタイミングでの父からの暴露。
翼
「泪さんは覚えてないんだから!」
翼は半泣きだ。
翼
「私は、時間がかかってもいいんだから……!」
穂積
「……そうだったのか」
父親に向かって、さらに言い募ろうとした翼を止めたのは、穂積の呟きだった。
翼
「……え?」
思わず穂積を振り向いた翼を、穂積が、真っ直ぐに見つめていた。
穂積
「だから、お前は、いつも悲しそうな顔をしていたのか」
ようやく合点がいった、という表情の穂積が、自分を見つめている。
穂積
「櫻井、すまない。……肝心な所は覚えていない。だが……汚したつもりはない」
穂積の言葉の後半は、翼ではなく、翼の父に向けられていた。
穂積
「人も、盆栽も、同じだ。俺は、責任を伴うものには愛情を持って接する」
翼
「泪さん……」
穂積
「辛い思いをさせたな」
翼の目から涙が溢れる。
まだ、『泪さん』には戻っていない。
でも、やっぱり、この人は、あの人と同じ人なのだ。
櫻井父
「母さん、穂積の布団はわたしの隣に敷きなさい」
翼
「え?」
唐突な父の言葉に、穂積に抱きつきそうになっていた翼の動きが止まる。
櫻井父
「それでいいな!穂積!」
穂積
「はい。もちろん喜んで」
櫻井父
「翼は母さんと寝るんだぞ!」
布団を敷く支度に動き始めた翼の母を手伝う為に、穂積も立ち上がる。
当然翼も。
押し入れと部屋を往き来する合間に、ふと、穂積と目が合った。
穂積が微笑む。
今までには無かった事だ。
翼も、父の目を盗んで笑顔を返す。
しばらく笑っていなかったから、少し、ぎこちなかったかもしれないけれど。
***
ようやく恋の予感?
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/12(Wed) 07:53
どうする翼
小春
翌日から、穂積は一変した。
記憶が戻らないのはそのままなのだが、捜査室のメンバーに対する態度は、豹変したと言ってよかった。
穂積の言い分はこうだ。
穂積
「だって、俺は悪魔で暴君だったんだろう?」
穂積いわく、自分は中学生の時にはもう錦江湾の悪魔と呼ばれ、高校では生徒会の肩書きを武器に、購買で人気の焼きそばパンを優先的に買える権利を制度化するほどの暴君だった。
記憶を失ったせいで、社会人になってからの自分の行動や生活態度がどうだったか、思い出せなかったからおとなしくしていたのだという。
しかし、昨日の宴会で分かった。
如月が教えてくれたじゃないか。
俺は悪魔で暴君だったと。
それなら遠慮はいらないはずだ、と。
如月
「しまった失敗した……温厚で物静かで優しくて、金欠の時にはお小遣いをくれる上司だったと言っておけば良かった……」
藤守
「泣くな如月手遅れや。あの可憐な室長はもうおらんのや」
小笠原
「可愛かったのに」
明智
「諦めて現実を見ろ」
穂積
「そうだ諦めろ」
穂積は大きく頷いて、4人の頭を順番に、丸めた新聞でぽんぽんぽんぽんと叩いた。
叩かれた方は痛い痛いと大袈裟に騒いでいたが、どこか嬉しそうでもあった。
こうして、一見、記憶を失う前と同じに振る舞うようになった穂積だったが、何もかも元通りに戻ったかといえば、実際にはそうはいかなかった。
少なくとも翼にとっては。
穂積は、翼と結ばれ、婚約までしていた仲だったと翼の父に告げられて知ってからも、急に馴れ馴れしくしてはこなかった。
むしろ、知った上で何のアプローチもしてこないのだから、翼にしてみれば寂しいような恨めしいような。
翼
(本当に、公私混同しない人だったんだな……)
翼
「はあ……」
終業時刻を迎え、翼は、一足先に警視庁を出た。
穂積は、明智か小野瀬が車で翼の家の近所まで送ってきてくれる事になっている。
それまでに家に帰り、穂積を迎える支度を整えておくのが翼の仕事だ。
もっとも、帰宅してみれば、真面目な専業主婦である実家の母が風呂も食事も抜かりなく準備してくれていて、手伝うどころか、実際、翼がするべき事は何もなかったが。
考えてみれば、あの口うるさい父親を何十年も支えてきたのだから、気配りが行き届いているのは当然かもしれない……。
12/12(Wed) 07:57
どうする穂積
小春
母
「電話して、穂積さんとは近くの喫茶店で待ち合わせしたらどう?
家ではお父さんが気になって、二人で話すことも難しいでしょう?」
翼の気持ちなどお見通しの母からの提案は、沈みかけていた翼を力付けた。
翼
「ありがとう、そうしてみる!」
翼はすぐに小野瀬に電話をかけた。
用件を伝えると、小野瀬も賛成してくれた。
小野瀬
『名案だね。そうしよう。だって、きみと穂積はまだ、出会ったばかりなんだから』
電話を切ってから、翼は急にドキドキしてきた。
『きみと穂積はまだ、出会ったばかりなんだから』
翼
(これって初デート、だよね……)
頭の中のどこかから「違う」とツッコミが入るけど、違わない。
穂積が記憶を失ってから、二人きりで会うのは初めてだし。
お互いに好意があったと穂積が知ってから、二人だけで話をする機会もなかった。
だから、これは。
翼
(わああ、私から誘っちゃった!)
どうしようどうしようと思いながらも化粧を直し、母に送り出されて、指定した喫茶店に向かうしかない。
そして喫茶店に着けば、間もなく、仕事を終えた穂積がやって来た。
穂積の来店に気付いた数人の女性客が彼の美貌に驚いたり囁きあうのを見て、翼は不意に不安になり、胸を張るどころか俯いてしまった。
今までは、穂積に愛されている自信があった。
でも、今の自分にそれはない。
そのせいで、こんなにも不安な気持ちになるなんて……
穂積
「待たせてすまない」
そんな、他人行儀な事を言わないで。
(あー腹減った。アホアホコンビの報告書がちっとも完成しなくてな)
穂積
「迎えに来てくれてありがとう」
(何か食うか?俺はお前を食いたいが、その前に腹ごしらえだ)
穂積
「櫻井?」
翼
「……泪さん」
顔を上げたら、涙がこぼれた。
翼
「泪さんに、抱かれたい。抱いて欲しい」
こんなところで、パースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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12/13(Thu) 13:43
恋してみよう
ジュン
穂積
「櫻井・・・」
俯いてしまった翼の隣に穂積は席を移す。そしてぎこちなく翼をそっと抱き締めた。
翼
「るいさ・・・」
穂積
「すまない。今の俺にはお前を抱くことは出来ない。」
わかっていた。まだ知り合ったばかりの状態の私たち。泪さんがいい加減な気持ちで女性を抱いたりしないこと。そんなことは頭ではわかっていたのに。不安でどうしようもなくて「抱いて欲しい」だなんて言ってしまった。
翼
「私の方こそすみません。室長。」
翼は涙を堪えて顔を上げ穂積を見つめた。困った顔の穂積が翼の目に写る。困らせてしまった後悔が沸き上がる。
穂積
「櫻井、そんな顔をしないでくれ。」
穂積は翼を抱き締めている腕に力を込めた。
穂積
「お前にそんな顔をされるとどうしていいかわからなくなる。」
(ああ、やっぱり泪さんは優しいな)
穂積
「櫻井。」
穂積は体を少し離し翼の顔を覗き込んだ。
穂積
「俺と恋をしてみないか?」
・・・・・・
翌日。
穂積
「藤守。第三会議室へ。」
藤守
「は、はい!」
小笠原
「藤守さん、何かしたの?」
第三会議室とは小さな部屋で、以前の室長が個人的に指導が必要なときに使っていた部屋だ。所謂、お説教部屋。
藤守
「いや、覚えがないんやけど。」
如月
「また書類貯めてるからじゃないですか~?」
藤守
「それはお前もやろ!」
第三会議室。
藤守
「失礼します。」
おずおずと室内に入った藤守は穂積と向かい合う形で座らされた。
穂積
「藤守、お前は藤守検察官の所のジュンと付き合っているらしいな?」
てっきり仕事の話だと思っていた藤守はキョトンとした顔をしている。
藤守
「えっ?は、はい。まだ半年くらいですけど・・・」
(もしかして検察の人間と付き合うのはアカンのか?いや、前まではそんなん言うてなかったし・・・)
1人内心オドオドとしている藤守に穂積は質問を続けた。
穂積
「体の関係はあるのか?」
藤守
「・・・」
穂積
「・・・」
藤守
「なっ!なんですか!?セクハラですか!?」
顔を真っ赤にして藤守は動揺を隠せない。
穂積
「いや、すまん。そういうことじゃなくてだ。」
穂積いわく翼と一から交際をし直そうと考えたが今までの自分の恋愛観を押し付けていいのか悩んでしまった。それで翼と年齢の近い藤守の意見を聞こうと思ったのだと言う。確かにジュンは翼と同じ年だし、仲もいい。藤守とジュンがテーマパークに行った話を翼が羨ましそうに聞いていたとジュンが言っていたこともある。
藤守
「そういうことなら任せてください!櫻井が喜ぶデートプランを練りますわ!」
穂積
「ありがとう藤守。俺の方でももう少し考えてみる。」
さてさてどんなデートになりますやら(笑)
ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇