『アブナイ☆恋の探偵事務所』
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02/21(Tue) 12:58
小春
~桜田門探偵事務所~
同じ頃、桜田門探偵事務所のソファーには諏訪野の姿があった。
諏訪野
「加賀画廊の噂について、だけどね」
かつて暴走族のカリスマとして君臨し、現在は株と不動産で財を成している諏訪野は、関東一円、裏表の情報に通じている。
穂積と小野瀬からの依頼を受け、諏訪野はその人脈を使って、加賀画廊に纏わる噂を精査してきてくれたのだと言う。
諏訪野
「結論から言うと、美術品取り引きを利用して、いわゆるマネーロンダリングに手を貸しているようだよ」
穂積と小野瀬、そして、急須から湯飲みにお茶を注いでいた、明智の顔色が変わった。
藤守だけが、困ったように顔を赤らめたまま、忙しなく視線を動かしている。
藤守
「…あのぅ、諏訪野さん」
諏訪野
「ええと、マネーロンダリングというのは、不当な手段で手に入れたお金を、合法的な取引を通す事で、正当なお金に見せかける犯罪の事……藤守くん、それで、良かったかな」
逆に諏訪野に尋ねられる格好で声をかけられ、藤守はそれを自分の持つ認識と照合して、ようやく、腑に落ちた表情を浮かべた。
藤守
「資金洗浄、でしたっけ」
諏訪野
「ああそう、その言葉が出なかったんだよ。ありがとう藤守くん」
藤守
「いえ、そんな」
穂積や小野瀬には見え見えの芝居だが、相手に恥をかかせないように気を遣うこういう芸当を、嫌味なく出来るあたりが諏訪野の持ち味だろう。
今は味方だからいいが、敵にまわせばこの如才なさで、のらりくらりと矛先をかわされてしまう。
カリスマ性の片鱗が見えたと感じつつも、諏訪野もまたグレーゾーンの住人なのだと穂積には思えた。
ともかくもそうして全員の認識が一致したところで、諏訪野が続ける。
諏訪野
「つまり、加賀画廊では、裏金だと承知の上で、指定された人物や団体に絵画や彫刻を売っていた、ということ」
穂積
「…失踪した愛美さんは、それに気付いていた可能性があるな」
小野瀬
「そうだね。大好きな美術品が、そんな事に使われるのは我慢できない。だから、後継ぎになるのを拒否したのかも」
小野瀬と穂積が様々に考えを巡らすのを見ながら、諏訪野は、明智の入れてくれた緑茶を静かに啜っている。
諏訪野
「ところで、加賀画廊に出入りしていた『ナカジマ』という人物だけど」
明智
「ああ、愛美さんがなついていた…」
諏訪野
「鵠沼できみたちの話を聞いた時には、なんとなく中年の男性をイメージしていたんだけど。実際は、長い黒髪の美青年らしいよ」
「…!…」
探偵たちは顔を見合わせた。
穂積
「藤守、今すぐ地下の骨董屋を見てこい!」
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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02/22(Wed) 11:43
ジュン、登場!
ジュン
「藤守、今すぐ地下の骨董屋を見てこい!」
そう言われて藤守が条件反射のように動きドアを出ようとした瞬間。
「きゃあ」
藤守と勢いよくぶつかったであろう女性が廊下に尻餅をついていた。
藤守
「す、すまん!大丈夫か?」
そう言いながら藤守が手を伸ばそうとしたところでその女性と目があった。
そして固まってしまった。
???
「すみません、大丈夫ですから。」
固まっている藤守の横から小野瀬が出て来て女性に手を差し出す。
小野瀬
「ごめんね、お嬢さん。藤守くんすぐに起こしてあげないと駄目じゃないか。」
???
「いいんです。手を貸してくださってありがとうございます。」
その女性はそう言いながらニコリと笑った。
穂積
「ところで、こちらに何かご用かしら?」
奥から穂積が出て来て営業スマイル全開で問いかける。
その間も藤守は固まったままだ。
???
「あっ、すみません。依頼じゃないんです。今日からここの管理人を任されました玉木ジュンと申します。ご挨拶に伺ったのですがご迷惑をおかけしてすみません。」
ジュンは深々と頭を下げて「よろしくお願いします」と言い霞ヶ関探偵事務所に向かっていった。
固まったままだった藤守もジュンが出ていき穂積に小突かれたことで正気に戻っていた。しかし、その顔は赤い。
そして、霞ヶ関探偵事務所でも藤守所長が固まってしまい訳のわからないことを言い出して翼と如月が呆気にとられていた。
はい、すみませんm(__)m
どうしていいやらわからずにとりあえず自分を出しちゃいました。
ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇
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02/22(Wed) 21:29
小春
~桜田門探偵事務所~
藤守
「地下の骨董屋、『外出中』の札がかかってましたわ」
出会い頭にジュンとぶつかった後、ぼんやりしていて穂積に「早く行け!」と蹴り出された藤守が、地下を確認して戻って来た。
探偵事務所の中に、人数分の溜め息が吐き出される。
小野瀬
「また振り出しか」
穂積
「まあ、長い黒髪で美青年の骨董屋は、他にもいるかもしれないけどね」
明智
「ですが、地下の骨董屋の主人の名前は、『ナカジマさん』ではないですよ。……今、ちょっと思い出せませんが」
目を閉じて記憶を辿る明智の姿に、穂積と小野瀬が首を傾げた。
穂積
「……あら?変ね、ワタシも思い出せない。不思議だわ。向こうが後から入居してきて、その時に自己紹介されたはずなのに」
小野瀬
「確かにおかしいね。俺は男の名前になんか興味無いけど、穂積が覚えてないなんて」
穂積
「……その言い方だと、ワタシが男に興味あるみたいだからやめてくれないかしら」
小野瀬
「記憶力を褒めたつもりなんだよ」
穂積と小野瀬がくだらない掛け合いをしていると、ドアにノックの音がした。
小春
「毎度ありがとうございます、さくら庵の小春です!」
明智
「小春?今日は何も注文していないぞ…」
と言いつつ、明智が歩いていってドアを開ける。
そこには小春と、さっき帰ったはずのジュンが笑顔で立っていた。
ジュンに気付いた藤守の背筋が、ぴんと伸びる。
小春
「こちらの管理人さんから、新任のご挨拶という事で、差し入れセットをお持ちしました!」
運ばれてきたのは、オードブルの盛り合わせと山積みのサンドイッチ。
小春が慣れた動きでテーブルに料理やおしぼりを並べる横で、穂積がジュンに頭を下げる。
穂積
「玉木さん、お心遣いありがとうございます。遠慮なく、頂きます」
向かい合う形で、ジュンもお辞儀を返してきた。
ジュン
「こちらこそ、これからよろしくお願いします」
藤守
「おおきにありがとうございますっ!」
藤守が挨拶をすると、ジュンが嬉しそうに微笑んだ。
ジュン
「あ、やっぱり」
藤守
「はい?」
ジュン
「さっき、もしかしてと思てたんですけど。関西の方ですね。わあ、嬉しいわあ」
ジュンの口調がはんなりと変化する。
藤守の目も輝いた。
明智
「ところで、小春」
小春
「はい、何ですか?」
明智
「お前、地下の骨董屋の店主の名前を知ってるか?」
明智の問いに、小春はきょとんとした顔をしてから、当たり前だというように頷いた。
小春
「山田太郎さんでしょう?」
「え?!」ナカジマじゃないのか。
全員から一斉に聞き返されて、小春の方が戸惑った顔をする。
小春
「いつも、山田さんのお名前で出前のご注文を頂きますよ。それに、入口近くの廊下に貼ってある古物商の認可証にも、山田さんの名前が書かれてるじゃないですか」
「え?!」
おかしい。
これだけの人数の探偵がいて、なぜ、誰もそんな目立つ物を思い出さなかったのか。
穂積
「……『ナカジマ』が山田太郎の偽名だとすると……本当に、加賀愛美は山田と一緒にいるかもしれないわね……」
穂積は独り言のように呟くと、サンドイッチをひときれ、真顔で口に頬張った。
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02/23(Thu) 07:57
ちょっと繋いでみた
とも
ともも探偵さんたちと絡んでみる。
とも
「こんにちは~」
エミ「にゃぁー」
ふいに事務所のドアが開き、穂積たちが振り返るとそこには同じビルにオフィスを構えるともと、ともに抱っこされたエミがいた。
穂積
「アラ、とも、久しぶりじゃない。エミも一緒に来たの? せっかく来てくれたのに悪いんだけど、いま接客中なのよ」
とも
「いいえー、ちょっと確認したいことがあって来たんやけど、急ぎの話やないんで。 最近結婚される予定やったカップルの事で奇妙な噂を聞いたもんやから、穂積さんたちなら何か知ってはるかなぁて思て…」
穂積
「結婚する予定だった…?」
とも
「式場で結婚式の打ち合わせを1、2回したんですけど、それから全く連絡がとれなくなってしもて。昨日になって、新婦側の方から突然メールで式をキャンセルするから打ち合わせもなかったことに、って。ビックリして新郎に電話したら、新郎も新婦と連絡がとれなくて困ってたみたいやから…」
ともの話に、応接室にいる小野瀬と諏訪野も顔を見合わせる。
小野瀬
「ともさん、キミの話も何か参考になるかもしれないから、もう少し詳しく聞きたいな」
皆さん、ホンマ~~にお久しぶりです( ^ω^ )
ちょっとイケメンだらけのいい匂いのする事務所に行きたかったのでおじゃましました~(°▽°)
そしていつものように続きをパース
( ´ ▽ ` )/⌒◯
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02/23(Thu) 19:56
ともさんありがとうございます(´ 3`)
小春
神奈川に帰る為に駅で電車に乗った諏訪野を見送った後、徒歩で事務所まで帰る途中。
穂積は、駅前の通りを向こうから歩いて来る翼の姿に気付いて、足を停めた。
翼は何か考え事をしているのかぼんやりと自分の足元だけを見ていて、佇む穂積に気付かないままだ。
二人の距離が徐々に狭まり、身体がぶつかりそうになってようやく、翼はハッとしたように顔を上げた。
「あ、し、所長さん」
翼の足が止まり、視線だけがぶつかった。
あと一歩で触れ合えたのに。
咄嗟に出た自分の心の中の声に潜む仄かな願望に気付いて、穂積はそっと苦笑いする。
この感情は何だろう。
「考え事?」
穂積は優しく尋ねた。
これが明智や藤守なら、周囲を全く見ていない、そんな歩き方は探偵失格だ、と説教してやるのだが。
穂積の問いに、翼は、すみません、と頷いた。
「……穂積所長、私、考え違いをしていたかもしれません」
「?」
「以前、ご相談した事がありましたよね。自分の恋人が家族の話をしたがらない理由を知りたい、という依頼人の件」
「ええ」
「あの時は私、その理由を、実は相手が依頼人を拒否しているからじゃないか、と思ってました」
話が長くなりそうなのを察し、穂積は翼を促して人混みを離れた。
自販機のある角を曲がって、小さな公園のベンチに腰掛けさせる。
カフェオレの缶を差し出せば、翼はお礼を言って受け取った。
「恋人どうしだと思っているのは依頼人だけだとしたら、辻褄が合うと思ったんです」
「そうね」
自分もカフェオレを飲みながら、穂積は頷いてやる。
「でも、そこに、後から分かってきた情報を加えて、それから、所長さんに教わった言葉を思い出したら、そんな単純な理由じゃない気がしてきました」
依頼人を自分だと、恋人を穂積だと思って考えてみたら。
……性別が逆でややこしい。
それなら、自分が彼女で、穂積を依頼人だと考えてみたら。
「彼女は、依頼人であり恋人である彼の才能を、今でも愛してるんです。嫌いになったわけじゃない。だったら、彼から離れていったのは、何故か?」
穂積は黙って翼を見つめる。
翼は頭の中を整理するように虚空の一点を見つめながら、ひとつずつ言葉を宙に置いた。
「もしかしたら、その理由が、彼女が会わせたがらないという家族の方にある、としたら?」
翼の目が焦点を結んで、穂積を見た。
碧色の穂積の目が、優しく細められる。
翼はそれで我にかえった。
「す、すみません!不躾に、じっと見つめたりして」
「いいのよ。……アンタ、思っていた以上に聡明ね」
二人はまだ、お互いに相手の仕事の内容を知らない。
穂積は空になったカフェオレの缶を、傍らの回収ケースに入れた。
「ワタシの方も、仕事のヒントをもらった気がするわ」
「本当ですか?こんな相談ばかりで、ご迷惑じゃ…」
「まさか」
穂積が笑う。
「恋人に頼りにされるのは嬉しいわ」
恋人、って。
翼の胸が高鳴る。
「初めは、アンタの仕事の手助けになればいいと思って言い出した事だったけど」
「じゃあ、本当に……」
「ワタシはアンタが好きよ、櫻井」
そう、この感情の名を、穂積は知っている。
初めて会った時から。
「アンタはどう?」
「わ、私は、まだ…」
このときめきが憧れなのか、恋なのか、翼には分からない。
「じゃあ、まだ、ここまでにしておきましょう」
すみません、と謝る翼にそう言って笑いながら、穂積は立ち上がった。
遅れて立ち上がった翼へ、右手を差し出す。
「まずは手を繋ぐところから、ね」
02/23(Thu) 19:57
小春
翼を駅に送って事務所に帰ってきた穂積は、本来のメンバーだけに戻った桜田門探偵事務所の中で、先程のともの言葉を検証していた。
穂積
「……加賀愛美の失踪と繋がっている話かしら」
小野瀬
「お母さんの話では、式場を打ち合わせするほど結婚の話が進んでいる相手がいたとは思えなかったけど」
明智
「母親が知らなかっただけかもしれませんね」
穂積
「あるいは認めたくなかったか……」
穂積は、何か忘れているような気がする、と呟いた。
けれど、考えようとして目を閉じると、瞼の裏にさっき別れたばかりの翼の顔が浮かぶ。
穂積は驚いて目を開いた。
藤守
「所長、どうしました?なんや顔が赤いですよ」
穂積
「顔が赤いのはアンタでしょ!」
小野瀬が呆れたような溜め息を漏らす。
小野瀬
「二人とも、恋するのはいいけど仕事に集中してくれないかなあ」
明智
「え、所長と藤守は恋をしてるんですか?」
「……」
なんともいえない沈黙。
穂積がそれを大声で破った。
穂積
「ああもう!
藤守、アンタは玉木さんの所へ行って、山田太郎の賃貸契約書を見せてもらって、山田と『ナカジマ』との関係を調べる!
明智は小春の所へ行って、地下の骨董屋がいつ、何人前の出前を頼んだか調べてくる!
小野瀬は白川さんの所へ行って、ドタキャンしたカップルの名前と連絡先を聞いてくる!」
藤守
「はい」
明智
「はい」
小野瀬
「穂積は?」
穂積
「ワタシは…隣に行って、アニに会って、それとなく探りを入れてみるわ」
首を傾げる三人に、穂積は腕組みをして唸った。
穂積
「何となくだけど、あっちの事件とこっちの事件、繋がりがあるような気がするのよね」
ここでパスでーすヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/09(Thu) 12:04
アニと賢史と…
ジュン
穂積が隣の霞ヶ関探偵事務所を訪れたところ出てきたのは如月だった。
穂積
「アニに話があるんだけれど、いないの?」
いつもなら一番遅くまで事務所に詰めているアニの不在に穂積は首をかしげた。
如月
「所長でしたら急用ができたってさっき帰りましたよ?」
珍しいこともあるものだなっと穂積はため息をついた。
穂積
「ありがとう。また明日来るわ。」
その頃、藤守は管理人室に向かっていた。
鼓動が忙しなく深呼吸をしながらたどり着いた管理人室。
藤守
「兄貴?」
管理人室の前でウロウロしていたのは藤守所長。
藤守所長
「な、なななぜ貴様がここにいるのだ!?」
顔を真っ赤にしながら詰め寄ってくるアニに藤守も言い返す。
藤守
「それはこっちの台詞や。ここでなにしてんねん?ちなみに俺は仕事やで!やましいことはないで!!」
藤守所長
「お、俺もやましい気持ちなどないわ!」
ギャアギャアと言い合っていると管理人室のドアが開いた。
ジュン
「藤守所長に藤守さん?どないしはったの?」
騒いでいたためにジュンは様子を見に出てきたのだろうが、二人とも心の準備ができていなかった。
突然のジュンの登場に顔を真っ赤にしてゴニョゴニョと口の中で何かを呟いている。
キョトンとしているジュンに先に言葉を発したのはアニだった。
藤守所長
「さ、先程は差し入れをありがとう。お礼と言うわけではないが今度食事でもどうだろうか?」
一息に話しきりそっぽを向いてジュンの返事を待つ…はずだった。
藤守
「何言うてんねん!差し入れは兄貴のとこだけちゃうぞ!お礼の食事やったら俺が連れていくわ!」
藤守所長
「貴様こそ何を言っている!先に誘ったのは俺の方だろうが!」
お互いに胸ぐらを掴んでにらみ合い怒鳴り合い…そして
ジュン
「まあまあ、喧嘩しはらんと。じゃあ今度三人でお食事に行きましょう?」
ニコッと笑いながら提案するジュンに二人は再び顔を真っ赤にして頷くしかなかった。
自分にだけ美味しいように書かせて頂きました(^_^;)
藤守兄弟に取り合いされて幸せ。
ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇
03/12(Sun) 10:15
ジュンさんありがとうございます(´ 3`)ちゅー
小春
小野瀬
「穂積、ビンゴだよ」
上階にあるとものオフィスから帰ってきた小野瀬が、開口一番そう言った。
腕にはネコのエミを抱えている。
穂積
「挙式をキャンセルした新婦は、加賀愛美だった?」
にゃーん、と一声鳴いて、エミが小野瀬の腕から穂積の腕に跳び移った。
穂積の胸に擦り寄って、幸せそうにごろごろと喉をならす。
小野瀬
「新郎の名前は北村白秋。二人ともこの春美大を卒業して、北村氏は、仲間たちと共同経営でレンタルアートの会社を設立している」
藤守
「へえ!なんや楽しそうやな!」
小野瀬
「もちろん、まだビジネスとしては素人レベルだけど、自分たちの作品を直接レンタルするわけだから利益率は高いらしい。ともさんの聞いた話によれば、北村氏には充分、希望通りの人前結婚式と披露宴を挙げられる予算があったそうだよ」
明智
「しかし、花嫁に逃げられては元も子もないな」
明智が同情混じりの溜め息をついた。
明智
「加賀夫人は彼女を留学させたかったと言っていましたが、なんとなく、加賀愛美は、北村氏や知人たちの設立したその会社で働きたかったのではないかという気がします」
小野瀬
「うん、当然、北村氏もそれを望んだだろうと思うね」
穂積
「けれど、加賀愛美は失踪した。……実家の画廊での不正な取引を知り、清廉な仲間たちや恋人に対して、後ろめたさを感じてしまった……という辺りが動機かしら?」
藤守
「ナカジマの狙いは何なんやろ……」
それぞれが事件の裏側を読み解こうとする沈黙しばし。
突然、あ、と、叫んで明智が顔を上げた。
全員の視線が明智に注がれる中、明智は慌てた様子で出入口の扉を開いた。
廊下に身を乗り出すようにして左右を見た明智が、次の瞬間飛び出してゆく。
後に続いて藤守、小野瀬、穂積が窺った扉の向こうの廊下には、遠慮がちに佇む小春と、その手前で小春に向かって頭を下げている明智の姿があった。
いつもの、桜色の作務衣と店名の入ったエプロン姿ではなく、年頃の女の子らしい可愛らしい装いの小春は、明智越しに三人と目が合うと、頬を染めて、ぺこりとお辞儀をした。
明智が振り返る。
明智
「す、すみません所長。実はこいつと約束していまして……」
珍しく焦る明智から穂積が時計に視線を移せば、なるほど、もう、とっくに定時を過ぎている。
穂積
「馬鹿ねえ可哀想に。初デートなんでしょ?」
明智
「え、ち、違いますよ!」
明智がぶんぶんと首を横に振る。
明智
「ただ、小春が、飲食店関係の繋がりで、ケーキバイキングのプレオープンに行けると言うから。ですから、その、デートとか、そういうものでは」
穂積に弁解する為に小春に背を向けている明智は、その小春が一瞬悲しそうな表情を浮かべた事に気付かない。
そして振り向いた時には、小春は、いつもの笑顔を明智に見せていた。
小春
「あの」
小春が、ポケットからガラケーを出して、穂積の方に駆けてきた。
小春
「所長さんたち、山田さんの事気にしてらしたみたいだから。これ、さっき送られてきたメールです」
小春が見せたのは、満開の桜とどこかの美術館を背景に笑う、ハセガワこと山田太郎と、加賀愛美だった。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/22(Wed) 13:04
デートの予感?(悪い予感しかしない(笑))
小春
藤守
「小春お前、山田とメル友なんか?」
驚いたように訊ねる藤守に、小春は頷く。
小春
「はい。山田さんはうちの店や出前でお会いするといつも、旅行先での面白いお話を聞かせてくれました。それが楽しみだと言ったら、毎回旅先からメールを下さるようになって」
話を聞きながら、穂積と小野瀬は、小春の携帯の画面を彼女の肩越しに覗き込む。
明智は少しだけ嫌そうな顔をして、小野瀬だけを小春から遠ざけるように引き剥がした。
小野瀬
「なんだい明智くん」
明智
「この場所、見覚えがあるような気がします」
地味に小突き合う明智と小野瀬を横目に、穂積は溜め息をついた。
穂積
「当たり前でしょ!国、立、近、代、美、術、館なんだから」
それはこの霞ヶ関から、すぐ目と鼻の先にある超有名な美術館。
むしろ近過ぎてびっくりだ。
藤守
「ほな、俺、これからすぐにバイクで向かいますわ!今度こそ加賀愛美をつかまえて、名誉挽回します!」
小野瀬
「藤守くん、この写真、よく見て。ただいま開催中なのは『恋人たちの時間展』だよ。きみが一人で行ったら、目立つ事この上ない。しかもカップル割引つきだからなおさら」
穂積
「管理人さんに一緒に行ってもらえば?」
藤守
「へ?!」
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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06/04(Sun) 09:17
小春
藤守
「お、俺と玉木さんは、ここ恋人とか、まだまだそんな」
小野瀬
「おや、『まだ』って言ったね?やっぱり、きみ、管理人さんに気があるんだ」
藤守
「あ゙ーーー!」
小野瀬の誘導尋問に、マンガのようにあっさりと引っ掛かった藤守は、顔を真っ赤にしてその場にうずくまった。
小野瀬を軽く小突きながら、穂積が半ば同情、半ば呆れた眼で藤守を見下ろして、はあ、と溜め息をつく。
穂積
「悪いけど、今は一刻を争うのよ。藤守兄弟と管理人のラブコメ三角関係の行方を見守ってる時間はないの」
『三角関係って、なんで所長が俺とアニキと玉木さんの関係を知ってますのん』と焦る藤守に、『悔しかったら追い掛けて来なさい』、そして、小野瀬には、『アンタは北村さんに連絡して』と言い残すと、穂積は片手でケータイを操作し、もう片方の手で明智の後ろ襟を掴みながら歩き出した。
明智
「うわ?!」
小春がびっくりして、穂積と明智の後を追う。
穂積がどこかにかけた電話が繋がった。
穂積
「……あ、櫻井?帰宅したばかりで悪いけど、国立近代美術館まで出てきてもらえるかしら。……ええ、そう。大丈夫、今日は金曜で、企画展は20時までだから。……ありがとう、待ってるわね」
優しい声で囁く穂積の様子を見て、いつの間に所長は隣の新人とそんなに親しくなっていたのかと目を丸くする明智を尻目に、穂積は一旦通話を切ると、続けてもう一本電話をかけた。
穂積
「アニ、今すぐ国立近代美術館。あ?別にいいけど、来なくても」
一方的にそれだけ言って通話を切り、さっさとケータイをポケットに入れてしまう。
小春
「藤守所長に酷くないですか」
後ろ向きで穂積に引っ張られていく明智の事も心配しながら、傍らを小走りについてきて気を揉む小春に、穂積はにやりと応えてみせた。
穂積
「小春、アンタ、玉木さんの連絡先知ってるわよね?」
小春
「はい」
穂積
「藤守兄弟の為に呼んでやってちょうだい」
そうしてもう一言、すまなそうに付け加える。
穂積
「アンタたちの予定を台無しにして悪かったわ」
すると小春は明智をちらりと見てから、頬を染めた。
小春
「私は明智さんと居られるなら、何処でも」
穂積
「あら」
明智
「……え」
穂積は笑いながら、明智を掴んでいた手を、小春に向けて手放した。
***
東京国立近代美術館。
皇居からも目と鼻の距離にある、言わずと知れた有名美術館である。
折柄満開の桜の時期であり、もう日が沈んだ今も、敷地内のあちこちに夜桜を見上げる人たちの姿があった。
「きれいですね」
加賀愛美は、今日何度目か分からない感嘆の声を漏らしていた。
傍らで、長い黒髪の美青年が、桜を見上げる彼女の横顔に目を細めている。
「愛美さんの慰めになったのなら、桜も喜ぶでしょう」
「ナカジマさんのおかげで、だいぶ気持ちが落ち着きました」
加賀愛美は桜に向けていた目を、ナカジマ、と呼んだその青年に向けた。
「決心が、ついてきました」
「お力になれたなら何よりです」
それだけの会話を交わすと、二人は再び、静かに夜空と桜を見上げた。
06/04(Sun) 11:40
小春
明智
「……このブロックには、いないようだな」
小春
「はい。じゃあ、次へ移動しますか。室長さんにメールで報告入れますね」
明智と小春は、メールされてきた写真を頼りに、撮影に使われた場所を探しながら美術館の外を捜索していた。
早歩きの明智の広い歩幅を追い掛ける小春は、ほとんど小走りだ。
それでも、いつもの溌剌さに翳りを落とすことなく、明智を手伝って懸命に加賀愛美とナカジマの姿を探す小春を、明智は時々真顔で盗み見る。
……子供だと思っていたのにな。
声には出さずに呟いたのに、振り向いた小春と目があって、明智は少なからず動揺した。
藤守
「それにしても広い美術館やなあ。なあ、アニキ?」
アニ
「広いな。何しろ国立だからな」
藤守
「加賀愛美もナカジマも、見つからんなあ。なあ、アニキ?」
アニ
「見つからんな。何しろ国立だからな」
二人の間には管理人の玉木ジュンがいるのだが、兄弟の会話は、彼女の頭上で交わされているばかりだ。
もっとも、ここまでのこの二人の会話には、ほとんど、ジュンが気に留めなければならないほどの内容は無かった。
ジュン
「急に誘われてびっくりしましたけど、お仕事とはいえ、男前のご兄弟に挟まれて美術館やなんて、私嬉しいわぁ」
頭上で散る火花に気付いているのかいないのか。
ジュンははんなりした笑顔を浮かべたまま、絵画や彫刻で表現された、「恋人たちの時間」を楽しんでいた。
***
翼
「……穂積所長」
明智と小春の居る位置から建物を挟んだ敷地の一隅。
角を曲がったところで不意に、翼が足を停めて声を潜めた。
もちろん、穂積にも同じものが見えている。
穂積
「……居たわね」
***
北村
「愛美!」
その二人に真っ先に声を掛けたのは、小野瀬に伴われて現れた、北村白秋だった。
声を掛けられた加賀愛美は飛び上がるほど驚いた様子だったが、一緒にいた『ナカジマ』こと山田太郎は、顔色ひとつ変えなかった。
彼はただ加賀愛美の肩に軽く手を添えると、一際立派な桜の樹の下に、一同を誘うようにゆったりと歩いて移動を促しただけだ。
加賀愛美
「……白秋さん」
加賀愛美の声は、夜桜に霞んで消えてしまいそうにか細かった。
北村
「……愛美」
二度目の声は、最初よりも明らかに優しい、恋人としての声だった。
離れて行こうとしている恋人を自分の元に呼び寄せたい、その想いが、聞く者の心に伝わるような声だった。
翼
「……」
翼は北村とは初対面になる。
穂積は愛美とも北村とも初めて会う。
けれど、加賀愛美と北村白秋の声を聞いた一瞬で、二人の関係と想いが分かったような気がした、そんな声だった。
佇む愛美を一番近くで見守っているのは、山田。
まだ少し距離のある場所に、北村と小野瀬。
さらに離れ、全員を見る事の出来る場所に穂積と翼。
満開の桜の下は、春にそぐわないような空気を漂わせていた。
[削除]
06/04(Sun) 15:40
小春
どうして、とは、加賀愛美は北村に尋ねなかった。
自分が行方不明になれば、北村が探しに来る。
その事を知っていたという顔だった。
知っていて、分かっていて、加賀愛美は、北村の前から消えようとして……結果として、消え去る事は出来なかった。
何かを言おうとして口を開け、何も言えないまま口を閉じる。
苦悩の動作を繰り返す加賀愛美を見かねたのか、山田が口を開いた。
「僕から説明しましょうか、愛美さん」
「ナカジマさん……」
加賀愛美は縋るような目で山田を見たまま、拒むように首を横に振った。
「……いえ、私が、伝えなくては」
「そうですか」
呆気ないほどあっさりと、山田は引き下がる。
同時に、加賀愛美は改めて、北村に向き直った。
「……白秋さん、ごめんなさい。私……私には、あなたと、一緒の夢を見ることが、出来なくなりました」
一緒の夢。
おそらくそれは、北村と加賀愛美とが婚約した時に、交わした言葉だったのではないだろうか。
今度は北村が、ぐっ、と唇を噛みしめて声を堪えた。
「私、あなたの描くあの美しい絵が、絵を描いている時のあなたの誠実さが、大好きです」
加賀愛美の目から、涙が溢れた。
「だから、自分の親が、芸術を語りながら、同時に芸術を貶めようとしていた事を知った時、恥ずかしくて、もう、あなたに顔向け出来ないと、そう、思って」
(……芸術を…貶める……)
穂積の横、翼が、口の中で加賀愛美の言葉を咀嚼する。
「加賀愛美の実家の画廊では、不正な金を資金洗浄するために、絵画を闇取引の道具にしていたのよ」
事情を知る穂積から、小声で補足の説明を受けて、翼が頷いた。
「だから愛美さんは……でも……それは……」
翼の反応に、言わんとする事を察したらしい穂積も頷く。
「ええ、そうね。それから先は、あの恋人たちが決める事よ」
***
「愛美」
堰を切ったように言葉を迸らせた後、溢れた感情の波をもて余している加賀愛美に対して、北村は、対照的に、静かに口を開いた。
「……加賀画廊を舞台にして、書画や彫刻が汚い取引に使われていた事は、ここに来るまでに、この小野瀬さんから聞いた。驚いたよ。でも、だからといって、俺がお前を失うのは納得できない」
北村の発した言葉に、加賀愛美は、弾かれたように顔を上げた。
「……白秋さん……」
「だって、そうだろう。たとえばもしも、俺の絵が実際に裏取引の材料にされたとしても、俺が、その絵を描いた事実を恥じる必要はないじゃないか。違うか?」
「……違わない」
加賀愛美は、北村の言葉を肯定するように首を振った。
「でも」
「なあ、愛美。俺は画家だ。俺は俺の目で見た全ての中から、抽出した真実だけを、濾過した美しい瞬間だけを、絵に残す。俺が、俺の絵に込めるのは、美しい夢なんだ」
それは、高解像度の写真と比較されるほど写実的で緻密な絵を描く、北村らしい答えだった。
「俺がお前と一緒に見たいと思っている夢は、現実を受け入れた上でこそ描ける、そんな夢なんだよ」
幸せな結婚生活しかり、同じ志を持つ友人たちとの会社経営しかり。
加賀愛美を刺激しないよう、北村はひたすら丁寧に説く。
加賀愛美を失踪させる原因であった心の澱を、静かに静かに北村の言葉が洗い流してゆく。
[削除]
06/04(Sun) 16:49
小春
穂積の目が、山田の動きを捉えていた。
「どうやら、北村さんと愛美さんの問題は解決に向かいそうですね」
その山田の視線の先には、如月と小笠原、そして、加賀愛美の母親。
傍らに立つ痩身の男性は、愛美の父親だろうか。
「もとより、愛娘を悲しませてまでやる事ではなかった」
肩を落とし、疲れた顔の父親の横で、母親はしかし、まだ諦めきれないようだった。
「でも、あなた」
「昔からの友人に頼まれて、何も知らないふりをして取引に加わってしまったが、もう、潮時だ」
「あなた」
「わたしは恥ずかしい」
「……」
「画廊は畳もう。今までの過ちは全て警察に話そう。そうして罪を償ったら、白秋くん。わたしたちにも、きみたちの事業を手伝わせて欲しい」
言葉の後半は、北村に向けられた。
「許してもらえるだろうか」
北村は、加賀愛美によく似ている顔立ちの、父親の目を見つめていた。
父親は、加賀愛美の視線からも、北村からも、もう逃げなかった。
差し出された北村の右手をしっかりと握り返した父親の目には、うっすらと涙が光っていた。
その涙を、探偵たちはそれぞれの感慨をもって、見守っていた。
***
小春
「良かったですね、良かったですねっ」
山田
「うーん、僕はもう少し、愛美さんとの逃避行を楽しみたかったのにな」
帰り道、ぞろぞろと出口へと向かいながら、まだ興奮さめやらない小春が目を潤ませて、明智や山田に同意を求めている。
山田はつまらなそうに伸びをしつつ、皆に混ざって、のんびりと歩みを進めていた。
小野瀬
「確かに、加賀愛美さんの失踪は、ご両親にはいい薬になったようだけど」
穂積
「本当に娘が可愛いなら、娘の人生を歪めてしまうような愛しかたは考え直すべきね」
如月
「あー、安心したら腹減ったあ」
穂積
「真面目な話をしてるのに」
如月
「だってえ、俺ら、はるばる鎌倉まで行ってご両親を連れてきたんですよう」
小野瀬
「分かった、分かった。どこかで夕飯を食べよう」
明智
「あの。そういう事でしたら、俺と小春は、ここで失礼します」
不意に明智に名前を呼ばれて、小春がきょとんとした顔を上げる。
明智
「ケーキバイキングの約束がありまして。幸い、まだ間に合いそうですから」
小春
「え」
小春が腕時計を確かめようとするのを、明智は腕時計ごと小春の手首を掴む事で止めた。
明智
「行くぞ、小春」
真顔で言った明智の表情が、次の瞬間優しく緩む。
それで小春は明智の意図を察して、ぱっ、と顔を輝かせた。
小春
「はい!」
明智
「では、お先に」
揃ってぺこりと頭を下げた明智と小春は、楽しそうに去っていった。
山田
「おや、拐われてしまいましたね」
肩をすくめた山田の軽口を耳にした翼が笑っていると、今度は翼の手が引かれた。
穂積
「じゃあ、櫻井は私とデートね」
翼
「えっ」
引かれた手を穂積の腕に絡まされてしまった翼は、咄嗟には逃げようがない。
……逃げたりしないけど。
穂積に手を引かれてその場から離れると、残されたメンバーが背後で騒ぐ声が聞こえた。
「ずるいなあ明智さんも所長も!」
「俺は小野瀬さんがおごってくれるならそれでいい」
「僕もいいですよ」
「俺に選択肢はないのかなあ」
06/04(Sun) 17:04
小春
それらの声が、ぐんぐん遠ざかる。
でも、自分の手を引いているのが穂積だと思えば、翼は、何も怖くなかった。
穂積
「……今日は、前回よりもう少し先まで進んでいいか?」
(前回?)
………まずは手を繋ぐところから、な。
翼
「あ」
穂積の言葉を思い出して、翼の胸がときめいた。
振り返って足を止めた穂積の、翼を見つめる眼差しが、優しい。
穂積
「俺も、お前のお父さんに気に入ってもらえるよう、頑張るから」
言葉の意味を考えるより早く、穂積が、顔を間近に寄せる。
穂積
「いつか、一緒の夢を見ような」
ちゅ、と、穂積の唇が、翼の頬で音を立てた。
***
藤守兄弟と管理人はどうなった?
というところで、パースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
小春
~桜田門探偵事務所~
同じ頃、桜田門探偵事務所のソファーには諏訪野の姿があった。
諏訪野
「加賀画廊の噂について、だけどね」
かつて暴走族のカリスマとして君臨し、現在は株と不動産で財を成している諏訪野は、関東一円、裏表の情報に通じている。
穂積と小野瀬からの依頼を受け、諏訪野はその人脈を使って、加賀画廊に纏わる噂を精査してきてくれたのだと言う。
諏訪野
「結論から言うと、美術品取り引きを利用して、いわゆるマネーロンダリングに手を貸しているようだよ」
穂積と小野瀬、そして、急須から湯飲みにお茶を注いでいた、明智の顔色が変わった。
藤守だけが、困ったように顔を赤らめたまま、忙しなく視線を動かしている。
藤守
「…あのぅ、諏訪野さん」
諏訪野
「ええと、マネーロンダリングというのは、不当な手段で手に入れたお金を、合法的な取引を通す事で、正当なお金に見せかける犯罪の事……藤守くん、それで、良かったかな」
逆に諏訪野に尋ねられる格好で声をかけられ、藤守はそれを自分の持つ認識と照合して、ようやく、腑に落ちた表情を浮かべた。
藤守
「資金洗浄、でしたっけ」
諏訪野
「ああそう、その言葉が出なかったんだよ。ありがとう藤守くん」
藤守
「いえ、そんな」
穂積や小野瀬には見え見えの芝居だが、相手に恥をかかせないように気を遣うこういう芸当を、嫌味なく出来るあたりが諏訪野の持ち味だろう。
今は味方だからいいが、敵にまわせばこの如才なさで、のらりくらりと矛先をかわされてしまう。
カリスマ性の片鱗が見えたと感じつつも、諏訪野もまたグレーゾーンの住人なのだと穂積には思えた。
ともかくもそうして全員の認識が一致したところで、諏訪野が続ける。
諏訪野
「つまり、加賀画廊では、裏金だと承知の上で、指定された人物や団体に絵画や彫刻を売っていた、ということ」
穂積
「…失踪した愛美さんは、それに気付いていた可能性があるな」
小野瀬
「そうだね。大好きな美術品が、そんな事に使われるのは我慢できない。だから、後継ぎになるのを拒否したのかも」
小野瀬と穂積が様々に考えを巡らすのを見ながら、諏訪野は、明智の入れてくれた緑茶を静かに啜っている。
諏訪野
「ところで、加賀画廊に出入りしていた『ナカジマ』という人物だけど」
明智
「ああ、愛美さんがなついていた…」
諏訪野
「鵠沼できみたちの話を聞いた時には、なんとなく中年の男性をイメージしていたんだけど。実際は、長い黒髪の美青年らしいよ」
「…!…」
探偵たちは顔を見合わせた。
穂積
「藤守、今すぐ地下の骨董屋を見てこい!」
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
[削除]
02/22(Wed) 11:43
ジュン、登場!
ジュン
「藤守、今すぐ地下の骨董屋を見てこい!」
そう言われて藤守が条件反射のように動きドアを出ようとした瞬間。
「きゃあ」
藤守と勢いよくぶつかったであろう女性が廊下に尻餅をついていた。
藤守
「す、すまん!大丈夫か?」
そう言いながら藤守が手を伸ばそうとしたところでその女性と目があった。
そして固まってしまった。
???
「すみません、大丈夫ですから。」
固まっている藤守の横から小野瀬が出て来て女性に手を差し出す。
小野瀬
「ごめんね、お嬢さん。藤守くんすぐに起こしてあげないと駄目じゃないか。」
???
「いいんです。手を貸してくださってありがとうございます。」
その女性はそう言いながらニコリと笑った。
穂積
「ところで、こちらに何かご用かしら?」
奥から穂積が出て来て営業スマイル全開で問いかける。
その間も藤守は固まったままだ。
???
「あっ、すみません。依頼じゃないんです。今日からここの管理人を任されました玉木ジュンと申します。ご挨拶に伺ったのですがご迷惑をおかけしてすみません。」
ジュンは深々と頭を下げて「よろしくお願いします」と言い霞ヶ関探偵事務所に向かっていった。
固まったままだった藤守もジュンが出ていき穂積に小突かれたことで正気に戻っていた。しかし、その顔は赤い。
そして、霞ヶ関探偵事務所でも藤守所長が固まってしまい訳のわからないことを言い出して翼と如月が呆気にとられていた。
はい、すみませんm(__)m
どうしていいやらわからずにとりあえず自分を出しちゃいました。
ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇
[削除]
02/22(Wed) 21:29
小春
~桜田門探偵事務所~
藤守
「地下の骨董屋、『外出中』の札がかかってましたわ」
出会い頭にジュンとぶつかった後、ぼんやりしていて穂積に「早く行け!」と蹴り出された藤守が、地下を確認して戻って来た。
探偵事務所の中に、人数分の溜め息が吐き出される。
小野瀬
「また振り出しか」
穂積
「まあ、長い黒髪で美青年の骨董屋は、他にもいるかもしれないけどね」
明智
「ですが、地下の骨董屋の主人の名前は、『ナカジマさん』ではないですよ。……今、ちょっと思い出せませんが」
目を閉じて記憶を辿る明智の姿に、穂積と小野瀬が首を傾げた。
穂積
「……あら?変ね、ワタシも思い出せない。不思議だわ。向こうが後から入居してきて、その時に自己紹介されたはずなのに」
小野瀬
「確かにおかしいね。俺は男の名前になんか興味無いけど、穂積が覚えてないなんて」
穂積
「……その言い方だと、ワタシが男に興味あるみたいだからやめてくれないかしら」
小野瀬
「記憶力を褒めたつもりなんだよ」
穂積と小野瀬がくだらない掛け合いをしていると、ドアにノックの音がした。
小春
「毎度ありがとうございます、さくら庵の小春です!」
明智
「小春?今日は何も注文していないぞ…」
と言いつつ、明智が歩いていってドアを開ける。
そこには小春と、さっき帰ったはずのジュンが笑顔で立っていた。
ジュンに気付いた藤守の背筋が、ぴんと伸びる。
小春
「こちらの管理人さんから、新任のご挨拶という事で、差し入れセットをお持ちしました!」
運ばれてきたのは、オードブルの盛り合わせと山積みのサンドイッチ。
小春が慣れた動きでテーブルに料理やおしぼりを並べる横で、穂積がジュンに頭を下げる。
穂積
「玉木さん、お心遣いありがとうございます。遠慮なく、頂きます」
向かい合う形で、ジュンもお辞儀を返してきた。
ジュン
「こちらこそ、これからよろしくお願いします」
藤守
「おおきにありがとうございますっ!」
藤守が挨拶をすると、ジュンが嬉しそうに微笑んだ。
ジュン
「あ、やっぱり」
藤守
「はい?」
ジュン
「さっき、もしかしてと思てたんですけど。関西の方ですね。わあ、嬉しいわあ」
ジュンの口調がはんなりと変化する。
藤守の目も輝いた。
明智
「ところで、小春」
小春
「はい、何ですか?」
明智
「お前、地下の骨董屋の店主の名前を知ってるか?」
明智の問いに、小春はきょとんとした顔をしてから、当たり前だというように頷いた。
小春
「山田太郎さんでしょう?」
「え?!」ナカジマじゃないのか。
全員から一斉に聞き返されて、小春の方が戸惑った顔をする。
小春
「いつも、山田さんのお名前で出前のご注文を頂きますよ。それに、入口近くの廊下に貼ってある古物商の認可証にも、山田さんの名前が書かれてるじゃないですか」
「え?!」
おかしい。
これだけの人数の探偵がいて、なぜ、誰もそんな目立つ物を思い出さなかったのか。
穂積
「……『ナカジマ』が山田太郎の偽名だとすると……本当に、加賀愛美は山田と一緒にいるかもしれないわね……」
穂積は独り言のように呟くと、サンドイッチをひときれ、真顔で口に頬張った。
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02/23(Thu) 07:57
ちょっと繋いでみた
とも
ともも探偵さんたちと絡んでみる。
とも
「こんにちは~」
エミ「にゃぁー」
ふいに事務所のドアが開き、穂積たちが振り返るとそこには同じビルにオフィスを構えるともと、ともに抱っこされたエミがいた。
穂積
「アラ、とも、久しぶりじゃない。エミも一緒に来たの? せっかく来てくれたのに悪いんだけど、いま接客中なのよ」
とも
「いいえー、ちょっと確認したいことがあって来たんやけど、急ぎの話やないんで。 最近結婚される予定やったカップルの事で奇妙な噂を聞いたもんやから、穂積さんたちなら何か知ってはるかなぁて思て…」
穂積
「結婚する予定だった…?」
とも
「式場で結婚式の打ち合わせを1、2回したんですけど、それから全く連絡がとれなくなってしもて。昨日になって、新婦側の方から突然メールで式をキャンセルするから打ち合わせもなかったことに、って。ビックリして新郎に電話したら、新郎も新婦と連絡がとれなくて困ってたみたいやから…」
ともの話に、応接室にいる小野瀬と諏訪野も顔を見合わせる。
小野瀬
「ともさん、キミの話も何か参考になるかもしれないから、もう少し詳しく聞きたいな」
皆さん、ホンマ~~にお久しぶりです( ^ω^ )
ちょっとイケメンだらけのいい匂いのする事務所に行きたかったのでおじゃましました~(°▽°)
そしていつものように続きをパース
( ´ ▽ ` )/⌒◯
[削除]
02/23(Thu) 19:56
ともさんありがとうございます(´ 3`)
小春
神奈川に帰る為に駅で電車に乗った諏訪野を見送った後、徒歩で事務所まで帰る途中。
穂積は、駅前の通りを向こうから歩いて来る翼の姿に気付いて、足を停めた。
翼は何か考え事をしているのかぼんやりと自分の足元だけを見ていて、佇む穂積に気付かないままだ。
二人の距離が徐々に狭まり、身体がぶつかりそうになってようやく、翼はハッとしたように顔を上げた。
「あ、し、所長さん」
翼の足が止まり、視線だけがぶつかった。
あと一歩で触れ合えたのに。
咄嗟に出た自分の心の中の声に潜む仄かな願望に気付いて、穂積はそっと苦笑いする。
この感情は何だろう。
「考え事?」
穂積は優しく尋ねた。
これが明智や藤守なら、周囲を全く見ていない、そんな歩き方は探偵失格だ、と説教してやるのだが。
穂積の問いに、翼は、すみません、と頷いた。
「……穂積所長、私、考え違いをしていたかもしれません」
「?」
「以前、ご相談した事がありましたよね。自分の恋人が家族の話をしたがらない理由を知りたい、という依頼人の件」
「ええ」
「あの時は私、その理由を、実は相手が依頼人を拒否しているからじゃないか、と思ってました」
話が長くなりそうなのを察し、穂積は翼を促して人混みを離れた。
自販機のある角を曲がって、小さな公園のベンチに腰掛けさせる。
カフェオレの缶を差し出せば、翼はお礼を言って受け取った。
「恋人どうしだと思っているのは依頼人だけだとしたら、辻褄が合うと思ったんです」
「そうね」
自分もカフェオレを飲みながら、穂積は頷いてやる。
「でも、そこに、後から分かってきた情報を加えて、それから、所長さんに教わった言葉を思い出したら、そんな単純な理由じゃない気がしてきました」
依頼人を自分だと、恋人を穂積だと思って考えてみたら。
……性別が逆でややこしい。
それなら、自分が彼女で、穂積を依頼人だと考えてみたら。
「彼女は、依頼人であり恋人である彼の才能を、今でも愛してるんです。嫌いになったわけじゃない。だったら、彼から離れていったのは、何故か?」
穂積は黙って翼を見つめる。
翼は頭の中を整理するように虚空の一点を見つめながら、ひとつずつ言葉を宙に置いた。
「もしかしたら、その理由が、彼女が会わせたがらないという家族の方にある、としたら?」
翼の目が焦点を結んで、穂積を見た。
碧色の穂積の目が、優しく細められる。
翼はそれで我にかえった。
「す、すみません!不躾に、じっと見つめたりして」
「いいのよ。……アンタ、思っていた以上に聡明ね」
二人はまだ、お互いに相手の仕事の内容を知らない。
穂積は空になったカフェオレの缶を、傍らの回収ケースに入れた。
「ワタシの方も、仕事のヒントをもらった気がするわ」
「本当ですか?こんな相談ばかりで、ご迷惑じゃ…」
「まさか」
穂積が笑う。
「恋人に頼りにされるのは嬉しいわ」
恋人、って。
翼の胸が高鳴る。
「初めは、アンタの仕事の手助けになればいいと思って言い出した事だったけど」
「じゃあ、本当に……」
「ワタシはアンタが好きよ、櫻井」
そう、この感情の名を、穂積は知っている。
初めて会った時から。
「アンタはどう?」
「わ、私は、まだ…」
このときめきが憧れなのか、恋なのか、翼には分からない。
「じゃあ、まだ、ここまでにしておきましょう」
すみません、と謝る翼にそう言って笑いながら、穂積は立ち上がった。
遅れて立ち上がった翼へ、右手を差し出す。
「まずは手を繋ぐところから、ね」
02/23(Thu) 19:57
小春
翼を駅に送って事務所に帰ってきた穂積は、本来のメンバーだけに戻った桜田門探偵事務所の中で、先程のともの言葉を検証していた。
穂積
「……加賀愛美の失踪と繋がっている話かしら」
小野瀬
「お母さんの話では、式場を打ち合わせするほど結婚の話が進んでいる相手がいたとは思えなかったけど」
明智
「母親が知らなかっただけかもしれませんね」
穂積
「あるいは認めたくなかったか……」
穂積は、何か忘れているような気がする、と呟いた。
けれど、考えようとして目を閉じると、瞼の裏にさっき別れたばかりの翼の顔が浮かぶ。
穂積は驚いて目を開いた。
藤守
「所長、どうしました?なんや顔が赤いですよ」
穂積
「顔が赤いのはアンタでしょ!」
小野瀬が呆れたような溜め息を漏らす。
小野瀬
「二人とも、恋するのはいいけど仕事に集中してくれないかなあ」
明智
「え、所長と藤守は恋をしてるんですか?」
「……」
なんともいえない沈黙。
穂積がそれを大声で破った。
穂積
「ああもう!
藤守、アンタは玉木さんの所へ行って、山田太郎の賃貸契約書を見せてもらって、山田と『ナカジマ』との関係を調べる!
明智は小春の所へ行って、地下の骨董屋がいつ、何人前の出前を頼んだか調べてくる!
小野瀬は白川さんの所へ行って、ドタキャンしたカップルの名前と連絡先を聞いてくる!」
藤守
「はい」
明智
「はい」
小野瀬
「穂積は?」
穂積
「ワタシは…隣に行って、アニに会って、それとなく探りを入れてみるわ」
首を傾げる三人に、穂積は腕組みをして唸った。
穂積
「何となくだけど、あっちの事件とこっちの事件、繋がりがあるような気がするのよね」
ここでパスでーすヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
[削除]
03/09(Thu) 12:04
アニと賢史と…
ジュン
穂積が隣の霞ヶ関探偵事務所を訪れたところ出てきたのは如月だった。
穂積
「アニに話があるんだけれど、いないの?」
いつもなら一番遅くまで事務所に詰めているアニの不在に穂積は首をかしげた。
如月
「所長でしたら急用ができたってさっき帰りましたよ?」
珍しいこともあるものだなっと穂積はため息をついた。
穂積
「ありがとう。また明日来るわ。」
その頃、藤守は管理人室に向かっていた。
鼓動が忙しなく深呼吸をしながらたどり着いた管理人室。
藤守
「兄貴?」
管理人室の前でウロウロしていたのは藤守所長。
藤守所長
「な、なななぜ貴様がここにいるのだ!?」
顔を真っ赤にしながら詰め寄ってくるアニに藤守も言い返す。
藤守
「それはこっちの台詞や。ここでなにしてんねん?ちなみに俺は仕事やで!やましいことはないで!!」
藤守所長
「お、俺もやましい気持ちなどないわ!」
ギャアギャアと言い合っていると管理人室のドアが開いた。
ジュン
「藤守所長に藤守さん?どないしはったの?」
騒いでいたためにジュンは様子を見に出てきたのだろうが、二人とも心の準備ができていなかった。
突然のジュンの登場に顔を真っ赤にしてゴニョゴニョと口の中で何かを呟いている。
キョトンとしているジュンに先に言葉を発したのはアニだった。
藤守所長
「さ、先程は差し入れをありがとう。お礼と言うわけではないが今度食事でもどうだろうか?」
一息に話しきりそっぽを向いてジュンの返事を待つ…はずだった。
藤守
「何言うてんねん!差し入れは兄貴のとこだけちゃうぞ!お礼の食事やったら俺が連れていくわ!」
藤守所長
「貴様こそ何を言っている!先に誘ったのは俺の方だろうが!」
お互いに胸ぐらを掴んでにらみ合い怒鳴り合い…そして
ジュン
「まあまあ、喧嘩しはらんと。じゃあ今度三人でお食事に行きましょう?」
ニコッと笑いながら提案するジュンに二人は再び顔を真っ赤にして頷くしかなかった。
自分にだけ美味しいように書かせて頂きました(^_^;)
藤守兄弟に取り合いされて幸せ。
ここでパース(⌒∇⌒)ノ⌒〇
03/12(Sun) 10:15
ジュンさんありがとうございます(´ 3`)ちゅー
小春
小野瀬
「穂積、ビンゴだよ」
上階にあるとものオフィスから帰ってきた小野瀬が、開口一番そう言った。
腕にはネコのエミを抱えている。
穂積
「挙式をキャンセルした新婦は、加賀愛美だった?」
にゃーん、と一声鳴いて、エミが小野瀬の腕から穂積の腕に跳び移った。
穂積の胸に擦り寄って、幸せそうにごろごろと喉をならす。
小野瀬
「新郎の名前は北村白秋。二人ともこの春美大を卒業して、北村氏は、仲間たちと共同経営でレンタルアートの会社を設立している」
藤守
「へえ!なんや楽しそうやな!」
小野瀬
「もちろん、まだビジネスとしては素人レベルだけど、自分たちの作品を直接レンタルするわけだから利益率は高いらしい。ともさんの聞いた話によれば、北村氏には充分、希望通りの人前結婚式と披露宴を挙げられる予算があったそうだよ」
明智
「しかし、花嫁に逃げられては元も子もないな」
明智が同情混じりの溜め息をついた。
明智
「加賀夫人は彼女を留学させたかったと言っていましたが、なんとなく、加賀愛美は、北村氏や知人たちの設立したその会社で働きたかったのではないかという気がします」
小野瀬
「うん、当然、北村氏もそれを望んだだろうと思うね」
穂積
「けれど、加賀愛美は失踪した。……実家の画廊での不正な取引を知り、清廉な仲間たちや恋人に対して、後ろめたさを感じてしまった……という辺りが動機かしら?」
藤守
「ナカジマの狙いは何なんやろ……」
それぞれが事件の裏側を読み解こうとする沈黙しばし。
突然、あ、と、叫んで明智が顔を上げた。
全員の視線が明智に注がれる中、明智は慌てた様子で出入口の扉を開いた。
廊下に身を乗り出すようにして左右を見た明智が、次の瞬間飛び出してゆく。
後に続いて藤守、小野瀬、穂積が窺った扉の向こうの廊下には、遠慮がちに佇む小春と、その手前で小春に向かって頭を下げている明智の姿があった。
いつもの、桜色の作務衣と店名の入ったエプロン姿ではなく、年頃の女の子らしい可愛らしい装いの小春は、明智越しに三人と目が合うと、頬を染めて、ぺこりとお辞儀をした。
明智が振り返る。
明智
「す、すみません所長。実はこいつと約束していまして……」
珍しく焦る明智から穂積が時計に視線を移せば、なるほど、もう、とっくに定時を過ぎている。
穂積
「馬鹿ねえ可哀想に。初デートなんでしょ?」
明智
「え、ち、違いますよ!」
明智がぶんぶんと首を横に振る。
明智
「ただ、小春が、飲食店関係の繋がりで、ケーキバイキングのプレオープンに行けると言うから。ですから、その、デートとか、そういうものでは」
穂積に弁解する為に小春に背を向けている明智は、その小春が一瞬悲しそうな表情を浮かべた事に気付かない。
そして振り向いた時には、小春は、いつもの笑顔を明智に見せていた。
小春
「あの」
小春が、ポケットからガラケーを出して、穂積の方に駆けてきた。
小春
「所長さんたち、山田さんの事気にしてらしたみたいだから。これ、さっき送られてきたメールです」
小春が見せたのは、満開の桜とどこかの美術館を背景に笑う、ハセガワこと山田太郎と、加賀愛美だった。
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
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03/22(Wed) 13:04
デートの予感?(悪い予感しかしない(笑))
小春
藤守
「小春お前、山田とメル友なんか?」
驚いたように訊ねる藤守に、小春は頷く。
小春
「はい。山田さんはうちの店や出前でお会いするといつも、旅行先での面白いお話を聞かせてくれました。それが楽しみだと言ったら、毎回旅先からメールを下さるようになって」
話を聞きながら、穂積と小野瀬は、小春の携帯の画面を彼女の肩越しに覗き込む。
明智は少しだけ嫌そうな顔をして、小野瀬だけを小春から遠ざけるように引き剥がした。
小野瀬
「なんだい明智くん」
明智
「この場所、見覚えがあるような気がします」
地味に小突き合う明智と小野瀬を横目に、穂積は溜め息をついた。
穂積
「当たり前でしょ!国、立、近、代、美、術、館なんだから」
それはこの霞ヶ関から、すぐ目と鼻の先にある超有名な美術館。
むしろ近過ぎてびっくりだ。
藤守
「ほな、俺、これからすぐにバイクで向かいますわ!今度こそ加賀愛美をつかまえて、名誉挽回します!」
小野瀬
「藤守くん、この写真、よく見て。ただいま開催中なのは『恋人たちの時間展』だよ。きみが一人で行ったら、目立つ事この上ない。しかもカップル割引つきだからなおさら」
穂積
「管理人さんに一緒に行ってもらえば?」
藤守
「へ?!」
ここでパースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○
[削除]
06/04(Sun) 09:17
小春
藤守
「お、俺と玉木さんは、ここ恋人とか、まだまだそんな」
小野瀬
「おや、『まだ』って言ったね?やっぱり、きみ、管理人さんに気があるんだ」
藤守
「あ゙ーーー!」
小野瀬の誘導尋問に、マンガのようにあっさりと引っ掛かった藤守は、顔を真っ赤にしてその場にうずくまった。
小野瀬を軽く小突きながら、穂積が半ば同情、半ば呆れた眼で藤守を見下ろして、はあ、と溜め息をつく。
穂積
「悪いけど、今は一刻を争うのよ。藤守兄弟と管理人のラブコメ三角関係の行方を見守ってる時間はないの」
『三角関係って、なんで所長が俺とアニキと玉木さんの関係を知ってますのん』と焦る藤守に、『悔しかったら追い掛けて来なさい』、そして、小野瀬には、『アンタは北村さんに連絡して』と言い残すと、穂積は片手でケータイを操作し、もう片方の手で明智の後ろ襟を掴みながら歩き出した。
明智
「うわ?!」
小春がびっくりして、穂積と明智の後を追う。
穂積がどこかにかけた電話が繋がった。
穂積
「……あ、櫻井?帰宅したばかりで悪いけど、国立近代美術館まで出てきてもらえるかしら。……ええ、そう。大丈夫、今日は金曜で、企画展は20時までだから。……ありがとう、待ってるわね」
優しい声で囁く穂積の様子を見て、いつの間に所長は隣の新人とそんなに親しくなっていたのかと目を丸くする明智を尻目に、穂積は一旦通話を切ると、続けてもう一本電話をかけた。
穂積
「アニ、今すぐ国立近代美術館。あ?別にいいけど、来なくても」
一方的にそれだけ言って通話を切り、さっさとケータイをポケットに入れてしまう。
小春
「藤守所長に酷くないですか」
後ろ向きで穂積に引っ張られていく明智の事も心配しながら、傍らを小走りについてきて気を揉む小春に、穂積はにやりと応えてみせた。
穂積
「小春、アンタ、玉木さんの連絡先知ってるわよね?」
小春
「はい」
穂積
「藤守兄弟の為に呼んでやってちょうだい」
そうしてもう一言、すまなそうに付け加える。
穂積
「アンタたちの予定を台無しにして悪かったわ」
すると小春は明智をちらりと見てから、頬を染めた。
小春
「私は明智さんと居られるなら、何処でも」
穂積
「あら」
明智
「……え」
穂積は笑いながら、明智を掴んでいた手を、小春に向けて手放した。
***
東京国立近代美術館。
皇居からも目と鼻の距離にある、言わずと知れた有名美術館である。
折柄満開の桜の時期であり、もう日が沈んだ今も、敷地内のあちこちに夜桜を見上げる人たちの姿があった。
「きれいですね」
加賀愛美は、今日何度目か分からない感嘆の声を漏らしていた。
傍らで、長い黒髪の美青年が、桜を見上げる彼女の横顔に目を細めている。
「愛美さんの慰めになったのなら、桜も喜ぶでしょう」
「ナカジマさんのおかげで、だいぶ気持ちが落ち着きました」
加賀愛美は桜に向けていた目を、ナカジマ、と呼んだその青年に向けた。
「決心が、ついてきました」
「お力になれたなら何よりです」
それだけの会話を交わすと、二人は再び、静かに夜空と桜を見上げた。
06/04(Sun) 11:40
小春
明智
「……このブロックには、いないようだな」
小春
「はい。じゃあ、次へ移動しますか。室長さんにメールで報告入れますね」
明智と小春は、メールされてきた写真を頼りに、撮影に使われた場所を探しながら美術館の外を捜索していた。
早歩きの明智の広い歩幅を追い掛ける小春は、ほとんど小走りだ。
それでも、いつもの溌剌さに翳りを落とすことなく、明智を手伝って懸命に加賀愛美とナカジマの姿を探す小春を、明智は時々真顔で盗み見る。
……子供だと思っていたのにな。
声には出さずに呟いたのに、振り向いた小春と目があって、明智は少なからず動揺した。
藤守
「それにしても広い美術館やなあ。なあ、アニキ?」
アニ
「広いな。何しろ国立だからな」
藤守
「加賀愛美もナカジマも、見つからんなあ。なあ、アニキ?」
アニ
「見つからんな。何しろ国立だからな」
二人の間には管理人の玉木ジュンがいるのだが、兄弟の会話は、彼女の頭上で交わされているばかりだ。
もっとも、ここまでのこの二人の会話には、ほとんど、ジュンが気に留めなければならないほどの内容は無かった。
ジュン
「急に誘われてびっくりしましたけど、お仕事とはいえ、男前のご兄弟に挟まれて美術館やなんて、私嬉しいわぁ」
頭上で散る火花に気付いているのかいないのか。
ジュンははんなりした笑顔を浮かべたまま、絵画や彫刻で表現された、「恋人たちの時間」を楽しんでいた。
***
翼
「……穂積所長」
明智と小春の居る位置から建物を挟んだ敷地の一隅。
角を曲がったところで不意に、翼が足を停めて声を潜めた。
もちろん、穂積にも同じものが見えている。
穂積
「……居たわね」
***
北村
「愛美!」
その二人に真っ先に声を掛けたのは、小野瀬に伴われて現れた、北村白秋だった。
声を掛けられた加賀愛美は飛び上がるほど驚いた様子だったが、一緒にいた『ナカジマ』こと山田太郎は、顔色ひとつ変えなかった。
彼はただ加賀愛美の肩に軽く手を添えると、一際立派な桜の樹の下に、一同を誘うようにゆったりと歩いて移動を促しただけだ。
加賀愛美
「……白秋さん」
加賀愛美の声は、夜桜に霞んで消えてしまいそうにか細かった。
北村
「……愛美」
二度目の声は、最初よりも明らかに優しい、恋人としての声だった。
離れて行こうとしている恋人を自分の元に呼び寄せたい、その想いが、聞く者の心に伝わるような声だった。
翼
「……」
翼は北村とは初対面になる。
穂積は愛美とも北村とも初めて会う。
けれど、加賀愛美と北村白秋の声を聞いた一瞬で、二人の関係と想いが分かったような気がした、そんな声だった。
佇む愛美を一番近くで見守っているのは、山田。
まだ少し距離のある場所に、北村と小野瀬。
さらに離れ、全員を見る事の出来る場所に穂積と翼。
満開の桜の下は、春にそぐわないような空気を漂わせていた。
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06/04(Sun) 15:40
小春
どうして、とは、加賀愛美は北村に尋ねなかった。
自分が行方不明になれば、北村が探しに来る。
その事を知っていたという顔だった。
知っていて、分かっていて、加賀愛美は、北村の前から消えようとして……結果として、消え去る事は出来なかった。
何かを言おうとして口を開け、何も言えないまま口を閉じる。
苦悩の動作を繰り返す加賀愛美を見かねたのか、山田が口を開いた。
「僕から説明しましょうか、愛美さん」
「ナカジマさん……」
加賀愛美は縋るような目で山田を見たまま、拒むように首を横に振った。
「……いえ、私が、伝えなくては」
「そうですか」
呆気ないほどあっさりと、山田は引き下がる。
同時に、加賀愛美は改めて、北村に向き直った。
「……白秋さん、ごめんなさい。私……私には、あなたと、一緒の夢を見ることが、出来なくなりました」
一緒の夢。
おそらくそれは、北村と加賀愛美とが婚約した時に、交わした言葉だったのではないだろうか。
今度は北村が、ぐっ、と唇を噛みしめて声を堪えた。
「私、あなたの描くあの美しい絵が、絵を描いている時のあなたの誠実さが、大好きです」
加賀愛美の目から、涙が溢れた。
「だから、自分の親が、芸術を語りながら、同時に芸術を貶めようとしていた事を知った時、恥ずかしくて、もう、あなたに顔向け出来ないと、そう、思って」
(……芸術を…貶める……)
穂積の横、翼が、口の中で加賀愛美の言葉を咀嚼する。
「加賀愛美の実家の画廊では、不正な金を資金洗浄するために、絵画を闇取引の道具にしていたのよ」
事情を知る穂積から、小声で補足の説明を受けて、翼が頷いた。
「だから愛美さんは……でも……それは……」
翼の反応に、言わんとする事を察したらしい穂積も頷く。
「ええ、そうね。それから先は、あの恋人たちが決める事よ」
***
「愛美」
堰を切ったように言葉を迸らせた後、溢れた感情の波をもて余している加賀愛美に対して、北村は、対照的に、静かに口を開いた。
「……加賀画廊を舞台にして、書画や彫刻が汚い取引に使われていた事は、ここに来るまでに、この小野瀬さんから聞いた。驚いたよ。でも、だからといって、俺がお前を失うのは納得できない」
北村の発した言葉に、加賀愛美は、弾かれたように顔を上げた。
「……白秋さん……」
「だって、そうだろう。たとえばもしも、俺の絵が実際に裏取引の材料にされたとしても、俺が、その絵を描いた事実を恥じる必要はないじゃないか。違うか?」
「……違わない」
加賀愛美は、北村の言葉を肯定するように首を振った。
「でも」
「なあ、愛美。俺は画家だ。俺は俺の目で見た全ての中から、抽出した真実だけを、濾過した美しい瞬間だけを、絵に残す。俺が、俺の絵に込めるのは、美しい夢なんだ」
それは、高解像度の写真と比較されるほど写実的で緻密な絵を描く、北村らしい答えだった。
「俺がお前と一緒に見たいと思っている夢は、現実を受け入れた上でこそ描ける、そんな夢なんだよ」
幸せな結婚生活しかり、同じ志を持つ友人たちとの会社経営しかり。
加賀愛美を刺激しないよう、北村はひたすら丁寧に説く。
加賀愛美を失踪させる原因であった心の澱を、静かに静かに北村の言葉が洗い流してゆく。
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06/04(Sun) 16:49
小春
穂積の目が、山田の動きを捉えていた。
「どうやら、北村さんと愛美さんの問題は解決に向かいそうですね」
その山田の視線の先には、如月と小笠原、そして、加賀愛美の母親。
傍らに立つ痩身の男性は、愛美の父親だろうか。
「もとより、愛娘を悲しませてまでやる事ではなかった」
肩を落とし、疲れた顔の父親の横で、母親はしかし、まだ諦めきれないようだった。
「でも、あなた」
「昔からの友人に頼まれて、何も知らないふりをして取引に加わってしまったが、もう、潮時だ」
「あなた」
「わたしは恥ずかしい」
「……」
「画廊は畳もう。今までの過ちは全て警察に話そう。そうして罪を償ったら、白秋くん。わたしたちにも、きみたちの事業を手伝わせて欲しい」
言葉の後半は、北村に向けられた。
「許してもらえるだろうか」
北村は、加賀愛美によく似ている顔立ちの、父親の目を見つめていた。
父親は、加賀愛美の視線からも、北村からも、もう逃げなかった。
差し出された北村の右手をしっかりと握り返した父親の目には、うっすらと涙が光っていた。
その涙を、探偵たちはそれぞれの感慨をもって、見守っていた。
***
小春
「良かったですね、良かったですねっ」
山田
「うーん、僕はもう少し、愛美さんとの逃避行を楽しみたかったのにな」
帰り道、ぞろぞろと出口へと向かいながら、まだ興奮さめやらない小春が目を潤ませて、明智や山田に同意を求めている。
山田はつまらなそうに伸びをしつつ、皆に混ざって、のんびりと歩みを進めていた。
小野瀬
「確かに、加賀愛美さんの失踪は、ご両親にはいい薬になったようだけど」
穂積
「本当に娘が可愛いなら、娘の人生を歪めてしまうような愛しかたは考え直すべきね」
如月
「あー、安心したら腹減ったあ」
穂積
「真面目な話をしてるのに」
如月
「だってえ、俺ら、はるばる鎌倉まで行ってご両親を連れてきたんですよう」
小野瀬
「分かった、分かった。どこかで夕飯を食べよう」
明智
「あの。そういう事でしたら、俺と小春は、ここで失礼します」
不意に明智に名前を呼ばれて、小春がきょとんとした顔を上げる。
明智
「ケーキバイキングの約束がありまして。幸い、まだ間に合いそうですから」
小春
「え」
小春が腕時計を確かめようとするのを、明智は腕時計ごと小春の手首を掴む事で止めた。
明智
「行くぞ、小春」
真顔で言った明智の表情が、次の瞬間優しく緩む。
それで小春は明智の意図を察して、ぱっ、と顔を輝かせた。
小春
「はい!」
明智
「では、お先に」
揃ってぺこりと頭を下げた明智と小春は、楽しそうに去っていった。
山田
「おや、拐われてしまいましたね」
肩をすくめた山田の軽口を耳にした翼が笑っていると、今度は翼の手が引かれた。
穂積
「じゃあ、櫻井は私とデートね」
翼
「えっ」
引かれた手を穂積の腕に絡まされてしまった翼は、咄嗟には逃げようがない。
……逃げたりしないけど。
穂積に手を引かれてその場から離れると、残されたメンバーが背後で騒ぐ声が聞こえた。
「ずるいなあ明智さんも所長も!」
「俺は小野瀬さんがおごってくれるならそれでいい」
「僕もいいですよ」
「俺に選択肢はないのかなあ」
06/04(Sun) 17:04
小春
それらの声が、ぐんぐん遠ざかる。
でも、自分の手を引いているのが穂積だと思えば、翼は、何も怖くなかった。
穂積
「……今日は、前回よりもう少し先まで進んでいいか?」
(前回?)
………まずは手を繋ぐところから、な。
翼
「あ」
穂積の言葉を思い出して、翼の胸がときめいた。
振り返って足を止めた穂積の、翼を見つめる眼差しが、優しい。
穂積
「俺も、お前のお父さんに気に入ってもらえるよう、頑張るから」
言葉の意味を考えるより早く、穂積が、顔を間近に寄せる。
穂積
「いつか、一緒の夢を見ような」
ちゅ、と、穂積の唇が、翼の頬で音を立てた。
***
藤守兄弟と管理人はどうなった?
というところで、パースヽ( ̄▽ ̄)ノ⌒○