『穂積←→小野瀬』
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
恒例のボツネタ披露。
小春
せつなさんとともさんからリクエスト頂いた、ワタクシならこう書いたという『穂積←→小野瀬』での小野瀬のちゅーです。
先に言い訳しておきますが、私はせつなさんのエンディングの方が好きです。
あくまでもボツネタなので、お約束の展開なのはお許しを。
せつなさんたら、もー。
翼
「室長、起きて下さい…」
溢れる涙を止められないまま、私は室長のくちびるにそっとキスをした…。
愛する人のキスで目覚める。
私は、その言葉に縋る思いで重ねた唇をそっと離し、祈りを込めて、室長を見つめた。
……どうか、私が、室長の魔法の鍵でありますように。
お願い。
穂積
「…………」
不意に、室長が身動ぎした。
息を呑む私の目の前で、淡い色の長い睫毛が、ゆっくりと開いてゆく。
二、三度瞬きをした室長の目に、私が映った。
宝石のように綺麗な碧色。
それが細められて、やわらかなカーブを描く。
穂積
「……櫻井」
紛れもない室長の声が、私を呼んだ。
右腕をベッドにつき、半身を起こすのを支えるつもりで差し出した私の手を、大きな手が掴んだ。
そのまま引き寄せられて広い胸に顔を埋めると、室長の長い指が、私の髪を梳いてくれる。
翼
「……室長……」
ああ、この手だ。
私が顔を上げると、その手が動いて、私の頬をすっぽりと温かく包んだ。
穂積
「……ずっと、こうしたかった」
この声だ。
室長の指が、私の涙を拭う。
穂積
「お前が、好きだ」
耳元で囁かれて、頬に口づけされると、また新しい涙が湧いた。
穂積
「……」
室長の笑顔が近付いて、確かめるように鼻先が触れた。
頷く私と視線が合うのを待って、室長が囁く。
穂積
「目を開いていろ」
言われた通り、私は、室長と私との距離が埋まる瞬間を見ていた。
室長の唇の柔らかさを受け止めると同時に、心と、身体が反応する。
この人だ。
私は目を閉じて、室長を感じた。
背中に両腕をまわし、私からも距離を詰めて、口づけに応える。
室長が、私を抱く腕に力を込めた。
ようやく互いに辿り着いた。
離れ難い想いに抗いきれず、私たちはしばらくそのまま、口づけに酔いしれていた。
穂積
「……小野瀬の『愛する人』ねえ?」
小野瀬さんをベッドに運んだ後、私と並んでパイプ椅子に腰を下ろした室長は、珍しく息が上がっていた。
全身打撲と多重骨折で入院している身なのに、完全に意識の無い小野瀬さんを、ほとんど一人で床からベッドに上げたのだ。
汗だくだし、顔色も悪い。
翼
「室長なら、ご存知でしょう?」
お水を差し出したり、タオルで汗を拭いたりしながら、私は、室長たちが気を失ってからの山田さんの言動を報告した。
カーテン越しに光が入ってくる。
もう朝だ。
穂積
「今、小野瀬に特定の恋人はいないぞ」
翼
「でも、愛する人、って言うぐらいですから……」
その時。
声×3
「(小声)失礼しまーす……」
病室のドア越しに声がして、入って来たのは藤守さん、小笠原さん、如月さん。
こんなに朝早く、しかも、もう仕事着だ。
穂積
「おはよう」
三人は、パイプ椅子に座っている室長に、揃って頭を下げた。
藤守・小笠原・如月
「おはようございます」
翼
「……おはようございます」
戸惑いながらも、私は三人を迎え入れた。
藤守
「おう、櫻井。お疲れ」
小笠原
「昨夜は大変だったみたいだね」
如月
「明智さんから、電話もらったんだ。『真相が分かったから、室長の病室に行ってみろ』って。『朝になれば、事件はきっと解決している』って。だから、来てみたんだよ」
私は違和感を感じて、室長を振り返った。
室長は険しい表情だ。
山田さんが現れたのは、明智さんの帰った後だ。
真相とか解決とか、明智さんが言うはずはない。
では、誰が、明智さんの名を騙ったのだろう。
穂積
「それより、お前ら」
パイプ椅子から、室長が立ち上がった。
どうやら室長は、私と同じ思考順序を辿り、私よりも速く、目下の問題を解決する方が先だという結論に達したらしい。
穂積
「小野瀬の愛人に心当たりはあるか」
全員
「はあああ?!」
キャンプ場で山田さんに入れ替わりの暗示をかけられていた事、その暗示を解くために、愛する相手のキスが必要な事を、室長は、三人に、簡潔に説明した。
藤守
「あいつ!最初っから胡散臭いヤツや思てたんや」
如月
「神出鬼没、って感じでしたしね」
小笠原
「じゃあ室長は、櫻井さんのキスで目覚めたの?」
山田さんの印象を思い出して憤慨していた先の二人とは対照的に、小笠原さんは、真っ先に私と室長を見た。
視線だけで窺うと、室長は真っ赤になっていた。
穂積
「……櫻井が試してくれたら、目が覚めたんだ……」
それを聞いて、私に向けられる視線が痛い。
藤守
「へえ………」
如月
「そういう事なんだ、翼ちゃん」
小笠原
「愛の力って凄いね」
どうも、小笠原さんだけ反応が違うのが可笑しい。
穂積
「だが、小野瀬の相手が分からん。櫻井、そう言えばお前、さっき、何か言いかけたな」
翼
「あっ、はい。愛する人なら、妹の咲季ちゃんはどうかと思って」
如月
「なるほど。……でも、あの子、もしかしてファーストキスかもしれないよ?」
翼
「あっ」
そうか。
いくら相手が素敵な小野瀬さんでも、大切な初めてのキスを、しかも小野瀬さんの了解もなく、私たちが決める事は出来ない。
しゅんとする私を横目に、室長が唸った。
穂積
「……庁内にも、伊豆田とか、ともかとか、刹那とか澪とか、仲が良いのはいるが、恋人とまで呼べるかどうか」
如月
「室長が知らないとなると、俺たちにも予想がつきませんねえ……」
穂積
「いっそ、希望者を全員並ばせて、順番に試させるか?」
小笠原
「整理券が必要になるね」
如月
「むしろ、このまま寝かせておいて、眠る美青年を見たいお客さんたちから入場料とりましょうか」
不意に、藤守さんが私を振り返った。
藤守
「櫻井、お前、もっぺん試してみたらどないや?」
櫻井
「えっ?!」
すると、凄い勢いで室長が拒否した。
穂積
「駄目だ!」
藤守
「せやかて……室長は櫻井で目覚めたんでしょ?そしたら、小野瀬さんかて」
穂積
「…………俺が、嫌だ」
耳まで真っ赤になる室長に、こんな時なのに、私は嬉しくなってしまう。
小笠原
「俺も、嫌だな」
如月
「俺も、反対です。室長の場合は、もう済んだ事でもあるし、仕方ないけど。俺たちの目の前で、翼ちゃんのキスが小野瀬さんに捧げられるのを見るのは、絶対イヤ!」
藤守
「そら、俺かて嫌やけど。そしたら、どないすんねん」
藤守さんが、困ったように頭をガリガリと掻いた。
すると、小笠原さんが、閃いたように言った。
小笠原
「小野瀬さんと一番親しくて、過去にもキスした事のある人がいるじゃない」
翼
「えっ?!」
小笠原
「室長」
私が振り返った時にはもう、室長は、両脇から藤守さんと如月さんに抑え込まれていた。
穂積
「痛ててて!」
翼
「お二人とも!室長は重傷の怪我人ですよ!」
如月
「あ、すみません。逃げ出そうとしたから、つい」
私が悲鳴を上げると、藤守さんと如月さんは力を緩めたものの、室長を捕らえた手は離さない。
藤守
「ええやないですか、減るもんやないし。一度経験してるんやから、二度も三度も同じでしょ」
如月
「きっと小野瀬さんも、室長なら悪い気はしないと思いますよ」
穂積
「俺が嫌だー!」
小笠原
「じゃあ、小野瀬さんが目覚めなくてもいいの?それとも、やっぱり櫻井さんに試してもらう?」
ぴたり、と室長の抵抗が止む。
金髪の頭が力なく項垂れてゆくのを見て、藤守さんと如月さんが手を離した。
穂積
「……」
室内はすでに朝の光で溢れ、室長の目にうっすらと浮かんだ涙を煌めかせる。
あんなに嫌なんだと思うと、可哀想になってしまう。
が、顔を上げた室長は、覚悟を決めた表情をしていた。
穂積
「…………やってみる」
小笠原
「櫻井さん、室長には、何秒ぐらいキスした?」
いつの間にか、小笠原さんが淡々と仕切っている。
翼
「じ、10秒くらい、で、しょうか……?」
小笠原
「如月、計って」
如月
「了解です」
如月さんが腕時計を構える。
藤守
「室長、お願いします」
穂積
「お前ら、覚えてろよ……」
小野瀬さんの枕元に藤守さんがスタンバイして、小野瀬さんの上半身を抱き起こす。
室長は左腕を骨折しているので、寝ている相手にキスするのは体勢が苦しいからだろう。
それにしても。
何かしら、このチームワークの良さは。
如月
「はーい、いつでもいいですよー」
穂積
「……」
観念したのか、室長が小野瀬さんに顔を近付ける。
穂積
「……鼻を塞ぐ方が効くんじゃねえのか?」
藤守
「往生際が悪いですよ、室長!」
穂積
「くそっ」
室長が目を閉じ、深呼吸した。
そして、おもむろに小野瀬さんに唇を重ねる。
1秒……2秒……
美形どうしのキスだから嫌悪感は無く、むしろ、うっとりするほど綺麗な光景だけど。
5秒……6秒……
時間が止まったような静寂の中に、如月さんがカウントする小さな声だけが続く。
9秒……10秒……
藤守さんが指先で、とんとんと室長の肩に合図を送る。
それに合わせて、室長の唇が小野瀬さんから離れた。
穂積
「……」
固く閉じていた目を開いて、室長は小野瀬さんを見つめる。
室内の全員の視線が小野瀬さんに集中する中、室長が、囁くように声を出した。
穂積
「……小野瀬、……起きろよ」
胸が痛くなるような声。
如月さんや小笠原さんも、さっきまでのノリはどこへやら、沈んだ顔を見合わせる。
室長に近い藤守さんが、力無く俯いてしまった室長の背中を抱こうとした、その時。
小野瀬
「……魔王のキスで目覚めるなんてね」
藤守
「小野瀬さん!」
藤守さんの声に、室長が、がばっと顔を上げる。
小野瀬さんは、室長がそうしたように二、三度瞬きをしてから、微笑んだ。
小野瀬
「それに……寝ている時に奪うなんてひどいよ、穂積」
穂積
「小野瀬!!」
室長が、満面の笑みで両手を広げ、小野瀬さんを抱き締める。
良かった!
安堵すると同時に、背後の入り口で、バサバサバサ、と何かが落ちる音がした。
一斉に振り返ると、室長担当の女性看護師さんが、真っ赤な顔で立ち尽くしている。
あ。
看護師
「ご、ご、ごめんなさい。穂積さんの検温の時間だったんですけど……」
看護師さんは焦った様子で記録用紙やファイルを拾い上げながら、一生懸命言い訳をする。
看護師
「大丈夫、大丈夫ですよ。噂には聞いてます。穂積さんて、そっちの方だって。それに、この間も、私が穂積さんとお話してたら、小野瀬さんが凄い剣幕で私を睨んだし、その、お二人の邪魔をするつもりは無いんです。本当です!」
小野瀬
「あ、あの」
看護師
「ああ!みなまでおっしゃらないで!大丈夫。大丈夫です。今見た事は誰にも言いません。ですから見逃し……お幸せに!」
穂積
「いや、これは」
看護師
「お幸せにー!」
看護師さんは一方的に喋ると、ニコニコしながら回れ右をし、病室を飛び出すと「きゃー!!」と叫びながら、走って行ってしまった。
穂積
「……」
小野瀬
「……」
小笠原
「あれは、言うね」
ぼそり、と小笠原さんが口を開いた。
藤守
「言いふらすわな」
藤守さんも頷く。
如月
「午前中には、穂積と小野瀬の相思相愛ぶりが、尾ヒレをつけて警察病院に知れ渡りますね」
如月さんの言葉が終わらないうちに、室長と小野瀬さんが怒鳴り合いを始めた。
穂積
「どうして起きるんだよ!」
小野瀬
「起こしたのはお前だろ!」
穂積
「お前なんか、永遠に寝てれば良かったのに!」
小野瀬
「ああ、さっきまでの穂積は可愛かったなあ。『……小野瀬、……起きろよ』なんて、泣きそうな声で言って」
穂積
「言うな!忘れろー!」
それは見慣れた光景。
二人とも、言いたい事を言い合っているのに、どこかでとても楽しそう。
そして、これでようやく元通り。
何もかも元通りにはいかなかったけれど、私はまた新しい道を歩き始める。
自分で選んだ、新しい道を。
~END~
うーわ、ここだけ出すのって恥ずかしい(*/□\*)
でも、まあ、隠すほどのものでもありませんしね。
ともさん、せつなさん、ご満足頂けましたか?
口は災いのもとです、ハイ。orz
7/7ページ