バッドエンドから始まる物語~明智編~
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五日後。
俺は櫻井に会いに病院へ行った。
庭で懸命に歩行リハビリをしていた彼女に近付くと、彼女は、驚いた様子で顔を上げた。
翼
「明智さん……どうして?私……あんなひどい事を言ったのに……」
フルーツゼリーの入った白い箱を差し出すと、彼女は戸惑ったように俺を見つめた。
明智
「辛気臭い顔の刑事じゃなくて、一緒に甘いものを食べたいだけの友達なら、来てもいいだろ」
言いながら、俺は、彼女を抱えるようにしてベンチに促す。
櫻井の瞳が潤んだ。
翼
「……まあ、来たかったら来てもいいですよ」
涙をごまかそうと、わざと憎まれ口を言う櫻井に笑いそうになるのを堪えて、俺も澄まして応えた。
明智
「そっちこそ、これ、食べたかったら食べてもいいですよ」
ムッとした顔を作って言うと、案の定、彼女は焦って態度を戻した。
翼
「えっ、私に持ってきてくれたんじゃ」
明智
「別に。たまたま、ここで食べたかっただけですから」
彼女は泣きそうな顔をする。
冗談のつもりなんだが、この反応は、俺らしくない意地悪だと思われたのかもしれない。
さすがに可哀想になって、俺は、箱を開けて中身を見せた。
明智
「どれを食べたい?」
翼
「わあ、フルーツゼリー!」
大好物を前に、彼女の表情が明るくなる。
それから、俺たちは互いのゼリーを交換したり分け合ったりしながら、他愛もない会話を楽しんだ。
明智
「気に入ったなら、また持って来るよ」
翼
「また……来てくれる?」
涙ぐむ彼女に、俺は頷く。
明智
「また来るよ」
少しずつ、少しずつ。
二人の時間を増やしていこう。
それからまた、十日ほど経過して。
今日は雨。
俺たちは雨天メニューの室内リハビリを終えた後、病室に戻ってきていた。
ベッドで半身を起こして話す彼女と、その脇で、スツールに腰掛けてオレンジを剥く俺。
翼
「明智さん……本当に、毎日来てくれますね。嬉しいですけど、捜査室の仕事、大丈夫なんですか?」
俺が毎日仕事を定時で切り上げ、自分の元に通って来る事が心配になってきたのか、櫻井が尋ねてきた。
明智
「以前より、大きな事件は減ったよ。全裸で駅前に立ってた人とか、財布を持たずに食堂を出た人の事件なんかは、毎日来るけどな」
笑い話にしようとしたつもりだったが、勘のいい櫻井は誤魔化せない。
翼
「……私の失敗のせいですね」
明智
「お前の、じゃない。俺たち全員の失敗だ」
あ、しまった。
翼
「……やっぱり。だから、捜査室には重要な事件が廻ってこなくなっちゃったんですね」
泣かせてどうする。
口下手にも程があるだろう、俺。
明智
「……こうなったら正直に言うが、櫻井」
翼
「……?……」
俺は可動式のサイドテーブルの上にオレンジを盛った皿を載せ、座っている櫻井の手に届くようにした。
明智
「実はな……緊急特命捜査室は、近いうちに解散する事になった」
翼
「ええっ?!」
櫻井は、ベッドの上で身体を強張らせた。
明智
「これは、お前のせいじゃない。元々、実験的な部署だったんだ。再編成されて、違う部署になる」
彼女はしばらく呆然としていたが、それから考え込み、やがて口を開いた。
翼
「そしたら明智さんは?……室長は?みんなはどうなるんですか?」
俺は溜め息をついたが、努めて明るく答えた。
明智
「室長はキャリアだから別枠だが、俺たちは、刑事部に散らばる事になるかな。小笠原は科警研に戻るかも知れん」
翼
「……」
櫻井はショックで固まり、震えている。
そうだろうな。
俺だって、先週、室長から聞いた時には動揺した。
だが、こればかりはどうしようもない。
捜査室の再編成は、間もなく本当に訪れる現実だ。
人生を考え直す時期が来ているのは、櫻井だけではないのだ。
翼
「……明智さん」
櫻井が見つめているのに気付いて、俺はハッとした。
明智
「……すまん。こんな時に、無神経だったな」
櫻井は首を振った。
翼
「いいえ。……本当の事を教えてくれて、ありがとうございます」
櫻井はそれからしばらく、黙って何かを考えているようだった。
翼
「……明智さんは、今、狙撃が出来ますか?」
彼女の言葉に、俺はどきりとした。
だが、無邪気に尋いたらしい彼女を見つめているうちに、俺は、いつしか頷いていた。
明智
「……撃てると思う。今なら」
実際に試してみたわけじゃない。
だが、撃てる、と思った。
明智
「親友を撃った時……俺には迷いがあった」
そう。
撃った相手が親友だったと知って、俺は、その後、銃が撃てなくなった。
ずっと、そう思い込んでいた。
だが、違う。
親友が何故撃たれなければならなかったのか、俺にはその理由が分からなかった。
だから撃てなくなった。
理由が分かれば、撃てる。
だが、たとえそれが分からないままでも、撃たなければならない時がある。
明智
「銃を持った相手がいる。俺が撃たなければ誰かが傷つく。その誰かが櫻井だと思えば……撃てる」
我ながら、陳腐な答えだ。
だが、そうでなければ撃てないと思う。
明智
「導火線を狙い、外したのは、俺の腕が未熟だったからだ」
そのせいで、櫻井を傷付けた。
だからこそ、次は撃てる。
どんな時でも、相手を守れるようになりたい。
そう言うと、櫻井は微笑んだ。
翼
「私、明智さんの役に立ててますか」
明智
「ああ」
翼
「今のままの私でも?」
一瞬、返事に詰まった。
彼女の求めている答が分からなかったからだ。
俺がここで間違えたら、彼女をまた闇の中に落としてしまいはしないか。
☆選択です。
もちろんだ……7
どういう意味だ?……8
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